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公正取引委員会委員長退任に当たって(令和2年9月)

公正取引委員会委員長退任に当たって(令和2年9月)

杉本和行公正取引委員会委員長顔写真

 杉本でございます。本日は大変暑い中,またコロナの影響が引き続いている中にお集まりいただきましてありがとうございます。それでは私から退任の御挨拶を一言述べさせていただきたいと思っております。

 明日付けで私は退任いたします。独占禁止法の30条という規定がございまして,年齢が70歳に達した時はその地位を退くということになっておりまして,この規定に従いまして,私は9月13日が誕生日でございますので,明日退任することになっております。任期が始まりましたのが2013年3月でございましたのでちょうど7年半事務を執らせていただいたということでございます。私もこの前,大蔵省,財務省の在勤が長かったのですけれども,役人生活長い間,だいたいポストが1年から2年で変わっておりましたので7年半に及んでじっくりと腰を落ち着けて1つのポストで仕事を務めたのは初めてでございましたが,この7年半は大変充実した仕事ができた,充実した7年半だと振り返っているところでございます。それでは座らせて話をさせていただきます。

 私は就任以来新時代の競争政策というものを標榜してまいりました。日本経済が成熟化して,いわば成熟段階に入ってきた,少子高齢化が進み先進国からのキャッチアップも完全に終了し,後進国から追い上げを受けられるようになったという成熟した段階に入ってきたところで経済を引っ張っていくのは,雇用の機会を確保するために必要なのはイノベーションだというふうに認識しております。ちょうど私の任期,7年半はこの度退任を表明されました安倍総理の任期とほぼ重なっておりまして,安倍総理の任期が7年8ヶ月だったでしょうか。私が7年6カ月ですので,ほぼ重なっているわけでございますが,アベノミクスということが言われまして,アベノミクスの中で私は一番重要なのは3本目の矢だったと思っております。民間投資を活発にする,推進する成長戦略。その成長戦略の基本になるのはやはり競争基盤ということだと思っております。公正性と機会の平等,これが持続できる成長戦略に必須だというふうに考えておりまして,そうした公正性と機会の均等が確保された経済環境の下で経済活動が自由に創意工夫に基づいて行われていくことが,経済を引っ張っていく最大の要素だと思っておりますので,そういった意味で日本経済の将来に向けてその競争政策というものは基盤を整備するという役割を担っていると考えております。したがって私は競争政策というのはこの時代においては非常に重要な経済政策として位置付けられるべきものだと考えておりまして,そうした観点から変化する経済,特にデジタル化の重大な波が押し寄せている中で日本経済をどういうふうに引っ張っていくのかというための基盤整備をしていくのが私の重要な仕事だったと認識してやってきたところでございます。いわばデジタルトランスフォーメーションの精神というものが日本経済の将来に大きな影響を与える,すなわち,日本経済の将来はこれからのデジタルトランスフォーメーションにかかっていると言っても過言ではないと思っております。そうした状況はコロナ禍の下でますます強まっていると思います。社会的,物理的な距離を通信的情報でカバーしていくというようなことがこれからますます必要になってくると思いますので,こうしたデジタルトランスフォーメーションの必要性というのはますます高まっているのだと思っております。そうしたことから今申し上げましたようにデジタル時代の競争環境の整備に尽力するというのが非常に重要だと考えてそういった旨も公正取引委員会委員長としても発信してきたつもりでございますし,そうした観点から競争政策の遂行,独占禁止法の執行に当たってきたつもりでございます。私の在任中もそうしたことから,特に,例えば,プラットフォーム企業というものがデジタル化社会の中で非常に重要な役割を果たしておりますのでデジタル企業に対してどういうふうにその行動をモニターしていくのかということに重大な関心を払ってきて競争政策の遂行を行ってきたと思っているところでございます。昨年,ちょうど1年前でございますでしょうか,私は『デジタル時代の競争政策』という書物を書いて発刊しましたが,その中にも書いたのですが,ある人から「公正取引委員会は今までのように談合,カルテル問題だけじゃなくて,いわゆるGAFA問題から,それから携帯電話の競争環境の問題,それからフリーランサーの働き方の問題,芸能界やスポーツ界の転籍といいますか,働き方の問題,更にはコンビニの24時間営業問題,各種の問題に対応してきておりまして,独占禁止法は実は守備範囲が広い,経済活動全般に渡ってるのではないか。案外独占禁止法というのは万能なのかもしれない。」と言われたことがございます。独占禁止法が実現しようという価値は自由と公正ということであります。自由と公正というのは,ある意味では経済社会における普遍的な価値でございまして,こういう価値の実現をするのが競争政策だと思っております。こうした自由,公正というものを実現する分野は広がっていると思っておりまして,今申し上げましたように経済活動がデジタル化の波の本流に現れているところ,そういったところでそれぞれの各種の経済活動について公正さ,自由さが担保されているように,そういう競争環境を整備していくという競争政策の役割,公正取引委員会の役割というのはこれからもますます重要になっていくのではないかと思っております。

 以上のような私の問題意識に対応いたしまして,公正取引委員会の事務方も各般の活動にしっかりと知識を蓄えて対応していただいたと思っておりまして,そうした面で公正取引委員会の役割に対する注目というものはますます高まってきたことを私はありがたいと思っているところでございます。先般もテレビ番組を見ていましたら公正取引委員会の御存知かどうか知りませんが,マークというかロゴというのでしょうか,鳥が空からみたようなロゴがありますけれど,それがこのロゴがどこのマークですかというのがクイズ番組で出ていましたので,そういうことは今まで無かったことなのではないかということで,非常に社会から公正取引委員会の仕事に注目度が高まっているということは,私は非常にありがたいと思ったところでございます。そういう意味で今後とも自由,公正という社会的な価値を経済活動の広い分野において実現していくと言う公正取引委員会の仕事というのは非常に重要でございますので,そうした観点から公正取引委員会がどんどんいろいろな仕事をしていって引き続きやっていただくということを期待して,私はこの職を去りたいと思っているところでございます。長い間メディアの方々にも関心を持っていただきまして,いろいろなことを発信していただきましてどうもありがたかったと思っております。以上で,私の退任の際の発言としたいと思っているところでございます。

公正取引委員会委員長 杉本 和行

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