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令和8年 年頭所感(令和8年1月)

令和8年 年頭所感(令和8年1月)

公正取引委員会委員長
茶谷 栄治

公正取引委員会委員長顔写真

 

 新年、明けましておめでとうございます。
  昨年5月に公正取引委員会委員長を拝命し、半年余りが経ちましたが、競争政策の適正な運営を図るという責任の重さを日々感じながら務めております。
  少子高齢化・人口減少といった中長期的な課題を抱える日本経済の成長を維持し社会の活力を保っていくためには、企業や消費者の選択が保障され、活発なイノベーションにより付加価値を上げていく公正で自由な競争の確保が不可欠です。
  また、足下の日本経済は、政府の総合経済対策(令和7年11月閣議決定)に示されているように、長きにわたった「デフレ・コストカット型経済」からその先にある「成長型経済」に移行する段階まで来ましたが、賃上げが物価上昇を上回る状況を実現することが喫緊の課題であり、そのためには、イノベーションを促進することで、企業の生産性を引き上げ、付加価値を高めていかなければなりません。
このような中で、公正取引委員会が担うべき役割は、「競争なくして成長なし」の考え方の下で、公正で自由な競争を確保することにより経済成長を促進するとともに、付加価値の適正な分配が行われる公正な取引環境を整備することで、「強い日本経済実現」を競争政策で支えることにあると考えます。



1 厳正・積極的な法執行

 公正取引委員会の基本的な任務は独占禁止法などの厳正かつ積極的な法執行です。独占禁止法違反行為については、国民生活に影響が大きい分野を中心に価格カルテル等の不当な取引制限に厳正に対処するとともに、中小事業者にとっての公正な取引機会の確保の観点から、優越的地位の濫用等の不公正な取引方法に係る事案や取適法、フリーランス・事業者間取引適正化等法違反事案等に対して厳正かつ積極的な法執行に取り組んでいきます。法執行に当たっては、排除措置命令や課徴金納付命令に加え、技術変化のスピードが速いデジタル分野を中心に確約手続を活用するなど、多様な手法により迅速かつ効果的に競争を回復してまいります。
  デジタル分野では、昨年4月、Googleが、アンドロイド・スマートフォンメーカーなどに対し、契約によって他の事業者の検索機能を実装させないようにしていたことなどについて、排除措置命令を行いました。
  優越的地位の濫用に関しても、排除措置命令や確約計画の認定等を行いました。
 このように単独行為に積極的に対応する一方で、事業者同士が歩調を合わせ、価格を不当につり上げ、消費者に不利益を与えることとなるカルテル・談合にも厳正に対処しています。今年度は12月時点で、長野県北信地区におけるガソリンカルテルを始めとするカルテル・談合に対して、9件の排除措置命令を行いました。
 また、取適法に関しては、令和6年度は過去10年間で最多となる21件の勧告を行い、今年度は12月時点で既に昨年度を上回る26件の勧告を行いました。このうち、6件に関しては中小企業庁長官からの措置請求案件でした。
 さらに、令和6年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法に関しては、取引条件の明示義務違反、期日における報酬支払義務違反等に関して6件の勧告を行い、取適法とあわせて、取引適正化に積極的に取り組んでいます。
 また、このような違反事案に対する命令や勧告とあわせて、関係業界団体等へ要請等を行い、業界全体、サプライチェーン全体での取引慣行の是正を促す取組を進めています。例えば、昨年12月、自動車関係事業者に対する取適法に基づく相次ぐ勧告を踏まえ、型等の無償保管、一括生産に伴う部品等の受領拒否・無償保管、量産品を前提とした単価での補給品の発注に関する注意点をまとめ、業界内に周知徹底するよう自動車製造関連の3つの事業者団体に対して要請を行いました。

2 円滑な価格転嫁のための取引適正化

 上述のとおり、賃上げが物価上昇を上回る状況を実現することが目下、政府全体の最重要の政策課題であり、中小企業等を含め持続的、構造的な賃上げを実現するためには、労働生産性の向上とともに、取引の適正化を通じた労務費などのコスト上昇分の円滑な価格転嫁が不可欠です。
  発注者・受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくため、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止、運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、面的執行の強化などを内容とする下請法改正法が昨年5月に成立・公布され、本年1月1日に施行されました。本改正により、法律名は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に改められました。実効的な規制となるよう、関係省庁と緊密に連携し、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月策定、令和8年1月改正)とともに改正法の周知徹底に努めます。
 また、あまねく全国において円滑な価格転嫁を実現するためには、取適法の対象外となる取引を含むサプライチェーン全体において適切な価格転嫁が行われる環境を整備する必要があります。引き続き、中小企業庁と共同で「企業取引研究会」を開催し、関係者等の意見を伺いながら、検討を進めていきます。

3 競争政策の強化

 公正取引委員会は、デジタル経済の進展や働き方の多様化などの経済社会の変化を踏まえ、新たなルール整備や既存の規制・制度などの見直し、企業の競争法に対するコンプライアンスの向上など、競争環境の整備に積極的に取り組んでいます。
 デジタル分野では、令和6年6月に成立、公布されたスマホソフトウェア競争促進法が昨年12月に全面施行されています。同法の全面施行に合わせ、一部のスマートフォンでブラウザや検索サービスを選択するための「チョイス スクリーン」が表示されるなど、利用者の選択肢の拡大に向けた取組が開始されています。本法は独占禁止法と異なり、指定事業者やアプリ事業者等のステークホルダーと継続的に対話しながら、指定事業者にビジネスモデルの改善を求める新たな規制の枠組みです。効果的かつ大規模な周知・広報を通じて消費者の理解を得るとともに、関係事業者が声を挙げやすい環境を醸成することで、競争環境の整備に努めてまいります。
 そのほか、デジタル分野では、昨年6月に「生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0」を公表しました。生成AIには新たなイノベーションを生み出すポテンシャルがある一方、競争政策上の観点からの潜在的なリスクがあることも踏まえ、独占禁止法上・競争政策上の考え方を整理したものです。生成AI関連市場は流動的な状況ですので、「ver.1.0」という名称のとおり、従来の実態調査よりもアジャイルに迅速かつ柔軟な方法で調査と情報更新を継続してまいります。昨年7月に新たに採用したチーフテクノロジストをはじめとする専門家の知見も十分に活用しながら、デジタル市場の競争環境の整備に取り組んでいきたいと思います。
  また、政府全体として経済安全保障の強化に向けた取組が推進されており、これに関連して、昨年11月、「経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の考え方」と「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」を公表しました。経済社会環境が急速に変化する中で、独占禁止法上の基本的な考え方を整理し、産業界に周知することで、ルール整備と予見可能性の向上に努め、事業者が独占禁止法に抵触するのではないかという漠然とした懸念を抱いて萎縮してしまうことがないよう、正しい理解の下、事業活動を行っていただくことが重要であると考えています。経済安全保障に関する取組に限らず、「開かれた公取委」として、事業活動の御相談に積極的に対応してまいりますので、事業者の皆様にも相談制度を大いに御活用いただきたいと思います。

4 国際的な連携の推進

 デジタル経済が進展する中で、ビッグテックのプラットフォーム事業者の活動は国境を越えてグローバルに広がっており、企業結合、反競争的な活動への対応などデジタル市場における競争上の懸念に対処するため、競争法の執行と競争政策の推進の両面で海外当局との国際的な連携・協力の必要性が一層高まっています。
 昨年は、各国当局との国際連携を強化するとともに、今後のデジタル市場における規制に関する議論を我が国がリードしていくほか、関係事業者等へのスマホソフトウェア競争促進法の周知・啓発を図る観点から、公正取引委員会の主催による第1回デジタル競争グローバルフォーラムを開催し、多くの海外当局職員や学識経験者、実務家、関係事業者に参加していただきました。本年も第2回フォーラムを開催し、いよいよ全面施行された同法の実効性を高めたいと思います。
  また、私自身、委員長に就任した後、海外出張により、G7競争サミットに出席したほか、韓国・米国・欧州等の競争当局トップとの意見交換を行い、国際的な関係の構築に努めてきています。このような関係を今後も維持・強化してまいります。

 

 最後になりましたが、昨年12月から今年にかけて、虎ノ門アルセアタワーへの庁舎移転が始まるとともに、スマホソフトウェア競争促進法が全面施行され、年初から取適法が施行されるなど、現在は公正取引委員会にとっては一つの節目となる時期です。加えて、年末に閣議決定された予算案では事務総局定員は995人となり、委員会を併せて、いよいよ1,000人体制となります。一方で、定員が500人台であった平成8年に事務総局制となって以降、1官房2局2部体制は変わっていません。公正取引委員会に求められる役割が増え、業務範囲が格段に広がる中、公正かつ自由な競争を確保し、我が国経済の成長と国民生活の向上に取り組むために、最も効果的な組織の在り方をしっかりと考えてまいりたいと思います。
 皆さまの公正取引委員会に対する御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、御健勝と御発展を祈念いたしまして、新年の御挨拶といたします。

 
 

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