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令和7年 年頭所感(令和7年1月)

令和7年 年頭所感(令和7年1月)

公正取引委員会委員長
古谷 一之

古谷一之公正取引委員会委員長顔写真

 

 新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
  少子高齢化・人口減少といった中長期的な課題を抱える日本経済の成長を維持し社会の活力を保っていくためには、企業や消費者の選択が保障され、活発なイノベーションにより付加価値を上げていく公正で自由な競争の確保が不可欠です。
  また、足許の日本経済は、政府の総合経済対策(令和6年11月閣議決定)に示されているように、長きにわたったコストカット型経済から脱却し、デフレに後戻りせず、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」に移行できるかどうかの分岐点にあります。継続的な賃上げを実現するためには、企業の生産性を引き上げ、付加価値を高めることが喫緊の課題であり、そのためにもDXとGXを柱とする成長戦略を推進していかなければなりません。
  このような中で、公正取引委員会が担うべき役割は、「競争なくして成長なし」の基本的な考え方の下で、公正で自由な競争を確保することにより経済成長を促進するとともに、付加価値の適正な分配が行われる公正な取引環境を整備することを通じて「成長と分配の好循環の実現」を競争政策で支えることにあると考えます。



1 厳正・機動的な法執行

 公正取引委員会の基本的な任務は独占禁止法などの厳正かつ機動的な法執行です。独占禁止法違反行為については、国民生活に影響が大きい分野を中心に価格カルテル等の不当な取引制限に厳正に対処するとともに、中小事業者にとっての公正な取引機会の確保の観点から、優越的地位の濫用等の不公正な取引方法に係る事案や下請法違反事案等に対して厳正かつ積極的な法執行に取り組んでいきます。法執行に当たっては、排除措置命令や課徴金納付命令に加え、技術変化のスピードが速いデジタル分野を中心に確約手続を活用するなど、多様な手法により迅速かつ効果的に競争を回復してまいります。
  確約手続に関しては、制度導入後約6年が経過し、これまでの処分事例を踏まえて、昨年、その履行確保措置を中心に運用の見直しを行いました。
  デジタル分野では、昨年4月、Googleがヤフーに対して検索エンジン等の技術提供を制限していた事案について確約計画を認定し、審査中のGoogleのプリインストールに関する事案や昨年11月に審査を開始したAmazonのマーケットプレイスの事案では、市場参加者からの意見、情報を積極的に活用しています。
 また、いわゆる「2024年問題」に直面している物流分野では、物流特殊指定違反の疑いのある行為について、確約計画の認定や警告を行いました。
 さらに、減額、買いたたき、不当な経済上の利益提供要請等の下請法違反に対して、令和5年度は過去10年間で最多となる13件の勧告を行い、今年度も12月までに11件の勧告を行うなど、積極的な法執行に取り組んでいます。
 また、このような違反事案に対する命令や勧告とあわせて、関係業界団体等へ要請等を行い、業界全体、サプライチェーン全体での取引慣行の是正を促す取組を進めています。例えば、昨年10月の損害保険会社等のカルテル事案では、排除措置命令と同時に共同保険に係る独占禁止法上の留意点等を取りまとめた上で、金融庁及び日本損害保険協会に対して業界内に周知徹底するよう要請を行いました。

2 円滑な価格転嫁のための取引適正化

 中小企業等を含め持続的、構造的な賃上げを実現するためには、労働生産性の向上とともに、取引の適正化を通じた労務費などコスト上昇分の円滑な価格転嫁が不可欠です。
  昨年は、令和5年11月に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」のフォローアップ等のための特別調査を行うとともに、指針の周知徹底を進めてきました。本年も引き続き、関係省庁と緊密に連携し、指針の周知徹底を進めるとともに、優越的地位の濫用や下請法違反事案に対して厳正に対処するなど取組を一層強化していきます。
 さらに、新たな商慣習としてサプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法の改正等に関し、昨年来、中小企業庁と共同で「企業取引研究会」を開催し、関係者等の意見を伺い検討を進めてきました。昨年12月には、検討結果を取りまとめたところであり、これを踏まえて下請法改正法案を早期に国会に提出することとしています。

3 競争政策の強化

 公正取引委員会は、デジタル経済の進展や働き方の多様化などの経済社会の変化を踏まえ、新たなルール整備や既存の規制・制度などの見直し、企業の競争法に対するコンプライアンスの向上など、競争環境の整備に積極的に取り組んでいます。
 デジタル分野では、昨年6月にスマホソフトウェア競争促進法が成立、公布されました。この新法はスマートフォンの利用に特に必要なOSやアプリストア等の特定ソフトウェアを提供する指定事業者に対して、類型的に独占禁止法に違反する行為を禁止事項として定めるなど、いわゆる「事前規制」を導入することにより、迅速かつ効果的に競争環境を整備するものです。これにより、セキュリティの確保等を図りながら、事業者の新規参入等を促進し、利用者の選択肢の拡大や利便性の向上につながることを期待しています。昨年末には、平均利用者数が4000万人以上の特定ソフトウェアを提供する事業者を指定事業者とする政令が公布、施行されました。今後は、本年末の本格施行に向けて、政令、公正取引委員会規則、ガイドラインの策定等を進めていきます。このような新法を実効的に運用するため、局長級のデジタル・国際担当の総括審議官を新設するなど、質・量両面での体制強化を行う予定です。
 GXの推進に関しては、経済界等との意見交換を踏まえ、昨年4月にグリーンガイドラインを改定し、脱炭素に向けた企業間の協調行動等に関する独占禁止法の考え方の更なる明確化を行いました。引き続き、企業のGXに向けた取組を競争政策サイドから後押ししていきます。
  働き方の多様化に関しては、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が昨年11月に施行されました。引き続き、周知広報活動に取り組むとともに、問題事例の多い業種に対する集中調査を実施するなど、フリーランスに係る取引適正化が図られるよう、迅速かつ適切な法執行を行ってまいります。

4 国際的な連携の推進

 デジタル経済が進展する中で、ビッグテックのプラットフォーム事業者の活動は国境を越えてグローバルに広がっており、企業結合、反競争的な活動への対応などデジタル市場における競争上の懸念に対処するため、競争法の執行と競争政策の推進の両面で海外当局との国際的な連携・協力の必要性が一層高まっています。
 昨年ローマで開催されたG7競争サミットでは、急速に拡大・成長する生成AIが競争に与える影響について各国から強い関心が寄せられました。G7として採択したデジタル競争共同宣言では、AIの促し得るイノベーションを享受するためにも、開放的、公正かつコンテスタブルな市場を維持することが極めて重要であるとの考え方が示されています。
  公正取引委員会も、昨年10月から生成AIの実態調査に着手しています。生成AIが促すイノベーションなどの競争促進的な側面と潜在的な競争上のリスクの両面を適切に評価しながら、急速な市場の動きに遅れないようにタイムリーな実態把握を進めていきたいと考えています。

 

 最後になりましたが、「歴史的な選挙イヤー」と言われた激動の昨年から年が改まり、迎えた新年は国際情勢の行方も予見し難い不透明な状況で始まりました。このような混沌とした変調の時代にあっても、公正かつ自由な競争を確保するという公正取引委員会の使命は揺らぐことはありません。我が国経済社会の課題解決が少しでも前に進むよう、引き続き私たちの役割を着実に果たしていきたいと改めて思い定めております。
 皆さまの公正取引委員会に対する御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、御健勝と御発展を祈念いたしまして、新年の御挨拶といたします。

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