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令和2年 委員長と記者との懇談会概要(令和2年2月)

令和2年 委員長と記者との懇談会概要(令和2年2月)

1 令和2年2月5日(水曜) 14時00分~15時00分

2 概要

(1)委員長からの説明

 本日は,まずデジタル・プラットフォーム事業者に対する公正取引委員会の取組について説明した後,幾つかの課題について説明したい。
 デジタル・プラットフォーム事業者については,まず,2017年6月に「データと競争政策に対する検討会」の報告書を公表し,独占禁止法適用についての考え方の整理を行った。こうした検討会の考え方を踏まえ,独占禁止法上問題となるようなデジタル・プラットフォーム事業者への調査・対応を行ってきたところである。
 例えば,2017年6月,アマゾンジャパン合同会社が定めていた価格等の同等性条件,MFN条項あるいはAPPA条項と言われているものであるが,出品者の事業活動を制限している疑いがあったことから,同社に対し,独占禁止法の規定に基づいて審査を行っていたところ,同社から自発的な措置を速やかに講ずるとの申出があり,当該措置が独占禁止法上の疑いを解消するものと判断して審査を終了した事案がある。他にもアマゾン・サービシズ・インターナショナル・インクの電子書籍関連契約に関する件,みんなのペットオンライン株式会社に関する件,AppleJapan合同会社に関する件,エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及びAirbnb Japan株式会社に対する件,アマゾンジャパン合同会社のポイントサービス利用規約の変更の件などについて,それぞれ個別案件として対応してきたところである。
 また,2019年1月から大規模かつ包括的な徹底した調査によるデジタル・プラットフォーマーの取引実態の把握を進めることとし,オンラインモール,アプリストアにおける取引実態に関する調査を実施して,去年の10月31日,実態調査報告書を公表した。配布資料1の例えば15ページを見ていただくと,「取引先に不利益を与え得る行為」として,「運営事業者はロックイン効果によって利用事業者に対して取引上優越した立場に立ち得るため,例えば,規約を一方的に変更することができる」というようなことがある。このような行為について「取引上優越した運営事業者が正常な商慣習に照らして不当に,利用者事業者に不利益を及ぼす場合には,優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題となるおそれがある」と指摘した。それ以外にも「競争事業者を排除し得る行為」について,運営事業者が他の運営事業者と利用事業者や消費者との取引を不当に妨害する場合には,競争者に対する取引妨害として独占禁止法上問題となるおそれがある。「取引先事業者の事業活動を制限し得る行為」について,運営事業者がアプリ外決済を禁止してアプリ内課金の利用を不当に強制する,アプリ外決済の価格を拘束する,アプリ外決済に係る情報提供を不当に妨げる場合には,拘束条件付取引として独占禁止法上問題となるおそれがあるということを明らかにしている。公正取引委員会はデジタル・プラットフォーマーが独占禁止法に違反するような行為をしないよう未然防止に努めてもらいたいと考え,実態調査報告書を公表したところである。もちろん独占禁止法上問題となる具体的な案件に接した場合には,引き続き,厳正・的確に対処していく。
 その後,「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を,昨年12月に公表した。
 独占禁止法の優越的地位の濫用規制については,従来,企業同士の取引に対して適用されてきており,企業と消費者の取引に適用することはなかった。デジタル・プラットフォーム事業者と消費者の関係において,消費者がデジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービスを利用する際には,対価として自己にまつわる個人情報を差し出している。この情報は今やそれ自体で価値を有するものと考えられる。例えば,検索サービスやSNSは,見かけ上無料で消費者に提供されるが,その一方で,消費者は企業にとって「投入財」としての価値のある個人に関係する情報をこれらの企業に提供していることになる。企業は,こうした個人にまつわる情報を材料として,ターゲット広告等により得た利益でビジネスを成立させている。そうであれば,これらデジタル・プラットフォーム事業者により提供されるサービスは,消費者とデジタル・プラットフォーム事業者の間の取引関係と位置付けることができ,独占禁止法の優越的地位の濫用規制の適用対象になるものと考える。通常の取引は,金銭的価値である価格に注目されるが,情報に関わる取引では財の品質に注目することが必要だと思っている。そう考えると,消費者の個人情報がどう保護されているかということは,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスの品質に関わる問題として位置付けることができると考えている。また,デジタル・プラットフォーム事業者が個人情報を不当に収集する場合には,不当なやり方によって利用者を囲い込んで市場支配力を維持・強化することにつながり,競争政策上の懸念が生じる。こうしたことに対応するため,考え方を整理したものである。
 それから更に,企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針等の改定を,昨年12月に公表している。これは,デジタル分野の企業結合案件に的確に対応する必要性が高まっていること等から,パブリックコメントを求めた上で公表したものである。
 まず,企業結合ガイドラインの改定のポイントは,3つの点が挙げられる。
 一つ目は,デジタル分野等における企業結合について,デジタルサービス等の特徴を踏まえた企業結合審査の考え方を明示したことである。
 二つ目は,スタートアップ企業のような現時点での規模は小さいものの,データ等の競争上の重要な資産等を有している企業等が買収される場合の考え方を明示したことである。
 三つ目は,垂直型・混合型企業結合の競争制限の考え方について,最近の審査結果を踏まえて詳細に記述したことである。
 次に企業結合手続対応方針の改定である。日本を含む多くの国では,企業結合手続に係る届出基準は当事会社の売上高をベースにしている。ただ,売上高基準の場合,売上高は小さいものの高い潜在的競争力を有するスタートアップ企業等が買収される企業結合は届出基準を満たさないことになる。
 企業結合手続対応方針の改定のポイントは,被買収会社の国内売上高等に係る金額が届出基準を満たさないために届出を要しない企業結合計画のうち,買収に係る対価の総額が大きくて,かつ,国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合には,届出がなくても企業結合審査を行う旨,また,そのような企業結合を計画している当事会社は公正取引委員会に相談することが望まれる旨を明示したものである。
 こうした対応は,巨大プラットフォーム事業者がスタートアップ企業を買収することによって,将来の競争相手の芽を摘もうとしているということが国際的にも懸念されているいわゆるキラーアクイジッションという問題に対応しようとするものである。
 今後,今回の企業結合ガイドライン等の改定内容の周知に取り組むとともに,これらガイドライン等を踏まえ,引き続き迅速かつ的確に企業結合審査を行っていく。
 次に,昨年通常国会で成立した独占禁止法改正法の施行について説明したい。独占禁止法改正法は,調査協力を促進し,適切な課徴金を課すことができるものとすることなどにより,不当な取引制限等を一層抑止することができるようにしている。その施行スケジュールは,改正内容に応じて3つの時期に分かれている。1段階目は,昨年の7月26日に,繰り返し違反に係る規定について最初の課徴金納付命令等以後に違反行為を行っていた場合に限定する改正規定,検査妨害罪の法人等に対する罰金額の上限の引上げ等の罰則引上げに係る改正規定を施行した。2段階目は,今年の1月1日に,課徴金の延滞金の割合に係る改正規定,犯則調査権限における電子証拠収集手続の整備に係る改正規定を施行した。
 残る3段階目の課徴金制度,課徴金減免制度についての改定規定については,本年12月25日までに施行されることになっている。この3段階目の施行に向け,調査協力減算制度に関する委員会規則・ガイドラインや,課徴金の算定方法に関する政令・委員会規則を整備する。また,この改定に併せて,新たな課徴金減免制度をより機能させる観点等から,不当な取引制限に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した物件について,一定の要件を満たせば,行政調査手続において審査官がアクセスすることなく,速やかに事業者に還付する,いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権に関する委員会規則や指針の整備も行うこととしている。
 これらの整備については,事業者等への周知期間の確保も図りながら,パブリックコメントを実施した上で行うこととしている。
 最後に消費税の転嫁対策に関して説明する。昨年10月1日に消費税の引上げが行われたが,この引上げに係る転嫁拒否行為に関する情報収集のため,昨年の10月1日以降に,約620万の中小企業・小規模事業等を対象とした悉皆的な書面調査を実施した。
 現在,書面調査の回答や寄せられた情報に基づき,転嫁拒否が疑われる行為について調査を行っている。今後も転嫁拒否に関する情報に接した場合には迅速かつ厳正に対処していく。

(2)質疑応答

(問) まもなく特定デジタルプラットフォームに関する新しい法案が国会に提出される運びになっているが,改めてこの法案の意義や残った課題等について伺いたい。
(答) デジタルプラットフォーマー取引透明化法案の目的は,特定デジタルプラットフォーム事業者の透明性・公正性の向上の促進を図ることであると考えており,この法案は独占禁止法違反行為の未然防止など競争環境の整備の観点からも非常に意義深いものと評価している。残された課題は,今後情報の取引流通の整備をどう行っていくかだと思う。

(問) 新しい法案は主に経済産業省が所管官庁となって運用していくと伺っているが,公正取引委員会の新法案における役割について伺いたい。
(答) デジタル・プラットフォーマーが独占禁止法に違反するということになると,担当大臣から公正取引委員会に措置を要請するという枠組みになると思うので,担当省庁と密接に連携しながらこの法案の運用を図っていくことが重要だと思っている。

(問) 独占禁止法自体の執行力がEUの競争当局と比べてちょっと弱いのではないかという指摘もあるが,その点はどう考えているか。
(答) 独占禁止法違反になる行為に対しては厳正に対処してきているので,執行力が不足しているとは考えていない。

(問) 優越的地位の濫用について被害者から苦情の申立てが相次いでいるようである。優越的地位の濫用の執行に関しては,取引相手を一つ一つ見なくてはいけない,また,課徴金の問題等もあり,近年は,未然防止の観点からの注意で対応している事例が多いように見受けられる。また,一つ一つの取引を見なければいけないので,非常にリソースが割かれている。今の制度で充分だと考えているか。
(答) 調査でしっかり実態を把握すれば独占禁止法違反になるかどうか判断できると思っている。特に今,優越的地位の濫用規定について改正する必要があると思っていない。
 優越的地位の濫用については,日本独自の制度であるという議論もあったが,諸外国の動向をみると,優越的なマーケットパワーが濫用される行為を問題とする動きが国際的に広がってきていると思うので,優越的地位の濫用行為に対してはしっかりと執行していく必要があると考えている。

(問) 変化の早いデジタル市場での規制については共同規制という考え方が主流になっているが,デジタルプラットフォーマー取引透明化法案も共同規制という側面があると思う。法案には不当な行為を禁止するという項目は入っていないが,デジタル市場において共同規制なり新たな規制をしていくことに関して,残された課題や,これまでデジタル・プラットフォーマーについて調査していく中で感じたことを伺いたい。
(答) 共同規制の定義は難しいが,反競争的行為,問題となるような行為については,自主規制というか企業が自らそういうことを行わないようにしていくことが適切だということが競争当局の従来からの考え方である。そういう考え方からすると,透明性・公正性を確保しようとする法案で,共同規制というか,正確な言葉を使う自信はないが,そういう考え方で競争環境を整備していくことは有効な手段ではないかと思っている。そして,特に事業者に非常な不利益を与える行為に対しては独占禁止法で対応していくということは適切な対応であると考えている。

(問) 情報の流通取引についてこれからどうするのかという課題に関し,公正取引委員会としてどのような取組ができると考えているか。
(答) 情報というのは重要なインフラになりつつあると思っている。デジタルトランスフォーメーションということが言われているが,ビジネスをどのように情報化・デジタル化に合わせて転換していくかが重要な課題になっていると思っている。そのときに情報が基本的な公共財的に位置付けられるかどうか検討してもらう必要があると思っている。ただテクノロジーによってどんどん状況が変化している中で,固定的に情報というものを公共財として位置付けるとイノベーションを阻害する要因になっていくのではという議論があり,その点をどう考えるかがこれからの課題になっていくと思っている。あくまで個人的な考えだが,金融,医療等の分野別に情報に対するアクセスの確保を図っていくということを考えてもよいのではないかと思っている。

(問) 人材と競争政策に関する検討会の報告書が出て2年になると思うが,この間,芸能界を中心に独占禁止法の考え方が浸透しているような気がする。このあたりの所感を聞きたい。また,今月末に日本エンターテイナーライツ協会で独占禁止法に関するセミナーが開かれるが,業界団体が自らセミナーを行う動きが広まってほしいという考えはあるか。
(答) 以前は独占禁止法を労働供給の分野に適用することに関しては消極的な面があったが,従来の労働法制では規律されないような働き方が増えてくると独占禁止法を適用する必要があるのではないかということで人材と競争政策に関する検討会の報告書を取りまとめ公表した。これからの世の中を考えると人材獲得市場が公正にワークすることは重要だと考える。報告書の考え方を芸能界,スポーツ界等に対して周知,啓蒙活動を行ってきたところであるが,業界団体が,それを受け止めて問題改善をしていただいていることは,評価できると思っている。

(問) 個別企業の話で恐縮だが,楽天の件について伺いたい。送料を出店者の負担で一律無料にする規約変更が独占禁止法に抵触する可能性について現段階でどのように思っているのか。また,今後の調査の進め方や楽天に何か具体的な対応を促していくのか。
(答) 個別具体的な件について申し上げることは差し控えたい。公正取引委員会の基本的な考え方は先ほど説明したデジタル・プラットフォーマーの実態調査報告書に示している。一般論として,もし独占禁止法違反の疑いがあるのであれば調査を行って,事実関係をしっかりと把握し,独占禁止法違反であれば厳正に対処をしていくこととなる。

(問) 楽天の三木谷会長は,先週,「一部の出店者が騒いでいる」とか,「政府や公正取引委員会に従わずに遂行する」と公正取引委員会に対して対決姿勢みたいなところを示しているが,それに関してどう受け止めているのか。
(答) 執行当局としては,売り言葉に買い言葉で答える訳にはいかない。先ほど述べたとおり,独占禁止法違反の疑いのある事実があれば調査し,事実関係をしっかりと把握した上で,独占禁止法違反に該当するということであれば厳正に対処していくことになる。

(問) フィンテック等の実態調査をされていると思うが,どういう問題意識で実態調査をしているのか。銀行のネットワークを使う上で銀行側としてはかなり投資に力を入れたので,抵抗があると思うのだが,どのようにお考えか。
(答) いわゆるフィンテックの分野に参入障壁があって新規参入が妨げられることがあるのかというような観点も踏まえて調査している段階なので,今の時点で何か言えることはない。今は事実の把握に努めているところである。

(問) プラットフォーマー規制において優越的地位の濫用規制が国際的な共有ツールになると考えているか。
(答) 各国当局の動向を見ると,非常に強いマーケットパワーの濫用行為をどう抑止していくかが国際的に重要課題になってきていると思っている。巨大プラットフォーマーによるマーケットパワーの濫用を規制していく,垂直的なレベルプレイングフィールドを確保していくという観点から優越的地位の濫用というのは非常に有力なツールになるのではないかと,個人的には考えているところである。

以上

 [配布資料]

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