
公正取引委員会の委員長を拝命しました茶谷栄治でございます。
競争政策の適正な運営を図るという責任の重大さを痛感したところでございます。これからどうぞよろしくお願いいたします。
まず、私の任務についての所信のようなものを申し述べさせていただければと思います。
デジタル化の進展など、我が国を取り巻く経済社会環境が急速に変化する中で、我が国は、人口減少あるいは少子高齢化という大きな課題を抱えています。また、日本経済が、長きにわたったコストカット型経済から脱却し、デフレに後戻りせず、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」に移行するとともに、継続的な賃上げを実現するためには企業の生産性を引き上げ、付加価値を高めることが喫緊の課題であると認識しております。
こうした中、公正かつ自由な競争を促進し、活発なイノベーションを引き出す環境を作ることで、我が国経済の活性化を図り、消費者の利益を確保していくことが極めて重要であると考えます。また、公正な競争が担保された市場の機能を通じて適正な分配が行われ、成長と分配の好循環を実現するためにも、競争政策の果たす役割は大きいものであると考えております。そして、公正かつ自由な競争を確保する公正取引委員会の役割は、我が国経済の成長、発展と社会の活力を維持する上で、極めて重要なものであると認識しております。
古谷前委員長は、4年8か月にわたり、独占禁止法等の厳正かつ適正な執行によって競争の回復を図る「エンフォースメント」と、競争環境の整備を図る「アドボカシー」を車の両輪として、デジタル化の急速な進展をはじめとする社会経済情勢の変化に対応した競争政策の積極的な推進に取り組んでこられたと認識しております。私も、その後を引き継ぎ、しっかり継承するとともに、新たな変化にも迅速かつ的確に対応しながら、競争政策を進めていく所存であります。
具体的な施策としまして、5点申し上げたいと思います。
第一に、厳正かつ的確な独占禁止法の執行を行っていくことが重要であると考えております。独占禁止法が禁じる競争制限的な行為に厳正に対処していくことは、経済の活性化、消費者の利益に資するものであります。したがいまして、国民生活に密接に関連する商品・サービスの価格カルテル事件や入札談合事件などに厳正に対処していくとともに、合併等の企業結合事案につきましては、迅速かつ厳格な審査を進めていく必要があると考えております。
第二に、中小企業にとって事業環境が厳しい中、公正な取引環境を確保する観点から、中小企業に不当に不利益を与える優越的地位の濫用、不当廉売などの不公正な取引方法や下請法違反などに厳正かつ積極的に対処するとともに、違反行為を未然に防止していくための施策を実施していくことが重要であると考えております。
特に、中小企業等を含め持続的、構造的な賃上げを実現するためには、労働生産性の向上とともに、取引の適正化を通じた労務費などのコスト上昇分の円滑な価格転嫁が不可欠であると認識しており、そうした内容を盛り込んだ下請法改正法案が先日の参議院本会議において可決、成立いたしました。今後、令和8年1月1日の施行に向けた十分な準備や周知を図っていく所存でございます。
なお、公正取引委員会は一昨年の11月に、内閣官房とともに「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表して以降、その周知徹底やフォローアップに取り組んでいます。引き続き、関係省庁と緊密に連携し、この指針の周知徹底を進めるとともに、優越的地位の濫用や下請法違反行為に対し、厳正に対処していく必要があると考えております。
また、昨年11月にフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。フリーランスに係る取引の適正化が図られるよう、同法の普及・啓発及び迅速かつ適切な法執行を行っていく必要があると考えております。
第三に、日本経済が引き続き成長を維持し、社会の活力を保っていくためには、デジタル経済の進展、グリーン社会の実現など経済社会の変化に的確に対応して競争環境を整備し、イノベーションを引き出していくことが重要であると考えております。
デジタル分野につきましては、実態把握を引き続き行い、独占禁止法上の問題点や競争政策上の考え方の整理を行っていくほか、デジタルプラットフォーム事業者による反競争的な行為には厳正に対処していく必要があると考えております。また、本年12月までに全面施行されるスマホソフトウェア競争促進法について、円滑に施行されるよう着実な準備を行った上で、実効的な法運用を行っていくことが求められていると認識しております。
さらに、デジタル以外の分野につきましても、公正取引委員会は事業者のGXに向けた取組を競争政策サイドから後押しするためにグリーンガイドラインを公表するなど、積極的に対応していると承知しています。引き続き、様々な経済社会の動きやビジネスの実態を捉えながら各種提言・ガイドラインの策定等を行うことで競争環境を整備していく必要があると考えます。
第四に、デジタル経済が進展する中で、事業者の活動は国境を越えてグローバルに広がっており、企業結合、反競争的な活動など、デジタル市場における競争上の懸念に対処するため、競争法の執行と競争政策の推進の両面において、海外競争当局と国際的な連携・協力をする必要性が一層高まっていると認識しております。そのため、新たに日本の競争当局を率いる立場として、世界の競争当局との関係性の構築、そしてその更なる発展に注力してまいりたいと考えております。
最後に、これまで述べました具体的な施策を着実に実施し、公正取引委員会に期待される役割を的確に果たしていくためにも、質・量の両面から公正取引委員会の体制強化を図っていく必要があると考えております。
以上の取組をはじめ、様々な御意見に耳を傾けながら、公正取引委員会の使命を達成すべく、他の委員とともに力を尽くしてまいる所存でございます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
公正取引委員会委員長 茶谷 栄治