1 平成29年7月19日(水曜) 15時00分~16時00分
2 概要
(1)委員長からの説明
昭和22年7月20日に独占禁止法が施行され,明日で施行70周年を迎える。これに当たり,私から「独占禁止法施行70周年を迎えるに当たって ~イノベーション推進による経済成長の実現~」という談話を公表することとしたが,本日はこれについてお話ししたい。
過去70年を振り返ると,独占禁止法は,戦後,正に戦前の反省を踏まえて,財閥の解体,競争制限的な統制法制の廃止といったものの中で,市場経済の考え方に基づく経済の再生を目指して,経済の民主化を担保する制度として制定された。
その後,産業の保護・育成が優先された時期には,競争政策を定着させようという努力が続けられ,昭和40年代には,八幡製鉄株式会社と富士製鉄株式会社の合併計画,石油ショックの頃には石油カルテル事件等,社会的にも非常に注目されるような事案にも対処した。
また,1971年(昭和46年)のニクソン・ショック,1973年(昭和48年)の石油ショックといったものを踏まえ,日本経済が変貌していく中で,競争政策の重要性が増し,昭和52年に初めての強化改正が行われ,課徴金制度が導入された。
経済の発展,規制緩和や貿易摩擦といった流れを踏まえて,独占禁止法の執行力強化の取組を進めてきたところであり,平成2年には刑事告発の方針を公表し,平成17年の独占禁止法の改正では,課徴金の算定率引上げや課徴金減免制度の導入,犯則調査手続の導入,犯則調査部門の設置等,執行体制の強化が行われ,平成21年には,課徴金の適用対象の拡大等の法改正が行われた。
このような歴史的経緯を振り返り,現在における競争政策の課題を考えると,一つには経済のグローバル化への対応というものがある。
経済活動はグローバル化しており,企業が国境を越えて活動する状況にあるため,反競争法的な行為に対する規範についても国際調和を図っていく必要があるし,執行面においても各当局との間で協調・協力関係が必要となる。
国際協力については,OECDやICNの会合のほか,東アジア競争政策トップレベル会合といった多国間協力の場での意見交換を通じて協力関係を深めている。また,二国間協力では,独占禁止協力協定やMOUを締結し,当局間の情報交換,執行協力等を進めている。現在では,秘密情報の交換を含めた「第二世代協定」をオーストラリア及びカナダとの間で締結しており,EUとの間でも締結に向けた交渉の準備を進めているところである。
二つ目の課題としては,経済のデジタル化への対応である。例えば,プラットフォームビジネスでは,ネットワーク効果によって独占的,寡占的な地位を有するプラットフォーム企業が誕生する傾向にあることから,これに対する競争政策の対応を積極的に進めなければならないと考えている。
先般,「データと競争政策に関する検討会」において,データに関連する市場の問題に対する競争政策上の対応について報告書をまとめていただいた。この報告書の内容を念頭に置きながら、今後の競争政策等を推進していく必要があると考えている。また,IT・デジタル関連分野においては,昨年,情報提供窓口を設け,情報収集を行っており,これを活用しながら企業の活動をモニターしていく。
課題の三つ目としては,法執行をより実効的・効率的なものとするための制度の改正である。先般,複雑化・多様化する経済実態に適切に対応できるよう課徴金制度を改善することについて提言する独占禁止法研究会の報告書が提出された。今後,この報告書を踏まえ,関係方面の意見も参考にしつつ,独占禁止法の改正に向けた検討を進めていきたい。また,独占禁止法違反の疑いについて,公正取引委員会と事業者の間の合意により解決する仕組みが,環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部として措置されているが,こうした手続も非常に有効であることから、これを積極的に活用していく必要があると考えている。
既存の需要が飽和していく中で,経済を引っ張っていくためには,イノベーションが必要である。そして,イノベーションは,競争環境が整備・確保されて初めて進んでいくものであると考えている。つまり,反競争的なバリアを崩して競争環境を整備することによってイノベーションのインセンティブを与え,企業がイノベーションの努力を行っていくということが経済の発展にとって一番重要である。
イノベーションが潜在的な需要を引き起こすことによって経済を引っ張っていくことこそが正に成長戦略であり,その成長戦略の基盤をなすものが競争政策である。イノベーションを促進するように競争環境を整備していくことが,私どものミッションであると考えている。
競争政策や市場メカニズムは,現在問題となっている所得格差を煽るものではないかという指摘があるが,私はそうではないと考えている。アメリカでは,今,0.1%の人が1割の所得を獲得しているというようなことが問題となっているが,その背景には,独占・寡占の利益(レント)が発生し,それが富裕層に向けて配分されているのではないかと考えている。競争が促進されれば,新規参入者が入り,そのレントを奪うことになる。また,競争を通じてイノベーションが起こると労働生産性が上がり,これが労働者に対して還元されることで賃金上昇にもつながる。
所得格差の是正には社会保障などの所得再分配政策も必要であるが,所得再分配の原資となるようなパイの拡大というものも競争を通じて確保されるものと考えている。
独占禁止法施行70年という節目を迎え,独占禁止法のこれまでの執行を振り返り,今現在の競争政策の課題などを念頭におきながら,これからの競争政策を遂行していきたいと考えている。
(2)質疑応答
(問) 先週公表された「人材と競争政策に関する検討会」を立ち上げた問題意識として,先ほどの話で触れられた格差拡大を是正する一助にしたいというような狙いがあるように思うが,このタイミングでこのテーマを取り上げた理由は何か。また,他の国では,こうした労働市場と競争関係についてはどのような研究や執行が行われているか。
(答) 経済のデジタル化が進む中で働き方も非常に多様化している。クラウドソーシングというようなことでインターネット上で企業と人材とをマッチングし,それによりフリーランスや副業というような就労形態で働くという人が増えている。このような就労形態に類似したものとしてプロスポーツ界におけるスポーツ選手などがあったが,このようなスポーツ選手と球団との関係等について,労働法の適用を受ける分野なのか,それとも独占禁止法の適用を受ける分野なのかはグレーであった。
今後,このような働き方が増えることにより,そういうグレーエリアは,労働法が適用されるのか,それとも独占禁止法が適用されて,優越的地位の濫用や拘束的な契約等により,自由な事業活動が制限されているという観点から取り組むことが適当なのかを考えていかなければならないという状況にある。
諸外国においては,アメリカではIT人材の需給が逼迫していることもあってか,一部の企業間で行われた労働者の引き抜き防止協定に対して競争法に基づく措置が採られている。アメリカやヨーロッパでは,リーグが行っていたスポーツ選手の移籍制限が競争法に違反するというような判例も存在している。
そのような状況を踏まえ,まずは実態を把握し,その上で独占禁止法を適用すべき領域なのかどうかということを議論していただくために検討会を設置したところである。
また,これは格差是正に直接つながるものではないが,人材を巡る競争が確保されていることは,人材の能力が正当に評価され,正当な報酬が付与されることに寄与するとも考えられる。能力を持った人材を育成していくことで,国際競争力の強化にもつながるのではないかと考えている。
(問) ふくおかフィナンシャルグループの統合の件についてだが,昔とは異なり,金融にも多様な手法が出てきている中で,市場を県単位で考えることが適切なのかといったことをいう有識者もいると聞く。グローバル化する中で,今後の対応課題としてそういったものは考慮していくべき課題になるか。
(答) 審査中の個別案件についてはコメントを差し控えさせていただくが,一般論として申し上げれば,競争政策はグローバル化しており,国際的に確立された標準,基準がある。カルテルや談合だけでなく,企業結合規制についても同じである。
私どもは,世界的に確立された基準に従って,その企業結合案件が競争を制限するものであるのかどうかによって,クリアランスを出すかどうかを判断している。県内で見るかグローバルに活動しているからそういう市場で考えるべきかについても,客観的に,その市場がどのようになっているのかということによって画定していくことになる。
企業が切磋琢磨して消費者にふさわしいサービスを,ふさわしい価格で供給していくためには消費者(需要者)の選択の余地がある必要がある。消費者の選択の余地を狭めるようなもの,消費者の利害を害するような企業結合事案にクリアランスを出すわけにはいかないというのが基本的な考え方である。
このように,公正取引委員会に自由な裁量の余地があるわけではなく,国際的に確立された企業結合規制に照らして考えていくものであり,金融機関だから例外というわけにはならず,競争政策の規律,客観的な判断基準に沿って対応する必要がある。
(問) このまま競争しているとお互い消耗戦となり破綻してしまうから,それであれば一つになって打って出ようというような考え方もあろうかと思うが,それについてはどのようにお考えか。
(答) マーケットが小さくなってきたというような傾向のところはあろうかと思うが,それに対する企業の対処としては,先ほど申し上げたように,イノベーション努力をして,今までにない需要をつくり出し,それに対応していくべきである。縮小している市場の中でお互い消耗戦でどうしようもないから合併等をして,独占や寡占の利益で生き延びようとするのは正しい戦略ではないと思う。それは市場の中の競争をなくし,消費者の利益を奪うことにより企業が生き延びようとするものである。そういう戦略は,少し延命するだけで,結局,企業が生き残っていくための戦略にはならないと考えている。
以上
[配布資料]