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(令和3年5月26日)令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

(令和3年5月26日)令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

令和3年5月26日
公正取引委員会

はじめに

 公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。
 令和2年度においては,私的独占事案,価格カルテル事案,入札談合事案及び受注調整事案について積極的に審査を行い,排除措置命令及び課徴金納付命令を行ったことに加え,国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な入札談合事案について告発を行った。また,IT・デジタル関連分野,人材関連分野,新型コロナウイルス感染症関連分野等についても積極的な審査を行い,確約計画を認定するなどの対処を行った。このように,社会的ニーズに的確に対応し,多様な事件に取り組んだ。
 事件審査においては,独占禁止法を迅速・確実に執行していくため,収集したデータをより効率的に分析する新システムを整備した。また,事件調査の対象の事業者から提出があった経済分析に基づく意見書について詳細に分析・検討等を行うなど,必要に応じて経済分析を行った。
 さらに,令和2年12月に施行された独占禁止法改正により,調査協力減算制度が導入された。これに先立ち,同年9月に,事業者にとっての予見可能性及び法運用の透明性を高め,事件調査への事業者による協力を促すことを目的に「調査協力減算制度の運用方針」を策定し,これに則って同制度を運用していくこととした。
 令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況は,次のとおりである。

第1 審査事件の概況

1 法的措置等の状況

(1) 排除措置命令等の状況

 令和2年度においては,独占禁止法違反行為について,延べ20名の事業者に対して,9件の排除措置命令を行った。排除措置命令9件の内訳は,私的独占1件,価格カルテル6件,入札談合1件,受注調整1件となっている。価格カルテル・入札談合・受注調整9件の市場規模は,総額220億円超である。
 また,令和2年度においては,独占禁止法違反被疑行為について,6名の事業者に対して,6件の確約計画の認定を行った(注1)。いずれも不公正な取引方法(優越的地位の濫用3件,拘束条件付取引3件)となっている。
 なお,令和2年度に認定した確約計画の中には,納入業者への返金(金銭的価値の回復)等のこれまでの類似事件に係る排除措置命令では命じられていない措置が盛り込まれたものがある。

(注1) 確約計画の認定は,確約手続に係る通知を受けた事業者から申請された確約計画を公正取引委員会が認定するという,独占禁止法に基づく行政処分である。公正取引委員会は,認定した確約計画に従って確約計画が実施されていないなどの場合には,当該認定を取り消し,確約手続に係る通知を行う前の調査を再開することとなる。

図1 法的措置(注1)件数等の推移

(注1) 法的措置とは,排除措置命令,課徴金納付命令及び確約計画の認定のことである。一つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には,法的措置件数を1件としている。

(注2) 私的独占と不公正な取引方法のいずれも関係法条となっている事件は,私的独占に分類している。

(2) その他の事件処理の状況

 令和2年度においては,各事案の内容を踏まえて,注意等の事案についても,事案の概要を公表することにより,独占禁止法や競争政策上の問題点を広く周知するなどの処理を行った。

ア 違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったが,違反につながるおそれのある行為がみられたものであって,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案であり,かつ,関係事業者から公表する旨の了解を得た1件について,注意・公表を行った(取引妨害:1件)。

イ 事業者から自発的な改善措置の報告等を受けた2件について,法運用の透明性や事業者の予見可能性を高める観点から,事案の概要を公表した(私的独占等:1件,事業者団体が構成事業者に共同の取引拒絶をさせる行為:1件)。

図2 排除措置命令・確約計画の認定・警告等の件数の推移

   (注) 事案の概要を公表したものに限る。

(3) 課徴金納付命令の状況

 令和2年度においては,延べ4名の事業者に対して,総額43億2923万円の課徴金納付命令を行った。
 一事業者当たりの課徴金額の平均は10億8230万円(注2)であった。

(注2) 一事業者当たりの課徴金額の平均については,1万円未満切捨て。

図3 課徴金額等の推移

     (注) 課徴金額については,千万円未満切捨て。

図4 一事業者当たりの課徴金額(平均)の推移

      (注) 課徴金額については,1万円未満切捨て。

2 刑事告発の状況

 公正取引委員会は,平成2年6月に「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」(注3)を公表し,価格カルテル・入札談合その他の違反行為であって,国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案や違反行為を繰り返す等の公正取引委員会の行政処分では独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案について,積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととしている。
 令和2年度においては,独立行政法人地域医療機能推進機構が発注する医薬品の入札談合事件について,令和2年12月9日,入札参加業者3社並びに当該3社の医薬品購入契約に係る入札及び価格交渉等に関する業務に従事していた者7名を,検事総長に告発した。本件は,①医薬品卸売業を全国的に行う業界上位の事業者により行われたものであり,②医療保険制度の下で保険料を負担する国民全てに多大な影響を及ぼすものであって,③受注調整の対象とされた入札の落札金額の合計が大きく,④被告発会社又はそのグループ会社は過去にも公正取引委員会の行政処分を受けているものであった。

(注3) 同方針(平成17年,平成21年及び令和2年に一部改定)については,以下のリンク先を参照。
 ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa_files/kokuhatsuhoushin.pdf

3 申告の状況

 令和2年度において,独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について,公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は,2,713件であった。
 申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には,申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ,令和2年度においては,2,341件の通知を行った。

図5 申告件数の推移

4 課徴金減免制度

  令和2年度において,課徴金減免制度に基づき,事業者から自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,33件であった(平成18年1月の制度導入時から令和2年度末までの累計は1,343件)。
 また,令和2年度においては,価格カルテル・入札談合・受注調整事件8件における延べ17名の課徴金減免制度の適用事業者について,これらの事業者の名称,減免の状況等を公表した(注4)。

(注4) 公正取引委員会は,法運用の透明性等を確保する観点から,課徴金減免制度が適用された事業者について,課徴金納付命令を行った際に,当委員会のウェブサイトに,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている(ただし,平成28年5月31日以前に課徴金減免申請を行った事業者については,当該事業者から公表の申出があった場合に,公表している。)。
 なお,公表された事業者数には,課徴金減免申請を行った者であるものの,①独占禁止法第7条の2第1項に規定する売上額(課徴金の算定の基礎となる売上額)が存在しなかったため課徴金納付命令の対象になっていない者及び②算出された課徴金額が100万円未満であったため独占禁止法第7条の2第1項ただし書により課徴金納付命令の対象になっていない者のうち,公表することを申し出た事業者の数を含めている。
ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html

表1 課徴金減免申請件数の推移

(単位:件)
年度 H28 H29 H30 R元 R2 累計
(注5)
申請
件数
124 103 72 73 33 1,343

(注5) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和3年3月末までの件数の累計。

表2 課徴金減免制度の適用状況

(単位:件,延べ事業者数)
年度 H28 H29 H30 R元 R2 累計
(注8)
課徴金減免制度の適用が公表された
法的措置件数(注6)(注7)
9 11 7 9 8 153
課徴金減免制度が適用された
事業者数(注8)
28 35 21 26 17 391

(注6) 本表における法的措置とは,排除措置命令及び課徴金納付命令であり,一つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には,法的措置件数を1件としている。

(注7) 排除措置命令のみを行い課徴金納付命令は行わなかったものの,当委員会のウェブサイトに課徴金減免申請を行った旨を公表することを申し出た事業者が存在する事件又は当該事業者を含む。

(注8) (注4)を参照。課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和3年3月末までの件数又は事業者数の累計。

第2 行為類型別の事件概要

1 私的独占

 令和2年度においては,航空燃料の販売業者による私的独占事件について,1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

 ・ マイナミ空港サービス株式会社による私的独占事件

 八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に関して,自社の取引先需要者にエス・ジー・シー佐賀航空株式会社から機上渡し給油を受けないようにさせていることにより,エス・ジー・シー佐賀航空株式会社の事業活動を排除していた。
 (令和2年7月7日 排除措置命令,令和3年2月19日 課徴金納付命令)
 (課徴金額:612万円)

 また,大阪瓦斯株式会社による私的独占等被疑事件について審査を行ったところ,被疑行為の一部については独占禁止法に違反する行為があるとは認められなかったこと,その他の被疑行為については本件審査の過程において大阪瓦斯株式会社から契約の一部を改定するなどの申出がなされたこと等から,本件審査を終了することとし,事案の概要を公表した。

 ・ 大阪瓦斯株式会社による私的独占等被疑事件

 公正取引委員会は,大阪瓦斯株式会社が,同社の供給区域における大口供給地点向けの導管を通じたガス供給分野において,

① 供給価格を不当に低くする又は競争者との競合が生じた場合のみ低くすること

② 需要家との間で,複数の大口供給地点への供給を条件として割引を適用する旨の契約(以下「包括契約」という。)を締結し,需要家が包括契約の期間中に各供給地点向け供給契約(以下「個別契約」という。)のうち一つでも中途解約する場合は契約開始から中途解約までの間に割り引いた額の全額を返戻させる旨の条件を付すこと

③ 需要家が大口供給地点に係る個別契約を中途解約した場合,契約で定める額の金銭を支払わせる旨を取引条件とすること

により,競争事業者を不当に排除している疑いがあった。

 (令和2年6月2日 公表)

2 価格カルテル・入札談合・受注調整

(1) 価格カルテル

 令和2年度においては,価格カルテル事件について,6件の法的措置(排除措置命令)を採った。

 ・ 愛知県立高等学校の制服の販売業者による価格カルテル事件

 愛知県立高等学校6校の制服の販売業者が,販売価格を引き上げる旨を合意していた。
 (令和2年7月1日 排除措置命令)

 ◯愛知県教育委員会に対する通知(令和2年7月1日)

 愛知県立高等学校が制服について指定販売店各社の制服の販売価格等を掲載した共通チラシを作成するよう指定販売店に依頼等をする場合,指定販売店が,当該依頼等に応じるためのやり取りを行う際に,これを契機として制服の販売価格についての情報交換を行うおそれがあるため,公正取引委員会は,愛知県教育委員会に対し,所管の愛知県立高等学校にこれらの内容を周知するとともに,今後,同教育委員会所管の愛知県立高等学校が,指定販売店に対し,制服に関する依頼等をする場合には,その依頼等が指定販売店による制服の販売価格についての情報交換の契機とならないよう留意すべきである旨通知した。

(2) 入札談合・受注調整

ア 入札談合

 令和2年度においては,地方公共団体が発注する物品の入札における談合事件について,1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

 ・ 山形県が発注する警察官用制服類の入札等の参加業者による談合事件

 山形県発注の警察官用制服類の入札等の参加業者が,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 (令和2年6月11日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:141万円)

 ◯山形県による警察官用制服等の発注制度の運用の見直しの求め(令和2年6月11日)

 山形県は,特定警察官用制服類の入札等を実施する前に,特定警察官用制服類に係る予定価格の設定のため,原則として前年度に特定警察官用制服類を山形県に納入した3事業者から参考見積価格を徴し,最も低く提示された価格を予定価格として設定していた(本件違反事業者である5社は,予定価格が前年度の落札金額より高くなるよう,受注予定者が提示する参考見積価格を受注予定者が定めていた。)ところ,これら3事業者は,常に5社のうちのいずれかの事業者であった。本件では,このような状況の下で,5社が,違反行為により,特定警察官用制服類について,予定価格と同額又はそれに近い金額で受注していたという事実が認められた。
 このため,公正取引委員会は,山形県に対し,警察官用制服等の発注制度の運用について,その見直しを求めた。

イ 受注調整

 令和2年度においては,民間の事業者が発注する駅新設工事における受注調整事件について,1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

・東海旅客鉄道株式会社が発注するリニア中央新幹線に係る品川駅及び名古屋駅新設工事の指名競争見積の参加業者による受注調整事件

 東海旅客鉄道株式会社発注のリニア中央新幹線に係る地下開削工法による品川駅及び名古屋駅新設工事の指名競争見積の参加業者が,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 (令和2年12月22日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:43億2170万円)

3 不公正な取引方法

(1) 拘束条件付取引

 令和2年度においては,コンタクトレンズの製造販売業者らによる拘束条件付取引事件について,3件の法的措置(確約計画の認定)を採った。

 ア クーパービジョン・ジャパン株式会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,クーパービジョン・ジャパン株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。

ア クーパービジョン・ジャパン株式会社は,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ及び二週間頻回交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して,広告への販売価格の表示を行わないように要請していた。

イ クーパービジョン・ジャパン株式会社は,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ及び二週間頻回交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して,医師の処方を受けた者にインターネットによる販売を行わないように要請していた。

 (令和2年6月4日 確約計画の認定)

 イ 株式会社シードに対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,株式会社シードに対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。

ア 株式会社シードは,自社の「Pureシリーズ」と称する一日使い捨てコンタクトレンズ及び二週間頻回交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して, 広告への販売価格の表示を行わないように要請していた。

イ 株式会社シードは,自社の「Pureシリーズ」と称する一日使い捨てコンタクトレンズ及び二週間頻回交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して, 医師の処方を受けた者にインターネットによる販売を行わないように要請していた。

 (令和2年11月12日 確約計画の認定)

 ウ 日本アルコン株式会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,日本アルコン株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。

ア 日本アルコン株式会社は,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ,二週間頻回交換コンタクトレンズ及び一か月定期交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して,広告への販売価格の表示を行わないように要請していた。

イ 日本アルコン株式会社は,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ,二週間頻回交換コンタクトレンズ及び一か月定期交換コンタクトレンズの販売に関し,小売業者に対して,医師の処方を受けた者にインターネットによる販売を行わないように要請していた。

 (令和3年3月26日 確約計画の認定)

(2) 優越的地位の濫用

 令和2年度においては,優越的地位の濫用事件について,3件の法的措置(確約計画の認定)を採った。
 このほか,令和2年度においては,優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして47件の注意を行った(別添参照)。

 ア ゲンキー株式会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,ゲンキー株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。
ゲンキー株式会社は,同社が自ら販売する商品を同社に直接販売して納入する事業者のうち,ゲンキー株式会社と継続的な取引関係にあるもの(以下「納入業者」という。)に対し,次の行為を行っていた。

⑴ 新規開店等に際し,納入業者に対し,これらを実施する店舗において,当該納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品の移動,自社の従業員が定めた棚割りに基づく商品の陳列等の作業を行わせるため,あらかじめ当該納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく,当該納入業者の従業員等を派遣させていた。

⑵ ゲンキー株式会社が一般消費者向けに販売するクリスマスケーキ等について,納入業者に対し,ゲンキー株式会社と当該納入業者との取引に関係がないにもかかわらず,購入を要請していた。

⑶ア 自社が主催した「わくわくキャンペーン」と称する催事について,その実施に要する費用を確保するため,納入業者に対し,「わくわくキャンペーン協賛」等の名目で,あらかじめ算出根拠について明確に説明することなく,金銭の提供を要請していた。

 イ 自社の物流センターについて,その運営に要する費用を確保するため,当該物流センターを通じて納品する納入業者に「センターフィー」等の名目で提供させている料金の料率の引上げの実施に際し,納入業者に対し,あらかじめ算出根拠について明確に説明することなく,引上げ後の料率を適用して算出した額の金銭の提供を要請していた。

 ウ ゲンキー株式会社の物流センターへの商品の搬入を行う際にゲンキー株式会社が納入業者に使用させているケースについて,その購入に要する費用を確保するため,納入業者に対し,あらかじめ算出根拠について明確に説明することなく,金銭の提供を要請していた。

 エ バーコードラベルについて,その発行等に要する費用を確保するため,納入業者に対し,あらかじめ算出根拠について明確に説明することなく,金銭の提供を要請していた。

⑷ 売行きが悪く在庫となった商品及び販売期間中に売れ残ったことにより在庫となった季節品(以下「売上不振商品」という。)について,納入業者に対し,売上不振商品を納入した当該納入業者の責めに帰すべき事由がなく,売上不振商品の購入に当たって当該納入業者との合意により返品の条件を定めておらず,かつ,当該納入業者から売上不振商品の返品を受けたい旨の申出がないにもかかわらず,その返品に応じるよう要請していた。

 (令和2年8月5日 確約計画の認定)

 イ アマゾンジャパン合同会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,アマゾンジャパン合同会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。
アマゾンジャパン合同会社は本件対象事業部において,取引上の地位が自社に対して劣っている納入業者(以下「本件納入業者」という。)に対して,次の行為を行っている。

⑴ 本件納入業者に対して,自社の収益性の向上を図るため,当該本件納入業者の責めに帰すべき事由がなく,かつ,対価を減額するための要請を対価に係る交渉の一環として行うことなく,かつ,当該本件納入業者から値引き販売の原資とするための減額の申出がない又は当該申出に基づき値引き販売を実施して当該商品が処分されることが当該本件納入業者の直接の利益とならないにもかかわらず,在庫補償契約を締結することにより,当該契約で定めた額を,当該本件納入業者に支払うべき代金の額から減じている。

⑵ 本件納入業者に対して,当該本件納入業者から仕入れた商品の販売において自社の目標とする利益を得られないことを理由に,自社の収益性の向上を図るため,あらかじめ負担額の算出根拠等を明らかにせず,又は,当該金銭の提供が,その提供を通じて当該本件納入業者が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲を超えた負担となるにもかかわらず,金銭を提供させている。

⑶ 本件納入業者に対して,自社の収益性の向上を図るため,本件共同マーケティングプログラム契約に基づき支払を受けた金銭の全部又は一部について,当該契約に基づくサービスの提供を行うことなく,金銭を提供させている。

⑷ 本件納入業者に対して,自社の収益性の向上を図るため,あらかじめ負担額の算出根拠等を明らかにせず,又は,当該金銭の提供が,その提供を通じて当該本件納入業者が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲を超えた負担となるにもかかわらず,当該本件納入業者からの毎月の仕入金額にあらかじめ定めた一定の料率を乗じるなどして算出した額の金銭を提供させている。

⑸ 本件納入業者に対して,過剰な在庫であると自社が判断した商品について,当該本件納入業者の責めに帰すべき事由がなく,かつ,以下のいずれにも該当しないにもかかわらず,返品している。

 ア 当該商品の購入に当たり当該本件納入業者との合意により返品の条件を明確に定め,当該条件に従って返品する場合(当該返品が当該本件納入業者の得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲を超えた負担とならない場合に限る。)

 イ あらかじめ当該本件納入業者の同意を得て,かつ,当該商品の返品によって当該本件納入業者に通常生ずべき損失を自社が負担する場合

 ウ 当該本件納入業者から当該商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該本件納入業者が当該商品を処分することが当該本件納入業者の直接の利益となる場合

 (令和2年9月10日 確約計画の認定)

 ウ ビー・エム・ダブリュー株式会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は,ビー・エム・ダブリュー株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め,当該計画を認定した。

○ ビー・エム・ダブリュー株式会社は,継続的に取引しているディーラーのうちの大部分のディーラーに対し,BMW新車について,当該ディーラーのこれまでの販売実績等からみて当該ディーラーが到底達成することができない販売計画台数案を策定し,当該ディーラーとの間で十分に協議することなく販売計画台数を合意させるとともに,当該販売計画台数を達成させるために,当該ディーラーがBMW新車を販売する上で必要となる事業用車両の台数を超えてBMW新車を当該ディーラーの名義で新規登録することを要請していた。

 (令和3年3月12日 確約計画の認定)

(3) 競争者に対する取引妨害

 令和2年度においては,株式会社電通が競争者に対して取引妨害をしていた疑いについて審査を行い,注意・公表した。

 ・ 株式会社電通が競争者に対して取引妨害をしていた疑い

 株式会社電通は,東京都に所在する令和2年度補正持続化給付金事務事業(注1)の事務局において,委託先事業者のうち,当該事業の申請サポート会場運営業務の取りまとめを担当する2社に対し,特定の事業者(以下「特定事業者」という。)が令和2年度家賃支援給付金事務事業(注2)を受注した場合,委託先事業者が特定事業者から令和2年度家賃支援給付金事務事業の申請サポート会場運営業務を受託すれば,今後株式会社電通は当該委託先事業者と取引をしない旨を発言するとともに,当該発言の内容を他の委託先事業者に伝達するように指示しており,独占禁止法違反につながるおそれがあった。

(注1) 令和2年度補正持続化給付金事務事業は,新型コロナウイルス感染症拡大により,特に大きな影響を受けている中小企業等の事業継続を支援するため,事業全般に幅広く使える給付金を支給するものである。

(注2) 令和2年度家賃支援給付金事務事業は,新型コロナウイルス感染症拡大により,特に大きな影響を受けている中小企業等の事業継続を支援するため,固定費の中で大きな負担となっている家賃の負担を軽減する給付金を支給するものである。

 (令和2年12月17日 注意)

(4) 不当廉売

 令和2年度においては,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注9)を行い,不当廉売につながるおそれがあるとして136件の注意を行った(表3)。

(注9) 原則として,申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

表3 令和2年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)

(単位:件)
  酒類 石油製品 家電製品 その他 合計
注意件数 9 115 0 12 136

図6 不当廉売事案の注意件数の推移

       (注) 注意件数は,下から①酒類,②石油製品,③家電製品,④その他の順に記載。

(5) その他(協同組合等による不公正な取引)

 その他の事例として,農業分野では,農業協同組合や部会において,全量出荷の義務付けや系統出荷を行わない組合員を不当に差別的に取り扱っていた疑いがあったとして,独占禁止法違反につながるおそれがあるものとして注意を行った事例があるほか,漁業分野では,漁業協同組合や部会において,全量出荷の義務付けや構成員が提供する水産物の販売価格を決定していた疑いがあったとして,独占禁止法違反につながるおそれがあるものとして注意を行った事例などがある。

4 事業者団体による事件

 令和2年度においては,日本プロフェッショナル野球組織が構成事業者に共同の取引拒絶をさせている疑いについて審査を行ったところ,日本プロフェッショナル野球組織から,改善措置を自発的に講じた旨の報告があり,その内容を検討したところ,上記の疑いを解消するものと認められたことから,本件審査を終了し,事案の概要を公表した。

 ・ 日本プロフェッショナル野球組織が構成事業者に共同の取引拒絶をさせている疑い

 公正取引委員会は,日本プロフェッショナル野球組織が,「新人選手が,新人選手選択会議(以下「ドラフト会議」という。)前に12球団による指名を拒否し,又はドラフト会議での交渉権を得た球団への入団を拒否し,外国球団と契約した場合,外国球団との契約が終了してから高卒選手は3年間,大卒・社会人選手は2年間,12球団は当該選手をドラフト会議で指名しない。」との申合せにより,構成事業者である12球団に対して特定の選手との選手契約を拒絶させている疑いがあった。
 (令和2年11月5日 公表)

第3 タスクフォースの取組状況等

 公正取引委員会は,ITタスクフォース,農業分野タスクフォース,公益事業タスクフォース等を設置し,これらの分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に,専門的な検討・分析,効率的な調査を実施することとしている。
 また,公正取引委員会は,IT・デジタル関連分野,農業分野,電力・ガス分野における,独占禁止法違反被疑行為に係る情報を広く受け付けるため,平成28年3月以降,順次専用の情報提供窓口を設置している。
 令和2年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は,IT・デジタル関連分野が182件,農業分野が23件,電力・ガス分野が51件となっている。
 情報提供窓口の電話番号等は,以下のとおりである。

<電話番号>
 IT・デジタル関連分野   03-3581-5492
 農業分野                     03-3581-3387(※)
 電力・ガス分野            03-3581-1760
  ※ 農業分野については,上記のほか,各地方事務所・支所にも窓口を設置している。

<情報提供フォーム>
 https://www.jftc.go.jp/cgi-bin/formmail/formmail2.cgi?d=nouden
 ※ IT・デジタル関連分野,農業分野,電力・ガス分野とも共通のアドレス

独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟(注10)

 令和2年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は8件(東京地方裁判所5件,東京高等裁判所2件,最高裁判所1件)(注11)であったところ,同年度中に新たに3件の排除措置命令等取消請求訴訟が東京地方裁判所に提起された。
 令和2年度当初において東京地方裁判所に係属中であった5件のうち1件については,令和元年度中に判決(請求棄却)があり,令和2年度中に上訴期間が満了するものであったところ,同年度中に控訴されたが,東京高等裁判所が控訴を棄却する判決をし,その後,上告提起及び上告受理申立てがなされ,最高裁判所に係属中である。
 令和2年度当初において東京高等裁判所に係属中であった2件のうち1件については,同裁判所が控訴を棄却する判決をし,控訴人(原審原告)2名のうち1名については上訴期間の経過をもって確定し,その余の1名については上告提起及び上告受理申立てがなされ,最高裁判所に係属中である。前記2件のうち残りの1件については,令和2年度中に東京高等裁判所が控訴を棄却する判決をしたが,上告受理申立てがなされ,最高裁判所に係属中である。
 令和2年度当初において最高裁判所に係属中であった1件については,同裁判所が上告不受理決定をしたことにより終了した。
 これらの結果,令和2年度末時点において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は10件であった(別表第8表参照)。

(注10) 審判制度の廃止に伴い,平成27年度以降,独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟は,直接東京地方裁判所に提起する制度となっている。

(注11) 排除措置命令等取消請求訴訟の件数は,訴訟ごとに裁判所において付される事件番号の数である。

第5 審判及び審決等の概要

 令和2年度中に係属していた審判事件数(注12)は152件(うち76件は課徴金納付命令に係るもの)であるところ,令和2年度においてこれら全てについて審決を行ったほか,公正取引委員会が株式会社山陽マルナカに対して行った排除措置命令及び課徴金納付命令について,同社から審判請求がなされ,当委員会がこれを一部棄却するなどの審決を平成31年2月20日付けで行ったところ,東京高等裁判所において当該審決を取り消す判決がなされたことを受け,令和2年度に改めて当該排除措置命令及び課徴金納付命令を取り消す旨の審決を行ったため,同年度に行った審決は,154件である。内訳は,排除措置命令に係る審判請求棄却審決76件及び排除措置命令の全部を取り消す旨の審決1件並びに課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決65件,課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決11件,課徴金納付命令の全部を取り消す旨の審決1件である。
 この結果,令和2年度におけるこれら審決をもって係属中の審判事件は全て終了した。

(注12) 審判事件数は,行政処分に対する審判請求ごとに付される事件番号の数である。

図7 審判係属事件数の推移

1 排除措置命令に係る審決(令和2年度)

  ⑴ 審判請求棄却審決(76件)

・シャッターの製造業者らによる全国における価格カルテル及び近畿地区における受注調整事件に係るもの5件

・東日本地区に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート又は段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件に係るもの69件

・大口需要者向け段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件2件

  ⑵ 排除措置命令の全部を取り消す旨の審決(1件)

・食品,日用雑貨品,衣料品等の小売業者による優越的地位の濫用事件に係るもの1件

2 課徴金納付命令に係る審決(令和2年度)

  ⑴ 審判請求棄却審決(65件)

・シャッターの製造業者による近畿地区における受注調整事件に係るもの3件

・東日本地区に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート又は段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件に係るもの62件

  ⑵ 課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決(11件)

・シャッターの製造業者らによる全国における価格カルテル及び近畿地区における受注調整事件に係るもの4件

・東日本地区に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート又は段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件に係るもの5件

・大口需要者向け段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件2件

  ⑶ 課徴金納付命令を取り消す旨の審決(1件)

・食品,日用雑貨品,衣料品等の小売業者による優越的地位の濫用事件に係るもの1件

第6 審決取消請求訴訟

 令和2年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注13)は4件であったが,令和2年度中に新たに13件の審決取消請求訴訟が提起されたため,令和2年度に係属した審決取消請求訴訟は17件である(別表第12表参照)。
 令和2年度においては,これらのうち,東京高等裁判所が,原告の請求を認容する判決をし,上訴期間の経過をもって終了したものが1件,原告の請求を棄却する判決をしたものが2件(いずれも原告が上訴)あった。また,最高裁判所が,上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了したものが1件(上記のとおり同年度中に東京高等裁判所が請求棄却判決をして原告が上訴したもの)あった。
 この結果,令和2年度末時点では15件の審決取消請求訴訟が係属中である。

(注13) 審決取消請求訴訟の件数は,第一審裁判所において番号が付される事件の数である。

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問い合わせ先

第1から第4までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第5及び第6に関する問い合わせ  公正取引委員会事務総局官房総務課(審判・訟務担当)
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/

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