令和7年5月28日
公正取引委員会
公正取引委員会は、競争政策への理解の促進と地域の経済社会の実情に即した競争政策の運営に資するため、独占禁止政策協力委員制度を設置し、各地域の有識者に独占禁止政策協力委員(定員150名)を委嘱するとともに、各地域の経済団体などとの懇談会を開催し、独占禁止法などの運用や競争政策の運営などについて意見及び要望を聴取している。
令和6年度に寄せられた主な意見は、次のとおりである(地域ブロックごとの詳細は別紙参照)。
1 中小企業の取引適正化/優越的地位の濫用規制・下請法の規制について
・ トラックの運転手不足が顕著である実情にもかかわらず、配送先に荷物を運搬した際に、配送先から運転手が荷下ろしまで求められるというのは理不尽である。公正取引委員会には、引き続き荷主と運送事業者の取引適正化に努めていただき、最終的には運転手が適正な賃金をもらえるような取引環境の整備をお願いしたい。【北海道・消費者】
・ フリーランスのイラストレーターに挿絵の作成をお願いすることがあったことから、公正取引委員会が下請法で勧告を行った大手出版事業者に対する件については、他人事ではないと感じた。出版事業者は自己の取引相手と比べて大手事業者が多く、強い立場になりやすいため、殿様商売となってしまう傾向にある。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律が施行となった矢先に当該勧告案件があったことから、同法が弱者を守る画期的な法律であると認識される良い機会になったと思われる。【東北・報道機関】
・ 日本のアニメ業界は「クールジャパン」と言われており、今後、日本が保護していくべき業界だと思うのだが、末端のアニメーターの方々は、下請事業者のような状況になっていて、下請法に違反するような状態が発生しているのではないか。金銭的な不利益や過重労働などの点にも配慮して実態を注視してほしい。【関東・学識経験者】
・ 当社の取引先は、メーカーの二次下請、三次下請が多いが、価格転嫁の状況は好転してきているようだ。以前は、取引価格の引上げに関する交渉をお願いすると、取引を打ち切るなどと言われたこともあったようだが、今は交渉に応じてくれるようになったと聞いている。昔は、原材料費の値上げすら認めてくれなかったので、状況は大きく変わったと思う。【中部・経済界】
・ 価格転嫁を実現するために、取引先と価格交渉を進めている。取引先の上層部は取引価格を引き上げると言ってくれるが、現場の担当者は、取引価格を引き下げることで自身の評価が上がると思っているためか、価格転嫁を受け入れてくれない。【中部・経済界】
・ 小売業者との取引について、昔に比べたら随分と正常な取引になったと感じている。昔は、小売業者から、自身の新規開店の際に無償で従業員の派遣を要請させることは当たり前であったし、代金の支払時の不当な値引きも日常茶飯事であった。しかし、そのような不正な行為を行う取引先はつぶれていき、きちんとした取引を行う企業が生き残っていると感じている。【中部・経済界】
・ ナショナルブランド商品の製造では、原材料や流通等のコストが一般的に分かりやすいため、下請事業者との価格交渉もそうした事実を背景に行われ、コスト削減が難しいので、内容量の減量といったステルス値上げになる場合が多い。しかし、プライベートブランド商品の製造では、原材料や流通等のコストが不明瞭であり、安い商品を製造するために下請事業者が買いたたかれるので、利益が出ていない下請事業者は多いと思われる。公正取引委員会には、プライベートブランド商品の製造に関する取引について、積極的に注視していただきたい。【近畿・経済界】
・ 燃料費等のコスト上昇について運送事業者の価格交渉が困難である理由は、運送業界における多重下請構造が原因として考えられる。運賃の値上げは、最終的には荷主が運賃の値上げを認めるか否かが重要となる。元請運送事業者からの発注に頼っている下請運送事業者は、荷主と直接価格交渉を行うことができないため、運賃の値上げを認めてもらうことはかなり厳しい状況であると考えられる。【中国・経済界】
・ ゼネコンとの価格交渉はグロス価格で行っているため、原材料価格の上昇分が適正に取引価格に転嫁されているのか、又は労務費等の上昇分が適正に取引価格に転嫁されているのかは、測りかねるところがある。大手ゼネコンは、下請事業者との取引価格への労務費等の転嫁について交渉の機会を設けてくれるが、それは形式的なものにすぎず、実際には労務費等の上昇分についての取引価格への転嫁の実現には至っていない。中小鉄骨メーカーは、仕入先である大手鉄鋼メーカーから原材料を高価格で購入し、発注元である大手ゼネコンからは同業他社との価格競争を強いられ低価格で受注している。このように、中小鉄骨メーカーは、仕入先からの価格転嫁には応じつつも発注元への価格転嫁ができていない。その意味で、中小企業は仕入先と発注元の両方向に存在する取引先の大手事業者が価格を維持するための緩衝材のようになっており、非常に苦しい状況にある。【四国・経済界】
・ エネルギーコストの高止まりに対し、受注者は物流効率化等で凌いでいるが、発注元に対する価格転嫁の要望は難しく、価格転嫁の交渉段階にはないようだ。事業者間の営業スタイルが令和仕様にシフトできておらず、余計なことを言って取引停止になることを危惧しているようだ。【九州・経済界】
・ 沖縄県の企業は中小事業者ばかりで、自転車操業的に事業活動しているところが多い。少ないパイを取り合う中で、取引先に対して価格転嫁の交渉ができない事業者も多いと思う。公正取引委員会等の行政機関には、中小事業者の力となって、価格転嫁の交渉ができる環境づくり及び相談しやすい環境づくりに取り組んでいただきたい。【沖縄・消費者】
2 競争環境の整備に係る調査・提言について
・ デジタル分野における懸念点としては、ベンダーロックイン、すなわち、ソフトウェアの機能改修やバージョンアップなどの保守管理に際しても、既存のベンダー以外が実施できず、既存のベンダーを利用し続けないといけない状態が起こりうる点が挙げられる。この問題点に関して、デジタル技術を導入する立場としては、ベンダーが適正な競争の中で選抜されるという形になっていくことが望ましいと考えている。【関東・経済界】
・ コンテンツ産業については、例えば、電子コミック、アニメーション、脚本家といった幅広い分野の実態調査を行ってもらいたい。また、難しいかもしれないが、コンテンツ産業は非常に変化が激しいことから、過去に行った実態調査のフォローアップ調査をしていただきたい。【四国・学識経験者】
・ タッチ決済インフラの開発は、行政機関の規制が少なく、民間主導で自由に市場が開拓されてきた。他方で、その弊害として、特定の民間企業による市場独占化の動きもある。今後、キャッシュレス化を推進するためには、公正取引委員会による市場の健全な発展を確保するための取組が不可欠である。具体的には、キャッシュレス決済市場における特定の企業の独占を防ぎ、公正な競争環境を整備するための提言を行い、風通しの良い市場を実現することが必要である。【九州・経済界】
3 地域経済の実情と競争政策上の課題について
・ 北海道の最低賃金は全国平均以上の水準であり、47都道府県の中でも上位であるという状況の中、札幌等の大都市は別であるが、道内のその他の地方都市の中には最低賃金を維持することが非常に苦しい地域もある。そのため、価格転嫁の取組を国一律の内容とはせずに、地域に合わせたものにしてほしい。少なくとも緩やかな価格転嫁や賃上げが最適な地域があるという意見を受け止めてほしい。【北海道・経済界】
・ 公正取引委員会には、地方での入札談合に対し積極的な独占禁止法の執行を行っていただきたいと考えている。入札談合に対する独占禁止法の執行は国民にも期待されている部分であり、また、執行業務を通じて公正取引委員会の職員の能力の向上も図られると考えられることから、是非取り組んでいただければと思う。【東北・学識経験者】
・ 競争に関わる他省庁の政策に対して、積極的に協議し、競争法上の意見として公表してほしい。例えば、乗り合いバスにおける独占禁止法特例法では、国土交通省の認可に当たり公正取引委員会に協議が行われると聞いている。公正取引委員会が競争に関わる官庁として、議論のリーダーシップを発揮してもらいたい。【関東・学識経験者】
4 広報・広聴活動について
・ 公正取引委員会は講師派遣を実施するなどして所管法律の説明会等を実施しているが、中小事業者が説明会に参加して取引環境の何が変わるのかと疑問に思っている。当社は大手小売業者と取引しているが、取引先である大手小売業者のバイヤー及びマネージャーがそれらの法律について勉強して意識を変えなければ何も変わらない。公正取引委員会には、中小事業者に対してだけではなく、大手小売業者に対しても独占禁止法等の普及啓発に取り組んでいただきたい。【北海道・経済界】
・ 公正取引委員会に求めたいことは、発信する情報の「正しさ」である。現在は、行政機関が発する情報のほかに、評論家をはじめ誰でも情報を発信できることから、情報が増えすぎて本物の情報がどれかが分からないことが問題である。学生に対しても、クリティカルシンキングこそが重要であり、一意見を鵜呑みにせず、判断できる素養を身につけていただきたいと伝えている。公正取引委員会のウェブサイトの見やすさの観点からは、弁護士や法務部等の専門的かつ詳細な情報と、一般的な消費者へのわかりやすさを重視した情報を、別々にした方が対象者にマッチした情報が届くと思う。【関東・学識経験者】
・ 公正取引委員会は、学生に対して独占禁止法や競争政策について授業をしているが、法学部以外の学生にとっては、公正取引委員会の広報資料などで使われている用語が難解であり、理解させることが困難な場合がある。また、個別事案などで使われている概要図なども言葉が詰め込まれていて、公正取引委員会の活動を国民に広く周知し、認知してもらうには適当ではないように思える。内容の正確性を担保したいという事情は理解できるが、子どもでも理解できるような用語を使うなど分かりやすい広報を行う必要がある。【近畿・学識経験者】
・ 公正取引委員会からの最近の取組に係る案内メールの記載内容は、ポイントが整理されていて、字も大きくなって分かりやすくなった。ただ、地元のニュース、つまり中国支所の活動状況の掲載を増やした方がよい。また、実態調査に係る記載については、どんな問題があるのかということがよく分かるので掲載を増やしてほしい。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律が施行される等の大きなトピックスがある時は、当該トピックスに係る説明を詳しく掲載してほしい。【中国・消費者】
・ カルテル事件で主導的な立場であった事業者に対する課徴金の免除に関しては、課徴金減免制度の内容を知っている方は納得できるだろうが、市民感覚からすれば、違反行為に主導的であったものが課徴金を課されないことに納得できない方が多数存在すると考えられる。公正取引委員会におかれては、課徴金減免制度によって処理された事件について、事件公表時等に併せて制度の内容を大々的に広報し、批判を受けるような機会に敢えて積極的に制度の周知活動を行って国民の制度への認知度を高めるべきだと考える。【四国・学識経験者】
・ 公正取引委員会のホームページに掲載されている過去の発表文は一定の期間経過後消えてしまい検索ができなくなる。一方、審決等データベースでは、過去の事例も的確に検索できる。審決等データベースのように、発表文やパワーポイント資料等の検索が容易となるシステムがあれば、使いやすいと思う。【九州・学識経験者】
5 公正取引委員会に対する期待について
・ 公正取引委員会には各法律等に関する情報発信の強化について最も期待している。情報発信の内容について、新法に関する周知が弱いと感じているため、新法が施行される旨及び新法の内容等の情報発信を頑張っていただきたい。下請法についても知らない相談者がいるため、下請法に関しても情報発信をしていただきたい。【東北・法曹界】
・ 現在、店舗での支払方法が、現金やクレジットカードではなく、特定の大手QRコード決済サービス提供事業者が運営するキャッシュレス決済に限定されていることが多くなっている。当該事業者のシステムは非常に安価に導入でき、現在のところ、当該事業者側に支払う手数料が小売店を圧迫するような状況ではないものの、一通り決済手段が浸透したところで、当該事業者が急に利用料を上げたり、小売店から取得したデータを自身の事業のために利活用したりする等の問題が生じるおそれもあるため、予防的な観点から注視してほしい。【関東・学識経験者】
・ 多くの人々が関わる石油や電気等の分野に係る独占禁止法違反被疑事件について積極的に対応してほしい。【中部・経済界】
・ 取引先から取引上の不当な行為を受けている事業者は、公正取引委員会にその旨を情報提供したいと思ったとしても、取引先から公正取引委員会に情報提供したことを特定され、取引を切られてしまうことを極端に恐れている。公正取引委員会は、事業者のそのような不安を解消できるような方策を採れないか、今後も検討を続けていただきたい。【近畿・経済界】
・ 医療機器の業界は、国民の税金と保険料により賄われている側面があるほか、医療費抑制の要請や公定価格制度があることから、労務費の上昇分の価格転嫁は簡単には進まない。公正取引委員会には、労務費の価格転嫁について、医療機関等への周知をお願いしたい。【中国・経済界】
・ 巨大IT企業に対する調査で、公正取引委員会の知名度が上がっていると実感している。巨大IT企業によるルール無視の商慣行が事実なら見過ごせないので、詳しく調査し、結果によっては厳正な措置を採ってもらいたい。【四国・報道機関】
・ 公正取引委員会は、取引実態において表に出にくい状況を調査し、白日の下にさらしてくれている。個別事件についても引き続き大々的に公表していただければ、大手事業者との取引や交渉に有利に使えるので、よろしくお願いしたい。【九州・経済界】
・ 労務費転嫁指針は事業者向けのものであるが、国や地方自治体等の行政機関においても同指針の主旨に沿って、年間契約の期中であっても受注者との契約額を見直す等の対応をお願いしたい。【沖縄・経済界】
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(印刷用)(令和7年5月28日)独占禁止政策協力委員等から寄せられた主な意見(令和6年度)について
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