令和6年5月15日
公正取引委員会
公正取引委員会は、佐賀県有明海漁業協同組合(以下「佐賀有明漁協」という。)に対し、本日、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令を
行った。
本件は、佐賀有明漁協が、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))の規定に違反する行為を行っているもので
ある。
また、水産庁に対し、後記第2のとおり、要請を行った。
第1 排除措置命令
1 違反行為者法人番号 | 7300005003028 |
名称 | 佐賀県有明海漁業協同組合 |
所在地 | 佐賀県佐賀市西与賀町大字厘外821番地4 |
代表者 | 代表理事 西久保 敏 |
事業の概要 | 乾海苔(注1)の販売事業、指導事業等
|
(注1)養殖して収穫した海苔から異物を除去し、洗浄、細断等を行った上で、均一の厚さの板状になるように伸ばして乾燥させたものをいう。
2 佐賀有明漁協が管轄する区域内における乾海苔の販売事業
(1) 佐賀有明漁協が管轄する区域内(以下、管轄する区域内のことを「管内」という。)において、佐賀県知事又は農林水産大臣か
ら海苔の養殖業に係る免許を受けて区画漁業権(注2)を取得しているのは、佐賀有明漁協のみであるところ、同漁協管内の海苔生
産者(注3)は、生産した乾海苔のほとんど全ての販売を、同漁協に委託している。
(2) 佐賀有明漁協は、自ら定める規定に従い、佐賀有明漁協管内の海苔生産者から販売を受託した乾海苔について、検査を行い、か
つ、自らが定める基準に基づき等級を付した上で、集荷した支所ごと、かつ、等級ごとにまとめ、自ら実施する入札に出品し、同
漁協管内の海苔生産者に代わって指定商社(注4)に販売している。
(3) 佐賀有明漁協が実施する乾海苔の入札に参加できる指定商社は、令和5年3月末日現在、甲種指定商社及び乙種指定商社の合計
で51社である。
(4) 佐賀有明漁協管内の海苔生産者にとって、同漁協が運営する共販(注5)は重要な販路となっており、自らが生産する乾海苔の全
てについて代替する販路を確保することは困難である。
他方、佐賀有明漁協管内の海苔生産者の中には、乾海苔の取引価格によっては系統外出荷(注6)の方が多くの販売代金を得られ
る場合があると考えていること等から、同漁協が運営する共販に加え、系統外出荷を行いたいという意向を有している者がいる。
(注2)漁業権のうち、一定の区域において養殖業を営む権利をいう。
(注3)漁協から海苔の養殖業に係る区画漁業権の行使を認められ、乾海苔を生産する当該漁協の組合員をいう。
(注4)甲種指定商社(佐賀有明漁協、熊本県漁業協同組合連合会、福岡有明海漁業協同組合連合会又は全国漁業協同組合連合会が九州地区において実施す
る全ての乾海苔の入札に参加できる資格を有する海苔製品の製造業者又は販売業者をいう。)及び乙種指定商社(佐賀有明漁協が実施する乾海苔の入
札に参加できる資格を有する海苔製品の製造業者又は販売業者をいう。)の総称をいう。
(注5)海苔生産者が生産した乾海苔について、検査や等級付けを行った上で、漁業協同組合連合会等が実施する入札により、海苔製品の製造業者又は販売
業者に販売する仕組みをいう。
(注6)佐賀有明漁協管内の海苔生産者が、佐賀有明漁協が運営する共販以外の方法により自らが生産した乾海苔を販売することをいう。
3 佐賀有明漁協管内及びその周辺区域における乾海苔の取引の状況等
(1) 佐賀有明漁協管内及びその周辺区域(以下「有明海沿岸」という。)で生産される乾海苔は、製品化に際して「有明海産」等と
生産地を明記している場合があるほか、日本国内の他の地域で生産される乾海苔とは特徴及び用途を異にしていることから、他の
地域の乾海苔で代替することは困難な場合が多い。
(2) 有明海沿岸で生産される乾海苔は、ほとんどが佐賀有明漁協、熊本県漁業協同組合連合会(以下「熊本県漁連」という。)、福
岡有明海漁業協同組合連合会(以下「福岡有明漁連」という。)又は全国漁業協同組合連合会(以下「全漁連」という。)が運営
する共販を利用して販売されている。
(3) 佐賀有明漁協管内で生産される乾海苔は、ほとんど全てが佐賀有明漁協が運営する共販を利用して販売されている。
4 違反行為等の概要(詳細は別添排除措置命令書参照)
(1) 違反行為
ア 佐賀有明漁協管内の海苔生産者に対し、乾海苔の系統外出荷を行わないようにさせている行為
(ア) 佐賀有明漁協は、遅くとも平成30年10月頃以降、毎年、同漁協管内の海苔生産者に対し、平成30年度(注7)から令和
2年度までにあっては「製造した乾海苔は、全量組合に出荷します。」、令和3年度以降にあっては「製造した乾海苔は、全
量組合に出荷するよう努めます。」という規定を含む「乾海苔共販にかかる誓約書」を提示して、これに署名又は押印した上
で同漁協に提出することを要請している。
なお、佐賀有明漁協は、平成30年度から令和2年度まで、同漁協管内の海苔生産者に対して、「乾海苔共販にかかる誓
約書」の提出を求める代表理事組合長名の文書に、「乾海苔共販にかかる誓約書」の提出がない海苔生産者の乾海苔につい
ては入札への出品を拒否する旨を記載していた。
(イ) 佐賀有明漁協は、上記(ア)の要請により、同漁協管内の海苔生産者に対し、生産した乾海苔の全量を同漁協に出荷させてい
る。
イ 佐賀有明漁協管内の海苔生産者に対し、佐賀有明漁協が実施する入札に付したものの応札されなかった乾海苔(注8)の系統外
出荷を行わないようにさせている行為
(ア) 佐賀有明漁協が同漁協管内の海苔生産者に提出を要請している前記ア(ア)の「乾海苔共販にかかる誓約書」には、「出荷した
乾海苔が、入札会において基準価格に達せず消却対象品となった場合は、のり価格の維持安定および品質向上を確保するた
め、その処分を組合に一任します。」という規定が含まれている。
(イ) 佐賀有明漁協は、前記ア(ア)のとおり要請することにより、同漁協管内の海苔生産者に対し、生産した乾海苔のうち、同漁協
が実施する入札に付したものの応札されなかった乾海苔について、同漁協に処分を一任させ、これを当該海苔生産者に返却し
ないこととしている。
(2) 違反行為の実効性を高める行為
ア 指定商社に対し、浜買い(注9)を行わないことを求めていた行為
(ア) 佐賀有明漁協は、平成29年10月頃及び令和2年11月頃に、甲種指定商社に対し、熊本県漁連、福岡有明漁連及び全
漁連と連名で、また、乙種指定商社に対し、単独で、「乙は共販に上場された海苔以外は直接、間接を問わず買付を行わな
い」という規定(規定中の「乙」は指定商社を指す。)を含む「活性処理剤等に関する覚書」を取り交わすことを要請してい
た。
(イ) 九州地区で乾海苔の販売事業を行う漁連等の任意団体である九州地区漁連乾海苔共販協議会(以下「九州共販協議会」とい
う。)は、甲種指定商社の任意団体である全九州地区海苔入札指定商組合(以下「指定商組合」という。)に対し、平成30
年度から令和元年度までにあっては、「指定商社は、共販に上場された乾海苔以外は買付を行なわない」という規定を含む
「乾海苔共販に関する確認書」を取り交わすことを要請していた。
(ウ) 佐賀有明漁協は、乙種指定商社を対象として、遅くとも平成30年10月頃から令和5年6月頃までの間、「乙は、共販に
上場された乾海苔以外は買付を行なわないこととし、これに違反した場合、甲は指定を取り消す場合もある。」という規定
(規定中の「甲」は佐賀有明漁協、 「乙」は乙種指定商社を指す。)を含む「県内商社共販取扱い規約」を定めていた。
イ 指定商社に対し、佐賀有明漁協が実施する入札に付したものの応札されなかった乾海苔について、佐賀有明漁協が処分するこ
との確認を求めていた行為
九州共販協議会は指定商組合に対し、平成30年度から令和4年度までにあっては、「札無品と確定した時、その明細を明ら
かにし」、「処分するものとする」という規定を含む「乾海苔共販に関する確認書」を取り交わすことを要請していた。
(注7)年度とは7月から翌年の6月までのことをいう。
(注8)ここでは「消却対象品」、「札無品」と同じものを指す。
(注9)海苔製品の製造業者又は販売業者が、佐賀有明漁協が運営する共販を利用せずに、佐賀有明漁協管内の海苔生産者から乾海苔を買い付けることをいう。
5 排除措置命令の概要
(1) 佐賀有明漁協は、次のア及びイの行為を取りやめなければならない。
ア 佐賀有明漁協管内の海苔生産者に対し、乾海苔の系統外出荷を行わないようにさせている行為
イ 佐賀有明漁協管内の海苔生産者に対し、佐賀有明漁協が実施する入札に付したものの応札されなかった乾海苔の系統外出荷を
行わないようにさせている行為
(2) 佐賀有明漁協は、次の事項を理事会において決議しなければならない。
ア 前記(1)ア及びイの行為を取りやめること
イ 指定商社に対し、浜買いを行わないことを求めている行為を取りやめている旨を確認すること
ウ 指定商社に対し、佐賀有明漁協が実施する入札に付したものの応札されなかった乾海苔について、佐賀有明漁協が処分するこ
との確認を求めている行為を取りやめている旨を確認すること
エ 今後、前記(1)ア及びイの行為並びに前記イ及びウの行為と同様の行為を行わないこと
(3) 佐賀有明漁協は、前記(1)及び(2)に基づいて採った措置を、佐賀有明漁協管内の海苔生産者及び指定商社に通知し、かつ、自ら
の職員に周知徹底しなければならない。
(4) 佐賀有明漁協は、今後、前記(1)ア及びイの行為並びに前記(2)イ及びウの行為と同様の行為を行ってはならない。
(5) 佐賀有明漁協は、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、 前記(4)で命じた措
置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
ア 乾海苔の取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成並びに同指針の自らの役員及び職員に対する周知徹底
イ 乾海苔の取引に関する独占禁止法の遵守についての、自らの役員及び職員に対する定期的な研修並びに第三者による定期的な
監査
(6) 佐賀有明漁協は、前記(1)から(3)まで及び前記(5)に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
第2 水産庁に対する要請について
公正取引委員会は、水産庁に対し、独占禁止法や水産庁策定の「水産物・水産加工品の適正取引推進ガイドライン」の遵守を全国
の漁業協同組合等に対して改めて周知徹底するよう要請した。
関連ファイル
(印刷用)(令和6年5月15日)佐賀県有明海漁業協同組合に対する排除措置命令について(134 KB)
(令和6年5月15日)参考1-2(過去の事例及び参照条文)(99 KB)
(令和6年5月15日)別添(排除措置命令書)(185 KB)
※令和6年5月17日、参考1(1)「本件に関連・類似する第一次産業関係の法的措置及び警告事例(最近10年間)」について、事例を追加しました。
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