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令和元年 委員長と記者との懇談会概要(令和元年6月)

令和元年 委員長と記者との懇談会概要(令和元年6月)

1 令和元年6月25日(火曜) 14時00分~14時55分

2 概要

(1)委員長からの説明

 私の方から3点お話ししたい。
 1点目は独占禁止法の改正についてである。この改正では事業者の協力度合いに応じて課徴金を減額することができるようにする調査協力減算制度を導入して課徴金減免制度を拡充するとともに,違反行為の実態に応じてより適切な課徴金を課すことができるように,課徴金の算定方法の見直しを行うことを内容とするものである。
 今回の改正により,事業者が自ら実態解明を行い,そこで判明した事実を公正取引委員会に報告するというインセンティブが高まると考えられ,違反事件の実態解明がより一層進むことになることが期待される。
 また,いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権については,新たな課徴金減免制度をより機能させるなどの観点から,独占禁止法に基づく規則や指針などで一定の手続を整備することとし,不当な取引制限に関しては,外部の弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密は実質的に保護されることになる。
 今後は,改正法の施行までの間に,政令や規則,ガイドライン等の整備を行いながら,事業者向けの説明会を開催するなど,関係者の理解が得られるよう,十分な周知活動を行う必要があると考えている。
 2点目は,デジタル・プラットフォーマーに関する取組についてで,先般閣議決定された成長戦略においても取り上げられている。
 プラットフォーマーを巡る取引環境の整備に関しては,経済産業省と総務省,公正取引委員会が共同して有識者検討会を開催し,「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」,「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」についての報告が出されたところである。プラットフォーマーに関する制度的な検討について,今後内閣官房に創設される専門組織において引き続き具体的な検討が行われるが,私どもとしても,プラットフォーム事業を巡るlevel playing fieldの整備,すなわち競争環境の整備という観点は非常に重要であると考えているので,こうした検討に積極的に参画してまいりたい。
 それから,「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」を継続し,デジタル・プラットフォーマーの取引慣行に関する実態の把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていきたいと考えている。
 また,デジタル・プラットフォーマーによる対消費者取引への優越的地位の濫用規制の適用については,情報は重要な投入財であることから,デジタル・プラットフォーマーと消費者との間に取引が存在すると考えることが可能と考えており,その適用に当たっては,取引上の地位が消費者に優越しているといえるか,消費者に対して不当に不利益を与えているか,公正な競争を阻害するおそれがあるといえるかどうかといった論点を含め,この夏までに考え方の整理を進めたいと考えている。
 それから,デジタル・プラットフォーマーを巡る企業結合については,成長戦略に,企業結合審査に係るガイドラインについて,本年中に改正する旨盛り込まれており,プラットフォームが有する多面性という特殊性を踏まえた審査や,データの集積を考慮した審査の諸点に係る企業結合審査上の考え方について,明確化するように検討を行ってまいりたい。
 また,成長戦略には売上を基準とした企業結合の届出基準の在り方について,本年度中に検討する旨が盛り込まれており,公正取引委員会としては,国際的な議論も踏まえつつ,届出がなくても企業結合審査を行うことは法律上可能であるという現行の届出制度の下において,スタートアップ企業の買収についてどのような対応を行っていくことができるか,検討を進めていきたいと考えている。
 最後に,地域銀行及び乗合バスについては,未来投資会議で検討が行われ,成長戦略において,地域銀行の経営統合及び乗合バス等の共同経営等について,一定の場合に独占禁止法の適用除外とする特例法を設けることという決定がされた。
 公正取引委員会としても,地域における基幹的なサービスの維持の必要性は十分に理解しているが,競争が持続可能な場合,独占禁止法は利用者の選択肢が制限されることとなる経営統合等を禁止している。
 一方,経営統合なしにはインフラの維持が困難な場合,すなわち,競争が持続困難な場合には,独占禁止法は,こうした経営統合を否定するものではない。地域銀行の経営統合については,金融インフラの維持についての金融庁の判断を尊重して,可能な限り中長期的視点に立って判断することがガイドラインで明記されれば,独占禁止法が金融インフラの維持の妨げになることはないと考えている。また,国際標準による競争ルールを徹底させることが必要な中で,我が国において法律により独占禁止法の例外を設けることについては,国際的に理解を得られるかという点も踏まえて,慎重な判断が必要と考えている。
 以上のことから,公正取引委員会としては,地域銀行の経営統合については,あえて特例法を設ける必要はないのではないかと考えていて,未来投資会議においても,そのように私から述べたところである。
 しかしながら,現下の金融機関を巡る状況に鑑み,地域における金融インフラを適切な形で維持するという政策目的の達成に向けて,一定の要件を満たす経営統合について独占禁止法の適用を除外する特例法を設けるという判断が,政府全体として行われたと受け止めている。
 ただし,特例法を設計するに当たっては,競争当局としては,合併による消費者等に対するサービス水準の低下につながるおそれを心配する。サービス水準を確保,向上させる観点から,例えば,規制緩和により新しいテクノロジーを活用すること等により,全体としてのサービス水準が低下しないようにするという取組が重要となると考えられるので,制度官庁にはそうした積極的な対応をお願いしたいと考えている。
 次に乗合バスの共同経営については,地域における乗合バスという地域交通システムを維持するためには,独占禁止法上問題となり得る路線の調整や運賃プールにも踏み込んで対応する必要があるという判断がなされたものと承知している。山間部の不採算地域を含んだネットワーク全体の維持のため,自治体を中心とした地域公共交通活性化再生法に基づく協議会において,利用者の利益の確保を図る配慮がなされるということなので,こうした一定の場合に独占禁止法の適用を除外する特例法を設けることについては,私どもとしては理解できる。この点に関しても,長期的に消費者に対するサービスの低下を招かないように,金融機関と同様,新たなテクノロジーを活用して事業者の選択肢を確保していくというようなことを考えていただきたいと思っている。

 

(2)質疑応答

(問) コンビニエンスストアの24時間問題について,どういった考えをお持ちかお聞かせいただきたい。また,実態調査はこれから行うのか。
(答) 一般論として申し上げると,24時間営業を条件とするフランチャイズ契約については,第三者に対する統一したイメージを確保する等の目的で行われており,加盟者募集の段階で加盟時に十分説明されていて,加盟店がこれに同意している場合には,直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,契約締結後に本部が加盟店に対して一方的に営業日や営業時間を変更するなどにより,加盟店に不当に不利益を与える場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあると考えている。
 それから,契約期間中に事業環境が大きく変化したことに伴い,取引の相手方が優越的地位にある者に対して契約内容の見直しを求めたにもかかわらず,優越的地位にある者が見直しを一方的に拒絶する場合には,もちろん個別の事情によるが,「取引の相手方に不当に不利益となるように取引を実施すること」に該当すると認められる場合には,優越的地位の濫用として問題になり得ると考えている。
 個別の案件についてはお答えできないが,そういう観点から独占禁止法に違反する疑いのある事実に接した場合には,厳正に対処していく必要があると考えている。
 コンビニエンスストアに関しては,平成13年と平成23年に実態調査を行い,その結果を公表してきたところである。今後,どのようなテーマに対して実態調査を行うかについては,現在,検討しているところであり,具体的に何を行うかは決めていない。

(問) 独占禁止法改正に伴うガイドラインの整備について,もう少し具体的なスケジュールを教えていただきたい。
(答) 改正法の施行までに,減算率の評価方法等に関するガイドラインを整備する。ガイドラインでは,調査に協力するインセンティブを高めるという目的に照らし,また,運用の透明性及び事業者の予見可能性を高めるという観点から,評価方法等を分かりやすくする必要があると考えている。具体的なガイドラインの内容については,今後,案を作った上でパブリックコメントを実施し,その結果を踏まえて,また案をさらに練り,公表する。その上で,ある程度の周知期間を確保したいと思っている。

(問) 地域銀行の経営統合と乗合バスの共同経営で,先ほど,サービスの水準を確保するという観点から新たなテクノロジーを活用することを考えていただきたいとの説明があったが,もう少し具体的なイメージをお聞かせいただきたいのと,それを法案の中に盛り込むべきとお考えなのか,教えていただきたい。
(答) 例えば,今,議論されているフィンテックが活用されると,地域の中小企業の融資の選択肢が増えていく可能性があると思うし,地域の交通システムに対する消費者の選択肢を確保するため,シェアリング技術を活用して地域の足の選択肢というものを増やしていくということも考えられる。あくまで私どもとしての希望であり,こうすべきと言っているわけではない。

(問) プラットフォームの関連で,スタートアップ企業の買収について,売上高だけではなく,いくらで買収するかということを採用している国もあるが,そういったことも踏まえた検討を考えているのか教えていただきたい。
(答) いわゆるスタートアップ企業の買収については,国際的にもいろいろ議論されていて,昨年のICN,すなわち,インターナショナル・コンペティション・ネットワークにおける企業結合ワークショップを開いたときの一つの大きなテーマであった。各国の競争当局と意見交換をしながら検討していかなければいけないことと考えている。
 売上高ではなくて買収額に基づく届出基準を追加する必要があるのかどうか,それについて検討していくところだが,届出基準を拡大した場合には企業負担も増大するということにもなりかねないので,そういった点にも配慮しながら,検討しているところである。

(問) 先日,企業結合審査の事例集を出されたが,その中に,ほとんど独占になるが,当事会社が問題解消措置を講じたので企業結合が認められた事案があった。当事会社はかつて公正取引委員会から処分を受けたこともあったのに,これは割と緩い解消措置で審査が通ったと理解したが,二次審査にしてパブリックコメントをするということもできたのではないかと思うし,独占になりそうな事案でも通ってしまうということで,もしかしたら国民に間違ったメッセージを与えることになったかと思うのだが,どういうことを意図してこの事案を公表されたのか教えていただきたい。
(答) 一般論として答えるしかないのだが,かつて問題があった案件であっても,市場を巡る状況は変化しており,現在の市場の状況を踏まえて,私どもは判断するということだと思っている。

(問) 地域銀行の経営統合について,資料2の成長戦略のフォローアップの9ページのところに特例として独占禁止法の適用除外の認可を受ける要件がⅰ,ⅱ,ⅲ,ⅳ,ⅴと書いてあるが,ⅰとⅱは,ざっと見ると同じことを言っている気がする。これはどう理解すればよいのか。
(答) 御質問の件に関しては,未来投資会議で議論された結果,地方における金融システムの維持がいわば優先的な政策課題ということで独占禁止法の適用を除外するという法律を設けることが必要だとして閣議決定されたわけなので,御質問の部分について私どもが解釈する立場にないので,お答えできない。

(問) 先ほど,監督官庁に対し中長期的視点に立ってという説明があったと思うが,それは,委員長の中でいうと15年なのか10年なのか,あるいは30年なのか50年なのか,どういうスパンなのか教えていただきたい。
(答) 先ほど申し上げたのは,公正取引委員会として,独占禁止法の適用除外を設けるのならば,やはり消費者の立場にもきちんと対応して,消費者の選択肢が増えるようなことも考えていただきたいという希望を述べたもので,できるだけ早く行っていただけるのがいいが,そこは担当当局にお願いしたいということだというふうにしか申し上げられない。

(問) デジタル・プラットフォーマーについて,これまで消費者取引には優越的地位の濫用規制を適用していなかったが,適用するに当たってハードルとなっている部分があれば教えていただきたい。
(答) 今,実態調査を行っているが,実態調査を最終的にまとめる段階で,考えを示していく必要があると思っている。具体的にどういう適用が難しいのかは,ブレーンストーミングをやってから考え方を示していくということだと思っている。

以上

 [配布資料]

資料1 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」の成立について

資料2 「成長戦略実行計画」(抜粋)及び「成長戦略フォローアップ」(抜粋)

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