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平成29年 年頭所感(平成29年1月)

平成29年 年頭所感(平成29年1月)

1.新年明けましておめでとうございます。
 公正取引委員会は,企業による自由な活動と創意工夫を通じた活力のある社会を実現するために,競争政策を強力に推進していく役割を担っています。特に日本の総人口が減少し続ける社会にあっては,ダイナミックな競争によりイノベーションを促進させることで,持続可能性のある経済成長を促すことが肝要です。経済成長を促すという面からの競争政策の意義も踏まえつつ,本年も「公正かつ自由な競争」を確保するという競争当局としての責務をしっかりと果たしていく所存です。

2.現在の日本経済を取り巻く環境に着目しますと,IoT(Internet of Things),AI(人工知能),ビッグデータの活用といった,いわゆる第4次産業革命が広がりを見せつつあり,デジタルエコノミーの分野が日々拡大している中で,プラットフォーム型のビジネスなど,新たなビジネスモデルが次々と現出しています。これらの分野においては,特定の企業が一定の情報を独占することが支配的な地位につながり,企業の行動が公正な競争を阻害することもあり得ると考えられることから,企業行動をモニターしていくことも必要であると考えます。こうした事情を背景とし,公正取引委員会は,昨年IT・デジタル関連分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報提供窓口を審査局に設置しました。
 さらに,規制分野において市場メカニズムをより効果的に働かせることが重要であるとの観点から,昨年,農業及び電力取引の分野に係る情報提供窓口を審査局に設置しました。カルテルや談合といった従来型の典型的な違反行為への対処にとどまらず,これらの分野における反競争的な単独行為等の取締りにも積極的に取り組み,競争的な市場環境の維持・促進を図っていきたいと考えています。
 また,公正取引委員会の排除措置命令等について,審判制度が廃止され,現在は東京地方裁判所に直接抗告訴訟が提起されるという新制度が本格的に運用されております。こうした中で,一昨年12月に策定された審査手続に関する指針に基づき適正手続に沿った審査活動を確保しつつ,引き続き厳正な法執行に尽力していく必要があると考えています。

3.公正取引委員会では,事件処理と併せて,「公正かつ自由な競争」が行われる環境を整備する観点から,昨年は介護分野や携帯電話分野に対する実態調査を実施しました。今後とも,イノベーションの進展スピードが速い分野や成長が期待されている分野等における実態調査を行い,規制の在り方や取引慣行等について競争政策上の考え方を提言していきたいと考えています。
 競争環境を整備するため,ガイドラインの策定,改定及び周知活動を行うことも公正取引委員会に求められる役割です。「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(流通・取引ガイドライン)に関しては,昨年12月に取りまとめられた「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会報告書」の提言や関係各方面の意見等も踏まえて,ガイドライン見直しの具体的な内容について検討を進めています。時代とともに変化する経済実態を見据えて,独占禁止法上の判断プロセスの更なる明確化を図り,企業の予見可能性と違反行為の未然防止のため,各種ガイドラインの策定及び見直しを行い,その周知に努めていくことが必要であると考えております。

4.中小事業者の経営力強化や生産性向上は日本経済の更なる成長の原動力となりますが,公正取引委員会は,昨年においても,下請法の迅速かつ効果的な運用を行うほか,中小事業者の取引条件の改善を図るため,下請法の運用基準における違反行為事例を大幅に充実させるとともに,下請代金の支払を原則現金とすること等を内容とする要請を中小企業庁との連名で行うなど,下請取引の適正化に努めてまいりました。また,消費税の転嫁拒否行為等への対処など,消費税の適正転嫁への取組にも注力してきたところです。
 本年もこうした取組を積極的に推進し,中小事業者に不当に不利益を与える取引に対して厳正に対処する所存です。

5.企業活動がグローバル化する社会において,国際カルテルの摘発や国際的なM&A事案の審査の必要性が高まっており,各国の競争当局との協力体制を構築することがますます重要となっています。公正取引委員会では,二国間対話やICN,OECD,UNCTAD等の多国間枠組みを通じて,諸外国の競争当局と情報を共有する体制を構築・維持することに日々努めています。また,競争法を導入又はその運用を強化しようとする発展途上国の競争当局等に対して知識習得のための研修を行ったり職員を現地に派遣するなどして,発展途上国における競争法の導入又は運用強化に資するよう支援活動を行っています。今後とも,各国競争当局との情報交換や技術支援等を通じて協力体制を築いていきます。

6.今後の競争政策上の課題としては,独占禁止法の制度の見直しがあります。これに関連した大きな動きとして,昨年の臨時国会で環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が承認され,同整備法が成立しました。TPP協定整備法にはいわゆる確約手続を導入するための独占禁止法の改正も含まれています。この確約手続は事案の迅速な処理を可能とし,「公正かつ自由な競争」の早期回復に資するものであり,独占禁止法の執行において有効なツールであると考えております。
 また,現在,経済活動や企業形態のグローバル化・多様化・複雑化を踏まえ,独占禁止法研究会を開催し,課徴金制度の在り方等について検討を行っています。今後は,独占禁止法研究会における取りまとめを受けて,具体的な制度設計の検討を進めていくことになると考えています。

7.公正取引委員会は,本年も自由で公正な競争を確保するという競争当局としての責務をしっかりと果たしていきたいと考えています。最後になりましたが,皆様の御指導・御鞭撻をお願い申し上げるとともに,皆様の御健勝と御発展を祈念いたしまして,私の新年のあいさつとさせていただきます。

公正取引委員会委員長 杉本 和行

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