ホーム >報道発表・広報活動 >委員長講演等 >

令和6年 委員長と記者との懇談会概要(令和6年4月)

令和6年 委員長と記者との懇談会概要(令和6年4月)

1 日時

令和6年4月26日(金) 13:05~13:55

2 概要

(1) 委員長からの説明

 本日は御参集いただきまして、ありがとうございます。今朝、閣議に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」がかかりまして、夕方には国会に提出される見込みとなりましたので、この機会に久しぶりにこのような場を設けさせていただきました。記者の皆様とのこのような場は、昨年3月に委員長に再任されたときに設けて以来になります。今日は、法案の趣旨や骨子等について、私の方から御説明させていただいた上で、意見交換をさせていただければと思います。また、いろいろな公正取引委員会の取組については、報道発表の記者会見等でかなりお知りいただいていると思いますが、せっかくの機会ですから、この法案に限らず、いろいろな取組について御質問をお受けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 お手元の資料の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案の概要」に基づいて、お話ししたいと思います。1ページ目に法案の意義とありますけれども、この法案は、スマートフォンが1人1台といわれるように国民生活や社会のインフラ基盤となっている中で、スマートフォンの利用のために特に必要となっていますモバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの四つの特定ソフトウェアについて、セキュリティの確保等を図りながら、イノベーションを活性化して、消費者の選択肢の拡大を実現するために競争環境を整備したいというものです。アプリストア等が寡占状態にある中で、デジタル分野の成長に伴う果実を、デジタルプラットフォーム事業者だけではなくて、スタートアップやいろいろなアプリ事業者等の関連する事業者が、公正・公平に享受できる環境を実現したいということです。生成AIという革新的な技術の波が今訪れておりまして、デジタル市場の競争環境・競争状況も大きく変わろうとしている中で、日本のデジタル市場ではデジタル小作人という話も出てくるような状況でありますけれども、日本のデジタル市場の競争力を強化するためにも必要な環境整備のための法案ではないかと認識しているところです。先行して規制が始まっておりますEUでは、今年3月からデジタル市場法(以下「DMA」という。)の本格的な運用が開始されました。また、米国でも3月末に司法省がスマートフォンの独占を巡る問題に関して、デジタルプラットフォーム事業者を提訴したといった動きがありました。こうした動きも踏まえて、日本市場でも、新たな法律の枠組みを整備することによって、日米欧三極で足並みをそろえて、連携して対応していきたいと考えています。
 法案の骨子について、2ページ目を御覧いただきたいと思いますが、まずは、スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェアを提供する事業者のうち、政令で定める一定規模以上の事業を行う者を指定いたします。この指定事業者については、これから基準を作って選定していくことになります。アップルやグーグルということで報道していただいておりますけれども、法案自体は、そうした特定のビッグテックを名指ししているわけではないことは是非御理解いただければと思います。その上で、指定事業者に対して一定の行為の禁止(禁止事項)、あるいは一定の措置を講ずる義務付け(遵守事項)を定める、いわゆる事前規制の仕組みを採用いたします。さらに、規制の実効性を確保するための措置として、独占禁止法と同じように、公正取引委員会の調査権限、排除措置命令や課徴金納付命令といった規定を設けております。続いて4ページになりますが、特に申し上げておきたいのは、そうした独占禁止法と同様の強制措置を講じる前に、指定事業者やアプリ事業者等のステークホルダーと継続的なコミュニケーションを通じて、競争環境の整備を図っていくという新たな枠組みを導入しているところです。指定事業者から法律の遵守状況の報告書を提出してもらうことを前提に、関係事業者からもいろいろな情報を提供していただいて、私どもでモニタリングして規制を遵守するように求めていくという、いわば対話型の規制がまずあります。こうしたプロセスを通じて、法違反の未然防止の段階で競争環境を改善するというのがまずあって、それでも改善されない、また、法律に違反するということであれば、4ページ目の下に書いてありますように、独占禁止法と同じような強制措置のプロセスに移っていくという想定をしています。
 私は、委員長に就任して以来、デジタル分野については変化のスピードが速く、技術的にも複雑ですので、エンフォースメントの在り方として、対話型での競争の回復が重要だと申し上げてきました。そのため、独占禁止法の執行でも、確約手続など最近導入された手法も用いながら、競争のスピーディーな回復に重点を置いて対処してきています。同時に、こうした手法というのは、数年前に、我が国のデジタル分野の規制として最初に導入した、経済産業省所管のデジタルプラットフォーム取引透明化法における共同規制という考え方も引き継ぐものではないかと思っております。そういう意味で、関係事業者等のステークホルダーにも参加していただきながら、継続的なコミュニケーションを通じて規制をしていく上では、関係事業者からの積極的な情報提供、声を上げていただくことが、この新しい法案のエンフォースメントの実効性を高めていくためにも大変大事で不可欠であるという認識を持っています。
 それからもう一つ申し上げておきたいのは、セキュリティの確保等への配慮です。3ページにいろいろな禁止事項や遵守事項を記載しておりますが、禁止事項として、例えば、一番上の「⑴アプリストア間の競争制限」には、「他の事業者がアプリストアを提供することを妨げてはならない」とあります。こうした禁止事項の多くに関して、場合によっては禁止を解除する正当化事由として、セキュリティの確保、プライバシーの保護、青少年の保護等のために、指定事業者が必要な措置を講じることができる旨を規定しております。さらに、5ページになりますが、政府側としても、こうしたセキュリティの確保、プライバシーの保護、青少年保護等の確保のために、公正取引委員会とそれぞれを所管する関係省庁が連携して対応することを条文の中にも規定しておりまして、セキュリティの確保、プライバシーの保護、青少年保護等といった消費者、ユーザーの安全安心の確保ということと競争環境の整備のバランスにかなり配慮した仕組みや運用を前提としてこの新しい法律を実施していきたいと思っております。この点では、新しい法案の中に、こうしたセキュリティの確保、プライバシーの保護、青少年の保護等への配慮も規定しておりますので、先行しているEUのDMAに比べると、そうしたものへの配慮がより強く出ているのではないかと思います。一方で、EUでは、DMAのほかに、デジタルサービス法(以下「DSA」という。)という法律がパッケージで2022年に成立しています。EUでは、ユーザーの基本的な権利が保障される安全なデジタル空間を作るというDSAの考え方と、公正な競争条件を確立していくというDMAの考え方がセットになって法律が準備されており、子どもの保護といったことに関しては、DSAの中で規制する形になっています。この新しい法案では、そうしたEUの動きも見ながら、そうしたものにも配慮することを書かせていただいて、なるべくバランスをとるような形の規制を準備したということでして、その点も是非御理解いただければと思います。
 冒頭に私から申し上げたかったことは以上です。あとは、御質問をいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(2) 質疑応答

(問)2点お伺いします。1点目は、今回の法律の執行体制についてです。EUではDMAが、EUにおける反トラスト法の執行体制の再編のきっかけにもなったと聞いていますが、公正取引委員会では、これから執行に必要な人員等の体制について、どのようにお考えなのかを教えてください。
(答)今日、国会にこの法案を提出しましたが、残りの会期を考えると、かなり遅い提出になりました。まずは今国会中の成立を期して、私どもは努力をしていかなければいけないと思います。それを踏まえまして、御指摘がありましたように、この新しい法案を執行するための体制や能力については、これから検討しなければいけません。法案が成立した後も、今のところ施行まで1年半の準備期間を想定しており、その間に下位法令を整備したり、ガイドラインを作ったりといったことがありますので、今後体制の強化についても、早急に検討しなければいけないと思っております。

(問)2点目ですが、委員長に就任なさってから、フリーランスの新法を含めると、競争環境を整備するような関連の法律がこれで2本目かと思います。これは日本経済や社会における公正取引委員会の役割の拡大とも見えるのですが、この辺りの近年の変化をどのように考えていらっしゃるかを教えてください。
(答)私が委員長に就任した際にも、経済のデジタル化の進展ですとか、それに伴って働き方もかなり多様化しているといった、大きな経済社会の変化があると申し上げました。それから就任後のいろいろな政府の政策展開を見ましても、これまでのデフレ的な長期停滞状況から、物価と賃金の好循環によって経済が動き出す変わり目にあるということもありまして、御承知のように、公正取引委員会は、取引環境の整備というような課題への対応もいろいろと行ってきております。私が就任した後のこの3年程の間にも公正取引委員会の守備範囲が相当広がってきているところで、御指摘がありましたようにいわゆるフリーランス法や今回の新しい法案があります。職員の皆さんにも言うのですが、戦後すぐの1947年に独占禁止法ができ、1956年に下請法が、さらに、1962年に景品表示法ができて以来、半世紀振りぐらいに、立て続けに新しい法律を公正取引委員会が担うような、そういう時代になっていると思います。そういう意味で競争政策が担う場面が大変増えていると認識しております。これから、低温経済から適温経済に真に日本が移っていくために競争政策が果たす役割は少なくないと思いますので、先ほどありました体制整備も含めて、しっかりとそういった仕事ができるようにしていきたいと思っています。

(問)新法の意義について改めて伺いたいと思います。一部には、ビッグテックは非常に利便性の高いサービスを提供しており、このようなビッグテックに対してなぜ規制を導入するのかという声もあり、まだ国民の理解が得られていない部分もあるかと思います。なぜ今ビッグテックに対して、厳しい規制を導入する必要があるのか、改めてお考えをお聞かせください。
(答)端的に申し上げて、デジタル化が遅れていると言われている日本経済にあって、デジタルトランスフォーメーション(DX)というのは、グリーントランスフォーメーション(GX)と並んで、これからの成長の大きな鍵だと思います。そういう中で、日本のデジタル市場で内発的なイノベーションが起きて、経済が成長していく大きな材料になることへの期待があります。それとiPhone人気などとよく言われますけれども、消費者の皆さんが、非常に便利な信頼性の高いスマートフォンのサービスを享受しておられて、そのこと自体は大変良いことだと思うのですけれども、消費者にとって、選択肢が広がることも大事だと思います。今受けているサービスが無くなるわけではありません。いろいろな選択肢が広がっていくことは大変大事なことで、それはイノベーションや競争とセットだと思いますので、この法案がそういったことを実現するような一助になればいいと思います。ビッグテックも日本のデジタル市場にとっては大変大事なプレーヤーです。ただ、そこが寡占状態になって、ユーザー側にとっても、アプリを提供するような事業者にとっても、いろいろな選択肢が閉ざされてしまうとイノベーションが起きなくなるおそれもありますので、なるべくオープンなデジタル市場で日本が競争力をつけていくために、ビッグテックも含めて、いろいろな対話ができて、その中から競争環境を整備できるような法律があればと思って検討を進めてきたところです。

(問)セキュリティやプライバシーの点についてお伺いします。デジタルプラットフォーム事業者は、安全性を保つためのいわゆるフィルター的な機能を担っていたという指摘もあるかと思います。今回の法律では、セキュリティを守るために正当化事由を設けられたと認識しているのですが、先ほど委員長もおっしゃいましたように、デジタル市場の動きが非常に早いため、今後まだ誰も想像してなかったような危険性が出てくる可能性もあると思います。そういった中でサービスやアプリや使う消費者の方々が、今後気をつけていくべき点などはありますでしょうか。
(答)この規制が実施されると、セキュリティ、プライバシー、青少年保護の観点から問題のあるアプリストアかどうかといった点については、おそらく指定事業者がまずチェックをすることになると思います。それと併せて、その指定事業者によるチェックが、恣意的なものにならないようにすることも必要だと思いますので、政府側としても、そういう観点から、きちんとガイドラインを作ったり、それぞれの専門部署がきちんと見たりするような体制を作っていかなければいけないと思います。これは公正取引委員会だけでなく、セキュリティ、プライバシー、青少年保護の観点のチェックについては、この法案を作る過程でも、各省庁にお願いをして、連携して共同で対応するという政府の体制を作ることになっています。消費者が過度な心配をしなくてもいいような体制を作っていかなければいけないと思っております。また、そういった体制を含めて、ユーザー・消費者サイドにもきちんと説明をするという方向で、これから仕組みを考えていくことになりますので、そういう中で御心配があれば、きちんとお話が聞けるような体制を作っていかないといけないと思っています。

(問)2点お伺いします。まず1点目ですが、この法案については、検討が始まって数年間経って、今日の閣議決定と国会提出につながったと思うのですが、率直に現在の受止めを教えてください。それから、閣議決定と国会提出の時期が4月下旬となったことも含めて、この検討に当たって少し難儀した部分などあれば教えてください。
(答)デジタル市場競争会議において、令和3年夏頃から「モバイル・エコシステムに関する競争評価」という作業を始めて、私どももモバイルOS等に関する実態調査を実施して、それをデジタル市場競争会議の作業につなげて、昨年6月に「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」が公表されました。そのときに「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」において、EU・米国など海外の動向も踏まえた上で必要な法制度について検討するという内容で閣議決定されました。その検討の過程でも、ビッグテックを含め、いろいろな関係者とも意見交換を重ねながら進めてきました。年末の政府内での調整において競争政策に関わるものなので公正取引委員会で所管する法案にするということが決まりましたが、その時点では、まだEUのDMAは本格的な運用が始まっていませんでした。令和6年3月からはDMAの具体的な法遵守期間が始まり、EUはさらにノンコンプライアンス調査という形でビッグテックへの調査を開始しました。そういう状況を見て、私どもとしても、日本としての法案を作るだけの検討が整理できてきたということで、今国会に提出できることになったと思います。この過程で、私も日本のIT業界の方やアプリ事業者の関係者からも直接お話を聞きました。それから、政府与党での議論の過程では、競争当局として具体的には気づかなかった、青少年保護やセキュリティへの配慮について、それに関わっている皆様からもいろいろな意見も伺って、こういった形でバランスを取って、新法案を作るところまでたどり着いたのは、ありがたかったと思います。やはり少し時間をかけた分だけ、いろいろな要素が入った、バランスの取れた新法案にさせていただけたのではないかと思っています。

(問)もう一点お伺いします。これから国会の審議が始まっていくと思いますが、どういった点を中心に御説明されていきたいかを改めて教えてください。
(答)先ほど御説明をした、この法案の目的、意義、仕組み、それからユーザーの安心安全への配慮などがおそらく国会審議でも議論の中心になっていくかと思っていますので、しっかり説明してまいりたいと思います。

(問)2点お伺いします。1点目は、消費者にとって、この法律がどういう意味を持つかということを改めてお聞きします。先ほど消費者の選択肢が広がると御説明いただきましたが、消費者にとっては、スマートフォンの利用において具体的にどういう変化が起こりそうか教えてください。
(答)これは可能性の問題なので、具体的な予測はできませんけれども、例えば、今アップルが提供しておられるAppStoreは極めて汎用性の高いアプリストアですが、先ほどの青少年保護の話を逆手に取って言うのは恐縮ですけれども、青少年保護に配慮した子どもたちのためのアプリを集中的に提供するようなアプリストアなどが出てくるかもしれません。また、そうしたアプリストアの競争環境が整備されると、当然コストが引き下がる競争にもつながると思いますので、選択肢が広がることと、その選択を通じてより安価で良い内容のサービスが消費者に提供される可能性が出てくるということではないかと思います。ただ、この法案はあくまで環境整備の規制法でありますので、日本でのデジタル市場において、これから先は民間のイノベーターたちに頑張ってもらわないといけないのだと思います。

(問)もう1点お伺いしたいのですが、今回の法案はモバイルOSといったスマートフォン関連の市場に限定した規制になっていると思います。DMAはもう少し広範なデジタルサービス全般を対象にしているという点で大きく違うと思いますし、デジタルプラットフォーム取引透明化法の中では、デジタル広告やECも対象になっていますけれども、今後日本においては、公正取引委員会としては、スマートフォン以外のデジタルサービスについても、新たな規制、新法の整備等を含めた環境整備等を行っていくのでしょうか。
(答)新法案が閣議決定されたばかりですので、何とも言えませんけれども、この法案は、独占禁止法と相互補完的な関係にあるものです。そういう意味では、デジタルプラットフォーム取引透明化法のオンラインショッピングモール等の世界も独占禁止法と補完関係にありますので、デジタルプラットフォーム取引透明化法やこの新法案で規制しない部分は、独占禁止法で引き続き規制していくことになると思います。その上で、新たな規制の枠組みを設けなければならないようなサービスが出てくるのかどうかや、問題が多いサービスを見つけることになるのかどうかは、引き続き注視していきたいと思います。

(問)新法と関係が無いことで恐縮ですが、今週報道発表があったグーグルの確約計画の認定についてお伺いします。今回審査局の審査において、グーグルが競合企業のサービスを直接的に7年間も制限していたことが分かったことについて、この問題と一連の審査について、委員長の受止めを率直に聞かせていただきたいです。公正取引委員会の審査を経て今回確約計画の認定という処理に至ったという点も含めて聞かせていただけたら幸いです。
(答)率直に申し上げて、私は今回のグーグルの確約計画認定事案について、皆様の報道量が随分大きかったことに驚きました。検索エンジン、検索連動型広告の技術提供制限に関して審査に入って、今回確約計画の認定という形で行政処分を行いましたが、グーグルが違反被疑事実を認めて、早期に競争環境が回復され、現時点ではそれが維持されている状態だと思いますので、これができたのは大変良かったと思っています。
 一般論として申し上げますけれども、今回の新法案を検討するに当たっても、IT関係業界の人たちと意見交換をしてみると、やはりビジネスパートナーのビッグテックに対して、なかなか物を言いにくいという話をよく聞きますが、私からは新法案の対話型の規制の中では、事業者側から声を上げていただくことが大事ですという話をしてきました。日本のマーケットには、そういうデジタル小作的な取引関係において下請法で想定している状況とやや似ているような実態があるのかもしれません。そのような中で審査局の職員が、よく事実関係を捉えて審査に入り、相手から確約計画を出してもらうという決着がつけられたのは大変よかったと思っています。
 余談かもしれませんが、米国ではいろいろな取引当事者が訴訟を起こしています。これも私が委員長になってから何回か申し上げていることですが、我々が事業者と対峙するだけではなくて、これが問題だと思ったら、それぞれ当事者間で訴訟を起こすことも、独占禁止法や競争法の在り方の一つとしてあってもいいのではないかと思っています。このことは、2年程前だったと思いますが、「食べログ」の訴訟か何かの関係で御質問いただいたときにも申し上げたことがあります。マルチステークホルダーガバナンスということをデジタルプラットフォーム取引透明化法のときにも言いましたけれども、こうした新法案をきっかけに、少しでも声が上げられやすいような市場環境を作っていければと思っています。そういうこれまでの環境の中で、グーグルの案件も審査局が大変努力して処理をしたものだと受け止めてもらえるとありがたいです。

(問)今おっしゃっていただいた、日本においてデジタルプラットフォーム事業者と取引している企業の話について、もう少しお考えを聞かせていただけたらと思います。公正取引委員会が限られた体制の中で問題の実態や端緒を把握するためには、デジタルプラットフォーム事業者とのやり取りだけではなく、そういう企業の情報提供やコミュニケーションというものが有効になってくるものの、先ほど委員長がおっしゃったように、日本ではまだそういう雰囲気にはなってないかと思います。そうした課題をクリアしていくために、今も既にいろいろなツールがあると思いますが、今後公正取引委員会の方から、もっと情報提供してもらいやすいようにアプローチしていくお考えとかアイデアがあれば教えてください。
(答)去年もグーグルによる検索サービスの自己優遇等に関する違反被疑行為について、審査を開始する段階で公表して第三者からの情報や意見を求めるということを行いましたが、そういうことも一つのきっかけだと思います。それから、先ほど資料の4ページで御説明しましたように、今回の規制の枠組みも関係事業者からの情報提供が大変大事だと申し上げました。そういう過程を通じて、デジタルプラットフォーム事業者には言いにくくても、公正取引委員会には情報提供しやすいといったことでもよいと思いますので、新たな規制の枠組みを動かす中で、そういった声を上げられるようになればいいと思っています。ただ、それは、この新しい規制の枠組み自体が、公正取引委員会にとっても新しいチャレンジングな仕組みですので、我々も努力しながら進めていかなければいけないと思います。また、もとよりデジタルプラットフォーム事業者自体との対話、協議が我々は大変重要だと思っています。

(問)委員長は、YouTubeでの竹中平蔵さんとの対談など、いろいろなところで規制官庁としてだけでなく政策官庁としての立場ももっと強めていくということをおっしゃっていて、実際にアドボカシーを矢継ぎ早に行い、今回のように新法が立て続けに出されています。そういった中で、現時点でもう政策官庁として思い描いていたような状況になっているとお考えでしょうか。
(答)それを自ら評価するのはなかなか難しいのですけれども、公正取引委員会事務総局の職員を含め、全体としてそういう努力をしてきていると思いますし、いろいろな政府全体の政策の中で、公正取引委員会に期待される部分も大きくなってきています。我々としては、これが公正取引委員会の仕事として行うことが有効なのかどうか、必要なのかどうかをきちんと自ら判断しながら関わっていかなければいけないと思います。端的に言うと、従来の取締り官庁としてだけでなく政策官庁としての役割もかなり担えるようになってきているのではないかと思っていますが、どうでしょうか。

(問)もう一つお伺いします。公正取引委員会の存在感が増す中で、価格転嫁円滑化の取組については、企業名を公表するという奇策といってもいいような形で効果が出ている部分もあると思います。2022年末に1回目の企業名公表を行った際は、裏で相当ハレーションが起きたと伺っています。その後、いろいろな配慮を含めて、今年3月にまた企業名公表を行いました。企業名の公表は、こういうハレーションを乗り越えてまで必要なことなのでしょうか。
(答)そこはいろいろな評価があると思います。先ほども申し上げましたけれども、日本の経済環境が大きく変わっていく、一種の変わり目のところにもあると思いますので、長期停滞から適温経済に移していくところの一つの推進力として、公正取引委員会も異例ではありますけれども、企業名を公表したり、労務費の転嫁指針をまとめたりという取組を行っています。これが平時においても公正取引委員会が取り組むべき政策かどうかという議論は当然あると思います。1回目に相当ハレーションがあったというお話もありましたけれども、そこは企業側にも理解を求めながら、きちんとプロセスを踏んで作業を進めていると思っていますので、今の時点では必要な政策だと認識して行っているというところは御理解をいただければと思います。

(問)委員長は、冒頭の御説明で日米欧で連携してとおっしゃいました。これから新法の成立後に本格施行まで1年半ありますが、DMAでいうと、グーグル等に対応策を示されて、一部ではもう規制逃れではないかという批判の声もある中で、その規制逃れを防ぐという意味もありますし、これから具体的な法律の中身や運用を決めていく中で、海外との連携というものの意義や役割について教えていただけますでしょうか。
(答)去年11月にG7の競争当局のトップ等が出席する「G7エンフォーサーズ及びポリシーメイカーズサミット」を東京で開催いたしました。そのときにもデジタル分野の国際的な協力連携が大事だということを合意して、デジタル競争コミュニケを採択しました。今回の新法案は、スマートフォンの問題に焦点を当てていますけれども、事前規制という意味では、EUのDMAという先輩格の運用が具体的に始まっており、そこでのデジタルプラットフォーム事業者とEU当局とのいろいろな議論の情報も得られると思いますので、そういうことも踏まえて、日本市場にとって望ましい運用になるように今後詳細を詰めていかなければいけないと思っています。

(問)先ほどグーグルに関するお話も出ましたが、確約手続という制度について伺います。先日のグーグルに対する確約計画の認定で19件目21社目となり、確約手続は、不公正な取引方法に対する主要な法的措置になっていると思います。ここまでの確約手続の運用状況を見て、これまでのメリットや、今後の確約手続をどのように運用していきたいかなど、確約手続に対する評価について伺いたいです。
(答)確約手続については、特にデジタル分野のように、非常に変化が激しいマーケットで競争をスピーディーに回復するという意味では、大変有力なツールだと思っています。排除措置命令と匹敵するような十分な計画内容であることを認定し、その内容を実施させるということでありますので、事案の性格に応じて、排除措置命令を目指すのか、確約計画の認定という形で処理するのか、それはいろいろな形があると思いますけれども、少なくとも有効なツールとなっていることは申し上げていいのではないかと思います。今回グーグルとの間では、確約計画の実施状況について、外部専門家の監督に基づいて行った監査の履行状況を3年間、定期的に報告するという合意をしました。確約計画で約束してもらったことが、きちんと実施されているかどうかという事後的な監視体制についても、確約計画にとっては大事な要素だと思っています。御承知のように、欧米ではトラスティと呼ばれる専門家もいます。そういうことも含めて、これまで確約計画を認定するときは、おおむね3年間報告させるという形で運用してきていますが、事案に応じて、何年間報告させるのがいいのかとか、どういう外部専門家がいるのかとか、そういう事後的なチェック体制等を含めて、先ほど19件とおっしゃったように確約計画の実績も積み上がっていますので、今後の確約制度の在り方について検討してもいい時期かもしれません。

以上

ページトップへ