令和3年6月25日
公正取引委員会事務総局
中部事務所
第1 独占禁止法違反事件等の処理状況
1
公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。また,IT・デジタル関連分野や農業・漁業分野における独占禁止法違反被疑行為など,社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に取り組んでいる。
そして,公正取引委員会は,一般から提供された情報(申告),自ら探知した事実等を検討し,必要な審査を行い,審査の結果,違反行為が認められたときは,違反行為をした事業者等に対し,違反行為を排除するために必要な措置等を命じている。違反行為のうち,価格カルテル・入札談合・受注調整,優越的地位の濫用等については,違反行為をした事業者に対して課徴金の納付を命じている。また,違反被疑行為について公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認められるときは,確約手続を適用し,事業者と協調的な問題解決を図っている。
2 最近の独占禁止法違反事件等の処理状況(不当廉売事案で迅速処理したもの及び優越的地位の濫用事案で注意したものを除く。)
最近の5年間における中部地区の独占禁止法違反事件等の処理状況は,次のとおりである。
処理内容/年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
審査件数 | 前年度からの繰越し | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | |
年度内新規着手 | 18 | 7 | 15 | 2 | 3 | ||
合計 | 19 | 7 | 15 | 3 | 4 | ||
処理件数 | 法的措置(注1) | 排除措置命令等 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 |
その他 | 警告(注2) | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | |
注意(注3) | 7 | 5 | 13 | 1 | 3 | ||
打切り(注4) | 11 | 0 | 1 | 0 | 0 | ||
小計 | 18 | 7 | 14 | 1 | 3 | ||
合計 | 20 | 7 | 14 | 2 | 3 | ||
次年度への繰越し | 0(注5) | 0 | 1 | 1 | 1 |
(注1)「法的措置」とは,排除措置命令,課徴金納付命令及び確約計画の認定であり,一つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令が共になされている場合には,法的措置件数を1件としている。
(注2)「警告」とは,排除措置命令を採るに足る証拠が得られないが,違反の疑いがある場合に行う措置である。
(注3)「注意」とは,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,将来違反につながるおそれがある場合に行う措置である。
(注4)「打切り」とは,違反行為が認められない等により,審査を打ち切る場合をいう。
(注5)一つの事件において2件の排除措置命令を行ったため,件数は一致しない。
3 独占禁止法違反事件等の概要
(1)価格カルテル
愛知県立高等学校6校の制服の販売業者が,販売価格を引き上げる旨を合意していた。(令和2年7月1日 排除措置命令(6件))
◯ 愛知県教育委員会に対する通知(令和2年7月1日)
本件の審査結果を踏まえ,前記6校を所管する愛知県教育委員会に対し,愛知県立高等学校の生徒が着用する制服の販売に関して留意すべき事項を通知した。
(2)優越的地位の濫用
公正取引委員会は,優越的地位の濫用に係る情報に接した場合には,効率的かつ効果的な調査を行い,独占禁止法違反につながるおそれのある行為が認められた場合には,未然防止の観点から注意するほか,独占禁止法違反が認められた場合は厳正に対処することとしている。
なお,令和2年度においては,中部地区で8件の注意を行ったところ,その主な事例は以下のとおりである(注)。
(注) 次の各事例は,記載された行為が行われていた疑いがあり,独占禁止法違反につながるおそれがあったものである。
ア スーパーマーケットを運営し,食料品等の小売業を営むAは,一部の納入業者に対し,店舗の新規開店等に当たり,従業員等の派遣を要請し,他社商品を含む商品の陳列作業等を行わせているにもかかわらず,その派遣に通常必要となる費用を負担していなかった。
イ 旅館を運営し,宿泊業を営むBは,取引先事業者に対し,事業の遂行上必要としない商品であるにもかかわらず,発注担当部署の者等からBの旅館で開催するクリスマスディナーショーのチケット,Bの旅館及び姉妹ホテルで利用可能な宿泊券及び食事券の購入を要請していた。
ウ 衣料品の小売業を営むCは,納入業者に対し,店舗の新規開店,改装開店及び閉店に係るセールの実施に当たり,それらセールへの協賛として,あらかじめセール対象商品の店頭小売価格を示した上で納入業者に納入価格を引き下げさせ,納入業者の仕入価格を下回る価格で納入させていた。
(3)不当廉売
不当廉売は,総販売原価を著しく下回る価格で継続して販売するほか,不当に低い価格で販売することにより,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれのある行為であり,独占禁止法第19条で禁止されるものである。申告のあった小売業に係る不当廉売事案については,迅速に処理するとの方針の下で対処しているほか,大規模事業者による不当廉売等周辺の中小事業者に対する影響が大きいと考えられる事案については厳正に対処することとしている。
なお,迅速に処理するとの上記方針の下,令和2年度においては,石油製品等の小売業について,不当廉売につながるおそれがあるとして中部地区で18件の注意を行った。
(4)その他(不公正取引等)
次の各事例は,記載された行為が行われていた疑いがあり,独占禁止法違反につながるおそれがあったため,注意を行った。
なお,後記アの事案については,中部事務所管内に所在する主要なタクシー事業者の団体に対し,注意の対象となった行為の概要を周知した。
ア タクシー事業を営む事業者を会員とする団体Dは,
① 団体Dが定める入構章を掲げた会員のタクシーでなければ公共交通機関の甲駅のタクシー乗り場を使用することができない旨を定めていた。
② 同タクシー乗り場を利用することができるタクシーの台数の上限を定めるとともに,これを会員に割り当てていた。
③ 同タクシー乗り場から100メートルの範囲内(同タクシー乗り場を除く。)で会員が客を乗せることを禁止する旨を定めていた。
イ 眼鏡小売業を営むEは,①競合する他の眼鏡小売業者(以下「当該眼鏡小売業者」という。)に対し,眼鏡フレームの製造業者及び同卸売業者(以下「フレームメーカー等」という。)を通じて,当該眼鏡小売業者の販売価格を引き上げることを要請し,②当該眼鏡小売業者に対し,フレームメーカー等を通じて,眼鏡フレームを当該眼鏡小売業者の店頭から撤去することを要請し,また,③フレームメーカー等に対し,当該眼鏡小売業者に対する眼鏡フレームの供給を停止させていた。
ウ 陶磁器製造業を営むFは,自社が製造販売する商品乙について,①自社の公式オンラインストアにおいて販売されている価格(以下「ホームページ価格」という。)よりも低い価格で商品乙を販売している小売業者に対し,卸売業者を通じて,又は直接,商品乙の販売価格をホームページ価格と同額に引き上げるよう要請し,②ホームページ価格よりも低い価格で商品乙を販売している小売業者に商品乙を販売している卸売業者に対し,当該小売業者への販売価格を引き上げるよう要請した。
第2 企業結合関係届出及び協同組合届出の状況
1 企業結合関係届出
独占禁止法では第4章において,事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止(第9条)及び銀行業又は保険業を営む会社の議決権取得・保有の制限(第11条)について規定しているほか,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式取得・所有,役員兼任,合併,分割,共同株式移転及び事業譲受け等の禁止並びに一定の条件を満たす企業結合についての届出義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定している。
公正取引委員会は,これら株式取得・所有,合併等に係る独占禁止法上の問題の有無について審査を行っている。
最近5年間における中部地区の企業結合関係届出の状況は,次のとおりである。
平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | |
---|---|---|---|---|---|
株式取得届出受理 | 4 | 6 | 9 | 4 | 5 |
合併届出受理 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 |
分割届出受理 | 1 | 0 | 2 | 1 | 0 |
共同株式移転届出受理 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
事業譲受け等届出受理 | 1 | 0 | 0 | 2 | 1 |
合計 | 6 | 6 | 12 | 10 | 7 |
2 協同組合届出
中小企業等協同組合法は,同法に基づき設立された事業協同組合及び信用協同組合に対し,同法第7条第1項第1号に規定する小規模事業者以外の事業者が加入したとき又は組合員が同小規模事業者でなくなったときには,その旨を公正取引委員会に届け出ることを義務付けている(同法第7条第3項)。
最近5年間における中部地区の協同組合届出件数は,次のとおりである。
平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 |
---|---|---|---|---|
35 | 29 | 41 | 46 | 26 |
第3 広報・広聴活動
公正取引委員会は,独占禁止法等の普及・啓発及び競争政策の運営に資するため,次のような広報・広聴活動を行っている。
1 独占禁止政策協力委員制度
競争政策への理解の促進と地域の経済社会の実情に即した政策運営に資するため,独占禁止政策協力委員制度を設置しており,公正取引委員会が行う広報活動等に御協力いただくとともに,独占禁止法等の運用や競争政策の運営等について意見聴取を行っている。
令和2年度においては,(1)変化する社会経済環境における公正取引委員会に対する期待,(2)地域経済の実情と競争政策上の課題,(3)優越的地位の濫用規制・下請法の規制,(4)競争環境の整備に係る調査・提言,(5)消費税転嫁対策,(6)広報・広聴活動などについての意見聴取を行った。
2 有識者との懇談会
各地の有識者と公正取引委員会の委員等との懇談会及び講演会を通して,競争政策についてより一層の理解を求めるとともに,幅広く意見及び要望を把握し,今後の競争政策の有効かつ適切な推進を図るため,毎年,全国各地において有識者との懇談会を開催している。
中部地区では,令和2年度はオンライン方式により,岐阜地区における有識者(岐阜県中小企業団体中央会,岐阜商工会議所,報道機関,学識経験者,消費者団体)と公正取引委員会委員との懇談会を実施した。
このほか,中部事務所長等と各地の有識者との懇談会を開催しており,令和2年度は,いずれもオンライン方式により,名古屋市,愛知県一宮市及び豊橋市,金沢市,石川県加賀市及び小松市,岐阜市,静岡市(3か所),富山市(2か所),富山県魚津市,津市,三重県鈴鹿市及び四日市市の経済団体等との間で,懇談会を計16回開催した。また,中部地区の弁護士会との懇談会を6回開催した。
3 独占禁止法説明会等
公正取引委員会は,独占禁止法等の違反行為の未然防止を図るため,説明会・講習会等を自ら主催しているほか,各種業界団体等から要請を受けて講習会等へ講師を派遣している。
中部地区では,令和2年度は独占禁止法に関する説明会等をオンライン方式により2回実施した。また,入札談合等関与行為防止法に関する研修会等を23回(うちオンライン方式20回)実施した。
4 独占禁止法教室(出前授業)
将来を担う中学生,高校生,大学生等を対象に,市場経済の仕組みや競争の機能について説明するなどし,競争の必要性・重要性,独占禁止法の役割等について理解してもらうことを目的として,公正取引委員会の職員による「独占禁止法教室」を開催している。
中部地区では,令和2年度は中学生向け独占禁止法教室を1回,高校生向け独占禁止法教室を3回,大学生向け独占禁止法教室を24回(うちオンライン方式23回)それぞれ開催した。
5 消費者セミナー,消費生活講座等
一般消費者に独占禁止法の内容や公正取引委員会の活動等について,より一層理解を深めてもらうことを目的として,地域の一般消費者を対象としたセミナーを開催しているほか,公正取引委員会の職員を消費者団体等の勉強会等に派遣している。また,公正取引委員会の職員を大学に講師として派遣し消費生活講座を開催している。
中部地区では,令和2年度は,名古屋市(2か所),愛知県一宮市,金沢市(2か所)及び富山県中新川郡上市町の計6か所(うちオンライン方式2か所及びオンライン同時配信1か所)において,消費者セミナーを開催した。また,愛知県の私立大学の計5か所(うちオンライン方式3か所及びオンライン同時配信1か所)において消費生活講座を開催した。
さらに,名古屋市が主催する消費者向けイベント「名古屋市消費生活フェア」にブース出展し,独占禁止法に関するパネル展示を実施した。
6 相談業務
(1) 相談受付件数
公正取引委員会は,法運用に対する理解を深め,違反行為の未然防止を図るため,相談を受け付けている。
最近5年間における中部地区の相談受付件数は次の表のとおりである。また,平成13年度以降の中部地区の相談受付件数の推移は次のグラフのとおりである。
平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | |
---|---|---|---|---|---|
独占禁止法 | 428 | 436 | 422 | 456 | 520 |
下請法 | 1,132 | 963 | 966 | 904 | 1,028 |
合計 | 1,560 | 1,399 | 1,388 | 1,360 | 1,548 |
(注)中部事務所で受け付けた相談件数であり,公正取引委員会よろず相談室で受け付けた相談件数は含まない。

(2)公正取引委員会よろず相談室
公正取引委員会では,中部事務所の管轄区域のうち,中部事務所の所在地である名古屋市から遠方の地域(富山県,石川県)における相談対応の一層の充実を図るため,当該地域において,中部事務所の職員が相談受付等を行う「公正取引委員会よろず相談室」を実施している。
令和2年度においては,6回(うちオンライン方式2回)実施した。
関連ファイル
(印刷用)(令和3年6月25日)令和2年度における中部地区の独占禁止法の運用状況等について(PDF:166KB)
問い合わせ先
第1に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所第一審査課
電話 052-961-9425(直通)
第2に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所経済取引指導官
電話 052-961-9422(直通)
第3に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所総務課
電話 052-961-9421(直通)