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令和5年 委員長と記者との懇談会概要(令和5年3月)

令和5年 委員長と記者との懇談会概要(令和5年3月)

1 日時

令和5年3月9日(木) 13:00~13:51

2 概要

(1) 委員長からの説明

 本日は御参集いただきありがとうございます。この度、3月6日付けで公正取引委員会委員長に再任され、引き続き職務に当たることになりました。冒頭に少しお話をさせていただきます。
 公正かつ自由な競争を確保するという公正取引委員会の役割は、我が国経済の成長、発展と社会の活力を維持する上で極めて重要な基盤を確保するものです。イノベーションを促進し、日本経済の持続可能な成長につなげるとともに、市場を通じた適切な分配を実現するために、様々な分野における公正かつ自由な取引環境の確保に寄与できるよう、これからも任務を着実に果たしていきたいと考えています。キャッチフレーズ的に申し上げれば、これまでも繰り返し申し上げてきた「競争なくして成長なし」に加えて、「競争政策で成長と分配の好循環を支える」ということになるかなと思っています。そうした基本的な考え方の下で、委員長としての役目を務めていきたいと考えていますので、記者の皆様には引き続き御理解と御支援をよろしくお願いします。
 重点的に取り組みたい事柄を五つ申し上げます。
 第一に、まず何より、独占禁止法等の厳正・機動的な法執行です。
 独占禁止法違反行為については、国民生活に影響の大きい分野や規制緩和により自由化が進む分野などを中心に、価格カルテル等の不当な取引制限に厳正に対処していくことが基本です。審査中の個別事案に言及することは差し控えますが、御承知のとおり、先日には、東京五輪・パラリンピックにおける競技のテスト大会に関する入札談合事件について、犯則調査の結果、検事総長に法人6社、個人7名を告発しました。引き続き、国民生活に影響の大きい分野等における独占禁止法違反行為に厳正に対処していきたいと思います。
 また、昨年6月の記者懇談会でも申し上げましたが、特に変化の速いデジタル市場における事案については、何よりも競争の迅速な回復が重要です。事業者側との緊密なコミュニケーションを行った上で、確約手続等も含めた法令上の各般の権限・手段の積極的な活用、情報収集・分析体制の強化等を通じて、個々の事案に即して機動的な法執行を行っていきたいと考えています。
 第二に、公正な取引環境の確保です。
 中小企業に不当な不利益を与える優越的地位の濫用、不当廉売などの不公正な取引方法、下請法違反行為などに厳正に対処するとともに、違反行為を未然に防止していくための施策を実施していくことが重要だと考えています。
 公正取引委員会は、一昨年末に政府全体で取りまとめた「価格転嫁円滑化のための施策パッケージ」に基づき、中小企業庁や事業所管省庁と連携して、中小企業や下請事業者の皆様が、原材料価格、労務費、エネルギーコストなどの上昇分を適切に価格転嫁し、適正な利益を得て、賃上げの原資を確保できるよう、取引環境の整備に取り組んできています。昨年来、緊急調査の実施や事業者団体への自主点検の要請など、従来にない規模の取組を進めてきており、昨年末に緊急調査の結果を取りまとめたところですが、発注企業4,030社に対して注意喚起文書を送付するとともに、多数の取引先との間で転嫁に関する協議をすることなく価格を据え置いていることが確認された13社の企業名を公表しました。
 そして、この公正取引委員会の調査結果の公表の後、年明けには、経済3団体が、発注者側として、受注者側のコスト上昇分について積極的に価格協議に応じるとともに、取引価格へ円滑に反映していくことを傘下の企業に要請されるといった動きも出てきました。
 加えまして、先週、「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を公表しました。公正取引委員会としましては、今後も、発注者側からの積極的な価格転嫁に向けた協議が重要であることなどを改めて周知徹底するとともに、価格転嫁円滑化に向けた調査を継続的に実施していきたいと思っています。また、独占禁止法や下請法に違反する事案については、厳正に対処していきたいと考えています。
 また、令和5年10月にインボイス制度の導入が予定されており、今後それに向けて、取引当事者間で取引条件の見直しが本格化していくことが想定されます。公正取引委員会としましては、免税事業者等が不当な不利益を受けることがないよう、関係省庁、団体と連携し、昨年1月に作成・公表したQ&Aの更なる周知を図るとともに、丁寧な相談対応を行い、独占禁止法や下請法違反行為の監視を強化していきたいと考えています。
 第三に、競争環境の整備、特に積極的なアドボカシー活動です。
 昨年6月の記者懇談会の際に、「デジタル化等社会経済の変化に対応した競争政策の積極的な推進に向けて―アドボカシーとエンフォースメントの連携・強化―」という題名のステイトメントを公表し、アドボカシーの実効性を高めるための考え方を明らかにしました。デジタル経済の進展、グリーン社会の実現に向けた取組、あるいは新しい働き方などの経済社会の変化に的確に対応して競争環境を整備し、イノベーションを引き出していくことが重要であると考えています。
 デジタル市場のルール整備に関しては、今年2月に、「モバイルOS等に関する実態調査報告書」を公表しました。この報告書では、モバイルOS市場等における寡占構造に起因する問題への競争政策上の対応について、まずはApple、Google2社の自主的な取組が進められることが望ましいという前提で、その実効性を確保するため、必要な範囲で法律によりルールを整備することが有効であるという考えを明らかにしています。
 現在、内閣のデジタル市場競争本部の下で、モバイル・エコシステムの競争評価が進められていますが、今後、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」の運用状況も踏まえながら、新たなルールの必要性の議論が行われることになりますので、公正取引委員会としましても、この実態調査等で得られた知見を踏まえ、今後の議論に積極的に参画していきたいと考えています。
 また、グリーン社会の実現に向けた取組に関しては、現在、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」という新しいガイドラインの策定に取り組んでいるところです。
 さらに、労働市場、人材市場に関しては、一昨年の3月に、厚生労働省や中小企業庁等の関係省庁との連名で、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定・公表し、独占禁止法や下請法、労働関係法令の適用関係を明らかにしています。また、先月末には、内閣官房から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」が国会に提出されました。この法律案における取引適正化に係る部分、つまり事業者間取引において、フリーランスに対して業務委託をする発注事業者の禁止行為などについては、今後法律が通りますと、公正取引委員会が法執行の中心を担うことになると思われますので、そのための準備を着実に進めていきたいと考えています。
 加えまして、三つ目の重点事項の関係での御報告ですけれども、本日午前、有識者の皆様に集まっていただいて、「イノベーションと競争政策に関する検討会」をスタートさせました。日本経済が活力を維持していくためには、今こそ、イノベーションを促進し、新たなサービスや市場を創出していく必要があり、そのために競争政策として貢献していきたいということを申し上げてきておりますけれども、企業行動がイノベーションに与える影響の競争評価をどうすればいいかといった問題意識の下で、このような検討会を開催することとしたものです。価格や供給量への短期的な影響についての競争評価だけでは、イノベーションに関わる事象を十分には捕捉できない可能性もあり、長期的な競争環境への影響もよく見ていくことが重要ではないかといった観点から、企業行動等がイノベーションに与える影響について、経済学的な知見も踏まえて体系的に勉強してみようということで、有識者の方に集まってもらうことにしました。是非皆様も関心を持って見ていただければありがたいと思っています。
 第四に、国際的な連携の強化です。
 近時、国際的なカルテルや企業結合、デジタル・プラットフォーム事業者の反競争的な事業活動への対応など、法執行と競争政策の両面で、海外競争当局との連携・協力の場面が格段に増えてきています。特にデジタル分野では、G7の競争当局のトップ等によるサミットが一昨年から開催されており、私も昨年10月にベルリンで開催された会合に参加しました。
 皆様も御承知のとおり、今年は日本がG7の議長国となっておりまして、今年の秋に、日本でG7の競争当局のトップ等によるサミットを開催し、デジタル分野における国際的な連携が更に深められるよう議論をしたいと考えています。
 最後、第五に、公正取引委員会の体制・能力の強化です。
 これまでに申し上げましたような具体的な施策を着実に実施し、公正取引委員会に期待される役割を的確に果たしていくためには、公正取引委員会の体制を質・量ともに強化していく必要があります。昨年末には50名の緊急増員が実現し、今国会で審議中の令和5年度予算案でも更なる増員が盛り込まれておりまして、令和5年度には、公正取引委員会の定員が昨年の850名から920名を超えることになる予定です。それだけ公正取引委員会への期待と責任が大きいということの現れだと思っていますので、量だけでなく質の面でも体制を強化できるよう、職員の能力向上や専門性の高いデジタル人材の確保等に引き続き取り組んでいきたいと考えています。
 以上、私の考えていることを述べさせていただきました。質問がございましたら、お願いします。

(2) 質疑応答

(問)「イノベーションと競争政策に関する検討会」について、イノベーションといっても様々な切り口があると思いますが、例えば、どういうところに焦点を当ててイノベーションが長期的な競争に与える影響を検討していくつもりでしょうか。
(答)御指摘のように、企業行動がイノベーションに与える影響は大変複雑かつ動態的でありますが、将来起こり得るイノベーションという長期的な競争環境に対する影響を適切に評価することが重要であると考えています。企業結合審査においては、将来の競争への影響を分析するわけですが、他の競争阻害行為の競争評価を行う際には、現在の市場で価格や生産量にどういう影響があるかということを中心に見てきたわけです。これまでやや短期的な視点で見てきたようにも思いますけれども、デジタル経済が進展してきていることもあり、イノベーションを競争評価の中で直接的に捉えるためには、もう少し長期的な視点も必要なのではないかと思っています。この検討会では、そのような視点を競争阻害行為に対する審査実務にどう当てはめていくのかということについて、新しい視点で、実際にどういうことが可能なのか等を経済学者の皆様から勉強させていただきたいと考えています。

(問)これまで委員長を務められた期間を振り返っての所感をお聞かせください。また、冒頭の御説明でキャッチフレーズを挙げていただきましたが、これについてもう少し詳しく思い等をお聞かせください。
(答)私が公正取引委員会委員長に就任してから約2年半になりますが、デジタル化や労働市場の多様性など経済社会に大きな変化がある中で、競争政策サイドから貢献できることがいろいろとあるのではないかという問題意識を持って業務に取り組んできたつもりです。
 公正取引委員会は、基本的には独占禁止法の厳正な執行という役目を担っているわけですけれども、競争阻害行為に対して厳正な法執行を行うだけではなく、デジタル市場等の競争上の懸念に対して、どういう執行が有効なのかという問題意識を持ちながら、事務総局の皆さんと一緒に取り組んできたつもりです。そして、事務総局の皆さんにも大変努力をしていただいて、一定の成果は上がってきていると思っています。ただ一方で、今の独占禁止法でデジタル市場での問題に立ち向かうときの制約を踏まえると、新しい規制の枠組みが必要なのではないかということも、現在、内閣官房のデジタル市場競争会議で議論してもらっていますが、いよいよ具体的な詰めの議論の段階になってきつつあります。それに向けても、私どもはこれまでいろいろな実態調査を行って、課題などを整理してきたつもりです。
 それから、先ほど申し上げたキャッチフレーズについての御質問ですが、私どもは「競争なくして成長なし」ということを競争政策の普遍的なテーマとしてずっと言ってきました。それに加えまして、岸田政権では新しい資本主義の実現という方向性の下で、成長と分配の好循環により、持続可能でインクルーシブな成長や繁栄を達成するという大きな政策方針が示されています。これは、SDGsといったことも言われていますが、今、世界的に起きている政策的な思想の潮流にも合致していると思っています。デジタル化やグローバル化が進展する中で、世界的にも格差の問題や分断の問題、あるいは地球環境の問題が出てきています。そういった大きな政策課題について、政府と市場、官民が連携して取り組んでいく中で新しい市場を作っていくというのが、私の新しい資本主義の理解です。これは、欧州や米国の競争政策の中でも出てきている議論でして、ある意味、新自由主義に対するアンチテーゼのような部分もあるのかもしれませんが、市場の効率性を過信しないで、公正な市場をどうやって確保していくかという観点が強く出てきているのだろうと思います。その意味では、公正な競争が担保される市場の中で、適正な分配が行われる、そのことが原動力になって成長にもつながるということに関して、公正取引委員会の競争政策が担える部分は、決して小さくないと思っています。
 具体的には、デジタル分野におけるビッグテックをめぐる競争の問題だけでなく、公正取引委員会が今取り組んでいる価格転嫁を実現する取引環境の整備、あるいは労働市場、人材市場でフリーランスを始めとした労働市場の公正な競争確保についても、競争法や競争政策が関わる部分はあると思います。公正取引委員会がいろいろな政策分野に競争政策サイドから関わって貢献をしていくことができるのではないかと思いながら、いろいろな仕事をさせていただいているということでございます。

(問)人材の確保について、量と質ともに強化していく必要があるというお話が冒頭にありましたが、公正取引委員会だけではなく、GAFAといった民間企業も競争政策や経済分析に強い人材をどんどん採って体制を強化していくと思いますので、人材の取り合いになるなどの課題がいろいろと出てくるのではないかと思います。人材確保や育成について、どういう問題意識を持っていらっしゃるか教えてください。
(答)御指摘のとおり、公正取引委員会としても、定員をかなり大きく増やしていただけることにはなっていますが、専門的な知見や能力を持った人を採用していかなければいけない状況にあると思っています。特に、私どもがデジタル市場への規制を強化していく中で、それを担える力を蓄えていく必要があると考えています。現在、弁護士の方20数人の募集を行っているところですが、経済分析やデジタル関係の知見を有する方の採用についても、これまで以上に努力していかなければならないと思っています。

(問)先月、1円スマホに関する緊急調査結果が公表されましたが、通信料の引下げといったところでも懸念を示したという内容であったと思います。菅政権から通信料の引下げに取り組まれてきて、一定の成果が出たところで、このような実態があったということで、公正取引委員会として取引実態の監視を強化するということでしたが、今後の方針を教えてください。
(答)御指摘のとおり、菅政権のときに通信料金と端末代金を分離することで、通信料金を引き下げるという政策が総務省を中心に行われてきたわけですが、1円スマホの問題が出てきたものですから、緊急調査という形で、独占禁止法の不当廉売の問題を中心に調査をしました。通信料金と端末代金を分離することで、通信市場と端末販売市場のそれぞれのマーケットがきちんと働くようにすべきという前提の下で、まだMNOが端末の安売り原資を通信料収入等で補填している実態が見えてきましたので、これは問題があるのではないですかという指摘を行いました。また、販売代理店とMNOとの関係でも、「代理店評価制度」がこういった事態を引き起こしているのではないかという懸念も指摘しました。
 今、正にMNOに私どもの調査結果のお話をしているところでもありますし、また、総務省の方でも検討が進んでいますので、改善が進めばよいと思っていますし、更に必要なことがあるか検討していきたいと思っています。

(問)公正取引委員会が対応している大手電力会社のカルテル問題だけでなく、大手電力会社による顧客情報の不正閲覧という事案も発生しています。そして、この問題に関しては、内閣府の会議が大手電力会社の資本分離まで必要なのではないかという提言を出されています。いろいろと電力自由化の流れに反するような事象が出てきていると思うのですが、公正な競争の確保の観点から今起きていることをどう見ていらっしゃるか、競争法の観点からはどういった議論が必要か、その辺りのお考えを教えてください。
(答)私どもが審査中の電力カルテルについては、まだ結論が出ていませんので、具体的なコメントは差し控えたいと思います。それとは別に、公正取引委員会で電力市場の課題について改めて実態調査を開始した矢先に、御指摘の不正閲覧の問題が出てきてたという状況にあることは御承知のとおりだと思います。現在、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会が調査していますので、御指摘のような議論がどうつながっていくのかは、これからのことだと思っています。
 電力市場にはいろいろな市場があり複雑で、安定供給など様々な論点があると思いますが、私どもの実態調査の中では、私どもの関心を持っている点についての調査を深めていきたいと思っています。
 他方で、電力・ガス取引監視等委員会の方でもいろいろな調査をされると思いますが、独占禁止法との関係で必要があれば、私どもの方にも要請があるかもしれませんので、そういった要請があれば一緒になってやっていきたいと思っています。

(問)先ほどの質問にもありました、顧客情報の不正閲覧については、プラットフォーム規制とも似ているところがあると感じています。例えば、アメリカで問題になっていますが、Amazonが自らのプラットフォーム上で販売している他の店舗の機微な情報を見るといった自己優遇のようなところにも当たるような気がします。デジタル・プラットフォーム事業者を調査してきたことにより得られた知見等に基づき、不正閲覧問題に関して競争法上どのような問題が考えられるとお考えでしょうか。
(答)御指摘の電力会社による顧客情報の不正閲覧については、一義的には今ある事業法の下で評価されるものであろうと思います。その上で申し上げれば、御指摘のように、プラットフォームが集める情報の不正利用の問題と似ている面があると思いながら眺めています。まだそういう段階ですので、これ以上は申し上げませんが、EUのDMAには正にそういうことを規制する条項がありますので、同じような議論が今後、デジタル・プラットフォーム事業者の規制を議論する際に出てくる可能性があるのではないかと思っています。

(問)冒頭の一つ目にお話しいただいた国民生活に影響の大きい分野を中心に違反行為に厳正に対処するというお話に関連して、電力や携帯電話というのは国民生活に影響の大きい分野だと思いますが、これはどういう判断基準で判断していくのでしょうか。
(答)私どもが独占禁止法違反被疑事件を立件して審査するというときに、これまでのカルテルや入札談合の取り締まりの中心は公共工事や建設工事だったわけですが、入札談合等関与行為防止法ができたりして是正されてきている中で、最近の事件をご覧いただくと、医療関係や教育関係といった国民生活に直結するような分野での事件が増えていることに気づかれるのではないかと思います。公正取引委員会のリソースに限りがある中で、今後も国民生活に直結する分野を中心に事件化するということを念頭に置きながらやってきたいと思っています。
 また、冒頭でもう一つ申し上げた規制改革により自由化が進む分野、これは電力カルテルが典型例だと思いますが、そのような分野で起きている競争法上の問題については、注目していきたいと思っています。

(問)先ほど、デジタル分野に関する動きについて、新しい規制の在り方や枠組みの必要性について詰めの議論をしているというお話がありましたが、もう少し詳しく聞かせてください。EUのDMAのお話もありましたが、日本とは法的な枠組みが違うという状況があります。また、日本のデジタル分野の事件では、排除措置命令が出されたことはなく、どちらかというとスピーディな解決を優先する確約手続や確約手続に至らないものでの解決が図られていますが、時間が掛かるということがどこまで問題なのか疑問もありますので、その辺りを含めて教えてください。
(答)御承知のように、内閣のデジタル市場競争本部の下で進められているモバイル・エコシステムの競争評価において、昨年から二十数項目の競争上の懸念について一つ一つ議論を積み重ねてきておりますので、それを踏まえて、新しいルールの必要性について、そろそろ取りまとめに入っていく段階だと思っています。モバイル・エコシステムの中のアプリ市場では、いろいろな競争者がいて、一定の競争が働いているのですが、今年2月に公表した「モバイルOS等に関する実態調査報告書」でお示ししましたとおり、OSやアプリストアの部分は、日本ではAppleとGoogleの2社によるほぼ完全な寡占状態になっており、他から競争圧力が働かない状態ですから、いろいろと競争阻害的なことが起こり得る構造になっています。これについては、独占禁止法上の問題があれば対応するのですが、御指摘のように、市場を画定して、競争阻害効果をきちんと立証するためにはそれなりに時間も掛かります。また、デジタル・プラットフォーム事業者側から証拠を集めることは、ブラックボックスになっている部分もあり、難しいという事情もありますので、今までの執行のやり方ではなかなか結論までたどり着けないことがあるのも事実です。そういう中で、AppleやGoogleには、私どもの報告書で指摘した競争政策上の対応の取組が進むことを期待していますが、更にきちんと規制するためには、一定の法的な枠組みも必要、有益ではないかということも公正取引委員会として明確に意思表示しておりますので、これを踏まえて、政府全体での議論を進めていただきたいと思っております。

(問)例えば事前に禁止事項を設定するとか、要求事項を設定するとか、どういう規制をするのが適当であると考えていらっしゃいますか。具体的に教えてください。
(答)そこはこれからの議論の中で詰めていくべきものだと思います。

(問)冒頭の四つ目にお話しいただいた国際的な連携の強化について、秋にG7競争当局のサミットが予定されています。公正取引委員会は、これまではどちらかというと欧米の取組を参考にしつつ対応を進めてきたと思うのですが、今後秋に向けて、日本が主導的な立場を取っていかなければならない場面があるではないかと思います。公正取引委員会として、今後打ち出していきたいことや、こういう方向性で議論をしたいということがあれば教えてください。
(答)御承知のように、2月にモバイルOS等の実態調査報告書を取りまとめましたし、その前にはクラウドサービス分野の実態調査報告書を取りまとめていますように、公正取引委員会はこれまで累次に渡ってデジタル分野についての実態調査報告書を取りまとめてきまして、それらも踏まえて、現在内閣官房の方で議論が進められておりますので、そういった議論の状況も踏まえながら、G7競争当局のトップとまた意見交換や議論をすることができればと思っております。

(問)少し話が戻りますが、12月から始められた電力の実態調査について、大手電力会社の不正閲覧による調査への影響をお聞かせください。先ほど委員長は、「調査を深めたい」とおっしゃられたと思うのですが、これは当初予定されていた調査から内容を広げるとか、項目を増やすということでしょうか。
(答)現在進行中の私どもの実態調査の中身について、今、具体的なことは申し上げませんけれども、御指摘の顧客情報の不正閲覧については、先ほども申し上げましたが、電力関係の規制法で禁止されている事象であり、電力・ガス取引監視等委員会がまず一義的に取り組んでおられると思います。それはそれとして、私どもとしては、電力市場の現状についての実態調査を進めていくということです。

(問)今、話題になっているChatGPTのような生成AIについて伺いたいのですが、もし生成AIが将来Googleの検索エンジンに代替するような存在になっていくと仮定した場合、検索エンジンの市場で起きているような市場の寡占が十分に起こり得ると思うのですが、本日の「イノベーションと競争政策に関する検討会」も含めて、少し時間軸を長めにとった場合に、生成AIをどのように競争政策の観点から見ているのか、現時点での所感などあれば教えてください。
(答)先日、国際シンポジウムでメタバースの問題について勉強させていただきましたし、ChatGPTという話が出てきて、Googleの検索エンジンと今後拮抗していくのではないかという話も出てきていますが、そういった点について、関心を持って知見を高めていかなければいけないと思っています。現時点で具体的に何か問題意識を持っているというところまでは至っていませんが、関心を持って見ていきたいなと思っているところです。

(問)冒頭の三つ目にお話しいただいたアドボカシーとエンフォースメントの連携について、現在行われている様々な実態調査の結果を受けて、実際の法執行や事件審査等にどのように活かしていくのか教えてください。
(答)常々申し上げていますが、アドボカシーの役割は、三つあると思っています。一つ目は、競争政策というのは広い意味で公正取引委員会だけが行っているわけではありませんので、関係省庁が行っているいろいろな規制や制度の見直しに、私どものアドボカシーが一つのきっかけとなってつながっていくという役割です。二つ目は、特定の取引分野でこういう問題が起きているということを実態調査でお示しすることによって、その取引分野の事業者の方々が一つの気付きを得て、ビジネスモデルを変えたり、あるいは自分で訴訟を起こして競争上の問題を解決しようという動きが出てくるという効果もあると思います。そして三つ目が、アドボカシーとエンフォースメントの連携ということでして、実態調査の結果、私どもに蓄積される知見が審査活動にも役立つということがあろうかと思います。
 また、昨年6月に公表したステイトメントの中でも書かせていただきましたが、実態調査の過程で一定の情報が得られたときに、具体的に審査の端緒としてつなげていくこともありうると思います。この意味では、アドボカシーはいろいろな方向で展開ができると思いますので、これからも積極的に行っていきたいと考えています。

以上

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