令和7年7月22日
公正取引委員会
公正取引委員会は、ビザ・ワールドワイド・ピーティーイー・リミテッド(以下「ビザ・ワールドワイド」という。)に対し、独占禁止法の規定に基づき審査を行ってきたところ、ビザ・ワールドワイドの後記3の行為が同法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))の規定に違反する疑いが認められた。
公正取引委員会は、後記3の行為について、確約手続に付すことで、ビザ・ワールドワイドによって当該行為を排除するための措置が速やかに実施されることにより、競争の早期回復が図られると認め、令和7年7月14日、独占禁止法第48条の2の規定に基づき、ビザ・ワールドワイドに対し確約手続に係る通知を行った。
今般、ビザ・ワールドワイドから、公正取引委員会に対し、独占禁止法第48条の3第1項の規定に基づき、後記3の行為を排除するために必要な措置の実施に関する確約計画の認定を求める申請があった。公正取引委員会は、当該確約計画は当該行為を排除するために十分なものであり、かつ、その内容が確実に実施されると見込まれるものであると認め、本日、同法第48条の3第3項の規定に基づき、当該確約計画を認定した (注1)(注2)。
なお、本確約計画には、後記5のとおり、確約措置の履行期間を5年間とすること及び確約措置全体の履行についての監視を第三者に委託することが含まれている (注3)。
本認定は、公正取引委員会が、ビザ・ワールドワイドの後記3の行為が独占禁止法の規定に違反することを認定したものではない。
(注1)確約計画の認定は、確約手続に係る通知を受けた事業者から申請された確約計画を公正取引委員会が認定するという、独占禁止法に基づく行政処分である。
1 申請者の概要
名称 | ビザ・ワールドワイド・ピーティーイー・リミテッド |
所在地 | シンガポール共和国ロビンソンロード71#08-01 |
代表者 | スティーブン・デイビッド・カーピン |
⑴ ビザ・ワールドワイドは、シンガポール共和国に本社を置く我が国を含むアジア太平洋地域のVisa(注4)の基幹拠点であり、我が国所在のクレジットカード事業者等との間で、我が国においてVisaカード事業(注5)(注6)を行うために必要なVisaが所有する商標の使用の許諾等を内容とするライセンス契約を締結している。
⑵ ビザ・ワールドワイドは、クレジットカード事業者に対し、消費者が加盟店(注7)でVisaカードを利用した際には、原則としてオーソリゼーション(注8)を実施することを求めている。オーソリゼーションは、取引処理ネットワークを利用して、基本的に加盟店からアクワイアラ(注9)を経由してイシュア(注10)に対して実施される。また、オーソリゼーションの結果、イシュアによる承認がされた場合、売上げの精算のために、利用されたVisaカードの売上げに係るデータは加盟店からアクワイアラを経由してビザ・ワールドワイドが提供するネットワークを通じてイシュアに送信される。
⑶ Visaカード決済に係るオーソリゼーションに利用されるアクワイアラ及びイシュア間の取引処理ネットワーク(以下単に「取引処理ネットワーク」という。)には、ビザ・ワールドワイドが提供するもののほか、ビザ・ワールドワイド以外の事業者が提供するものがある。
なお、クレジットカード事業者の中には、システムの運用や管理の煩雑さ等を理由として、相手方クレジットカード事業者ごとに利用する取引処理ネットワークを基本的に単一のものとする者がいる。
⑷ ビザ・ワールドワイドは、Visaカードによる取引のうち、ビザ・ワールドワイドにより売上・決済処理が行われる場合に、アクワイアラ及びイシュア間の手数料を分配するために、アクワイアラがイシュアに対して支払う手数料(以下「インターチェンジフィー」という。)の標準料率を設定している。また、アクワイアラ及びイシュアが個別の合意により当該標準料率以外の料率を設定している事例は確認されておらず、アクワイアラ及びイシュアは当該標準料率の適用を受けている。
⑸ ビザ・ワールドワイドは、インターチェンジフィーの標準料率として、取引の業種区分ごとに、基本の料率と、一定の条件を満たした場合に適用される基本の料率よりも低い料率(以下「優遇レート」という。)を設定している。
⑹ 我が国におけるクレジットカードの取扱高に係るVisaカードのシェアは第1位である。
(注4)「Visa」とは、アメリカ合衆国カリフォルニア州に本社を置くVisa Inc.及び同社を最終親会社とする事業者のうちいずれか又は複数の事業者をいう。
(注5)「Visaカード」とは、Visaのブランドのマークが付されたクレジットカードのことをいう。
(注6)「Visaカード事業」とは、消費者にVisaカードを発行する事業、販売店等にVisaカード決済の利用環境を提供する事業等のことをいう。
(注7)「加盟店」とは、Visaカード決済の利用環境を提供する事業を行うクレジットカード事業者との間で、加盟店契約を締結した販売店等のことをいう。
(注8)「オーソリゼーション」とは、クレジットカード等が利用可能であること等を確認する手続のことをいう。
(注9)「アクワイアラ」とは、販売店等にVisaカード決済の利用環境を提供する事業を行うクレジットカード事業者のことをいう。
(注10)「イシュア」とは、消費者にVisaカードを発行する事業を行うクレジットカード事業者のことをいう。
3 違反被疑行為の概要
ビザ・ワールドワイドは、ビザ・ワールドワイドとライセンス契約を締結しているクレジットカード事業者等に対し、Visaカードにより決済が行われる特定の業種区分の取引に係る決済処理において発生するインターチェンジフィーの標準料率について、購入日から一定の日数以内に売上げに係るデータを送信する場合又はオーソリゼーションが行われる日から一定の日数以内に売上げに係るデータを送信する場合に、優遇レートを適用し、当該オーソリゼーションが行われる日についてはビザ・ワールドワイドが提供する取引処理ネットワークにより生成される取引識別子(注11)に基づいて判定していたところ、平成30年2月、当該クレジットカード事業者等に対し、前記の特定の業種区分の取引につき、オーソリゼーションが行われる日から一定の日数以内に売上げに係るデータを送信する場合にのみ優遇レートを適用する旨を通知し、令和3年11月以降、これを実施している。
(注11)「取引識別子」とは、オーソリゼーション過程において、Visaカードによる各取引に割り当てられる一意の識別子のことであり、売上げ、返金、取消などの取引全体のライフサイクル管理に用いられるものである。
4 独占禁止法上の考え方
⑴ 市場における有力な事業者が、取引先事業者に対し、自己の競争者との取引等の制限をするなどの取引先事業者の事業活動を拘束する条件を付けて取引を行うことにより、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合は、独占禁止法上問題となる(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))。
⑵ 特定の業種区分の取引に係る優遇レートの判定に用いられる取引識別子は、ビザ・ワールドワイドが提供する取引処理ネットワークにより生成されるものであるため、ビザ・ワールドワイドによる前記3の行為により、クレジットカード事業者がビザ・ワールドワイド以外の事業者が提供する取引処理ネットワークを利用する場合には、特定の業種区分の取引に関して優遇レートの適用を受けることができない状況となった。
このような状況においては、前記2⑶のとおり、相手方クレジットカード事業者ごとに単一の取引処理ネットワークを利用するクレジットカード事業者は、取引の業種区分に応じて利用する取引処理ネットワークを使い分けることはないことから、特定の業種区分の取引に係る優遇レートの適用が受けられないことによる経済上の不利益を回避するためには、ビザ・ワールドワイドが提供する取引処理ネットワークを利用することを選択することとなると考えられる。
実際に、クレジットカード事業者の中には、前記3の行為を契機として、利用する取引処理ネットワークをビザ・ワールドワイド以外の事業者が提供するものからビザ・ワールドワイドが提供するものに変更した者がいる。
⑶ ビザ・ワールドワイドの前記3の行為は、ビザ・ワールドワイド以外の取引処理ネットワーク提供事業者がクレジットカード事業者との取引から排除される又はクレジットカード事業者との取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じ得るものと考えられる。
5 確約計画の概要
⑴ 特定の業種区分の取引に関し、クレジットカード事業者が、購入日から一定の日数以内に売上げに係るデータを送信する場合に適用される優遇レート及びオーソリゼーションが行われる日から一定の日数以内に売上げに係るデータを送信する場合に適用される優遇レートのいずれも利用可能とし、両優遇レートの下で適用される料率及び適用条件の実質的な同等性を確保し、維持すること。
⑵ 前記⑴の措置を適用開始日から5年間実施すること。
⑶ 次の事項を取締役会で決議すること。
ア 前記⑴の措置を講じること
イ 前記⑴の措置を適用開始日から5年間実施すること
⑷ 前記⑶に基づいて採った措置並びに前記⑴及び⑵の措置を採る旨をクレジットカード事業者等に通知し、かつ、ビザ・ワールドワイド及びそのグループ会社であるビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社に所属する我が国におけるインターチェンジフィーに関連する業務を行う従業員(以下「関連従業員」という。)に周知徹底すること。
⑸ 次の事項を行うために必要な措置を講じること。
ア 我が国におけるインターチェンジフィーの管理、設定、変更等に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成及び関連従業員に対する周知徹底
イ 我が国におけるインターチェンジフィーの管理、設定、変更等に関する独占禁止法の遵守についての関連従業員に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査
⑹ 前記⑴から⑸までの措置の履行についての監視を、第三者(公正取引委員会が承認した者に限る。)に委託すること。
⑺ 前記⑴及び前記⑶から⑸までの措置の履行状況を、公正取引委員会に対し、前記⑹で委託した第三者に報告させること。
⑻ 前記⑵の措置及び前記⑸イに基づいて講じた措置の履行状況を、前記⑴の措置の適用開始日から5年間、毎年、公正取引委員会に対し、前記⑹で委託した第三者に報告させること。
6 確約計画の認定
公正取引委員会は、次のとおり、前記5の確約計画が独占禁止法に規定する認定要件のいずれにも適合すると認め、当該確約計画を認定した。
⑴ 措置内容の十分性
前記5の確約計画に記載の措置の内容は、違反被疑行為の排除(前記5⑴)、5年間の同等性の維持(前記5⑵)、違反被疑行為の排除及び5年間の同等性の維持についての取締役会による決議(前記5⑶)、クレジットカード事業者等に対する通知及び関連従業員に対する周知徹底(前記5⑷)を含んでおり、前記3の行為を排除するために十分な措置であると判断した。
⑵ 措置実施の確実性
ビザ・ワールドワイドは、前記5の確約計画において、独占禁止法のコンプライアンス体制の整備を措置に含めていること、措置の履行についての監視を第三者(公正取引委員会が承認した者)に委託し、措置の履行状況に関する公正取引委員会に対する報告を当該第三者に行わせるとしていること及び措置の内容ごとに実施期限を設けていることから、前記5の確約計画は確実に実施されると判断した。
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