公正取引委員会は、ASP Japan合同会社(以下「ASP」という。)に対し、本日、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令を行った。
本件は、ASPが、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第10項(抱き合わせ販売等))の規定に違反する行為を行っているものである。
1 違反行為者
(注1)ASPは、平成31年4月1日、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(以下「ジョンソン・エンド・ジョンソン」という。)から、吸収分割により、フタラール製剤(注2)の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器(注3)の販売に係る事業を承継した。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、平成31年4月1日以降、フタラール製剤の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に係る事業を営んでいない。
(注2)「フタラール製剤」とは、消化器内視鏡を含む医療器具の化学的殺菌・消毒のために内視鏡洗浄消毒器に投入するなどして使用される消毒剤であって、フタラール0.55w/v%を含有する医療用医薬品をいう。
(注3)本件において「内視鏡洗浄消毒器」とは、消化器内視鏡を洗浄及び消毒する医療機器をいう。
2 ASPが販売する内視鏡洗浄消毒器及びフタラール製剤の概要等
⑴ ジョンソン・エンド・ジョンソン及び株式会社アマノ(以下「アマノ」という。)は、平成15年8月、内視鏡洗浄消毒器等の製造販売に関する契約を締結した。当該契約においては、アマノがジョンソン・エンド・ジョンソンのOEM製品として内視鏡洗浄消毒器等を製造する一方で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが独占的にその供給を受け販売する権利を有する旨が定められていたところ、平成31年4月1日の吸収分割に伴い、当該契約上の地位は、ジョンソン・エンド・ジョンソンからASPに移転した。これにより、平成31年4月1日以降、アマノは、ASPのOEM製品としてフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器を製造し、ASPが独占的にその供給を受け、販売している。
フタラール製剤を消毒剤として使用できる内視鏡洗浄消毒器は、アマノが製造する内視鏡洗浄消毒器のみであり、本件内視鏡洗浄消毒器(注4)で使用できる消毒剤は、フタラール製剤のみである。
(注4)「本件内視鏡洗浄消毒器」とは、機種名がエンドクレンズNeo、エンドクレンズNeo-D Advanced又はエンドクレンズNeo-S Advancedであるものをいう。
なお、エンドクレンズNeoの販売は、終了している。
⑵ 平成25年4月までは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの属する企業グループに属する事業者がフタラール製剤に関する特許権を保有しており、国内で上市されていたフタラール製剤はジョンソン・エンド・ジョンソンが製造販売する「ディスオーパ消毒液0.55%」と称するフタラール製剤(以下「ディスオーパ」という。)のみであった。
当該特許権の消滅に伴って、平成26年10月頃以降、後発フタラール製剤(注5)の製造販売が開始され、令和6年7月時点において、フタラール製剤を製造販売している事業者は、ASP及び後発フタラール製剤の製造販売業者である4社の計5社である。また、後発フタラール製剤は、おおむねディスオーパよりも安価である。
(注5)ディスオーパの後発医療用医薬品をいう。以下同じ。
3 違反行為等の概要(詳細は別添排除措置命令書参照)
⑴ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、かねてから、フタラール製剤に関する特許権の消滅に伴い、医療機関において安価な後発フタラール製剤が使用されることによって、ディスオーパの売上げが減少することを懸念していたところ、平成26年10月頃以降、後発フタラール製剤の製造販売が開始され、ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売する旧型内視鏡洗浄消毒器
(注6)を購入した医療機関の中には、当該旧型内視鏡洗浄消毒器に用いる消毒剤として後発フタラール製剤を使用するものが現れるようになった。
(注6)本件において「旧型内視鏡洗浄消毒器」とは、機種名がエンドクレンズ-S又はエンドクレンズ-Dであるものをいう。
なお、いずれも販売は終了している。
⑵ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、平成27年9月頃以降、旧型内視鏡洗浄消毒器の後継機種の開発に際して、後発フタラール製剤を使用できないようにする目的で、後継機種にはバーコードリーダーを取り付けるとともに、当該バーコードリーダーによってディスオーパの容器に貼付した本件二次元コード(注7)を読み取らなければ本件内視鏡洗浄消毒器の洗浄消毒機能が作動しないようにすることを決定した。
この決定に基づき製造された本件内視鏡洗浄消毒器は、バーコードリーダーで本件二次元コードを読み取らない限り、洗浄消毒機能が作動しなくなっている。
そのため、後発フタラール製剤を用いて本件内視鏡洗浄消毒器による内視鏡の洗浄消毒を行うことはできない。
(注7)「本件二次元コード」とは、本件内視鏡洗浄消毒器の洗浄消毒機能を作動させるために必要な情報が含まれている二次元コード(バーコードのうち、縦横の二方向に情報を持つコードのことをいう。)をいう。
⑶ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ディスオーパの売上げを確保するために、旧型内視鏡洗浄消毒器から本件内視鏡洗浄消毒器への更新を積極的に推進することで、医療機関に対し、後発フタラール製剤からディスオーパに切り替えさせるとともに、後発フタラール製剤の使用を未然に防止するという方針を立てた。
そして、医療機関に対し、当該方針に基づき、平成28年10月頃以降、ディスオーパの容器に本件二次元コードを貼付して当該ディスオーパを販売し、平成29年3月頃以降、本件内視鏡洗浄消毒器を販売した。 ⑷ ASPは、吸収分割による事業承継後、前記⑶の方針を引き継ぎ、当該方針に基づき、医療機関に対し、本件内視鏡洗浄消毒器及びディスオーパを販売している。
⑸ 後発フタラール製剤の製造販売業者である1社は、令和2年1月、自社が製造販売する後発フタラール製剤の容器に本件二次元コードと同じ仕様の二次元コードを貼付し、本件内視鏡洗浄消毒器に用いられる消毒剤として使用できるようにするため、本件二次元コードに関する情報の開示を、アマノに対して要請した。ASPが、アマノに対し、本件二次元コードに関する情報を開示しないよう指示したことを受けて、同年5月、アマノは、当該指示に基づき、前記要請を拒否した。
4 排除措置命令の概要
⑴ ASPは、本件内視鏡洗浄消毒器にバーコードリーダーを取り付けるとともに、ディスオーパの容器に本件二次元コードを貼付し、当該バーコードリーダーによって本件二次元コードを読み取らなければ本件内視鏡洗浄消毒器の洗浄消毒機能が作動しないようにすることにより、本件内視鏡洗浄消毒器を使用している医療機関に対し、本件内視鏡洗浄消毒器の供給に併せてディスオーパを購入させている行為を取りやめなければならない。
⑵ ASPは、次の事項を業務執行の決定機関において確認しなければならない。
ア 前記⑴の行為を取りやめる旨
イ 今後、医療機関に対し、フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の供給に併せて自社の販売するフタラール製剤を購入させる行為を行わない旨
⑶ ASPは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を、アマノ、後発フタラール製剤の製造販売業者である4社及び自社の販売代理店に通知するとともに、本件内視鏡洗浄消毒器を購入した医療機関に周知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。
⑷ ASPは、今後、医療機関に対し、フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の供給に併せて自社の販売するフタラール製剤を購入させる行為を行ってはならない。
⑸ ASPは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。
ア フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器及びフタラール製剤の販売事業に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成及び従業員に対する周知徹底
イ フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器及びフタラール製剤の販売事業に関する独占禁止法の遵守についての、自社の社員である法人の職務執行者(自社の社員が自然人である場合は当該社員)及び従業員に対する定期的な研修並びに第三者による定期的な監査
⑹ ASPは、前記⑴、⑵、⑶及び⑸に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。