1 平成30年11月14日(水曜) 14時00分~15時05分
2 概要
(1)委員長からの説明
11月7日,8日に,公正取引委員会の主催により,国際競争ネットワーク(ICN)の企業結合ワークショップが東京で開催された。ICNは,競争法執行の手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として発足した,各国・地域の競争当局のネットワーク組織であり,現在では,126か国・地域,139の競争当局が参加する,競争法の分野においては世界最大の国際組織である。
この企業結合ワークショップでは,デジタル経済の下の企業結合審査の在り方,グローバル化が企業結合審査にもたらす課題について,議論が行われた。このようにICN等では,競争政策等に関する国際的な収れんを図っていくことを目的として議論が行われているところであり,企業結合審査については,現在,既に各国当局は国際的な基準に基づいて審査しているところである。
長崎における地方銀行の統合案件においても,国際標準にのっとって審査をしたところであるが,私どもの審査に対する御批判が3点あった。
一つは,審査に2年以上の長期間を要したということである。私どもでは30日に満たない期間でクリアランスを出すことが多い一方,より慎重に検討を要する事案については,第二次審査として,当事会社に求めた報告や資料が全て提出されてから90日以内に結論を出すという手続になるが,本件では,当事会社から報告や資料がなかなか提出されなかった。したがって,私どもが審査を長引かせたという批判は,全く当たらないので,そこは誤解のないようにお願いしたい。
二つ目の御批判は,県域だけで市場を画定するのはおかしいということである。これに関しては,企業結合審査の国際標準では,事実関係がどうなっているのかということをSSNIPテストという経済学的な視点を取り入れて市場画定するものであり,雰囲気で,市場の画定を県という狭い範囲で考えるべきではない,という話をしているわけではない。
それから,もう一つは,金融庁の有識者会議において,地域によっては地方銀行が二行でも成り立たないし,一行でも成り立たないというような議論がされていた。これに対しては,未来投資会議の場において,私の方から,一般論として,複数の事業者が持続的に存続することができず,統合しなければ地域にとって必要なサービスの提供が維持できなくなるような場合には,独占禁止法上問題とすべきであるとは考えていないということを申し上げているところである。
次に,デジタル・プラットフォーマー関連について申し上げると,デジタル・プラットフォーマーは,ネットワーク効果が働くことなどにより独占化・寡占化する傾向にあり,デジタル・プラットフォーマーが,取引先事業者に対して,一方的に不利益な取引条件を課したり,不当なデータの収集,不当なデータの囲い込みといった反競争的行為を行うことは,イノベーションを阻害したり,新規参入を困難としたりするなどの競争法上の問題が生ずるのではないかと考えている。
本年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」等を受け,公正取引委員会は,経済産業省,総務省と共に,本年7月に「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」を設置して検討を重ね,その中間論点整理(案)を11月5日に公表した。
この中間論点整理(案)では,競争政策のみならず,情報政策,消費者政策,業法の在り方等,取引環境の整備のための幅広い論点が取り上げられている。
例えば,プラットフォームビジネスに対応できていない既存の業法の見直しの要否を個別に検討していくことが必要ではないかであるとか,デジタル・プラットフォーマーとその利用者を巡る取引実態が不透明であり,不公正な取引慣行の温床となるおそれがあるとの認識から,必要に応じて独占禁止法第40条を活用した調査によって取引実態を把握した上で,継続的な調査・分析を行う専門組織の創設等を検討してはどうかといった考え方が示されている。
また,デジタル・プラットフォーマーによる潜在的な競争相手の芽を摘むような形での企業結合について,どのように考えるかということや,経済的価値を有していると考えられるデータを提供し続けている消費者との関係で,優越的地位の濫用規制を適用することなどを検討する必要があるのではないかという考え方が示されている。
さらに,データ・ポータビリティやAPI開放といった,データの移転・開放ルールの要否,その内容についてどのように考えるかといったことなど,デジタル・プラットフォーマーを巡る様々な論点についての考え方も示されている。
今回は,中間段階の論点整理であり,検討会は引き続き継続され,今後,事業者ヒアリングや,パブリックコメントを通じて寄せられた意見を踏まえ,基本原則の策定や,それを踏まえた具体的措置への実施に向けた検討を進めていく。
現時点では,公正取引委員会としては検討会における議論を注視しているところである。
(2)質疑応答
(問) 企業結合ワークショップで,デジタル・プラットフォーマーについて,具体的にどのような議論がなされたのか。
(答) 例えば,インスタグラムとフェイスブックが統合した際のイノベーション競争に対する影響をどのように評価していくのかということや,デジタル企業の統合に関して,SSNIPテストのようないわゆる価格に着目した市場画定ではなく,サービスの質に着目した市場画定の考え方というものを検討する必要があるのではないかといった議論があった。
(問) デジタル・プラットフォーマーとの取引に関し,現時点での独占禁止法上の問題点はどの辺りにあるのか。
(答) 公正取引委員会としては,デジタル・プラットフォーマーの行動に問題となる行為がないかどうかモニターし,もし,何か問題が発見されれば,それに対応することになる。実際にも,アマゾンの日本法人によるMFN条項の調査の処理であるとか,アマゾンの取引先に対する不当な行為の調査などを行っている。
また,ヨーロッパのデジタル・プラットフォーマーの調査事例も参考にしながら,我が国市場において,支配的な地位を濫用している行為がないかどうかモニターして,牽制もしていく必要があると思っている。
(問) 個人から無償で収集したデータの経済的な価値を定量的に分析するというのは難しいと思うが,どのように評価していく考えか。
(答) 「データと競争政策に関する検討会」の報告書では,消費者は,投入財としてのデータを検索サービスの提供を受けることの対価として出している,ということで市場が成立しているという見解を示している。また,その投入財を活用して,今度は検索サービス提供者が,ターゲット広告を打つといったことができる。このため,情報自体に価値があると考えられるが,データの経済的な価値を測定することは,難しいところがあると思う。
(問) デジタル・プラットフォーマーに対する規制の在り方についてであるが,既存業法の外でビジネスがスタートしていたり,また,既存業法だけでビジネスモデルの全てを網羅しきれないという特性に加えて,ビジネスモデル自体が物凄いスピードで変化していくことに対して,その業法とか,法令・政省令で対応していくべきなのか,それとも自主規制とか割と柔軟な規制の在り方を,官民で探っていく方がいいのか,考えを伺いたい。
(答) 先程申し上げたように,私どもとしては,支配的地位にある企業による濫用行為を予防し是正するという,あくまでも事後的な対応になると思われる。一方で,私どもの立場としては,競争環境が整備されるということも必要なことであり,それぞれの事業を所管している省庁に対して要望を行い,省庁横断的に検討していただく必要があると思っている。
具体的には,一つは,事業活動の透明性の確保の観点から,アルゴリズムがどのようになっているのかが明白になっていないと,差別的な取扱いがされているかもしれないという疑惑が起こるので,そこを明確にすることは必要だという問題意識がある。
さらには,データ・ポータビリティが認められれば,スイッチングコストが下がり参入障壁が低くなるため,競争当局としては望ましいと思われる。ただ,データを収集して集積し,集積したデータをまた活用して,新しい事業を展開していくというイノベーション努力を阻害するようなことにならないかという観点からの検討も必要である。さらに,データをポータブルにするためには,受け手側にとって,設備や施設に費用が掛かるので多面的な検討が必要である。
こうした点について,競争当局として,企業間の競争環境を整備していく観点から,問題提起をしていくことを考えている。
(問) 11月上旬の政府の未来投資会議において,地方銀行とバスの経営統合は例外的に,独占禁止法の適用外とするというような政府方針を打ち出したが,委員長の受け止めを改めて教えていただきたい。
(答) 前回の未来投資会議においては,論点を整理して,それについて検討していくということであり,政府の方針が決まったというわけではないと考えている。私どもとしては,地方銀行の統合については,競争促進的な面もあるので,その面に関しては積極的に評価しているが,それによって,競争が実質的に制限され,消費者の選択肢が事実上なくなるようなものは認められないと考えている。競争が働かない市場では,消費者が不利益を被るだけではなく,企業が,生産性向上やイノベーションに向けた努力をして,自社が生産する商品やサービスをあまねくニーズのある所に届けていくということを行うことによって,企業価値を高めていくというインセンティブを無くしてしまうことにもなるからであり,これは,グローバルスタンダードの考え方である。ただし,複数の事業者が持続的に存続することができず,統合しなければサービスを提供・維持できないような場合には,独占禁止法上問題とすべきとは考えていない。地方路線の維持のために不可欠な地方の乗合バスの統合も,そういう意味では,独占禁止法上の問題にすることはないと考えている。
(問) 公正取引委員会としては,地方銀行やバスの2業種に例外的なルールを設けるということ自体には反対ということでよいか。また,政府が打ち出した論点を踏まえて,どのような結論が,競争当局としては望ましいと考えているか。
(答) 今,例外的なルールを設けるという議論になっているとは思っていない。今は未来投資会議の地方施策協議会で検討していく論点が示されたという段階なので,私どもとしては,議論に参加して,地方銀行の統合や,地方の交通機関の統合が課題になったときに,どのように対応するのかという考え方を,説明していきたいと考えている。
以上
[配布資料]