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令和元年 委員長と記者との懇談会概要(令和元年9月)

令和元年 委員長と記者との懇談会概要(令和元年9月)

1 令和元年9月25日(水曜) 11時00分~11時50分

2 概要

(1)委員長からの説明

 私から4点説明させていただきたい。まず,最初に,コンビニの実態調査の開始について説明したい。公正取引委員会では,毎年実態調査を行っているが,今回コンビニエンスストア本部と加盟店との取引の実態調査を行うこととした。
 コンビニエンスストア本部と加盟店の取引については,平成13年度,それから平成23年度に実態調査を行っているが,その後一定の期間が経過していること,また24時間営業の問題等に関する社会的関心が寄せられていること等に鑑みて,フォローアップを兼ねた実態調査を行うこととした。
 調査の詳細については,今後詰めていくことになるが,フランチャイズガイドラインに掲げられている,近隣地域に同一チェーンの出店もあり得ることを,加盟店募集時に丁寧に説明しているかなど,加盟店の適正な判断に資するための情報が十分に開示されているかどうかといった問題,いわゆるドミナント出店といわれている問題,それから,本部の指定する者としか取引させないという,取引先の制限に係る問題,本部による見切り販売の制限といった問題のほか,多大な社会的関心が寄せられている24時間営業等に関する本部の対応状況について調査を行っていくことを考えている。
 なお,コンビニエンスストアについては,経済産業省が本年6月からオーナーの高齢化や防災拠点としてのあり方といった全般的な問題に関連して,「新たなコンビニのあり方検討会」を開催しているが,公正取引委員会の実施する実態調査は,独占禁止法の観点から調査を実施するということになる。
 2点目が,「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」についてである。こちらの考え方(案)については,8月29日にパブリックコメントを開始したところである。経済のデジタル化が進む中で,デジタル・プラットフォーマーは情報通信技術やデータを活用して第三者に多種多様なサービスの場を提供し,革新的なビジネスや市場イノベーションの担い手となっている。その恩恵は,消費者,事業者双方に及んでおり,我が国の経済や社会にとって重要な役割を果たしているといえる。
 他方で,デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスは,ネットワーク効果,低廉な限界費用,規模の経済等の特性により独占化・寡占化が進みやすく,競争優位が維持されやすいという特徴を持っている。一方で,個人情報等の取得又は利用と引換えに財・サービスを無料で提供するというビジネスモデルが採られる場合があり,デジタル・プラットフォーマーがサービスを提供する際に消費者の個人情報等を取得又は利用することに対して懸念する声もあるところである。このようなデジタル・プラットフォーマーの特徴に鑑みると,従来は主に取引される財・サービスの価格に着目していたが,情報が非常に重要な取引の材料になっていることを考えると,取引される情報のクオリティというものに着目する必要があるということになると考えている。
 したがって,デジタル・プラットフォーマーが不公正な手段によって個人情報等を取得又は利用すると消費者に不利益を与えるとともに,公正かつ自由な競争に及ぼす影響が大きいと思う。
 この考え方(案)では,デジタル・プラットフォーマーに関する優越的地位の濫用規制の考え方を示すために,どのような場合にデジタル・プラットフォーマーが優越的地位に当たると認定できるかを示すとともに,個人情報等の取得又は利用におけるどのような行為が優越的地位の濫用行為として問題となるかについて整理している。
 この考え方(案)については,9月30日まで広く関係各方面から意見を受け付けて,寄せられた意見を踏まえて今後成案を作成していきたいと考えている。
 3点目が,人材分野における公正取引委員会の取組関連である。近年,個人の働き方が多様化し,フリーランスに代表される「個人として働く者」が増加している。そのため,今後,企業による人材獲得を巡る競争が激しくなることが見込まれる一方で,そうした活発化する人材獲得競争を企業間で回避・停止したり,人材を不当に囲い込んだりといった競争制限的な行為が生じるリスクも増大していることから,公正取引委員会としても人材分野における取組は重要な政策課題の1つであると考えている。
 競争政策により人材獲得競争における適切な市場メカニズムを確保することにより,働く方々の適正な待遇の下での能力の十分な発揮や,適材適所の人材活用を通じた企業の活発な事業活動が担保される。それにより,我が国の経済活動におけるイノベーションの促進による商品・サービスの水準が向上するとともに,経済格差の是正といったマクロ的な経済課題の解決にもつながるものであると考えている。
 これらを踏まえ,公正取引委員会は有識者による「人材と競争政策に関する検討会」を開催し,独占禁止法の適用関係や独占禁止法上問題となり得る具体的行為等について取りまとめた報告書を平成30年2月に公表した。報告書公表後,人材獲得競争が独占禁止法の対象となり得ることや,具体的にどのような行為が独占禁止法上問題になるのかなどの人材分野における独占禁止法の考え方について,様々な分野の関係者への周知活動を積極的に行うとともに,様々な分野における競争制限的な行為や慣行の実態把握にも努めている。
 その一環として,スポーツ事業分野においてはスポーツリーグや競技会を主催する団体によって設けられている選手の移籍を制限するルールに関する独占禁止法の考え方を本年の6月17日に公表し,関係者への周知を行っている。公正取引委員会としては,この考え方を参考に,各団体等における自主的な点検や,必要に応じた改定を期待しているところである。
 また,芸能分野においても,人材分野における独占禁止法上の考え方を関係者に周知している。それに加え,芸能事務所と芸能人との間の契約や取引慣行において独占禁止法上問題となり得る行為の想定例を整理したので,今後このような想定例を用いつつ,関係者への周知を更に進めていくとともに,業界団体における自主的見直しを支援していくことが必要と考えている。
 公正取引委員会としては,引き続き,スポーツ事業分野や芸能分野に限らず,広くフリーランス等の人材分野において独占禁止法上の考え方の関係各方面への積極的な周知や,競争制限的な行為や慣行に関する実態の把握に努めるとともに,独占禁止法違反が認められる事案に対しては的確に対処してまいりたいと考えている。
 最後に,公正取引委員会では,これまでも消費税転嫁対策に取り組んできたが,消費税率10%への引上げが10月1日に予定されている今年度においては上半期に重点的に転嫁拒否行為の未然防止のための各種の施策を実施してきた。
 まず,転嫁拒否行為の未然防止,違反被疑情報の収集を目的として,5月に大規模小売事業者や大企業等買手側の約8万の事業者に対する書面調査,中小企業や小規模事業者等売手側の約30万名に対する書面調査を行った。また,消費税転嫁対策特別措置法の説明会,相談会を全都道府県において60回実施し,その周知や相談対応にも当たってきた。さらに,消費税率引上げを直前に控えた今月からは,事業者向けに新聞,雑誌,電車広告,バナー広告などを利用した集中的な広報を行っている。
 消費税率引上げ後の取組については,転嫁拒否行為を受けた事業者が,その事実を申し出にくい場合もあると考えられることから,これまで悉皆的な書面調査を実施し,転嫁拒否行為に関する情報収集を積極的に行ってきた。10月1日の消費税率10%への引上げ後においても,中小企業・小規模事業者・個人事業者等約630万の売り手側の事業者に対して,悉皆的な書面調査を実施する。公正取引委員会においては,書面調査などによって把握した転嫁拒否行為に対しては,引き続き消費税転嫁対策特別措置法に基づき,迅速かつ厳正に対処していく所存である。

 

(2)質疑応答

(問) コンビニの実態調査に関し,調査の開始時期と方法,どれくらいの期間をかけて調査をするのか教えていただきたい。
(答) 実態調査はできるだけ速やかに着手することになると思う。狙いは先ほど説明したとおりであり,加盟店募集時に近隣地域に同一チェーンの出店もあり得ることを丁寧に説明しているかなど加盟店が適正な判断をしていくための情報が十分に開示されているか,本部の指定する者としか取引させないという取引先の制限に係る問題,見切り販売の制限といった問題,それから24時間営業等に関する本部の対応状況などの調査を実施していくと考えている。

(問) 調査の対象は,大手コンビニ本部と加盟店のどちらもということか。
(答) 本部も加盟店も両方調査することになると思う。

(問) コンビニの実態調査は速やかに着手ということだが,今月中くらいに始めるのかなど目途を教えていただきたい。あとデジタル・プラットフォーマーに独占禁止法の優越的地位の濫用を適用する場合,課徴金をどのように算定するのか。
(答) 実態調査については,準備を整えた上で,できるだけ速やかに始めたいと思う。
 優越的地位の濫用行為を行った事業者に対する課徴金は,売上額に対して課すので,デジタル・プラットフォーマーと消費者の取引において売上額があるかどうかを考えないといけない。消費者に対する売上額がないということになると,課徴金を課すのは難しいということになる。課徴金制度は,不当利得を徴収するという考え方で制度を作り上げているので,不当利得というものが観念されない取引については課徴金を課せられないということになっている。もし,そういうものに対して課徴金を課すということになると,制度を抜本的に見直すことになるが,今はまだ各方面の理解が得られるような状況になっていないと考えている。

(問) そうすると,対消費者取引においては課徴金を課すことは基本的には無いと考えていいのか。
(答) そこは個別事例ごとに考えなければならない。

(問) デジタル・プラットフォーマーと消費者との取引では無料のサービスが多いと思うが,実際はデジタル・プラットフォーマーは個人データをターゲット広告に使っている事が多く,そこでは金銭の取引が行われているので,課徴金を課すかどうかは,そういうことも踏まえ判断するのか。
(答) それがいわゆる売上額ということに観念できるかどうかは,慎重に検討していく必要があると思う。

(問) 今パブコメ中の考え方(案)について,対消費者の取引に広げるというのはこれまでの解釈から一歩踏み出した大きな判断だったと思うのだが,委員長が個人的に聞いている範囲でどのような反応があるか。
(答) デジタル化された経済社会においては,情報の価値が非常に重要になってきているので,情報に着目して取引ということを考えなければいけないと思う。例えば検索サービスでは,消費者の行動情報を利用してターゲット広告という広告ビジネスが成り立つ構造になっているので,そこに着目してそれを取引と認定するということについては世の中全般的に理解していただけるのではないかと考えている。

(問) 先日の日本記者クラブで,委員長は,フェイクニュースなどについても競争政策での対応を考える必要があるというお話をされたが,どういった観点で独占禁止法を適用できるとお考えなのか。
(答) 日本記者クラブではメディア業界に対する問題提起として申し上げたもの。今まで競争政策の着眼点は主に価格だった訳だが,このデジタル社会では,情報に着目した場合,価格よりもクオリティということだと思っている。そうすると情報の取引については,クオリティが競争の指標になるのではないかと考える。フェイクニュース,犯罪を煽るような情報,ヘイトスピーチといった情報は消費者などの情報の受け手にとって非常に不利益を及ぼすものだと思っている。私の個人的な問題意識として,情報のクオリティを巡る競争が起こるべきと考える。もちろん検閲という手法は論外であり許されない。良質な情報,社会的に有益な情報が流れる媒体というものが消費者に選択され,意図的に虚偽情報を広めるようなものが排除されていく事がこれから必要になってくるのではないかと考える。私に具体的なアイデアがある訳でもないし,公正取引委員会としても具体的に考えている訳でないので,メディア界でこの問題を考えていただければと思い,メディア界に向けて問題提起したものである。

(問) コンビニの実態調査において,個別の違反を発見した場合にどう対処されるのか。
(答) 事件の端緒を発掘するために行うのではなく,コンビニエンスストア本部と加盟店との取引の実態を把握するために行うものである。もし問題点がある場合には業界に対し自主的に見直してもらうよう発信し,その上でまだ問題行為が改まっていないのであれば,問題として取り上げるということは当然排除されないと思っている。

(問) デジタル・プラットフォーマーの問題に対し,個人情報保護委員会とどう連携していくのか。
(答) 具体的に違反行為があればそれは当然摘発する訳だが,それは個人情報保護法違反行為でもあるかもしれず,個人情報保護委員会によって競争環境を害する行為が是正されるというようなことは競争政策の観点からも非常に望ましい効果を発すると考える。そのため,お互いが連携していくことが非常に有効と考える。

以上

 [配布資料]

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