私は,5年前に公正取引委員会委員長に就任いたしまして,3月5日付けで再度,公正取引委員会委員長の任に当たることになりましたので,引き続き,よろしくお願いいたします。
私は,公正取引委員会委員長に就任してから新しい時代の競争政策ということを標榜してきました。
一つは,経済のグローバル化への対応です。経済活動は,今や国境を越えてグローバルなものとなっており,そういった状況を踏まえグローバルスタンダードに基づいた競争政策を実施していくとともに,各国の競争当局とも協力,意見交換をしながら競争政策を執行していくことが必要と考えています。このため,独占禁止協力協定,経済連携協定といった二国間の取組や,ICN,OECDといった多国間の枠組みを通じて,各国の競争当局との間で情報の共有を可能にするなどの協力体制を構築してきました。
法執行に関しましても,このような状況を踏まえて,国際的な法違反行為や企業結合事案が増加してきており,こうした事案においては海外当局と連携しながら審査を行っているところです。
また,海外の事業者と国内の事業者の取引の実態を調査し,独占禁止法,競争政策に関して問題が生ずるおそれがあれば,その考え方を示すことによって契約の見直しを慫慂するような取組を行っております。具体的には,海外事業者が日本の需要者等を販売先とするLNGの取引の実態を調査し,仕向地制限等について競争政策上の考え方を示しました。
それから,TPPの発効に合わせて確約手続の導入が予定されておりますが,この手続は国際的に見ても標準的な仕組みであり,企業のコンプライアンス意識というものを喚起して問題解決を図る手続であり,確約手続が発効して,効果的・効率的に公正取引委員会と事業者が協調的に事件処理に当たっていくというような方向で話が進んでいくことを期待しています。
もう一つは,経済のデジタル化の進展に対する対応です。競争政策の一つの役割は,競争的な環境を整備してイノベーションを進展させていくということだと思っており,今後はデジタルエコノミーの分野においてイノベーションが起こっていくと期待されておりますので,この分野において競争環境を整備することに力を注いできたところです。
この点につきましては,事業活動におけるデータの収集及び利活用における競争政策上の問題に関し,「データと競争政策に関する検討会」報告書を,昨年6月に公表いたしました。今後は,この報告書で指摘のあった内容を踏まえて,データ分野に関する競争政策の推進や,法執行を厳格に行っていくことが必要であると考えています。
このようなデジタル分野における法執行に関する取組として,「IT・デジタル関連」の事業分野における取引についての情報提供窓口を設置し,独占禁止法上の問題となる可能性のある行為に関する情報収集を進めているところです。
また,デジタル化により,インターネット上での企業と人材のマッチングが容易になったということなどによって多様化した就労形態を巡る環境の変化も見られます。これらの分野への独占禁止法の適用について,「人材と競争政策に関する検討会」においてフリーランスなどの働き方について独占禁止法を適用するということについての議論をしていただき,報告書を公表しました。
このような新しい時代に対応した競争政策への取組の前提として,独占禁止法違反行為に対する厳正な措置,迅速かつ的確な企業結合審査を行う必要があることはいうまでもありません。
カルテル,談合の摘発というものが非常に重要な位置を占めることは当然ですが,加えて,いわゆる単独行為といわれる行為に対しても厳しく目を光らせる必要があると思っています。また,企業結合の分野においても,競争を制限するようなものに対しては,厳しく対応していくことが必要だと考えています。
このような取組を通じて,自由な競争が確保されているというメッセージを世の中に発信することにより,事業者が自由かつ公正な競争環境の下で創意工夫を発揮していけるようにすることが,経済の発展の基盤を提供すると考えているところです。
今後とも,これまでのように,急速に変化している経済環境においても競争政策の面から適切に対応できるように,新たな気持ちで競争政策に取り組んでいく所存ですので,引き続き皆様からの御指導,御鞭撻を賜りますよう,よろしくお願いいたします。
公正取引委員会委員長 杉本 和行