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令和3年 委員長と記者との懇談会概要(令和3年3月)

令和3年 委員長と記者との懇談会概要(令和3年3月)

 [配布資料]

1 日時

令和3年3月25日(木) 13:30~14:30

2 概要

(1) 委員長からの説明

 今日は,この半年間の公正取引委員会の競争政策を巡る取組の進展状況とあわせて,私の感想めいたことを加えながら話をさせていただきたいと思います。
 公正取引委員会の仕事というのは,御承知のとおり,①独占禁止法等の違反事件審査と企業結合規制といったエンフォースメントという仕事と,②競争環境の整備,アドボカシーという仕事の,言わば両輪,二本立てです。このうち,エンフォースメントに関しましては,個別事案の発表等でお伝えをしていますので,今日はアドボカシーの活動を中心にお話ししたいと思います。
 公正取引委員会は,杉本前委員長の下で,経済のデジタル化や働き方の多様化などの新しい経済の動きに積極的に関わって,競争政策の守備範囲を広げてきているわけですが,私もそれをそのまま引き継いで,より強化していきたいとの考え方を就任時に申し上げました。
 先頃,40年以上固定されていた銀行間手数料の引下げが発表されました。これは昨年4月に公正取引委員会がフィンテックに関する実態調査報告書で問題提起したことがきっかけになって実現したものであります。今後は各銀行が振込手数料の見直しを行っていただいて,利用者利便の向上につながることを期待しております。これまでも携帯電話,スポーツ選手等の人材分野でも競争環境の改善が図られてきておりますけれども,こうしたことが公正取引委員会の言わばアドボカシー活動の効果として期待をされているものと考えております。
 まずデジタルの分野についてお話をさせていただきます。デジタル分野では,一昨年の秋にオンラインモールとアプリストアを対象としたデジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査結果を発表しましたが,これを踏まえまして,今年2月から「特定デジタルプラットフォーム取引透明化法」が施行されています。
 この法律は,事業者と政府の間で「共同規制」をするという考え方で,事業者に情報開示や苦情処理・紛争解決などの体制の整備を義務付けて,その運用状況を経済産業大臣に報告する義務を課した上で,独占禁止法違反のおそれがある事案を把握した場合には,経済産業大臣から公正取引委員会に措置請求が来るという仕組みになっております。私は,この透明化法に基づく「共同規制」のモニタリングというのは,事後的な競争回復措置を中心とする独占禁止法のエンフォースメントを補完するものだと評価しており,デジタル・プラットフォーム事業者の反競争的な行為の未然防止に役立つだろうと期待しております。
 さらに,今年2月には,デジタル広告分野の取引実態に関する最終調査報告書を公表しましたが,そこでは非常に複雑なデジタル広告取引の実態を可能な限り分かりやすく整理するとともに,デジタル広告分野の取引について,事業者間取引,ユーザーとの関係で独占禁止法上どういう問題があるのかといった考え方をかなり詳しく示しております。また,競争法という立場からは少し異例かもしれませんが,消費者に正確で有用な質の高いコンテンツを提供するメディアが正当に評価されて,公正な競争を通してメディアの提供するニュース等のコンテンツの質が確保されることが重要であるという考え方も,かなり頁を割いて示したところであります。
 このデジタル広告取引の分野に関して,そのルール整備をこれからどうするかは,透明化法の規制対象に追加することも含めて,今,内閣官房のデジタル市場競争本部事務局を中心に検討が進んでいますので,公正取引委員会としてもその作業に積極的に参画していきたいと考えています。
 こうしたデジタル分野というのは,ビッグデータの収集・集積,それをAIによって解析・利活用する,言わば収益化していくということが競争力の重要な要素となっております。その結果,ビッグテックと呼ばれるプラットフォーマーが市場支配力を強めて寡占状況を作っているという基本的な構造があります。こうした構造が競争環境にどういう影響を与えて,競争当局としてどのような対応ができるのかという強い問題意識を私も持ちながら,昨年から2つの検討会,1つは「データ市場に係る競争政策に関する検討会」,もう1つは「デジタル市場における競争政策に関する研究会」を開催し,データ利活用の問題や,データを利用した事業において,どうやって競争を活性化していくかということを中心に議論してもらっています。「デジタル市場における競争政策に関する研究会」では,今,AI/アルゴリズムをテーマに議論してもらっており,近く研究会の報告が取りまとめられて,皆さんに説明することになると思います。AI/アルゴリズムと競争との関係についてかなり整理してもらっていますので,ぜひ期待をしていただけるとありがたいと思っております。
 データやデジタル市場の課題というのは,私は競争法・競争政策だけでなく,個人情報保護や知的財産,消費者保護といった関連する政策分野とも連携をして,これから取り組んでいくべき非常に多面的な課題であろうと考えておりますし,同様の問題意識で様々な対応や検討を行っております海外の競争当局の動向も注視しながら進めていくべき課題だと認識しております。
 コロナ禍の中,ウェブ会議という形で,私は,今年2月にEUのヴェステアー上級副委員長,3月上旬にオーストラリアのシムズ委員長と初顔合わせをし,いろいろな意見交換をさせていただいて大変有意義だったと考えております。
 次に携帯電話の話を少しさせていただきます。これも御承知のとおり,平成30年に実態調査を行い,それが電気通信事業法の改正につながったわけですが,このフォローアップ調査を現在実施しております。現在,事業者ヒアリング,消費者アンケートを行うとともに,有識者も含めた意見交換会を開催しております。来週30日にも2回目の意見交換会が予定されておりますが,MNOとMVNO等との間での競争政策上の課題等について改めて整理をして,提言すべきことがあれば提言していきたいと思っております。また,中古端末の流通実態等についても総務省と連携をして調査をしており,5月を目途に実態調査報告書を取りまとめることができればと考えております。
 それから,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」案と「スタートアップとの事業連携に関する指針」案を,それぞれ昨年末からパブリックコメントに付して,近く取りまとめて公表する予定となっております。この2つのガイドライン,指針ともに関係省庁と連名となっており,公正取引委員会の競争政策,アドボカシー活動が関係省庁の政策と連携・協働して展開していくパターンがだんだん増えてきております。今後とも関係省庁とともに,こうした政策展開をしていくことが,私としては大変望ましいとの認識を持っております。
 最後に,政府の成長戦略会議の方で競争政策についても議論していただいておりまして,その検討状況について簡単に御紹介をしたいと思っております。昨年12月の成長戦略会議の実行計画の中間とりまとめの中で,競争政策の強化や独占禁止法の執行強化を検討する必要があるといった視点で,競争政策の在り方を重要課題として取り組むとされ,そのためのワーキンググループ,検討の場が設けられております。私も,2月17日の成長戦略会議に出席をしました。会議では,アドボカシーの活動を含めて公正取引委員会の果たす役割の重要性に焦点を当てていただき,そのためには外部人材の活用など体制の充実・強化が必要だという指摘をいただきました。平成12年から平成20年くらいの間に定員の増強をしていただいたタイミングがありましたが,またここに来て,公正取引委員会の役割の充実のような議論を成長戦略会議でしていただいているというのは大変ありがたいと思っております。私からも公正取引委員会がエンフォースメントを含め,新しい経済の動向に対応するためには,専門人材の活用や職員の能力向上などの体制の拡充が必要であると発言をさせていただきました。今後,夏の「骨太の方針」の取りまとめに向けて具体的な議論が進むと思いますので,公正取引委員会としましても,体制の強化等につきまして,具体的な検討を並行して進めていきたいと考えているところであります。

(2) 質疑応答

(問) エンフォースメントも含めて新しい経済の動向に取り組むためには,職員の能力向上などの体制の拡充が必要とのことですが,これはつまり,デジタルプラットフォーム市場について,これまで実態調査等でいろいろ取り組んできた一方,審査局としても,違反事件に切り込むための人員を確保する,若しくは人員を強化する,そういうような狙いがあるでしょうか。
(答) デジタル分野の反競争的な行為に対する執行は,非常に専門的な知識を要するので,そういった分野の人材の強化と,それから外部の専門家との連携も含めて体制の充実が図られるように,これから事務総局とも具体的な案を考えていきたいと思っています。

(問) デジタル広告についての報告書が先月発表されましたが,その中で,メディアのコンテンツの競争に注目をされていますけれども,この背景意図について詳しく御説明いただけますか。
(答) 質の高いコンテンツを提供するメディアが正当に評価される環境というのは,大変重要だと思っております。デジタル・プラットフォーマーを通じて,いろんなニュースが流れるような時代になってきていますが,この辺の問題については,今,オーストラリア,ヨーロッパ,アメリカで様々な動きがあります。競争当局として,国民にきちんとした情報が提供されるメディアが細っては困りますので,その辺の問題意識は強く出したいという思いもありまして,現状を調べてもらって,発信させていただいたということであります。

(問) 先ほどお話にも出てきましたEUのヴェステアー上級副委員長と,あとオーストラリアACCCのシムズ委員長とお話しされているかと思いますが,2当局とも,とても積極的な執行をしている当局かと思いますが,一部で結構ですので,どんなことを学べるという印象を持たれたのか教えてください。
(答) ヴェステアー上級副委員長やシムズ委員長との初会談,大変有意義でした。その中身は細かく御紹介することはできませんけれども,ヴェステアー上級副委員長から,ちょうど昨年暮れにデジタルサービス法とデジタルマーケット法という非常に包括的なデジタル・プラットフォーム対策を発表された後でもありましたので,その意図などを直接うかがうことができました。私どもからは,ちょうど2月から透明化法が施行されたところで,日本は共同規制で始めていますというような説明をさせていただきました。これまでEU当局はビッグテックに対する積極的な法執行をされてきた中から得られた経験や教訓に基づいて,デジタルマーケット法という事前規制の仕組みを打ち出しておられると思いますので,日本がそのとおりに真似できるかという問題はあると思いますけれども,EUの意欲的な動きについては,非常に私は関心を持って見守らせていただきたいと,そして,私どもは共同規制で,この日本のITのマーケットに対応しようとしていますという説明をいたしました。今後とも注目していきたいと思います。

(問) 携帯電話市場については,この半年,総務省も含めて業界の方も変化がありましたけれども,今現在,古谷委員長として,問題意識をどのように持っているか,改めて伺えますか。
(答) 携帯電話料金引下げについては主務官庁たる総務省も相当汗をかいてきておられると思いますが,私どもは競争環境を整備するという立場でありますので,その動きを見守りながら実態を今フォローアップしているところであります。MNOとMVNOの競争条件がどういうふうに変化していくのか,接続料の引下げの前倒しみたいな議論も始まっているようでありますので,その競争条件がMVNOにとって特に悪化しないようぜひお願いしたいと思いますし,携帯電話本体と通信が分離されましたので,携帯電話本体というハード自体のマーケットもこれから大事だと思いますので,中古端末の流通実態等についても,前回以上に関心を持って調査をしてみたいと思っています。

(問) 委員長のお話にもありましたアドボガシーの件,なぜ今の社会から,アトボガシー機能の強化が公正取引委員会に求められているのかというところの認識を伺えればと思います。
(答) 私は公正取引委員会に来るまでは,こんなに公正取引委員会が競争政策の観点からアドボガシー活動を積極的にやっているというのは,寡聞にして知らなかったです。私ももう役人生活40年やっていますが,我々が役所にいた頃,事業官庁と公正取引委員会というのは,ある意味で対立関係にあるのかなと私は思い込んでいました。そういう意味で,産業政策と競争政策というのはトレードオフのような意識で見ていたんですけれども,規制緩和の議論が進む中で,競争政策というのが各省庁の政策にかなり浸透してきているというのは実感としてありまして,各省がいろんな政策を見直したり,政策を考える時に,競争政策的な観点というものがベースになる時代になっているので,やはり,この公正取引委員会のアドボガシー機能というのも,非常に期待されている部分が大きいのではないかという印象を持っています。したがって,ここは我々の大きな仕事の1つとして,ちゃんとやっていこうという気持ちでおります。

(問) 審査の行政処分について,委員長が御就任される直前に,アマゾンジャパンに対する確約計画の認定がありまして,その後もコンタクトレンズの事業者や,BMWジャパンに関して確約計画の認定がありました。確約という形で決着することが増えている点と,その公表方法等について,現時点での評価と今後の方針みたいなのは何かありますでしょうか。
(答) 公正取引委員会の仕事は,競争状態をできるだけ早く回復をすることだと思っています。非常に動きの速いデジタル関係の事案については,確約を多用するということはあり得ると思います。時々誤解があるのですけれども,確約手続だったので処分しませんでしたというような,これで済ませましたみたいな報道をされるのですけれども,確約計画の認定も,行政処分の1つでありますので,私どもとしては,確約計画の認定という形で処理をしたと認識しています。要するに,競争を回復するという点では,排除措置命令と趣旨は同じだということで,御理解をいただいて報道していただけるとありがたいですが,何か中途でやめたみたいな報道になるのは,やや我々としても本意ではないということであります。

(問) 昨年後半以降,委員長に就任された後だったと思いますけれども,司法省がグーグルを提訴したり,フェイスブックの提訴の動きなどありますし,欧州委員会もアプリストアに関して調査開始の発表をしています。GAFAを代表とするデジタル・プラットフォームに対する日本のエンフォースメント面での取組状況と今後の方針等について,何かございましたらよろしくお願いします。
(答) EUやアメリカが提訴している案件というのは,競争者を排除するとか,利用者を搾取するとかそういう形だと思います。まずは施行が始まった透明化法でモニタリングをしながら,私どものエンフォースメントをしっかりやっていくということだと思います。ただ,EUやアメリカの提訴に続いて先ほどお話ししたようなEUの政策的な対応もありますし,アメリカはアメリカで,また政権が代わって,かなり競争法を巡る議論の状況も変わってくる可能性がありますので,そういう意味で非常に海外の競争当局を巡る動きも速いです。海外の動きをよく見ながら事務総局と一緒にやっていきたいと思っています。ただ,やはり大事なことは,現状の競争法の仕組みの中で,私どもがきちんとエンフォースメントをやれる体制を整えるということが大事なんだと思います。

(問) 競争政策の必要性が増しているというのは正にそのとおりだと思うのですが,一方で日本経済もデフレ的な状況が続いて,企業が過度に競争をしているがために,日本経済の競争力が損なわれているというような議論もあって,現に地銀やバスの統合については独占禁止法の例外とするような,そういう仕組みもできてきているわけなのですけれど,的確な競争環境を維持するという面と,過度の競争を防ぐという面,両方バランスをとりながらやっていかなければいけないだろうと思うのですけれど,そのあたりについて御見解を少しお伺いしたく思います。
(答) 正に地域経済の基盤サービスである地銀と乗合バスについては,独占禁止法の適用除外とする立法ができているわけであります。それはそれとして,過度かどうかというのは評価が難しいですけれども,やはり私どもの仕事は公正な競争を守るということがポイントだと思います。その意味では,景気の動向云々とか,経済の動向云々はそんなに大きく影響するものではないと思います。

(問) 地銀・乗合バスに関する独占禁止法の特例法の件ですが,今月に入って熊本のバスの共同経営について国交省と協議の上認可されました。やはりコロナで非常に大きな影響を受けていて,熊本のみならず他の地方でも共同経営を模索する動きがありますが,公正取引委員会として,今後そういった状況をどのように考えていくか,お聞かせください。
(答) 利用者にとって利便性が下がるような対応でなければ,地域経済の基盤的なサービスでありますので,共同経営については認可をしていくという方向で国交省もやっておられるのだと思います。私どもに協議は来ると思いますが,基本的にはそういう方向で対応するということだと思います。

(問) 先ほども出た確約手続について,もちろん確約という行政処分であり,一方で排除措置命令以上の弊害が是正される効果もあるとか,速く審査が進むということは,もちろん理解してはいるのですけれども,独占禁止法改正で昨年導入された調査協力減算制度など,これまでの対立志向から,事業者との協力志向という傾向が強まっているように感じます。先ほどの記者の質問に対して,委員長が「きちんとエンフォースメントをやれる体制を整えるということが大事」とおっしゃっていて,そこは正にこの夏頃までにまとめる人員の増強だと思うのですけれども,これはつまり,新しい武器というものを得ていく一方で,GAFAを含めたデジタル・プラットフォーマーに関して,将来全面対決しても勝てるぐらいの強い人材を獲得する,そういう意図のように私は委員長の言葉から感じたのですけれども,その辺の思いとかを教えてください。
(答) これまで談合とかカルテルとか,いわばザ・反競争的行為に対する蓄積は公正取引委員会に十分あると思うのですけれども,デジタル・プラットフォームは競争に勝ち抜いて,今正に寡占状態にあるわけです。競争促進的な部分と,競争阻害的な部分があり,どういうふうに立証していくかというかなり高度で専門的な技術を,私ども競争当局として求められており,海外の競争当局も同じような状況です。その部分の強化をどうやっていくかということは,当面,非常に大きな問題だと思います。よく事務総局と議論をして,具体的な対応を考えていきたいと思っております。更に政府の成長戦略会議の方でそういう観点も含めて議論していただいているのだろうと期待しています。

(問) 現状の公正取引委員会の経済分析能力や体制について,今も経済分析チームがあるとは思うのですけれども,これをどのように見ていらっしゃって,今後どうしていく必要があるのか,何かお考えなどがあればお願いします。
(答) 経済分析チームがあって,海外留学をしてエコノミストの博士号なり修士号をとってきた諸君などが経済分析を行っております。企業結合審査等の場合に,経済分析も加味してやるということは大分できてきていると思いますが,まだまだ海外の競争当局と比べて十分でない部分もありますので,そういった点も含めて強化をしていく必要があると思います。

以上

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