令和6年6月6日
公正取引委員会
公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、独占禁止法に基づき「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(平成16年公正取引委員会告示第1号)を指定し、その遵守状況及び荷主と物流事業者との取引状況を把握するため、荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた調査を継続的に行っている。
また、「優越的地位濫用事件タスクフォース」(以下「優越タスク」という。)(注)においては、上記の調査で物流事業者から寄せられた荷主の行為に関する情報も活用して荷主と物流事業者の取引に関する優越的地位の濫用事案を処理している。
令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況は以下のとおりである。
(注)審査局内に設置した優越タスクにおいては、優越的地位の濫用行為に係る全国から寄せられる情報及び自ら収集した情報に基づいて、
一元的に当該行為の類型に特化した調査を行うことで事例の蓄積や処理方法の向上を図り、これらを積極的に活用することにより、優越的地位の濫用事案を効率的に処理できるようにしている。
第1 荷主と物流事業者との取引に関する調査結果
1 調査方法
令和5年度においては、次表のとおり、荷主と物流事業者との間の物品の運送又は保管に係る継続的な取引を対象として、荷主及び物流事業者向けに書面調査を実施した。
また、書面調査の結果を踏まえ、現下の労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト上昇分の取引価格への反映の必要性について協議をすることなく取引価格を据え置く行為等が疑われる事案について、荷主121名に対する立入調査を実施した。
【書面調査の概要】
2 注意喚起文書の送付
書面調査及び立入調査の結果を踏まえ、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった荷主573名に対し、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付した。
注意喚起文書を送付した荷主の上位3業種は、「協同組合」(注)、「食料品製造業」、「飲食料品卸売業」の順であった。
また、問題につながるおそれのある回答を行為類型別にみると、「買いたたき」、「代金の減額」、「代金の支払遅延」の順に多かった。
(注)主に農産物、林産物及び水産物の販売事業等を営む協同組合
(1)注意喚起文書を送付した荷主の業種別内訳
(注)業種名は、日本標準産業分類(令和5年7月告示 総務省)による。割合は、小数点以下第2位を四捨五入して
いるため、大分類ベースの割合とその内訳の和は一致しない。
(2)注意喚起文書を送付した荷主の行為類型別内訳
(注)複数の行為類型で注意喚起文書の送付を受けた荷主が存在するため、合計の件数は前記(1)の荷主数573名とは
一致しない。
3 独占禁止法上の問題につながるおそれのある主な事例
主な事例は以下のとおり(括弧内は荷主の業種)。
(1)買いたたき
・荷主Aは、物流事業者から労務費等の上昇に伴うコスト上昇分の運賃引上げを求められたにもかかわらず、そのような運賃引上げに応じない理由を回答することなく、運賃を据え置いた。(金属製品製造業)
・荷主Bは、物流事業者から労務費の上昇に伴うコスト上昇分の運賃引上げを求められたにもかかわらず、物流事業者が自助努力で解決すべき問題であるとして運賃の引上げ協議を拒否した。(プラスチック製品製造業)
(2)代金の減額
・荷主Cは、物流事業者に対し、「協力値引き」と称して、契約書で定めていた運賃を一方的に5%差し引いて支払った。(建築材料、鉱物・金属材料等卸売業)
・荷主Dは、物流事業者に対し、運賃の支払方法を手形払から現金振込に変更したが、その際に運賃を一律に5%差し引いて支払った。(物品賃貸業)
(3)代金の支払遅延
・荷主Eは、物流事業者に対し、契約書で定めた運賃の支払日が金融機関の休日であった場合に、あらかじめ合意することなく、休日の翌営業日に運賃を支払っていた。(金属製品製造業)
・荷主Fは、物流事業者に対し、運送業務のほかに新たに附帯作業を追加し、委託したが、荷主Fの経理部門がそのことを把握していなかったため、当該附帯作業に係る料金の支払が遅れた。(その他の小売業)
(4)不当な給付内容の変更及びやり直し
・荷主Gは、物流事業者に対し、運送を行うこととされていた当日の朝に運送委託をキャンセルしたが、そのような突然のキャンセルに伴い物流事業者が負担した費用を支払わなかった。(総合工事業)
・荷主Hは、物流事業者に対し、運送内容を突然変更したが、その変更に伴い物流事業者が負担した費用を支払わなかった。(木材・木製品製造業)
(5)不当な経済上の利益の提供要請
・荷主Iが物流事業者に対し、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会者の派遣を求めたことから、物流事業者はこれに応じたが、荷主Iはその費用を支払わなかった。(繊維工業)
・荷主Jは、物流事業者に対し、物流業務に附帯して輸入通関業務を委託するに際して、関税・消費税の納付を立て替えさせ、物流事業者が荷主による直接納付を求めても応じなかった。(はん用機械器具製造業)
(6)割引困難な手形の交付
・荷主Kは、物流事業者に対し、運賃として手形期間150日の約束手形を交付した。(物品賃貸業)
(7)物の購入強制・役務の利用強制
・荷主Lは、物流事業者に対し、自身が取り扱う自動車共済保険及び定期貯金を契約するよう求めた。(協同組合)
・荷主Mは、物流事業者に対し、自身の子会社が取り扱う保険の契約及びワインの購入を強要した。(道路貨物運送業)
第2 優越タスクにおける荷主と物流事業者との取引に関する優越的地位の濫用事案の処理状況
1 処理概況
令和5年度においては、荷主と物流事業者との取引に関する優越的地位の濫用事案について、優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして、17件の注意を行った。
注意対象となった業種は、協同組合(注)(3件)、食料品製造業(3件)、道路貨物運送業(2件)、プラスチック製品製造業(2件)、金属製品製造業(2件)などとなっている。
(注)農産物の販売事業等を営む協同組合
2 注意の内容
注意を行った物流取引に関する事案について、注意対象となった行為類型をみると、
「不当な給付内容の変更及びやり直し」が33件中12件と最も多く、次いで「代金の減額」が8件、
「不当な経済上の利益の提供要請」が7件となっている(具体的な事例は、「令和5年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」(令和6年5月28日公表)の
別添参照)。
(注)一つの事案において複数の行為類型について注意を行っている場合があるため、注意件数(17件)と行為類型の内訳の合計数(33件)とは一致しない。
第3 今後の取組
公正取引委員会は、今回の調査結果について、関係省庁及び関係団体を通じて周知徹底を図り、違反行為の未然防止に向けた取組を進めていく。
また、物流取引の状況を把握するため、今後も、荷主と物流事業者との取引に関する調査を実施していく。
さらに、優越的地位の濫用に当たり得る具体的な事案に接した場合には、引き続き、独占禁止法に基づき積極的かつ厳正に対処していく。
関連ファイル
(印刷用)(令和6年6月6日)令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について(127 KB)
(参考)物流特殊指定の概要(169 KB)
※令和6年6月25日、報道発表文第2の1「処理概況」内の件数等に誤りがありましたので、次のとおり修正しました。
修正前:注意対象となった業種は、協同組合(注)(3件)、道路貨物運送業(2件)、食料品製造業(2件)
修正後:注意対象となった業種は、協同組合(注)(3件)、食料品製造業(3件)、道路貨物運送業(2件)
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局
経済取引局取引部企業取引課優越的地位濫用未然防止対策調査室
電話 03-3581-1882(直通)(第2を除く。)
審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)(第2)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/