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(平成19年5月16日)建設業におけるコンプライアンスの整備状況(概要)-独占禁止法を中心として-

(平成19年5月16日)建設業におけるコンプライアンスの整備状況(概要)-独占禁止法を中心として-

平成19年5月16日
公正取引委員会

1 趣旨等

(1) 趣旨

 経済取引における公正な競争を一層促進させるためには,改正独禁法の厳正な執行を行うとともに,企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり,公正取引委員会としては,独禁法のコンプライアンスの向上に対する支援を重要な施策の一つとして推進しているところである。昨年は,このような取組の一環として,東証一部上場企業約1,700社に対してアンケート調査を実施し,企業コンプライアンスの実態に関する報告書を取りまとめたところである。
 今般は,(1)従来から官製談合事件を含めた入札談合事件が頻発していること,(2)改正独禁法の施行を契機とした業界団体からのコンプライアンス徹底の通知の発出など独禁法のコンプライアンスについての関心が高まっていること,(3)公共工事に関して品質確保法の施行など入札制度改革が急速に進展していること等を踏まえ,建設業者を対象としたアンケート調査を実施した。

(2) 調査対象

 全国的に事業を展開しているゼネコン,地域を基盤として事業を行っているゼネコン等のうち2つ以上の都道府県に営業所を設置している許可業者(大臣許可業者)1,700社を対象としている。

(3) 調査項目

 調査項目としては,(1)コンプライアンスの整備及び組織体制状況,(2)独禁法関係のコンプライアンスの取組,(3)独禁法関係のコンプライアンスの実効性確保,(4)独禁法改正に伴うコンプライアンスの取組の見直し,(5)入札談合防止のための取組並びに(6)最近の入札制度改革等に対する評価の6項目について調査を行っている。

 (注1)日本建設業団体連合会には,全国展開している大手ゼネコン54社が加盟(平成18年5月)
 (注2)全国建設業協会には,全国展開している大手ゼネコンに加え,都道府県知事許可業者を含む地域を基盤とするゼネコン等が加盟しており,その数は約2.6万業者(平成18年6月)

出所:国土交通省建設産業政策研究会資料等を基に作成

2 調査結果の概要及び考え方

(1) コンプライアンスの整備及び組織体制状況等

  •  コンプライアンス担当部署等の設置等法令遵守に係る体制の整備は,規模が小さくなるにつれて整備されている割合が低下。
  •  規模が小さい企業については,コンプライアンス体制の整備に負担感があると考えられるが,マニュアルの策定,コンプライアンス担当者の設置等対応が可能と考えられる事項は,資本金規模あるいは従業員数等に応じて,対応していく必要がある。規模が大きい企業については,少なくともマニュアルの策定等法令遵守に係る体制の整備は100%実施されることが強く望まれる。

 (法令遵守に係る体制の整備についての回答状況)


コンプライアンス・マニュアルの策定 コンプライアンス担当部署・担当者の設置 コンプライアンス委員会等の設置 独禁法コンプライアンス・マニュアルの策定 独禁法ヘルプラインの設置
資本金5億円未満 25.2% 39.4% 12.0% 13.4% 14.6%
資本金5億円以上
50億円未満
78.9% 90.9% 56.9% 45.2% 64.2%
資本金50億円以上 95.6% 100.0% 82.2% 80.0% 91.1%
全体 31.6% 42.6% 17.0% 17.8% 20.1%

 体制の整備に関する事項については,資本金5億円及び50億円を境に格差が見受けられた。5億円以上の企業は会社法において会社の業務の適正を確保する体制の構築が求められており,また,50億円以上の企業には上場会社が多く含まれていると考えられるところ,上場会社については金融商品取引法において内部統制報告書の作成が義務付けられたところであり,これらのことが調査結果に反映されているものと推測される。

(2) 独禁法関係のコンプライアンスの取組

  •  建設業界では入札談合事件が頻発しているにもかかわらず,全般的に危機意識が低い。独禁法に関する法令遵守の研修や社内監査の実施についても,全体として不十分。
  •  たとえ,自社内で研修を実施することが困難であっても,様々な団体が研修を実施していることから,これらを活用し従業員に研修を受講させることが望まれる。また,独禁法の法令遵守を達成するためには,社内監査でチェックすることが極めて重要。

 (独禁法関係のコンプライアンスの取組についての回答状況)


独禁法違反が起こる危機感 独禁法に関する研修の実施 独禁法に関する社内監査の実施
資本金5千万円未満 22.9% 40.9% 6.9%
資本金5千万円以上
1億円未満
27.4% 43.5% 9.1%
資本金1億円以上
5億円未満
23.6% 51.9% 10.2%
資本金5億円以上
10億円未満
33.3% 59.3% 18.5%
資本金10億面以上
50億円未満
45.3% 64.2% 32.1%
資本金50億円以上 57.8% 84.4% 57.8%
全体 27.5% 47.5% 12.1%

(3) 独禁法関係のコンプライアンスの実効性確保

  •  日ごろから経営トップがコンプライアンスの重視を呼びかけている割合は規模が大きくなるにつれて上昇する傾向にあるが,規模の大きい企業においても,その割合は8割にとどまっている。また,法令違反が発見された場合の処理をトップ自らが判断している割合は,逆に規模が小さくなるにつれて上昇する傾向にある。
  •  最近の建設業における入札談合事件の頻発状況を踏まえると,経営トップの問題意識は不十分と考えられ,経営トップ自ら日ごろからコンプライアンスの重視を呼びかけ,従業員に徹底する必要がある。また,規模の大きい企業においては,法令違反が発見された場合の処理はトップ自らが判断するよう更なる取組が期待される。

 (コンプライアンスの取組への経営トップの関与の仕方についての回答状況)

(4) 独禁法改正に伴うコンプライアンスの取組の見直し

  •  課徴金減免制度を利用することを考えている企業の割合は,資本金5億円未満では10%未満,資本金5億円以上で22%を超える。資本金50億円以上では22%であり,昨年,東証一部上場企業に対して実施した同様の調査の18%と比べ,割合は幾分高くなったものの,課徴金減免制度を適用したことが公表されているにもかかわらず,それほど高くなっていない。
  •  課徴金減免制度の導入が企業コンプライアンスの向上に「役に立つ」と考える企業の割合は,規模が小さくなるにつれて低下し,資本金50億円以上で53%,資本金5千万円未満で23%にとどまる。

 (課徴金減免制度の利用についての回答状況)


利用することを考えている 制度を勉強してみたい 利用することを考えていない よく分からない
資本金5千万円未満 6.0% 40.3% 7.7% 40.0%
資本金5千万円以上
1億円未満
8.3% 47.9% 3.9% 32.7%
資本金1億円以上
5億円未満
9.3% 49.1% 6.5% 30.1%
資本金5億円以上
10億円未満
22.2% 48.1% 0.0% 22.2%
資本金10億円以上
50億円未満
28.3% 37.7% 1.9% 28.3%
資本金50億円以上 22.2% 44.4% 0.0% 28.9%
9.7% 45.0% 5.3% 33.9%

 (課徴金減免制度の評価についての回答状況)


役に立つと考える 役に立つと考えない 分からない
資本金5千万円未満 23.4% 7.7% 61.7%
資本金5千万円以上1億円未満 27.4% 10.8% 56.0%
資本金1億円以5億円未満 33.3% 8.8% 52.3%
資本金5億円以上10億円未満 37.0% 3.7% 55.6%
資本金10億円以上50億円未満 45.3% 1.9% 49.1%
資本金50億円以上 53.3% 4.4% 42.2%
29.6% 8.5% 56.2%

(5) 入札談合防止のための取組

  •  入札談合防止のために有効と考える取組として,業界全体の取組や入札制度改革を挙げる企業が多く,入札談合に対して課す措置の強化を挙げる企業は少ない。これに対して,地方公共団体に対する調査によると,発注者側は,事業者における企業コンプライアンスの向上,入札談合に対して課す措置の強化を重要と考えるところが多く,事業者側と発注者側で認識に大きな差が生じている。
  •  建設業界が業界全体として入札談合の防止のための取組を行っていく場合においては,行政側が積極的にこれを評価し,入札制度改革の動向や独禁法の運用状況等の最新の情報を提供するなど,このような業界全体の取組を支援することが望まれる。

 (入札談合防止のために有効と考える取組についての回答状況)

 (参考)入札談合防止のために必要な措置についての回答状況(地方公共団体に対するアンケート結果(平成18年10月))

(6) 最近の入札制度改革等に対する評価

  •  入札制度の改善のために必要な改革として,総合評価方式の拡充やダンピング受注に対する規制強化を挙げる企業が多く,一般競争入札の拡大や入札談合に対して課す措置の強化を挙げる企業は少ない。これに対して,地方公共団体等に対する調査によると,発注者側は,一般競争入札の拡大や入札談合に対して課す措置の強化を挙げるところが多く,事業者側と発注者側で認識に大きな差が生じている。
  •  今後,行政側としては,自らの政策の目的,有効性について事業者側の理解を深めるための更なる努力が必要。

 (入札制度改善のために必要な改革についての回答状況)

 (参考)入札談合制度改革を行う上で必要な取組についての回答状況(地方公共団体に対するアンケート結果(平成18年10月))

(7) 総括

  •  大企業については,独禁法違反に対する危機意識は乏しく,社内監査の実施状況等についても不十分な状況がうかがえ,実質的なコンプライアンスの向上についての取組が今後の大きな課題となっている。
  •  中小企業については,法令遵守に係る体制の整備及び実質的な取組ともに極めて不十分な状況にある。コンプライアンス・マニュアルの策定,コンプライアンス担当者の設置等比較的負担感の少ない事項については積極的な対応も可能であると考えられるほか,外部研修を活用する等の工夫が求められる。
  •  建設業界においては,入札談合について,個々の企業を超えた問題であるとの意識が強い状況にあったが,業界の取組と個々の企業の取組が一体となってコンプライアンスの向上につながることが期待される。
  •  業界全体として入札談合の防止に取り組んでいくこと自体は望ましいことであるが,仮に,責任を業界全体に押し付け,個々の企業のコンプライアンス向上を重視しない考え方が個々の企業にあるとすれば,現状に対する危機意識が不十分。コンプライアンスの主体は,個々の企業であり,何よりも個々の企業が自らのコンプライアンスの実質的な向上を図ることが強く求められている。

【附属資料】

問い合わせ先

公正取引委員会事務総局経済取引局総務課
電話03-3581-5476(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp

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