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平成30年 年頭所感(平成30年1月)

平成30年 年頭所感(平成30年1月)

1.新年明けましておめでとうございます。
 公正取引委員会は,昨年7月に創立70周年を迎えました。それと同時に,公正取引委員会が運用する独占禁止法も,施行から70年が経ちました。

 この70年の間,戦後の経済復興,高度経済成長,そしてバブル経済の形成・崩壊,人口構造の少子高齢化と,企業活動をとりまく経済環境は大きく変化してきており,独占禁止法は,これらの時々の経済情勢を踏まえて運用されてきました。公正取引委員会は,この70年の歴史と経験を生かしつつ,今後ますます急速に変化していく経済環境に的確に対応し,イノベーションや消費者利益,経済成長につながる競争政策を更に推進していくことが必要であると考えます。
 
2.現在の競争当局にとっての課題の一つは,デジタルエコノミーの急速な進展によってプラットフォームビジネスが発達する中で,公正かつ自由な競争を確保するための施策を実行することです。

 現在,事業活動におけるデータ収集及びその利活用の重要性が増してきております。データの問題に関する競争政策上の考え方について,昨年6月,「データと競争政策に関する検討会」報告書が公表されました。報告書では,大量のデータが一部の事業者に集中しつつあること,その結果,競争が制限され,消費者の利益が損なわれるおそれがある場合には独占禁止法による迅速な対応が必要であること等の指摘もされています。また,SNSなどの無料サービスも「市場」として独占禁止法の検討対象とし得ることなどの考え方も示されています。今後は,報告書において指摘のあった内容を念頭におきながら,データ分野に関する競争政策の推進,法執行を行っていく必要があると考えています。
 
3.もう一つの課題は,経済活動のグローバル化によって,サプライチェーンのグローバル化が進み,さらには国際的な企業結合事案も増加している中にあって,競争政策の世界的な収れんを図るとともに,競争法の執行に当たって海外当局との協力を推進することです。

 公正取引委員会では,独占禁止協力協定,経済連携協定等の二国間の枠組みや,OECD,ICN等の多国間枠組みを通じて,諸外国の競争当局と情報を共有する体制を構築しています。また,国際的な企業結合事案の審査においては,海外当局と連携して審査を行っています。公正取引委員会は,地方銀行の統合事案などの国内の企業結合事案も含め,全ての企業結合事案を国際的に確立した手法に基づいて審査しております。さらに,企業結合審査に関して,海外当局との協力・連携を強化するとともに,各国競争当局が共通して直面する課題に対する問題意識を共有し議論を行うこと等を目的として,本年11月,東京においてICN企業結合ワークショップを開催することとしております。

 昨年6月には,日本の需要者を販売先とする液化天然ガス(LNG)の取引実態について調査を行い,[1]仕向地制限,[2]利益分配条項及び[3]Take or Pay条項の3点について,競争政策上の考え方を公表しております。こうした契約の相手方は国外の政府関係機関も多いのですが、今後、契約が改定される際などに、この報告書を手掛かりとして、仕向地制限等の見直しが実現できればと考えているところです。

 そのほかに,競争法を導入又はその運用を強化しようとする発展途上国の競争当局等に対して知識習得のための研修を行ったり職員を現地に派遣するなどして,発展途上国における競争法の導入又は運用強化に資するよう支援活動を行っています。今後とも,各国競争当局との情報交換や技術支援等を通じて協力体制を築いていきます。
 
4.また,昨年8月には,「人材と競争政策に関する検討会」を開催し,使用者の人材獲得競争等に関する独占禁止法の適用の必要性,妥当性を理論的に整理する旨公表しております。一部では,芸能界・スポーツ界だけをターゲットにしているかのような報道がなされることもありましたが,実際はそれだけではありません。こちらについても,先ほど述べたように経済のデジタル化の進展の中で,インターネット上で企業と人材のマッチングが容易になったことや企業における終身雇用の変化などを背景として,就労形態が多様化し,雇用契約以外の契約形態が増加するなどの就労形態を巡る環境変化を踏まえ,それらの市場について独占禁止法をどのように適用していくのかという考え方を整理していこうという試みです。
 
5.公正取引委員会は,新たな課題以外についても,様々な課題に取り組んできております。まずは,独占禁止法の厳正なる執行です。反競争的行為に対応することにより,自由で公正な競争環境が確保されているということを世の中に示すことは最も重要な仕事の一つであります。独占禁止法違反の事案を適切かつ厳正に処理し,公正かつ自由な競争環境の確保を世の中に示すことです。
 また,中小企業に不当に不利益を与える行為への対応も重要な取組の一つであると考えております。中小事業者の経営力強化や生産性向上は日本経済の更なる成長の原動力となります。政府全体としても中小企業対策は重要な政策の一つとなっており,公正取引委員会は,「中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」に参画しているところ,その議論も踏まえつつ,中小企業等の取引条件の改善等に向け,引き続き下請法の積極的な運用に取り組んでまいりたいと考えております。消費税の転嫁拒否行為等への対処など,消費税の適正転嫁への取組にも引き続き注力してまいります。
 
6.公正取引委員会は,本年も「公正かつ自由な競争」を確保するという競争当局としての責務をしっかりと果たしていきたいと考えています。最後になりましたが,皆様の御指導・御鞭撻をお願い申し上げるとともに,皆様の御健勝と御発展を祈念いたしまして,私の新年の挨拶とさせていただきます。

公正取引委員会委員長 杉本 和行

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