令和7年12月22日
公正取引委員会
中小企業庁
1 集中調査の実施等について
公正取引委員会及び中小企業庁は、下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)に違反する疑いのある行為を行っている事業者に対して、連携して調査を行い、違反が認められた場合には、勧告、公正取引委員会に対する措置請求、指導等の措置を迅速かつ厳正に行っている。
今般、公正取引委員会及び中小企業庁は、下請法の執行を通じた取引の適正化の取組を更に効果的なものとするため、特定の業種・業界における下請法違反被疑行為について集中的に調査を行い、下請法に違反する又は違反するおそれのある行為が認められた事業者に対して、迅速に指導等を行う新たな取組を実施した。
この取組の一つとして、公正取引委員会及び中小企業庁は、令和7年4月以降、自動車販売事業者(以下「自動車ディーラー」という。)と下請事業者(以下「車体整備事業者」という。)の間の取引において行われている修理委託の下請代金(以下「代金」という。また、本文中、「修理代金」は修理に要する総額をいう。)等に係る下請法違反被疑行為について集中的に調査を行い、自動車ディーラーに対して、2件の勧告(令和7年4月24日及び同年11月27日にそれぞれ措置済み)及び160件の指導を行った。勧告及び指導事例の概要は別紙1のとおりである。
また、中小企業庁では全国に下請Gメンを配置して中小企業に対しヒアリングを行っており、自動車ディーラーとの取引に関して、中小企業である車体整備事業者からのヒアリングで聴取した主な意見は別紙2のとおりである。
2 主な違反行為の傾向等
(1)自動車ディーラー及び車体整備事業者間の修理委託について 自動車ディーラー及び車体整備事業者間における修理委託の取引の流れの一例は下図のとおりである。修理委託は自動車ディーラーと車体整備事業者との間の取引であり、損害保険会社は直接の契約当事者ではないことを前提としている。
自動車ディーラーが、車体整備事業者に対して修理委託を行う場合には、取引条件を記載した発注書面等を交付する義務があるが、口頭発注が業界の慣習となっていたこと、急ぎの案件であったこと等を理由に、発注書面等を交付していなかった書面の不交付の事例が複数あった。
また、発注書面等を交付していた場合でも、車体整備事業者が実際に修理してみなければ作業内容が確定しないこと、修理代金の支払に損害保険が適用される取引において、車体整備事業者が損害保険会社の査定を受けるまで見積金額が確定しないこと等を理由に、発注時に代金の額を記載していなかった記載不備の事例が複数あった。
修理代金の支払に損害保険が適用される取引において、自動車ディーラーが、車体整備事業者と損害保険会社の間で修理代金に係る交渉が難航して代金の決定に時間を要したこと等を理由に、代金を支払期日までに支払っていなかった事例が複数あった。
また、車体整備事業者からの請求書の提出が遅れる又は提出されないことを理由に、代金を支払期日に支払っていなかった事例もあった。
自動車ディーラーが、車体整備事業者からコスト上昇に伴う代金の見直しの要請があった場合には協議に応じる一方で、コスト上昇等により車体整備事業者のコストが増えたことが明らかな場合においても要請がなかった車体整備事業者に対しては協議をすることなく、代金を据え置いていた事例が複数あった。
また、修理代金の支払に損害保険が適用される取引において、自動車ディーラーが損害保険会社との修理代金に係る交渉を車体整備事業者に任せた後、車体整備事業者が損害保険会社と協議した結果、レバーレート(1時間当たりの基本工賃)を引き下げる等により、修理代金を変更したにもかかわらず、自動車ディーラーは、車体整備事業者と協議を行うことなく、その修理代金から更に一律に自社分の利益として一定率を乗じて得た額を差し引いた金額を代金の額として定めていた事例が複数あった。
自動車ディーラーが、発注時に委託内容として発注書面等に記載していないにもかかわらず、修理対象となる自動車の車体整備事業者の工場等への引取りを車体整備事業者に無償で行わせていた事例が複数あった。また、修理部品の引取りや修理後の不要部品の廃棄を無償で行わせていた事例もあった。
また、自動車ディーラーの顧客に修理期間中の自動車の代車として貸し出す目的で、車体整備事業者に無償で自動車を提供させていた事例も複数あった。
3 違反行為に対する改善のための取組
(1)書面の不交付・記載不備について車体整備事業者に対して取引条件を記載した発注書面等を交付していない自動車ディーラーには、発注書面等を交付するよう指導を行った。また、発注書面等における代金の額の記載不備について、代金の額を発注時に定めることが困難である場合は、具体的な金額を定めることとなる算定方法を記載するよう指導を行った。
【参考】算定方法の記載例(注1)
代金=工賃(レバーレート×作業時間)+部品代+諸費用(注2)-自動車ディーラーの利益
(注1) このほか、業界で広く利用されているツールや見積りソフトを参考に算定した上で、記載することも選択肢として考えられる。
(注2) 例えば、車体整備事業者が修理対象となる自動車や修理部品を自社工場まで引き取った上で修理したり、修理後の不要部品を廃棄したりする必要がある場合には、当該自動車及び修理部品の引取り・納品や不要部品の廃棄に要した費用も諸費用に含まれると考えられる。
なお、代金の算定方法を定めることも困難である特別な事情がある場合には、自動車ディーラーは、当該事項が定められない理由及び定めることとなる予定期日を記載した発注書面等(当初書面)を交付し、その内容が確定した後、直ちに、当該事項を記載した書面等(補充書面)を交付する必要がある(別添)。
修理代金の支払に損害保険が適用される取引において、自動車ディーラーに対し、車体整備事業者と損害保険会社との間で修理代金に係る交渉が難航し、代金の額が定まる時期が遅れたり、車体整備事業者からの請求書の提出が遅れたりした場合であっても、自動車ディーラーは車体整備事業者から給付を受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに代金を全額支払う必要がある旨指導を行った。自動車ディーラーは、車体整備事業者と損害保険会社との間で修理代金に係る交渉が難航した場合であっても、支払遅延とならないよう、例えば、損害保険会社との交渉を車体整備事業者に委ねるのではなく、自動車ディーラーが自ら損害保険会社との交渉をするなど、代金の支払が滞ることのないよう配慮をすることが望ましい。
(3)買いたたきについて
自動車ディーラーに対し、修理代金の支払に損害保険が適用される取引において、損害保険会社との修理代金に係る交渉によって車体整備事業者が見積金額を変更した場合は、自動車ディーラーと車体整備事業者の間で十分な協議を行った上で代金の額を定めるよう指導を行った。
自動車ディーラーは、損害保険が適用される取引の場合であっても、買いたたきとならないよう、例えば、次のような取組を行うなどの配慮をすることが望ましい。
① 損害保険の適用の有無にかかわらず、自動車ディーラーと車体整備事業者との間で代金の算定方式を定めておき、あらかじめ取り決めた算定方式に基づき算定した代金の額を支払う。
② 自動車ディーラーは一律に自社の利益分として一定率を乗じて得た額 を差し引いた金額を代金の額とするのではなく、車体整備事業者と損害保険会社との修理代金に係る交渉によって見積金額に変更が生じる場合を考慮し、価格の見直しを行う。
③ 自動車ディーラー自らが損害保険会社との修理代金の交渉を行った上で、車体整備事業者と代金の額について協議する。
(4)不当な経済上の利益の提供要請について
ア 自動車ディーラーに対し、修理対象となる自動車や修理部品の引取り、修理後の不要部品の廃棄等を車体整備事業者に無償でさせることにより、車体整備事業者の利益を不当に害さないよう指導を行った。自動車ディーラーは、不当な経済上の利益の提供要請を行うことがないよう、例えば、自動車ディーラーと車体整備事業者の事業所の間で修理対象となる自動車や修理部品の引取り、修理後の不要部品の廃棄等が必要な場合は、車体整備事業者に行わせるのではなく、自動車ディーラーが自ら行うなどの配慮をすることが望ましい。
イ 自動車ディーラーに対し、代車を車体整備事業者に提供させることにより、車体整備事業者の利益を不当に害さないよう指導を行った。自動車ディーラーは、不当な経済上の利益の提供要請を行うことがないよう、例えば、次のような取組を行うなどの配慮をすることが望ましい。
① 車体整備事業者に代車を提供させることがないよう、自動車ディーラーが自ら代車を手配する。
4 今後の対応
自動車ディーラーと車体整備事業者の間の取引における下請法違反被疑行為について集中的に調査を行った本集中調査の過程において明らかになった下請法に違反する又は違反するおそれのある行為は、業界の商慣習が深く影響していることがうかがえる。それに起因し、自動車ディーラーと車体整備事業者との間での協議が十分に行われないまま取引が行われた結果、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請に該当する行為につながっていると考えられる。
令和8年1月1日から施行される「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(下請法の改正法(令和7年法律第41号)による改正後の法律。以下「取適法」という。)においては、委託事業者の禁止行為として「協議に応じない一方的な代金決定」が追加されることに加え、事業所管省庁に指導・助言権限が付与されることで、一層、取引適正化を阻害する行為に対する監視が強化されることとなるため、自動車ディーラーと車体整備事業者との間の取引においては、改めて取適法の趣旨の周知徹底と法令遵守が求められる。
公正取引委員会及び中小企業庁は、今回の調査・指導の結果を踏まえ、事業所管省庁と更なる連携を図りながら、引き続き、自動車ディーラーと車体整備事業者との間の取引の適正化に向けて、取適法に違反する又は違反するおそれのある行為については迅速かつ厳正に対応していくこととする。
関連ファイル
(概要)(令和7年12月22日)自動車ディーラー及び車体整備事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について(本文)(令和7年12月22日)自動車ディーラー及び車体整備事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について
(別添)算定方式による委託代金の額の記載及び例外的な書面の交付方法に関する関係条文等
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局経済取引局取引部下請取引調査室
電話 03-3581-3374(直通)〔本文及び別紙1について〕
中小企業庁事業環境部取引課
電話 03-3501-1732(直通)〔別紙2について〕
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