令和5年4月13日
公正取引委員会
公正取引委員会は、みずほ証券株式会社(以下「みずほ証券」という。)に対し、本日、次のとおり、みずほ証券の行為が、独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号ハ(優越的地位の濫用))の規定の違反につながるおそれがあるものとして注意を行った。
1 関係人
法人番号 | 7010001008687 |
名称 | みずほ証券株式会社 |
所在地 | 東京都千代田区大手町一丁目5番1号 |
代表者 | 代表取締役 浜本 吉郎 |
事業の概要 | 金融商品取引業 |
2 注意の概要等
⑴ みずほ証券は、令和2年6月から令和3年5月までの間に東京証券取引所に上場した新規株式公開案件96件のうち、21件において主幹事(注1)(注2)を務めた。
新規株式公開は、推薦審査(注3)の終了後に公開価格設定プロセス(注4)を経て行われるところ、上場予定日の延期を希望しない新規上場会社にとっては、公開価格設定プロセスの段階で主幹事を変更することは困難であるため、主幹事が、新規上場会社にとって著しく不利益な要請等を行っても、新規上場会社はこれを受け入れざるを得ないと考えられ、みずほ証券は、主幹事を務めた新規株式公開案件の公開価格設定プロセスにおいて、主幹事を変更することが困難である新規上場会社に対し、優越的地位にあったと認められる可能性がある。
(注1)主幹事とは、上場に関して、新規上場会社の支援や募集又は売出しに係る株式の引受を行う証券会社の中で中心となる証券会社である。
(注2)21件は、みずほ証券が単独で主幹事を務めた案件又は共同主幹事を務めた案件のうち筆頭主幹事であった件数。
(注3)推薦審査とは、主幹事が取引所に上場の推薦を行うために、新規上場会社に上場適格性があるか調査を行うことである。
(注4)みずほ証券が主幹事を務めた上記21件の新規株式公開案件の公募等の手続は、ブックビルディング方式により行われた。当該方式においては、想定発行価格を設定した後、機関投資家を対象とする会社説明会が行われ、主幹事が回収した機関投資家の株価等に関する意見を踏まえて仮条件が設定され、当該仮条件を投資家に提示して需要状況の調査を行った上で公開価格が設定される。
⑵ みずほ証券は、主幹事を務めた上記21件の新規株式公開案件の公開価格設定プロセスにおいて、同社が優越的地位にあったと認められる可能性がある新規上場会社に対し、下記ア及びイのように想定発行価格又は仮条件を設定し、これを受け入れるよう要請していた事例が認められた。
ア みずほ証券は、新規上場会社A(以下「A社」という。)から他の証券会社のセカンドオピニオンに基づき十分に検討された想定発行価格の算出方法や水準等について説明を受けたにもかかわらず、当該説明について十分な検討を行わずに、A社が主張した価格を下回る想定発行価格を設定し、A社に対し、当該価格を受け入れるよう要請した。
イ みずほ証券は、仮条件の設定に当たって、機関投資家から妥当と考えられる新規上場会社B(以下「B社」という。)の株価等に関する意見を電話ヒアリングにより聴取した際、意見を聴取した機関投資家のうち1社が、B社の類似会社との比較に基づき、B社の株価を想定発行価格よりも高く評価していたにもかかわらず、当該機関投資家に想定発行価格が受入れ可能かどうかを確認し、受入れ可能との回答を得たことのみをもって、想定発行価格と同額が妥当と考えられる株価であるとする意見を得たこととした。
また、仮条件を設定するに当たり参考にできるのは自らが回収した機関投資家の意見のみであるとして、B社から、B社が会社説明会において機関投資家と面談した結果を提示されたにもかかわらず、当該面談結果を考慮しない理由について十分な説明を行うことなく、B社が主張した価格を下回る仮条件を設定し、B社に対し、当該仮条件を受け入れるよう要請した。
⑶ 上記⑵ア及びイの事例が認められた新規株式公開案件において、A社及びB社(以下「2社」という。)はみずほ証券の要請に応じたことから、A社が主張した価格を下回る想定発行価格、B社が主張した価格を下回る仮条件が、それぞれ設定された。想定発行価格及び仮条件は、その後の公開価格の設定に影響を与え得るものであるところ、2社の公開価格について、A社の公開価格は想定発行価格に近い価格に設定され、B社の公開価格は仮条件と同額に設定された。
そして、2社の新規株式公開案件における初値は、いずれについても公開価格の倍以上となるなど、公開価格を大幅に上回っており、2社は、自らが主張した想定発行価格又は仮条件に基づき設定されたであろう公開価格により新規株式公開ができていれば、より多くの資金を調達した可能性がある。
⑷ 令和3年3月以降、みずほ証券は、仮条件の設定に当たって機関投資家から意見を聴取する際には、仮条件の設定プロセスを公正・中立かつ精緻なものにする観点から詳細にヒアリングを行うこと等を新規株式公開の業務に関する基本的な考え方として定めて担当者に周知するとともに、新規株式公開に関する実務マニュアルについて、新規上場会社の納得感を高めるコミュニケーションを行うための留意事項を追記する改正を行って担当者に周知する等の改善策を採っている事実が認められた。
⑸ 上記⑵ア及びイの事例に関する新規株式公開案件の公開価格設定プロセスにおいて、みずほ証券は、2社に対し、想定発行価格及び仮条件の設定根拠について具体的な説明を行っていること等を踏まえると、みずほ証券が2社と協議を行わずに合理性のない価格を設定したとまでは認められないことから、上記⑵のみずほ証券の行為は、直ちに独占禁止法違反と認められるものではないものの、交渉力の強い主幹事により、公開価格が一方的に低く設定されることにつながり、新規上場会社に不当に不利益を与え、公正かつ自由な競争に影響を与えるおそれがある。
⑹ 公正取引委員会は、上記⑵のみずほ証券の行為は、独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号ハ(優越的地位の濫用))の規定の違反につながるおそれがあるものとして、みずほ証券に対し、今後、公開価格設定プロセスにおいて、新規上場会社と十分な協議を行い、新規上場会社が十分に納得した上で設定するなどして、新規株式公開に関連する取引において、独占禁止法違反となるような行為を行うことのないよう注意した。
3 「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について」を踏まえた取組
公正取引委員会は、新規株式公開における公開価格設定プロセス等に関する実態把握を行い、令和4年1月28日に報告書を公表した。本報告書においては、「優越的地位にある主幹事が、一方的に公開価格を設定するなどして主幹事業務の取引を実施し、新規上場会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えたと認められる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがある」旨指摘したところであり、公正取引委員会は、今回のような行為も含め、当該報告書において指摘した独占禁止法上問題となる行為に係る情報に接した場合には、厳正・的確に対処していく。
関連ファイル
(令和5年4月13日)みずほ証券株式会社に対する注意について(88KB)
(令和5年4月13日)参考1(過去の金融分野における事件)(71KB)
問い合わせ先
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