令和3年2月10日
公正取引委員会
公正取引委員会は,レンゴー株式会社ほか36名(以下「被審人ら」という。)に対し,平成26年11月7日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,令和3年2月8日,被審人らに対し,独占禁止法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)による改正前の独占禁止法(以下「独占禁止法」という。)第66条第2項及び第3項の規定に基づき,被審人王子コンテナー株式会社,被審人福野段ボール工業株式会社,被審人北海道森紙業株式会社及び被審人浅野段ボール株式会社に対する課徴金納付命令の一部をそれぞれ取り消し,その余の審判請求を棄却する旨の審決を行った(本件平成26年(判)第3号ないし第138号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照。なお,公表する審決書においては,個人情報等に配慮し,マスキングの措置を施している。)。
1 被審人らの概要
別表1参照。
2 被審人らの審判請求の趣旨
別表2のとおり,被審人らに対する各排除措置命令及び各課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
3 主文の内容
(1)ア 平成26年6月19日付け課徴金納付命令(平成26年(納)第116号(注1))のうち,被審人王子コンテナー株式会社(以下「被審人王子コンテナー」という。)に対し,4億8642万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消す。
イ 平成26年6月19日付け課徴金納付命令(平成26年(納)第140号(注1))のうち,被審人福野段ボール工業株式会社(以下「被審人福野段ボール工業」という。)に対し,1050万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消す。
(2)ア 平成26年6月19日付け課徴金納付命令(平成26年(納)第163号(注2))のうち,被審人王子コンテナーに対し,12億8673万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消す。
イ 平成26年6月19日付け課徴金納付命令(平成26年(納)第173号(注2))のうち,被審人北海道森紙業株式会社(以下「被審人北海道森紙業」という。)に対し,6586万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消す。
ウ 平成26年6月19日付け課徴金納付命令(平成26年(納)第191号(注2))のうち,被審人浅野段ボール株式会社(以下「被審人浅野段ボール」という。)に対し,2904万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消す。
(3) 被審人王子コンテナー,被審人福野段ボール工業,被審人北海道森紙業及び被審人浅野段ボールのその余の審判請求並びにその余の被審人らの審判請求をいずれも棄却する。
(注1)後記5(1)の段ボールシートカルテルに係る課徴金納付命令
(注2)後記5(2)の段ボールケースカルテルに係る課徴金納付命令
4 本件の経緯
平成26年 | 6月19日 | 排除措置命令及び課徴金納付命令 |
7月22日 ~8月15日 |
被審人らから排除措置命令及び課徴金納付命令に対して審判請求 |
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11月 7日 | 審判手続開始 | |
12月18日 | 第1回審判 |
↓※
令和 2年 | 1月30日 | 第15回審判(審判手続終結) |
8月24日 ~25日 |
審決案送達 |
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9月 7日 ~ 8日 |
被審人らから異議の申立て及び直接陳述の申出 |
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11月18日, 25日 |
直接陳述の聴取 |
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令和 3年 | 2月 8日 | 審決 |
※ 平成30年1月17日に,当初併合されていた平成26年(判)第139号ないし第142号レンゴー株式会社ほか1名に対する件(大口需要者向け段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件)と分離することが決定された。
5 原処分の原因となる事実
(1) 段ボールシートカルテル事件
被審人32社(注3)は,他の段ボールシート製造業者25社と共同して,特定段ボールシート(注4)の販売価格を引き上げる旨合意する(以下,この合意を「本件シート合意」という。)ことにより,公共の利益に反して,特定段ボールシートの販売分野における競争を実質的に制限していた。
被審人32社の本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,別表3-1の各被審人に係る「実行期間」欄記載のとおりであり,独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は,同表の各被審人に係る「課徴金額」欄記載のとおりである。
(注3)別表1の「段ボールシート」欄に○のある32社
(注4)購入価格等の取引条件の交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に販売される外装用段ボール(日本工業規格「Z 1516:2003」)である段ボールシートのうち,当該需要者の東日本地区(北海道,青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,山梨県,長野県及び静岡県。以下同じ。)に所在する交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき当該需要者に販売されるもの
(2) 段ボールケースカルテル事件
被審人37社(注5)は,他の段ボールケース製造業者26社と共同して,特定段ボールケース(注6)の販売価格を引き上げる旨合意する(以下,この合意を「本件ケース合意」という。)ことにより,公共の利益に反して,特定段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限していた。
本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,別表3-2の各被審人に係る「実行期間」欄記載のとおりであり,独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は,同表の各被審人に係る「課徴金額」欄記載のとおりである。
(注5)別表1の「段ボールケース」欄に○のある37社
(注6)購入価格等の取引条件の交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に販売される外装用段ボール日本工業規格「Z 1516:2003」)で作った段ボールケースのうち,当該需要者の東日本地区に所在する交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき当該需要者に販売されるもの
6 審決の概要
(1) 本件の争点
ア 本件シート合意及び本件ケース合意(以下,一括して「本件各合意」という。)による共同行為がされた事実があるか否か(行為要件の有無)(争点1)
(ア) 三木会(注7)における本件各合意の成否(争点1(1))
(イ) 支部会等を通じた本件各合意への参加の有無(争点1(2))
(ウ) 他の事業者の本件各合意への参加の有無(争点1(3))
イ 本件各合意が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったか否か(効果要件の有無)(争点2)
(ア) 一定の取引分野の範囲(争点2(1))
(イ) 競争の実質的制限の有無(争点2(2))
ウ 本件各排除措置命令の適法性(争点3)
(ア) 排除措置命令の必要性(争点3(1))
(イ) 排除措置の内容の相当性(争点3(2))
エ 本件各課徴金納付命令の適法性(争点4)
(ア) 課徴金の算定期間(実行期間)(争点4(1))
(イ) 課徴金の算定対象となる商品の該当性及び売上額(争点4(2))
(ウ) 課徴金の算定率(争点4(3))
(注7)被審人らが組合員となっている東日本段ボール工業組合の組織で,その規約上,同組合員の地位向上のため,全国段ボール工業組合連合会及び東日本段ボール工業組合理事会決議事項の伝達,組合員に共通する課題に関する情報又は資料の提供等を目的とする,理事会の下に置かれた組織
(2) 争点に対する判断の概要
ア 争点1について
複数の事業者が対価を引き上げる行為が,独占禁止法第3条の規定により禁止されている「不当な取引制限」(同法第2条第6項)にいう「共同して」に該当するというためには,当該行為について,相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解されるところ,ここにいう「意思の連絡」とは,複数の事業者の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し,これと歩調をそろえる意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識して認容するのみでは足りないものの,事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。
(ア) 三木会の出席各社の間における意思の連絡の存在について(争点1(1))
従前から東日本段ボール工業組合(以下「東段工」という。)の三木会及び支部の会合は,段ボールメーカーによる段ボール製品(注8)の販売価格の維持や引上げを行うための情報交換の場としても利用されていた。こうした慣行の下,平成23年8月下旬に段ボール製品の値上げを公表した被審人レンゴー株式会社(以下「被審人レンゴー」という。)が同年9月22日に開催された三木会で,同社に続いて同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施するよう働きかけた。その後,被審人王子コンテナーなどが段ボール製品の値上げを決定していたところ,こうした状況下で10月17日に開催された三木会(以下「10月17日三木会」とういう。)において,司会を務めていた三木会の会長から段ボール製品の値上げの方針を発表するよう促されるや,本部役員会社の各出席者は,それぞれ値上げを行う意向を表明するとともに,各支部の支部長等においても自社の値上げの方針のほか支部管内における値上げに向けた動きなどについて発表した。各社の値上げ方針は,被審人レンゴー及び被審人王子コンテナーが公表した値上げ幅と同程度のもので,値上げの意向は示しつつ,具体的な値上げ幅については表明していなかった社も,従前から被審人レンゴーや被審人王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標に段ボール製品の値上げが行われてきた実態から,本件当時も,これらと同様の方針で段ボール製品の値上げを実施することになることは,出席各社の間で共通の認識となっていたものと認められる。そして,会長が,これらの発言を受け,「皆さん頑張って値上げに向けて取り組みましょう。」などと発言するとともに,幹事長も,当会合の終了時の挨拶の中で,「各社とも,しっかり頑張っていきましょう。」などと発言したのは,その内容や経過に照らし,上記会合の結果,各社とも今後協調して段ボール製品の値上げを実施することになったとの認識を示したものと認められる。
以上によれば,10月17日三木会において,出席各社の間で,段ボールシートの販売価格について,現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上,段ボールケースの販売価格について,現行価格から12パーセントないし13パーセント以上引き上げることが確認され,相互に歩調をそろえながらこうした値上げを行うとの意思が形成され,その旨の意思の連絡が成立したものと認めるのが相当である。
(注8)段ボールシートと段ボールケースの両方又はいずれかを指す。
(イ) 支部会等の出席各社の間における意思の連絡の存在について(争点1(2))
東段工支部の会合は,従前から,段ボールメーカーによる段ボール製品の価格の維持や引上げを行うための情報交換の場として利用されていたところ,平成23年8月下旬に段ボール製品の値上げを公表した被審人レンゴーにおいて,各支部における支部会等で,これらの値上げの方針を発表して,他の事業者にも値上げの方針を表明するよう促すなどしていたのは,自社の公表した段ボール製品の値上げを成功させるため,他の事業者においても被審人レンゴーに続いて同程度の値上げ幅で共に値上げを実施するよう働きかけたものであり,他の事業者においても,従前の慣行から,被審人レンゴーのこうした意図を理解していた。その後,平成23年10月中旬以降開催された本件支部会等においては,出席各社のうち,大手の段ボールメーカーをはじめとする事業者においては,自社の段ボール製品について軒並み具体的な値上げ幅を発表するなどしながら値上げの意向を表明するなどしていたところ,その値上げ幅は,被審人レンゴー及び被審人王子コンテナーが公表した値上げ幅と同程度のものであった。他方,本件支部会等に出席していた事業者のうち,地場の段ボールメーカー等の中には,具体的な値上げ幅については発表していなかった事業者や値上げの意向自体を明確には表明していなかった事業者が存在するものの,従前の慣行から,これら事業者も大手の段ボールメーカーに追随して値上げを行うことになることは出席者の間で共通の認識となっていたと認められる。
以上によれば,本件支部会等においても,出席各社の間で,段ボールシートの販売価格について,現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上,段ボールケースの販売価格について,現行価格から12パーセントないし13パーセント以上引き上げることが確認され,相互に歩調をそろえながらこうした値上げを行う意思が形成され,その旨の意思の連絡は存在したものと認めるのが相当である。
(ウ) 支部会等の出席各社による三木会の意思の連絡への参加について(争点1(3))
10月17日三木会において,前記(ア)のとおり,出席各社の間で,東段工管内全体で段ボール製品の値上げを実施していくことが確認され,各支部においても,前記(イ)のとおり,10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することが確認された。その後に開催された三木会においては,各支部の支部長等からそれぞれの管内で行われていた段ボール製品の値上げの実施状況について報告がされていたところ,実際にはこれらの値上げ活動が円滑に進んでいない状況を踏まえ,段ボールケースに先立ち値上げが実施されるべき段ボールシートについて,値上げ交渉が難航しているボックスメーカーなど東段工管内に所在するユーザーをリストアップして開催したシート部会において,各地域で行われている小部会の幹事等から当該ユーザーの交渉状況について報告を受けながらこれらの値上げ活動の対策について協議していたほか,支部所属の組合員のうち,値上げの実施が遅れている事業者に対しては,当該支部で値上げ活動を進めるよう働きかけを行うことが確認されるなど,三木会において各支部の管内における値上げ実施状況の把握と値上げ活動の促進が図られていた。
以上の事実関係によると,本件当時も,東段工管内の段ボールメーカーの間で協調して段ボール製品の値上げを実施するための情報交換の場として三木会及び各支部の会合が利用されたというべきところ,これらの協調行為は,段ボール製品の値上げについては,大手の段ボールメーカーであっても他の事業者と共に行わなければこれを実現するのが困難であるという認識の下,被審人レンゴーをはじめとして本部役員会社を構成する大手の段ボールメーカーが,管内の地場の段ボールメーカーとも各支部の会合を通じて協調しながら東段工管内全体で値上げを実施するため,その主導により,組織的に一連のものとして行われたものであり,これにより各支部管内で行われた段ボール製品の値上げには三木会で成立した合意による拘束が及んでいたものと認められる。
一方,本件支部会等のうち,5つの支部会等においては,それぞれ当該会合の冒頭で,支部長等から10月17日三木会において段ボール製品の値上げを実施することが確認された旨の報告をした上で,出席各社の間でもその旨の確認がされたのである。他方,その余の6つの支部会等については,支部長等を通じて10月17日三木会で段ボール製品の値上げを実施することが確認された旨の報告がされた事実を認めるに足りる確たる証拠もない。しかしながら,いずれの事業者も,従前から三木会,支部会等が,協調して段ボール製品の値上げを行うための情報交換の場として利用されていた慣行が存在していたことを理解していたことは容易に推認される。そして,本件当時行われた段ボール製品の値上げも,段ボール原紙の値上がりを理由とするものであって,これに伴い段ボール製品について足並みをそろえて値上げを行うことは,各地域において共通した課題であったのであり,これまでも段ボール原紙の値上がりを理由として一部の地域のみで値上げが実施されたことがなかったとみられることからすれば,上記各支部会等において10月17日三木会の報告がされていなかったとしても,これに出席した事業者においては,従前からの慣行により,当該支部会等で値上げの表明をしていた被審人レンゴーなどの大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識していたとみられる状況にあったということができる。この点,段ボール原紙の値上がりを理由としながら,一部の地域のみで段ボール製品の値上げを実施しようとしても,ユーザーから他の地域の動向について引き合いに出されれば値上げの実施に支障が生じ得ることは容易に想定できるところ,段ボール製品の供給について地域ごとの実情があるとしても,いずれも段ボール原紙から日本工業規格に基づき製造される段ボール製品について他の地域の価格動向の影響を受けないというべき事情もみられないことからすれば,大手の段ボールメーカーのみならず,地場の段ボールメーカーにおいても,他の地域の事業者とも足並みをそろえて値上げを実施すべき理由があったことは否定できない。
以上によれば,本件支部会等に出席した事業者においては,当該会合で10月17日三木会の報告がされていたか否かにかかわらず,当該支部を代表して三木会に出席していた支部長等又は三木会を構成する本部役員会社に所属する営業責任者等の促しにより,10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することを出席各社の間で確認したことをもって,これらの者を介して,10月17日三木会で成立した意思の連絡に参加したものと認めるのが相当である。この点,本件支部会等に出席した地場の段ボールメーカーの中に,三木会及び他の支部の会合においても同様の情報交換がされているとの具体的な認識を欠く者が含まれていたとしても,上記の協調行為について成立する意思の連絡の範囲がこれらの個別の事業者の認識により左右されるものではない。
イ 争点2について
(ア) 一定の取引分野の範囲について(争点2(1))
独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野」とは,当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり,その成立する範囲は,当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当である。
本件各合意における情報交換の対象となった段ボール製品の値上げについて,その地理的な範囲に東段工の管轄地域である東日本地区が含まれることは明らかであるところ,これらの値上げ交渉が需要者の交渉担当部署との間で行われることを踏まえ,需要者の交渉担当部署の所在地を基準として,その範囲を画定すると,交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に対し,当該交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき販売される段ボール製品は,少なくとも本件各合意の対象に含まれるものであったと認められる。また,これらの事情に照らすと,本件各合意により影響を受ける範囲も同様と解するのが相当である。
以上によれば,本件シート合意に係る一定の取引分野は,特定段ボールシートの販売分野であり,本件ケース合意に係る一定の取引分野は,特定段ボールケースの販売分野と認めるのが相当である。
(イ)競争の実質的制限の有無について(争点2(2))
独占禁止法第2条第6項が定める「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,共同して商品の販売価格を引き上げる旨の合意がされた場合には,その当事者である事業者らがその意思で,ある程度自由に当該商品の販売価格を左右することができる状態をもたらすことをいうものと解する。そして,販売価格の引上げに係る合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたか否かは,当該合意の当事者である事業者らのシェアの高さによってのみ判断するのではなく,上記の観点から,これらのシェアの高さに応じて,当該合意の当事者ではない他の事業者がどの程度競争的に振舞い,価格引上げをけん制することができるか等の諸事情も考慮してこれを判断するのが相当である。
a 本件各合意に係る当事者のシェアについて
特定段ボールシートについては,本件シート合意成立時において,その合意の当事者となった段ボールシートカルテル事件三木会出席11社(被審人32社のうち10月17日三木会に出席していた11社をいう。以下同じ。)のシェアは,4割余りである。また,特定段ボールケースについても,本件ケース合意成立時において,その合意の当事者となった段ボールケースカルテル事件三木会出席12社(被審人37社のうち10月17日三木会に出席していた12社をいう。以下同じ)のシェアは,4割余りである。さらに,10月17日三木会出席12社のうち,4社(被審人レンゴー,被審人王子コンテナー,被審人森紙業株式会社及び大王製紙パッケージ株式会社)とグループ関係にある被審人15社は,本件各合意の成立に先立ち,既にそれぞれ自社の親会社等から段ボールシート及び段ボールケースの値上げの方針が示されており,その意向が及んでいたことを踏まえ,特定段ボールシートについて,段ボールシートカルテル事件三木会出席11社に上記15社を加えた26社のシェアでみると,その割合は6割余りとなるのであり,また,特定段ボールケースについて,段ボールケースカルテル事件三木会出席12社に上記15社を加えた27社のシェアでみると,その割合は5割余りとなり,いずれもシェアは過半を占めることになる。
b 他の事業者の価格けん制力について
段ボールメーカーの間では,従前から被審人レンゴー及び被審人王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として足並みをそろえて値上げを行う必要があると認識されるなど,本件シート合意成立当時,その当事者である段ボールシートカルテル事件三木会出席11社又はこれに上記グループ会社15社を加えた26社による販売価格の引上げに対し,他の事業者が競争的に振舞い,これらの価格引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあったということができる。特定段ボールケースについては,ボックスメーカーも競合する事業者となるが,ボックスメーカーは,コルゲータ保有メーカーと比べ事業規模が小さい事業者が多く,コルゲータ保有メーカーから段ボールシートを仕入れる関係上,段ボールケースの販売について,価格面でコルゲータ保有メーカーと競争することは困難であって,段ボールシートの販売価格が引上げられれば,ボックスメーカーにおいても段ボールケースの販売価格を引上げる傾向にあったことからすれば,同様に,本件ケース合意成立当時,その当事者である段ボールケースカルテル事件三木会出席12社又はこれに上記グループ会社15社を加えた27社による販売価格の引上げに対し,ボックスメーカーを含む他の事業者が競争的に振舞い,これらの価格の引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあったということができる。
c 小括
特定段ボールシートについて,段ボールシートカルテル事件三木会出席11社が本件シート合意を成立させるとともに,特定段ボールケースについて,段ボールケースカルテル事件三木会出席12社が本件ケース合意を成立させたことをもって,いずれもその意思である程度自由に販売価格を左右することができる状態をもたらしたと認めることができる。そして,本件各事業者のうち,その余の事業者らが後日本件各合意に順次参加したことにより,そのシェアは,特定段ボールシートについて8割を超えるものとなり,特定段ボールケースについて6割を超えるものとなるのであり,かかる市場支配は強固なものとなったということができる。これらによれば,本件各合意は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったことは明らかである。
ウ 争点3について
(ア) 排除措置命令の必要性について(争点3(1))
本件各違反行為が終了してから本件各排除措置命令がされるまで2年余りが経過していることを踏まえても,被審人らを含む本件各事業者において再び東段工の会合を利用するなどして同様の違反行為を繰り返すおそれがあることは否定できず,また,本件各違反行為が終了したことのみをもって当該取引分野における競争秩序の回復が十分にされたものということもできないから,公正取引委員会が本件各違反行為につき特に必要があると認め,排除措置を命じたことについて,裁量の逸脱,濫用があるということはできない。
(イ)排除措置の内容の相当性について(争点3(2))
本件各排除措置命令は,名宛人の各事業者に対し,特定段ボールシート及び特定段ボールケースについて,今後他の事業者と共同して販売価格を決定したり,販売価格の改定に関する情報交換をすることを禁止するとともに(各主文第3項及び第4項),これらの行為をしないことなどを取締役会において決議した上(各主文第1項),その旨取引先である商社等に通知し,かつ自社の従業員に周知徹底させるほか(各主文第2項),上記各措置を公正取引委員会に報告すること(各主文第5項)を内容とするものであって,いずれも本件各違反行為が排除されたことを確保するのに必要な事項であると認められ,その内容においても裁量の逸脱,濫用があるということはできない。
エ 争点4について
(ア) 課徴金の算定期間(実行期間)について(争点4(1))
独占禁止法第7条の2第1項は,「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を課徴金の算定対象となる商品の売上額に係る算定の始期としている。この実行期間の始期については,違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い,その日からの値上げへ向けて交渉が行われた場合には,当該予定日以降の取引には,当該合意の拘束力が及んでいると解され,現実にその日に値上げが実現したか否かに関わらず,その日において当該行為の実行としての事業活動が行われたものと認められる。
本件各合意は,対象となる特定段ボールシート及び特定段ボールケースの値上げの実施時期について定めていないことから,原則としてこれらのユーザーに対して申し入れた値上げの実施予定日のうち最も早い日(①)が実行期間の始期となる。もっとも,平成23年10月17日の本件各合意成立時点又は本件各合意への参加時点で,ユーザーに対して既にこれらの値上げを申し入れていた事業者については,前記各時点より前の事業活動は,当該行為の実行としての事業活動とは認められないから,値上げ交渉の結果,値上げした価格で,本件各合意成立又は本件各合意への参加以降に当該商品を引き渡した最初の日(②)が上記①より前である限り,これが実行期間の始期となる。すなわち,上記①又は上記②のいずれかのうち,最も早い日が実行期間の始期となるところ,被審人らから提出された報告書によれば,これに当たる日は,特定段ボールシート事件違反行為につき,別表3-1の「実行期間の始期」欄記載の各日であり,段ボールケースカルテル事件違反行為につき,別表3-2の同欄記載の各日であると認められる。
被審人らを含む本件各事業者は,それ以降,特定段ボールシート及び特定段ボールケースの販売価格に関する情報交換を行っていたものであるが,平成24年6月5日に,公正取引委員会の立入検査が行われたことを契機にこれらの情報交換をやめているから,同日をもって,本件各違法行為は終了し,当該行為の実行としての事業活動はなくなったものと認められる。
(イ) 課徴金の算定対象となる商品の該当性及び売上額について(争点4(2))
a 独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち違反行為の対象商品の範ちゅうに属し,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるが,課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金の算定の対象となる商品に含まれ,違反行為者が実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の計算の基礎となる売上額となると解する。
b 段ボールシートカルテル事件違反行為について,その対象商品の範ちゅうに属するものは,特定段ボールシートであり,段ボールケースカルテル事件違反行為について,その対象商品の範ちゅうに属するものが特定段ボールケースであるから,上記の特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束が及んでいるものとして,これらが課徴金の算定対象となる商品に当たることになる。
c かかる対象商品の該当性及び売上額の認定に関する被審人らの主張については,以下の(a)~(d)を除き,採用できない。
(a)「当て紙」に係る売上げを除外すべきであるという点について
証拠によれば,当て紙は,新聞用紙巻取等の鏡面を保護するための緩衝材として円形に切断加工されるものであって,日本工業規格「Z 1516:2003」にいう外装用段ボール箱の製造に用いる外装用段ボールではないから,外装用段ボールと定義されている特定段ボールシート及び外装用段ボールで作った箱と定義されている特定段ボールケースに当たらないものと認められる。
以上によれば,上記の当て紙に係る売上げは,課徴金の算定対象となる商品の売上額から除外すべきものと認めるのが相当である。
(b) 加工委託用段ボール製品の売上げを除外すべきであるという点
証拠によれば,被審人王子コンテナー及び静岡王子コンテナーは,自社の設備では対応できない特殊加工が必要な場合等に,ボックスメーカーに対し,その原材料となる段ボールシート又は段ボールケースを販売した上で,当該ボックスメーカーにおいてこれらを加工して仕上げた販売用段ボールケースを買い取り,発注先のユーザーに販売するという取引を行っていたものであるが,かかる原材料の段ボール製品の販売価格については,当該ボックスメーカーとの間で,販売用段ボールケースの買取価格と連動して定められていたものであり,その実態は,被審人王子コンテナー及び静岡王子コンテナーが当該ボックスメーカーに対し,有償で原材料となる段ボール製品を支給した上で,販売用段ボールケースの買取価格と原材料となる段ボール製品の販売価格との差額に相当する加工賃でその加工を委託する取引であったと認められ,違反行為である相互拘束の対象から除外されたことを示す特段の事情があったということができるから,これらの売上げは課徴金の算定対象となる商品の売上額から除外すべきものと認めるのが相当である。
(c) 「特値」を反映した価格で段ボールシートの売上額を認定すべきであるという点
証拠によると,被審人福野段ボール工業の段ボールシートにおける特値に係る処理は,審査官が主張するような事後的な売掛金の減額ではなく,受注時の取引先からの依頼により価格を修正したものと認めるのが相当であるから,かかる修正後の価格により課徴金の算定基礎となる売上額を認定するのが相当である。そうすると,上記差額に相当する分を当該課徴金納付命令において課徴金の算定基礎とされた売上額から控除すべきことになる。
(d) 特定段ボールケースの定義に当てはまらない段ボールケースの売上げを除外すべきであるという点
証拠によれば,被審人浅野段ボールが愛知県内に本店がある2社に対して販売した段ボールケースは,東日本地区外に所在する上記2社の交渉担当部署との間で取り決められた取引条件に従って販売されたものであり,本来,特定段ボールケースに当たるものではないところ,これらの売上げが当該課徴金納付命令において認定された商品の売上額に含まれる結果となったのは,被審人浅野段ボールの報告に誤りがあったことによるものと認められ,上記の段ボールケースの売上げは,当該商品の売上額から除外すべきことになる。
(ウ)課徴金の算定率について(争点4(3))
被審人らは,いずれも段ボール製品の製造業を営んでいた者であるから,独占禁止法第7条の2第1項の柱書に規定する「小売業」及び「卸売業」には当たらないと認められる。また,被審人らから提出された報告書によれば,段ボールシートカルテル事件被審人のうち別表3―1の「中小企業の軽減算定率の適用」欄に記載のある各事業者及び段ボールケースカルテル事件被審人のうち別表3―2の同欄に記載のある各事業者は,実行期間を通じ,当該記載のとおり,資本金の額が3億円以下又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社であって,段ボール製品等の製造を「主たる事業」として営んでいた者に当たると認められるから,独占禁止法第7条の2第5項第1号所定の軽減算定率が適用されるものであるが,その余の被審人らは,いずれも資本金の額が3億円を超え,かつ常時使用する従業員の数が300人を超える会社であると認められるから,同号所定の軽減算定率は適用されない。
以上によれば,被審人らに適用すべき課徴金の算定率は,別表3-1及び3-2の「課徴金の算定率」欄記載の各割合となる。
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