1 平成30年7月18日(水曜) 14時00分~15時00分
2 概要
(1)委員長からの説明
公正取引委員会の最近の競争政策の執行状況についてお話しさせていただく。
独占禁止法では,平成29年度の法的措置は13件であり,その内訳は,価格カルテルが1件,入札談合が5件,受注調整が5件,不公正な取引方法が1件,事業者団体に対する違反事件が1件となっている。法的措置のほかにも警告案件が3件あり,注意案件を1件公表した。そのほか,違反認定をしたが除斥期間を経過していたということで,措置は取らなかった案件,拘束条件付取引の疑いで調査に入ったが,改善措置が採られたということで調査を終了した案件もあった。そのほか,ゼネコン4社がリニア新幹線の工事で受注調整を行っていた案件を告発した。
下請法では,平成29年度において,勧告が9件,指導が6,752件であった。下請法は,政府全体での下請事業者の取引条件改善に向けた取組の関係から,積極的に運用している。
消費税転嫁対策特別措置法は,平成29年度において,勧告が5件,指導が370件であった。
企業結合の関係は,平成29年度において,306件届出を受理し,そのうち,1次審査の結果,独占禁止法上問題ないとしたものが299件であった。2次審査に移行したのは1件で,新潟県の第四銀行と北越銀行の共同株式移転の案件であった。この件は,特段の措置なく,独占禁止法上問題ないと判断している。平成29年度に審査が終了した事例のうち6事例は,当事会社が申し出た措置を前提として,独占禁止法上問題ないと判断した。また,外国企業の当事会社を含む企業結合の計画の届出は,平成29年度は,前年度より件数は減少したが,問題解消措置が付された例も複数あった。平成29年度の主要な企業結合事例においても,こうした国際的な企業結合案件を複数掲載しているところである。
このほか,最近の公正取引委員会の取組をいくつか紹介させていただく。
まず,携帯電話市場における競争政策上の課題について報告書を公表し,スイッチングコストを高める行為や消費者を不当に誘引する行為等の組合せにより,競争者の排除効果が増幅し,独占禁止法上問題になるおそれが一層高まるという指摘を行った。この報告書に沿って,事業者による自主的な改善を期待している。
次に,独占禁止法違反の疑いについて公正取引委員会と当事者との間の合意により解決する仕組みである確約制度は,国際標準となっており,TPP整備法によって独占禁止法が改正され,我が国においても導入されている。TPP整備法改正法が今国会で成立しており,TPP11協定の発効日に施行されることになっている。
それから,成長戦略や骨太方針に,プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルールの整備について記載がある。公正取引委員会も,経済産業省や総務省と一緒に合同チームを発足して,検討していくことにしている。
最後に,スタートアップ企業に対する取組であるが,スタートアップ企業の市場参入を人為的に阻む行為を取り除いて,スタートアップ企業が自由に活動する環境を作り上げることは,競争政策上重要なことである。他方,スタートアップ企業の間では,独占禁止法の認知度が必ずしも高くないと考えられることから,創業を支援する地方自治体の窓口を通じるなどして,独占禁止法上問題となる行為を周知するとともに,スタートアップ企業及びその周辺において実際に生じている問題を情報収集して把握した上で,必要な対応を考えていきたい。
(2)質疑応答
(問) プラットフォーマー型ビジネスに対応したルールの整備について,どういったテーマを検討していくことになるのか。
(答) 何を検討していくかというのは,経済産業省や総務省と相談していかなければならない。私の要望ベースに過ぎないが,特にデジタルプラットフォーマーが非常に重要な支配的地位を確立している現状において,デジタルプラットフォーマーに対して,新規参入を阻害するような行為を行わせないためには,どういう措置が必要なのかというようなことも検討してもらいたいと思っている。
(問) 先日,政府の「未来投資会議」で,競争政策の見直しについて議論し,来年3月までに結論を出すということが発表された。そうすると,来年,必要であれば法改正のプロセスに入っていくのではないかと想像できるが,どうして今,政府で競争政策の見直しが必要になっていると感じているのか。また,来年の3月までに政府として何らかの結論を出すとすれば,九州の地銀の統合の案件を含め,現在審査中の企業結合案件についても,この議論に影響を受ける可能性はあるか。
(答) 地域における競争政策の在り方について政府全体で検討すべきという議論があることは承知している。公正取引委員会としては,その議論に参加して,公正取引委員会における独占禁止法の運用方針の現状について説明していくつもりではあるが,今の独占禁止法の運用を変更する必要や,独占禁止法を改正する必要があるとは,全く思っていない。
(問) 地域における競争政策の在り方について,政府全体で議論が行われたとしても,地銀の統合について,公正取引委員会が最終的な結論を出すということに変わりはないと受け止めてもよいのか。それとも政府として最終的な結論を出すと変更されることもあり得るのか。
(答) 公正取引委員会は,当該企業結合が競争を制限するか否かについて,独占禁止法に基づいて判断をしているので,その判断に問題があると考えるのであれば,裁判で争い,司法に判断していただく話であると思う。競争を実質的に制限するような企業結合について,公正取引委員会が排除措置命令を行うことは,国際標準に合致した制度であって,そのような制度を日本だけ変えるべきという議論になるとは思っていない。
(問) 長崎県の地銀の案件について,現時点で当事会社から追加の報告が出ておらず,審査期間が2年超という長期の企業結合審査となっている。委員長は,追加の資料の提出がない限り結論を出すわけにはいかないという趣旨の発言をされている一方,現時点でも排除措置命令などの結論が出せるという趣旨のインタビュー記事なども出ており,現在の審査の状況を確認をさせていただきたい。
(答) 現在,当事会社に報告等の要請を行い,当事会社からその報告が出るのを待っている状況にあるが,当事会社から報告が出てきていないことを理由として審査の結論を出せないというわけではない。現在までに当事会社から提出された報告を基に判断することも可能であるが,当事会社が問題解消措置を検討しているということなので,それを待ってから判断することにしているということである。
(問) 今,当事会社が貸出債権の譲渡という手法で問題解消措置を採ると表明しているが,その手法はかなりの社会的コストがかかっていると思う。こうした手法を当事会社が提案していることや,こうした措置の実施を前提に企業結合審査が続いていることについて,どのようにお考えか。
(答) 問題解消措置の可否及びその内容は当事会社の判断により検討されるものであり,公正取引委員会としてお願いしているものではないことを御理解いただきたい。公正取引委員会としては,当事会社が提示した問題解消措置を踏まえて,競争が制限されることとなるかどうかを判断するということである。
(問) 新潟県の地銀の案件は,特段の問題解消措置なく承認されたと思うが,3経済圏では最大でシェアが60%になっていた。この3経済圏の競争環境が,地銀の企業結合審査において競争環境をギリギリ維持できるボーダーラインとなると考えていいのか。
(答) それぞれの地域の事情があるし,それぞれの市場がどうなっているかによるので,一律的に,その地域のその市場におけるシェアが何%以上になるから駄目だということではない。市場のシェアも1つの重要な要素ではあるが,貸出取引に係る他の競争事業者の圧力やその他の競争に与える影響等を総合的に勘案して,需要者の十分な選択肢が確保できなくなるような状況になるかどうかを個別具体的に判断することになる。
(問) 政府の「未来投資会議」の前段階として,金融庁の検討会議の中で,4月に競争政策の見直しを提案するようなレポートが提出されたかと思うが,このレポートに対する受け止めを教えていただきたい。
(答) 公正取引委員会は,金融庁の意見も聞きながら,競争政策を実行していかなければいけないと思っているが,競争政策において金融市場が特殊であるという理屈がよく理解できない。銀行法には,銀行が競争を確保できなくなるような合併を金融庁は認めないというような規定もあるが,金融庁としての見解はなく,また,競争を阻害するものではないというような議論でもないので,公正取引委員会としては,納得できないものには対応しきれないと考えている。
以上
[配布資料]
資料1 独占禁止法違反事件法的措置一覧(平成29年度),独占禁止法違反事件警告一覧(平成29年度)及び独占禁止法違反事件注意・その他一覧(平成29年度)