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(令和6年2月15日)石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について

(令和6年2月15日)石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について

令和6年2月15日
公正取引委員会

 公正取引委員会は、山口県周南市に所在する石油化学コンビナート(以下「周南コンビナート」という。)において石油化学製品等(以下「製品」という。)の製造販売を行っている出光興産株式会社、東ソー株式会社、株式会社トクヤマ、日鉄ステンレス株式会社及び日本ゼオン株式会社(以下「出光興産ほか4社」という。)から、周南コンビナートにおけるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為についての相談を受け、独占禁止法上問題がない旨の回答を行ったところ、他の事業者及び事業者団体(以下「事業者等」という。)にも参考になると考えられることから、当該相談の概要を公表することとした。

第1 本件相談の概要

1 相談の要旨

 出光興産ほか4社は、周南コンビナートにおけるカーボンニュートラルの2050年の実現(注)に向けて、以下⑴から⑶までを主とした取組を共同で行う。
(注)カーボンニュートラルとは、「人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれ」ることをいい、我が国における2050年までの実現を旨とするとされている(地球温暖化対策の推進に関する法律第2条の2)。


⑴ 製品の製造に必要となる電力を得るための発電設備等で使用する燃料について、化石燃料から燃焼時に二酸化炭素の排出がないアンモニア等に転換するため、以下アからエまでの取組を行い、結果として、二酸化炭素の大幅な削減を見込むものである。

  ア   アンモニア等を燃料とする共同の発電設備等の設置及び利用

  イ   前記アで用いるアンモニア等の共同購入及び受入体制の共同整備

  ウ   前記アによって不要となる各社が所有する発電設備等についての計画的な廃棄

  エ   前記アからウまでの取組の実施の可否の検討に必要となる情報交換(製品の価格等の情報を含まない。)


⑵  製品の原材料について、化石燃料を原材料に用いた基礎化学品(エチレン、プロピレン等)から、二酸化炭素の排出が少ない原材料(バイオマス等)を用いたバイオ基礎化学品等(バイオエチレン、バイオプロピレン等)に転換するため、以下アからウまでの取組を行う。

  ア   バイオ基礎化学品等の原材料の共同購入

  イ   前記アで共同購入した原材料を用いたバイオ基礎化学品等の共同生産

  ウ   前記ア及びイの取組の実施の可否の検討に必要となる情報交換(製品の価格等の情報を含まない。)


⑶  製品の製造の際に排出される二酸化炭素の共同での回収、燃料・原材料への再利用又は貯留

 

2 独占禁止法上の考え方

⑴ア  事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。

  イ  グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもある。そのため、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い。
  一方、事業者等の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果(以下「競争制限効果」という。)のみを持つ場合、新たな技術等のイノベーションが失われたり、商品又は役務の価格の上昇や品質の低下が生じたりすることにより一般消費者の利益が損なわれることになり、それが名目上はグリーン社会の実現に向けた事業者等の取組であったとしても、原則として、独占禁止法上問題となる。
  そして、ある具体的な事業者等の取組に競争制限効果が見込まれつつ競争促進効果も見込まれる場合、当該取組の目的の合理性及び手段の相当性(より制限的でない他の代替的手段があるか等)を勘案しつつ、当該取組から生じる競争制限効果と競争促進効果を総合的に考慮して、当該取組が独占禁止法上問題となるか否か判断されることとなる(グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方(以下「グリーンガイドライン」という。)「はじめに」2(基本的考え方))。


  ウ  事業者等の共同の取組のうち、競争制限効果が見込まれない行為は、独占禁止法上問題とならない。
  競争制限効果が見込まれない行為としては、価格等の重要な競争手段である事項に影響を及ぼさない、新たな事業者の参入を制限しない、及び既存の事業者を排除しないといった要素を満たす事業者等の共同の取組のほとんどがこれに該当すると考えられ、グリーン社会の実現に向けた事業者等の共同の取組の多くは、独占禁止法上問題とならない形で実施することが可能であると考えられる(グリーンガイドライン第1-1(独占禁止法上問題とならない行為))。


⑵ア  前記1⑴の共同行為によって二酸化炭素の大幅な削減が見込まれるなど、周南コンビナートにおけるカーボンニュートラルの実現に向けた出光興産ほか4社が実施する前記1⑴から⑶までを主とした取組は、グリーン社会の実現に向けた取組であることが認められる。以下、これを前提として検討する。


  イ   まず、前記1⑴から⑶までを主とした取組が出光興産ほか4社が周南コンビナートにおいて製造する製品の我が国における製造販売市場における競争に与える影響について検討する。

     (ア) 前記1⑴から⑶までを主とした取組は、出光興産ほか4社が周南コンビナートにおいて製造する製品のコストに影響を与える取組であるが、当該製品のうち、多くの製品については、出光興産ほか4社間に競合関係がなく、共同行為による競争制限効果が見込まれないため、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはなく、独占禁止法上問題となるものではない。

     (イ) また、出光興産ほか4社が周南コンビナートにおいて製造する製品のうち、競合する製品については、共同行為による競争制限効果が見込まれるものの、地理的範囲が「日本全国」として画定されることなどから、出光興産ほか4社以外に有力な競争事業者が存在したり、当該製品の需要者から競争圧力が働いていたりするなどの市場の状況にあるため、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはなく、独占禁止法上問題となるものではない。


  ウ  次に、前記1⑴イの取組で行うアンモニア等の共同購入及び前記1⑵アの取組で行うバイオマス等の共同購入によって、アンモニア等及びバイオマス等の購入市場における競争に与える影響について検討する。

     (ア) アンモニア等を燃料とした発電及びバイオマス等を原材料としたバイオ基礎化学品等の製造は、現在、確立されていない技術であるため、将来的なアンモニア等及びバイオマス等の需要量と供給量は不明である。

     (イ) しかしながら、アンモニア等及びバイオマス等は、世界的なカーボンニュートラルの動きによって需要及び供給が拡大される見込みであることから、今後、アンモニア等及びバイオマス等の購入市場の競争は活発になることが見込まれる。また、共同行為によって購入されることが想定されるアンモニア等及びバイオマス等の量は供給量に比して限定的である。以上のことから、共同行為による競争制限効果が見込まれるものの、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはなく、独占禁止法上問題となるものではない。


  エ  出光興産ほか4社が実施する前記1⑴から⑶までを主とした取組は、いずれも一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはなく、独占禁止法上問題となるものではない。

3 回答の要旨

 出光興産ほか4社が実施する前記1⑴から⑶までの共同行為については、周南コンビナートにおけるカーボンニュートラルの実現が目的であって、共同行為によって出光興産ほか4社の製品の製造販売市場における競争の実質的制限が生じることはなく、また、出光興産ほか4社が共同購入等するアンモニア等及びバイオマス等の購入市場における競争の実質的制限が生じることもないことから、いずれも独占禁止法上問題となるものではない。
 また、前記1⑴から⑶まで以外の共同行為であっても、前記2のとおり、出光興産ほか4社が実施する周南コンビナートにおけるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為は、製品の販売価格のカルテルといった競争制限行為に該当する場合を除いて、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはないと考えられるため、独占禁止法上問題となるものではない。

第2 公正取引委員会への相談について

 事業者等は、グリーン社会の実現に向けた取組を実施するに際して、独占禁止法上問題となるか否かについて、グリーンガイドライン、本件相談等を参考にして自ら判断を行うほか、自らが実施しようとする具体的な行為に関して、公正取引委員会に事前に相談することができる。当委員会としては、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組を後押ししていくためにも、グリーンガイドライン、本件相談等の内容に照らしつつ、事業者等との意思疎通を重ねながら、積極的に相談への対応を行っていく。


関連ファイル

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問い合わせ先

グリーン事前相談窓口
公正取引委員会事務総局経済取引局取引部相談指導室
電話 03-3581-5582(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/

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