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平成31年 委員長と記者との懇談会概要(平成31年2月)

平成31年 委員長と記者との懇談会概要(平成31年2月)

1 平成31年2月21日(木曜) 15時00分~16時00分

2 概要

(1)委員長からの説明

 私の方からは,まず,平成30年における独占禁止法等の執行状況についてお話ししたい。
 独占禁止法の執行状況については,平成30年において,19件の排除措置命令を行うなどしている。主なものとしては,3月に検事総長に対し,JR東海が発注する中央新幹線に係る建設工事の受注調整事件について告発を行った。それから,7月公表のアップル・インクに対する件,10月公表のエアビーアンドビー・アイルランド・ユーシー及びAirbnb Japan株式会社に対する件については,いずれも,IT・デジタル分野に関する取組として,社会的ニーズに的確に対応した事案の処理を行ったものである。
 下請法違反の是正については,平成30年において,9件の勧告と,過去最高となる7,828件の指導を行っている。勧告と指導と合わせて,親事業者294名から下請事業者9,284名に対して,総額14億1316万円の原状回復が行われている。平成30年は,食品メーカーによる高額な減額事件といった,社会的に影響の大きな事件についての勧告も行っている。
 消費税転嫁対策の取組については,平成30年において,5件の勧告を行い,大規模小売事業者やポータルサイトの運営事業者による転嫁拒否行為などを取り上げた。また,公正取引委員会として321件の指導も行っている。転嫁拒否行為によって特定供給事業者が被った不利益については,公正取引委員会の勧告・指導により,特定供給事業者約1万4000名に対して,総額約7億1000万円の原状回復が行われた。
 公正取引委員会としては,こうした独占禁止法等の違反行為に対し,引き続き厳正に対応してまいりたいと考えている。
 企業結合審査については,平成30年における企業結合計画の届出件数は339件で,このうち1次審査で終了したものが335件,1次審査終了前に取下げがあったものが2件,2次審査に移行したものが2件であった。平成30年には「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得」と「王子ホールディングス株式会社による三菱製紙株式会社の株式取得」について,それぞれ審査結果を公表している。
 次に,このほかの活動について申し上げると,まず,デジタル・プラットフォーマーに係る取引環境の整備について,経済産業省及び総務省と共同して,「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境の整備に関する検討会」を設置するなど,調査検討を進め,「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルールの整備の基本原則」を策定している。また,これを受け,デジタル・プラットフォーマーに対する実態調査をこの1月から開始している。
 競争政策研究センターでは,昨年2月に「人材と競争政策に関する検討会」の報告を公表しており,昨年12月からは,業務提携に係る独占禁止法上の考え方を分析・研究するため,「業務提携に関する検討会」を開催している。
 携帯電話市場に関して,昨年の6月に「携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30年度調査)」を取りまとめ公表した。他の実態調査としては,昨年1月に「大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査報告書」を公表し,また,消費者向けeコマースに関する取引慣行全般についても幅広く調査を行った。
 それから,確約手続が昨年12月30日に施行されたが,確約手続の施行に向け,規則改正のほか,確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から,「確約手続に関する対応方針」を策定した。また,課徴金制度の見直しについて,今国会への法案の提出を念頭に,今準備を進めているところである。
 国際的な活動については,経済のグローバル化が進む中で,競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている状況を踏まえ,近年特に力を入れているところである。平成30年には,11月7日,8日に,ICNの企業結合ワークショップを,公正取引委員会の主催により東京で開催し,活発で有益な議論が行われた。さらに,競争当局間の連携強化についても積極的に推進しており,9月に韓国と,12月にはEUと,それぞれ意見交換を行った。また,8月に東アジア競争政策トップ会合を開催している。

 

(2)質疑応答

(問) 巨大デジタル・プラットフォーマーがなぜ脅威になるのか,また,日本企業が下請化していく懸念があるとのことであるが,これらについて教えてほしい。また,問題がある取引の実態があった場合に,今の法制度だけではなく,ヨーロッパにあるGDPRのような規制も必要になってくるのか。
(答) デジタル・プラットフォームビジネスは,例えば,消費者が検索サイトを利用したり,中小事業者に新しいビジネス機会を提供するなど,多大な利益を与えていると思っている。 ただ,この世界はネットワーク効果があり,2面市場であるプラットフォームに多くの消費者がつながればつながるほど,その効果も大きくなり,非常に大きな地位を占めやすい世界であることも事実である。また,追加費用というか限界費用がほとんどかからないため,独占・寡占になりやすい事業だと思われる。
 私どもとしては,こういった巨大な地位を占める企業が,支配的地位の濫用行為を行っていないかについて,絶えずモニターし,それを防止し,それに対してのウォーニングを発していく必要があると思っている。支配的地位の濫用といえる行為が起こると,逆に今後のイノベーションというものを阻害することになるからである。現在の日本経済を発展させていくための原動力は何といってもイノベーションであり, 私どもの役割は,そういったイノベーションを促進する環境を整備することだと思っている。これからは,IoTやAI,ビッグデータといったものについてイノベーションがどんどん起こっていくと思われ,そうしたイノベーションを阻害する行為を防止していかなければならないと考えている。そういう意味では,例えば,データの世界において,データを不当に囲い込んでないかとか,データを不当に集めてないかというのが,私どもの切り口になるわけである。
 下請化に関しては,私の個人的な見解と言った方がいいのだが,情報を有するところがイノベーションにおいて優位な状況になって有力なビジネス形態を作り上げて高い利益水準を得られるモデルを実現できる一方,情報を持っていないところは劣後するため,そういうビジネス形態を確立したところの下請的な立場として生きていかなければならなくなるということである。そうすると,それによって得られる付加価値はだんだん薄くなっていくので,経済力全体が劣化していくおそれがあるということを心配している。
 競争政策の執行については,今の法制度の中で行っていくことになるが,同時に競争環境の整備に必要なことを問題提起し,私どもだけでできないことについては,全省庁的に検討してもらい,それに我々も参加するということも必要である。そうした部分では,データポータビリティをどう考えていくのかという問題がある。データポータビリティが認められれば,競争政策の観点からは,スイッチングコストが下がり参入障壁が低くなるということにつながるが,その規制が強すぎると,逆にイノベーションを阻害することになるのではないかという考えもある。さらには,データポータビリティを認める場合,大量の情報をやりとりすることになるので,それなりの投資や設備もいるであろうから,その実現可能性についても検討しなければいけない。そういう広範な観点について,全省庁的な検討が必要であるというのが,競争当局からの問題意識の提起だと考えていただきたい。

(問) いわゆるGAFAと呼ばれるサービスを,委員長はどのくらい利用しているか。
(答) 私も検索サイト等を随分利用しており,それらが消費者に対して大変な利便を与えていることは全く否定していない。一方で,プラットフォーマーに詳細な個人の行動情報が集積していることに関して,その個人情報がどのように保護されているのか,その情報が漏れないようにどういった措置が採られているのか,それから,その情報を提供するために同意が得られているのかということについて,デジタル・プラットフォーマーを利用している人が,それをどれだけ意識しているかというところも,私どもの関心のあるところである。

(問) ドイツの連邦カルテル庁が,フェイスブックに対して,個人情報の収集を制限するよう命じたことについての受止めと,消費者に対する優越的地位の濫用について,どのような示唆を得たのかについてお聞きしたい。
(答) ドイツに関しては,EUのGDPRもあるし,ドイツもそういう法制を持っていると思うが,GDPRがあることにより,その保護水準が高いことから,不当性が認定しやすかったのだと思われる。我が国で,もし同じようなことが行われていた場合,どのように考えるのかについては,消費者の認識や,実態がどうなっているのかを調査した上で,我が国の状況に照らして検討していくことになる。無料サービスだから取引ではないとか,相手方は消費者ということで,独占禁止法がカバーする世界ではないという考え方も強くあるが,検索ビジネスでは,情報サービスを提供する対価として,投入財である個人の行動情報というものを収集しているというように,双方向性があると捉えるべきではないかと考えられ,そうすると,それに対して独占禁止法,例えば,優越的地位の濫用というのは適用できるのではないか。そういうことを私どもも検討しなくてはならないと思っており,実態調査を踏まえて,考え方を整理していきたいと思っている。

(問) 今国会で独占禁止法の改正案が提出される見通しで,それに併せて秘匿特権が導入された場合,どういった影響があるのか。
(答) 課徴金制度が導入されて40年余り経ち,今の課徴金制度は一律的・硬直的な仕組みになっているため,我々が運用しているところで経済社会の変化とか実態に合わないところを改正したいと思っている。カルテル・談合に対して,効率的・効果的に調査を執行していくためには,企業側がコンプライアンスを達成する観点から調査に協力するインセンティブを与える必要があり,そのためには,課徴金の減免制度を拡充することが必要ではないかということで,いくつかの点について改正するものである。
 課徴金減免制度をそのように改正すると,関係者が弁護士に事前に相談するということは非常に有用だと考えられるので,その限りにおいて,関係者と弁護士の間の法的意見については,審査を行っている担当官がアクセスしないことを担保する仕組み,いわゆる秘匿特権を,法律ではなく規則や指針において実質的に担保できるように運用を改めようと考えているところである。ただ,日本の司法制度の中ではこれまで認められていないので,私どもとしても,刑事の制度とか他の行政調査の制度に波及しないように気を付けて仕組みを作る必要があると考えている。

(問) デジタル・プラットフォーマーに関し,内閣府に設置されようとしている専門部会において,企業結合審査におけるデータの集積等についても検討するといわれているが,独立的な公正取引委員会の権限が侵害されているとは考えないか。
(答) デジタル・プラットフォーマーが,ベンチャー的な萌芽期のビジネスを吸収合併することによって競争の芽を摘むのではないかという懸念に対して,どう対応していくかというのは,まさに私どもが考えなければいけないことであり,ICNの企業結合のワークショップにおいても,各国から問題意識が提供されていろいろな議論がされているところである。一方で,世の中全体から,公正取引委員会もそういうことを念頭に置いて検討しなければいけないとか,そういう検討をしてほしいといった問題意識の喚起を受けることを拒否する必要はないと思うし,それが私どもの執行の独立性を害するとも考えていない。

(問) 先月からデジタルプラットフォーマーの実態調査が始まったが,いわゆる40条調査というのは,必要になってくるケースは出てきそうか。また,念頭に置いているのか。
(答) 1月の下旬に始めたところであり,これから各方面からヒアリングをしたり,各種のアンケート調査を実施したり,さらにそれを踏まえて深度のある追加的な調査というものも行っていかなければいけないが,そうした中で,守秘義務が調査の支障になるような状況に遭遇した場合には,独占禁止法第40条を適用することについて,ためらうわけではないので,必要があれば対応していきたいと思う。しかし,それは調査を行っていく過程において,関係者からどれだけその実態を話していただけるかということにかかっており,そこは調査を進めていった段階で判断することだと思っている。

以上

 [配布資料]

平成30年(1月~12月)公表事件一覧

平成30年(1月~12月)課徴金納付命令一覧

平成30年(1月~12月)下請法違反勧告事件一覧

平成30年(1月~12月)消費税転嫁対策特別措置法勧告一覧

平成30年(1月~12月)企業結合第二次審査終了案件一覧

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