令和7年4月15日
公正取引委員会
公正取引委員会は、Google LLCに対し、本日、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令を行った。
本件は、Google LLCが、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))の規定に違反する行為を行っているものである。
公正取引委員会は、令和5年10月23日に、本件の審査の開始等を公表した。また、公正取引委員会は、本件の審査の過程で、本件と同様のGoogle LLCの行為に対する調査を行った海外競争当局との間で情報交換を行った。
1 違反事業者
法人番号 | 3700150072195 |
名称 | Google LLC |
所在地 | アメリカ合衆国デラウェア州ウィルミントン、リトル・フォールズ・ドライブ251 |
代表者 | 代表社員 XXVIホールディングス・インク 同代表社員職務執行者 キャスリン・ダブリュー・ホール |
日本における代表者 グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社 同代表者 代表取締役 ケネス・イ | |
最高経営責任者 スンダー・ピチャイ | |
事業の概要 | 一般検索サービス(注1)等に関する製品及び役務に関する事業 |
(注1) 「一般検索サービス」とは、検索エンジンを用いて、利用者が検索により求める情報を特定の分野又は画像、映像その他の特定の形式に限定することなく表示する役務をいう。
2 アンドロイド・スマートフォンに関する取引の概要等
⑴ アンドロイド・スマートフォンメーカー(注2)は、アンドロイド・スマートフォンを、移動通信事業者(注3)に販売しているほか、自ら又は販売代理店等を通じて利用者に販売している。また、移動通信事業者は、仕入れたアンドロイド・スマートフォンを、自ら又は販売代理店等を通じて利用者に販売している。
(注2) 「アンドロイド・スマートフォン」とは、基本動作ソフトウェアである「アンドロイド」を搭載し、Google LLCが指定する仕様で開発されたアプリが動作するスマートフォンのうち、我が国において販売されるもの(Google LLCが販売するスマートフォンを除く。)をいい、「アンドロイド・スマートフォンメーカー」とは、アンドロイド・スマートフォンの製造販売を行う事業者をいう。
(注3) 「移動通信事業者」とは、我が国において、電気通信役務としての移動通信サービスを提供する電気通信事業を営む者であって、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設(開設された無線局に係る免許人等の地位の承継を含む。)又は運用している者をいう。
⑵ アンドロイド・スマートフォンにプリインストール(注4)されるアプリ及び当該アプリのアイコン又はウィジェットの画面上の配置は、アンドロイド・スマートフォンメーカーと移動通信事業者の協議を経るなどして決定される。
(注4) 「プリインストール」とは、スマートフォンメーカーがスマートフォンを販売する前にアプリを搭載することをいう。
⑶ アンドロイド・スマートフォンメーカーにとっては、自社が販売するアンドロイド・スマートフォンに「Google Play」と称するストアアプリ(以下「Google Play」という。)をプリインストールすることが必要であり、そのためには、Google LLC又はその子会社との間で本件許諾契約(注5)を締結する必要がある。
(注5) 「本件許諾契約」とは、「Mobile Application Distribution Agreement」と題する契約であり、Google LLCによるGoogle Play等の自社アプリのアンドロイド・スマートフォンへのプリインストールの許諾に併せて、アンドロイド・スマートフォンメーカーがGoogle LLCの検索ウィジェット及び特定のアプリのアイコンをホーム画面等の指定の場所に配置することなどを内容とするものをいう。
⑷ア アンドロイド・スマートフォンに検索機能(注6)を実装(注7)する方法としては、ホーム画面等に検索ウィジェット又は検索アプリのアイコンを配置する方法のほか、ブラウザの検索設定(注8)において特定の一般検索サービス事業者の提供する検索機能を選択する方法等がある。
イ アンドロイド・スマートフォンを用いた一般検索サービスの利用は、ホーム画面に配置された検索ウィジェット又は検索アプリのアイコン並びにブラウザのアドレスバー及びブラウザにより表示される一般検索サービス事業者のウェブページの検索窓を通じて行われることが多い。
ウ 一般検索サービス事業者にとって、自社の検索機能が実装された状態でアンドロイド・スマートフォンが販売されること、また、アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者にとって、検索機能を実装した状態でアンドロイド・スマートフォンを販売することは、それぞれ重要となっている。
エ アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者は、同一のアンドロイド・スマートフォンに複数の検索アプリ又はブラウザをプリインストールすることや、複数の検索アプリのアイコン若しくはウィジェット又はブラウザのアイコンを初期ホーム画面(注9)等に配置することは、利用者の利便性の低下につながる可能性があると認識しており、原則として行わないこととしている。
(注6) 「検索機能」とは、利用者がスマートフォンで一般検索サービスを利用できる機能をいう。
(注7) 「実装」とは、スマートフォンにおいて、特定の機能(特定の機能の利用を容易にする機能を含む。)を利用可能にすることをいう。
(注8) 「ブラウザの検索設定」とは、ブラウザのアドレスバーを検索窓として行う検索に応答して一般検索サービスを提供する事業者、ブラウザの起動時に開かれるページ、ブラウザのホームボタンをタップしたときに開かれるページ又はブラウザの新規のタブの立上げ時に開かれるページを指定する設定の総称をいう。
(注9) 「初期ホーム画面」とは、アンドロイド・スマートフォンメーカーがアンドロイド・スマートフォンの販売前にホーム画面として設定する画面をいう。
⑸ Google LLCは、本件許諾契約に基づき、「Google Chrome」と称するブラウザ(以下「Google Chrome」という。)のアンドロイド・スマートフォンへの搭載を許諾している。Google LLCは、Google Chromeについて、Google LLCの検索機能が選択された状態に設定している。
⑹ア 令和6年12月現在、少なくとも特定アンドロイド・スマートフォンメーカー(注10)6社との間で本件許諾契約が効力を有している。
イ 本件収益分配契約(注11)は、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー又は移動通信事業者に対し、Google LLCの一般検索サービスに係る検索広告(注12)による収益の一部を分配することを規定している。本件収益分配契約に基づき分配される額は、契約の相手方である特定アンドロイド・スマートフォンメーカー又は特定移動通信事業者(注13)が販売する特定アンドロイド・スマートフォン上で、Google LLCが提供する一般検索サービスを用いて利用者が行った検索によりGoogle LLCが得た検索広告による収益の額等に基づき算定される。
令和6年7月現在、少なくとも特定アンドロイド・スマートフォンメーカー4社及び特定移動通信事業者1社との間で本件収益分配契約が効力を有している。
(注10) 「特定アンドロイド・スマートフォン」とは、アンドロイド・スマートフォンのうち本件許諾契約の対象となったものをいい、「特定アンドロイド・スマートフォンメーカー」とは、特定アンドロイド・スマートフォンの製造販売を行う事業者をいう。
(注11) 「本件収益分配契約」とは、「Google Mobile Revenue Share Agreement」、「Google Mobile Incentive Agreement」等と題する契約をいう。
(注12) 「検索広告」とは、一般検索サービスを利用した際、検索結果とともに表示される広告をいう。
(注13) 「特定移動通信事業者」とは、移動通信事業者のうち本件収益分配契約を締結している者をいう。
3 違反行為の概要(詳細は別添排除措置命令書参照)
Google LLCは、遅くとも令和2年7月以降、次の⑴及び⑵を行うことにより、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に対し、他の一般検索サービス事業者の検索機能を特定アンドロイド・スマートフォンに実装させないようにしている。
⑴ 本件許諾契約に基づく許諾の条件
Google LLCは、本件許諾契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーに対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて、Google Playのプリインストールの許諾に併せて次の事項の実施を求めている。
ア 「Google Search」と称する検索アプリ(以下「Google Search」という。)をプリインストールすること並びにそのウィジェット及びアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること
イ Google Chromeをプリインストールすること、そのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること及びGoogle Chromeの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更しないこと
⑵ 本件収益分配契約に基づく収益分配の条件
Google LLCは、本件収益分配契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者及び特定移動通信事業者に対し、Google LLCが提供する一般検索サービスに係る検索広告による収益の一部を支払う条件として、特定アンドロイド・スマートフォンについて次のアからオまでの全部又は一部の事項の実施を求めている。
ア 次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) 他の一般検索サービス事業者の検索機能の実装
(イ) 他の一般検索サービス事業者の検索機能への接続を主目的とする機能の実装
(ウ) 利用者に対する、他の一般検索サービス事業者の検索機能の紹介又は利用の奨励若しくは提案
イ 全ての検索機能について、利用される一般検索サービスをGoogle LLCの一般検索サービスとすること
ウ Google LLCの検索ウィジェットを初期ホーム画面に配置すること
エ 既定のブラウザ(注14)をGoogle Chromeとし、Google Chromeのアイコンをドックに配置するとともに、次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) Google Chromeの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更すること
(イ) 前記(ア)の設定の変更を利用者に促し又は提案すること
オ 搭載されるブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの一般検索サービスを利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
(注14) 「既定のブラウザ」とは、利用者がウェブページの閲覧機能がないアプリでウェブページへのリンクを開く操作をした場合に、自動的に選択されるブラウザをいう。
4 排除措置命令の概要
⑴ Google LLCは、次のア及びイを取りやめなければならない。
ア 本件許諾契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーに対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて、Google Playのプリインストールの許諾に併せて前記3⑴ア及びイの事項の実施を求めること
イ 本件収益分配契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者及び特定移動通信事業者に対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて前記3⑵アからオまでの全部又は一部の事項の実施を求めること
⑵ Google LLCは、次の事項を業務執行の決定機関によって決議しなければならない。
ア 前記3⑴及び⑵を取りやめること
イ 今後、アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者に対し、検索機能の実装に係る取引に当たり、後記⑷ア又はイを行わないこと
⑶ Google LLCは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に通知し、かつ、自社の役員及び本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員等に周知徹底しなければならない。
⑷ Google LLCは、今後、アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者に対し、検索機能の実装に係る取引に当たり、次のア又はイを行ってはならない。
ア Google Playのプリインストールの許諾に併せて前記3⑴ア、イ、前記3⑵ア、イ、ウ、エ及びオの全部又は一部と同様の事項の実施を求めること
イ 金銭その他の経済上の利益を提供する条件として次の(ア)又は(イ)を求めること
(ア) 前記3⑵ア又はイと同様の事項を実施すること
(イ) 前記3⑴イ、前記3⑵ウ、エ、下記a、b又はcと同様の事項を複数併せて実施すること
a Google Searchをプリインストールすること及びそのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること
b Google Chromeについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの一般検索サービスを利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
c Google Chrome以外のブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの一般検索サービスを利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
⑸ Google LLCは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。
ア アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者との間の取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成並びに同指針の自社の役員及び本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員等に対する周知徹底
イ アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者との間の取引に関する独占禁止法の遵守についての、自社の役員及び本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員等に対する定期的な研修並びに定期的な監査
⑹ Google LLCは、独立した第三者を速やかに選定し、前記⑴から⑸までで命じた措置について、前記⑴の措置を講じてから5年間、履行状況を監視させなければならない。
⑺ア Google LLCは、前記⑹の第三者に、前記⑴、⑵、⑶及び⑸アに基づいて採った措置の履行状況について速やかに公正取引委員会に報告させなければならない。
イ Google LLCは、前記⑹の第三者に、前記⑷及び⑸イに基づいて採った措置の履行状況について、前記⑴の措置を講じてから5年間、毎年、公正取引委員会に報告させなければならない。
関連ファイル
(印刷用)(令和7年4月15日)Google LLCに対する排除措置命令について(138 KB)
(令和7年4月15日)参考1-2(過去の事例及び参照条文) (76 KB)
(令和7年4月15日)別添(排除措置命令書) (177 KB)
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