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(平成24年7月11日)大規模小売業者等と納入業者との取引に関する実態調査報告書

(平成24年7月11日)大規模小売業者等と納入業者との取引に関する実態調査報告書

平成24年7月11日
公正取引委員会

第1 調査の目的・方法等

1 調査の目的及び調査対象事業者

 平成22年1月1日に施行された改正独占禁止法により,優越的地位の濫用は,独占禁止法第2条第9項第5号として法定化され,同法第20条の6の規定に基づき新たに課徴金納付命令の対象とされた。これを受けて,公正取引委員会は,法運用の透明性,事業者の予見可能性を向上させる観点から,平成22年11月30日に「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」という。)を策定・公表し,優越的地位の濫用行為の考え方を明確化することで違反行為の未然防止を図ってきた。
 また,優越的地位の濫用に係る違反事件(注1)に対しては,排除措置命令及び課徴金納付命令を行うなど厳正に対処している。
 さらに,当委員会は,優越的地位の濫用として問題となり得る事例が見受けられる取引分野について,その取引実態を把握するための調査を行ってきた(注2)。
 当委員会は,平成23年10月19日に公表した「食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査報告書」において,「卸売業者が取引先小売業者から要請等を受けて,メーカーに不当な要請等を行っている場合があることが明らかになった。」と報告しており,引き続き取引の実態を注視することとしていた。加えて,優越ガイドラインの認知度や同ガイドラインにおいて優越的地位の濫用となる行為類型として例示されている行為又は要請の実態について確認し,今後の適切な法運用に資するため,本調査を実施することとした。
 なお,従来は「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(平成17年5月13日公正取引委員会告示第11号。以下「大規模小売業告示」という。)の内容に沿った調査を実施してきた(注3)が,今回の調査は,優越ガイドラインの内容に沿ったものである。このため,調査対象となる小売業者についても,これまでの大規模小売業告示の規制対象となる大規模小売業者(注4)だけではなく,地域一番店等の特定の地域において高い売上高を有し,取引の当事者間において購買力を発揮し得ると考えられる小売業者も含めた小売業者(以下「大規模小売業者等」という。)に対象を拡大しており(注5),これら大規模小売業者等と当該事業者に商品を納入している事業者(以下「納入業者」という。)との取引について実態を把握することとした。


(注1) 平成22年1月に法定化された優越的地位の濫用が適用された違反事件としては,平成23年6月22日の株式会社山陽マルナカに対する件,同年12月13日の日本トイザらス株式会社に対する件及び平成24年2月16日の株式会社エディオンに対する件がある。
(注2) 直近ではホテル・旅館と納入業者との取引について調査を実施し,平成24年5月16日に「ホテル・旅館と納入業者との取引に関する実態調査報告書」を公表している。
(注3) 大規模小売業告示に基づく実態調査については,これまで平成18年及び22年に実施してきたところである。
(注4) 一般消費者により日常使用される商品の小売業者で,次の[1]又は[2]のいずれかに該当するもの(コンビニエンスストア本部等のフランチャイズチェーンの形態を採る事業者を含む。)
[1] 前事業年度の売上高が100億円以上の者
[2] 次のいずれかの店舗を有する者
・東京都特別区及び政令指定都市においては店舗面積が3,000平方メートル以上
・その他の市町村においては店舗面積が1,500平方メートル以上
(注5) 今回の調査対象となった大規模小売業者等の前事業年度の売上高は70億円以上である。

2 調査方法

 下表のとおり書面調査(調査対象期間:平成22年12月~平成23年11月)を実施し,さらに,書面調査に回答した納入業者のうち,20社に対してヒアリング調査を実施した。

 
調査対象事業者 発送数(A) 回答者数(B)
(回答率 B/A)
集計対象回答者数※3(C)
(回答率 C/A)
大規模小売業者等※1 822社 484社
(58.9%)
447社
(54.4%)
納入業者※2 10,000社 3,011社
(30.1%)
2,228社
(22.3%)

※1 大規模小売業者等は,前事業年度の売上高が70億円以上の全国の小売業者の中から無作為に抽出して選定した。
※2 納入業者は,前記の大規模小売業者等と取引があると考えられる全国の納入業者の中から無作為に抽出して選定した。
※3 [1]大規模小売業者等及び納入業者からの回答の中には,事業譲渡や廃業等により現在は事業を営んでいないとする回答が,また,[2]製造業を主たる事業とする納入業者からの回答の中には,大規模小売業者等と直接取引しておらず,全て卸売業者を介して取引をしているとする回答も相当数含まれており,これらの回答は本調査の集計対象から外した。

3 調査内容

 大規模小売業者等と納入業者との取引について,優越ガイドラインにおいて,優越的地位の濫用となる行為類型として例示されている行為又は要請(「購入・利用強制」,「協賛金等の負担の要請」,「従業員等の派遣の要請」,「受領拒否」,「返品」,「支払遅延」,「減額」及び「取引の対価の一方的決定」)に沿って状況等を調査した。

第2 調査結果のポイント

1 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請(注6)を受けた者の割合

 納入業者に対する書面調査において,優越ガイドラインで例示されている行為又は要請の有無について質問したところ,当該質問に回答した者のうち,優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を受けたと回答した者の割合を行為類型別にみると,[1]「協賛金等の負担の要請」が8.4%,[2]「返品」が5.9%及び[3]「購入・利用の要請」が5.4%となっている(図1)。

図1 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を受けたことがあるとの回答があった行為類型別の回答割合【納入業者に対する書面調査】

(注6) 優越ガイドライン等で認められている正当化事由のみによる行為又は要請を受けている場合,独占禁止法上問題はないが,それ以外の行為又は要請の場合,優越的地位の濫用につながり得ると考えられる。

2 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請への対応の回答数の割合

 大規模小売業者等から優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を納入業者が受け入れた後の対応についてみると,納入業者及びその企業グループ内で当該行為又は要請による負担を全て受け入れたとする回答が全ての行為類型において70%以上であった。
 一方,納入業者及びその企業グループ内だけでは負担しきれずに納入業者の取引先に対して負担を依頼し受け入れてもらったとする回答も見受けられる。その回答割合の高かった行為類型は,返品(26.1%),従業員等の派遣の要請(20.7%),協賛金等の負担の要請(19.8%)及び取引の対価の一方的決定(18.2%)であった(図2)。

図2 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請への対応の回答数の割合【納入業者に対する書面調査】

3 大規模小売業者等における「優越ガイドライン」の認知度等

 「優越ガイドライン」の認知度について役職階層別に質問し,その回答を売上高の規模別に集計した全体でみると,売上高100億円以上の大規模小売業者等では「内容についても知っていた」が78.2%,「名前やその存在は知っていた」が19.8%,「全く知らなかった」が2.0%となっている(図3)。
 一方,売上高100億円未満の大規模小売業者等では「内容についても知っていた」が59.5%,「名前やその存在は知っていた」が35.2%,「全く知らなかった」が5.3%となっている(図4)。

図3 「優越ガイドライン」の認知度【大規模小売業者等に対する書面調査】(売上高100 億円以上の大規模小売業者等)

図4 「優越ガイドライン」の認知度【大規模小売業者等に対する書面調査】(売上高100 億円未満の大規模小売業者等)

 次に,大規模小売業者等による「優越ガイドライン」の周知徹底への取組について質問し(複数回答あり),売上高の規模別にみると,「優越ガイドラインのリーフレット等の配布」による取組が売上高100億円以上及び100億円未満の大規模小売業者等共に最も多く,続いて,「各種の社内研修及びセミナーの開催」及び「業界団体等が主催する社外セミナーへの積極的参加」等に取り組んでいるとの回答も多い中,一方では,「周知活動やコンプライアンスの徹底はしていない」との回答が,売上高100億円未満の大規模小売業者等で14.3%と,売上高100億円以上の大規模小売業者等の5.4%と比べて高くなっている(図5)。

図5 「優越ガイドライン」の周知徹底への取組【大規模小売業者等に対する書面調査】

第3 調査結果の評価

1 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を受けた者の割合

 本調査の結果,大規模小売業者等から優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を受けたことがあると回答している納入業者は,いずれの行為類型についても一定程度存在する。そのような回答割合が特に高い行為類型は,「協賛金等の負担の要請」,「返品」,「購入・利用の要請」の順となっている(第2の1図1参照)。
 割合の高い上位3つの行為類型に着目すると,以下のような実態がある。


(1) 協賛金等の負担の要請
 協賛金等の負担の要請の方法としては,決算対策のための協賛金,店舗の新規・改装オープンに際しての協賛金又は広告協賛金を要請するといった一時的な要請の事例が依然として多く見受けられた。しかし,具体的な回答事例の中には,例えば「大規模小売業者等からの発注に基づいて各店舗別に商品を梱包し,物流センターに一括して納入し,大規模小売業者等が物流センターから各店舗に配送する際の配送代をいわゆるセンターフィーとして徴収される。なお,当該センターフィーは店舗別に梱包した納入商品の納入対価の大小にかかわらず一律に設定されているため,大規模小売業者等からの店舗別小口発注に対応すると,納入対価から納入した商品の原価を控除した粗利額よりもセンターフィーの金額の方が大きくなることが多く,納入するほど赤字となっている」というように,納入業者の直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えていると思われるものがあった。
 また,「大規模小売業者等が発注に関する内容のFAXを納入業者に送信した際に要した費用や大規模小売業者等の店舗におけるプライスカードの作成等に要した費用の提供を要請された」というように,1回ごとの要請金額が少額であるものの,毎月恒常的に要請される事例もあった。さらに,具体的な回答事例の中には,一方的に同意書を渡されて提出することが求められているという事例もあった。このように,協賛金等の要請は,納入業者から不満を言い出しにくい,あるいは大規模小売業者等が表面上は問題とならないような外形を整えるなど,より巧妙に行われている実態がうかがえる。このような巧妙さは他の行為類型でもみられ,例えば,従業員等の派遣の要請では,実際の派遣日数分ではなく,文書で案内された日数分しか請求させてもらえなかったという例が
みられた。


(2) 返品
 返品については,大規模小売業者等から「返品されたことがある」と回答した納入業者,そのうち「今後の取引を考えると返品を受け入れざるを得ないこともあった」と回答した納入業者,いずれの回答者数も優越ガイドラインで例示している行為類型中で最も多い。
 したがって,結果的には優越的地位の濫用につながり得る行為の回答者数の割合が高くなっていると考えられる。
 返品では,その条件が不明確で,納入業者が不測の不利益を受けているものが多く見受けられた。また,具体的な回答事例の中では,買取契約で納入しているにもかかわらず返品されるといった事例が目立ち,契約を無視して当然のように相手方に不利益を与えるような行為が見受けられるため,引き続き取引の公正化に向けた取組が必要であると考えられる。


(3) 購入・利用の要請(購入・利用強制)
 購入・利用の要請を受けた納入業者は,依然としてクリスマスケーキ,おせち料理,中元・歳暮商品及び紳士服等の衣料品の購入を要請されている。こうした要請の方法として,大規模小売業者等から要請文書を渡される例も多く,組織的な関与がうかがわれる。また,具体的な回答事例として,「大規模小売業者等から本来の取引と関係なく,大規模小売業者等が経営する飲食店において飲食することを要請され,当該飲食店を利用する必要はなかったが,取引を続けるために受け入れた。」等の回答も見受けられ,以前からみられる季節的な行事に関連する商品の購入の要請だけでなく,サービスの利用の要請も行われている実態がみられた。

2 優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請への対応の回答数の割合

 大規模小売業者等から優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を納入業者が受け入れた後の対応についてみると,納入業者及びその企業グループ内だけでは負担しきれずに納入業者の取引先に対して負担を依頼し受け入れてもらったとする回答も見受けられた。その回答割合の高かった行為類型は,返品(26.1%),従業員等の派遣の要請(20.7%),協賛金等の負担の要請(19.8%)及び取引の対価の一方的決定(18.2%)であった(第2の2図2参照)。
 この調査結果は,大規模小売業者等が納入業者に対して優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請を行う場合,これら行為又は要請によって納入業者に生じる負担が更に取引先に転嫁されていることを示唆するものである。この結果は,食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査報告書において指摘した「不当な要請等による不利益や負担の転嫁が複層的に行われ,大規模小売業者が問題行為のいわば発生源になっている構造」の存在をうかがわせるものとなっている(注7)。
 なお,納入業者がこのような負担を依頼した取引先との関係において,優越した地位にある場合で,かつ,同様の行為によって取引先に対して不当に不利益を与える場合には,優越的地位の濫用の問題が生じるおそれが懸念されるため留意が必要である。


(注7) 「食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査報告書」においては,卸売業者が取引先小売業者から要請等を受けてメーカーに不当な要請等を行っている場合,特に「従業員等の派遣の要請」,「返品」及び「減額」について取引先小売業者からの要請等に起因するとの回答割合が高かった(それぞれの回答割合は75.3%,72.1%及び58.2%)。

3 大規模小売業者等における「優越ガイドライン」の認知度等

 大規模小売業者等における「優越ガイドライン」の認知度について,売上高100億円以上と100億円未満に分けて比較すると,全体で「内容についても知っていた」との回答が売上高100億円以上の大規模小売業者等では78.2%となっており,一方,100億円未満の大規模小売業者等では59.5%となっていた。
 役職階層別でみても,売上高100億円以上及び100億円未満共に,役職が高い階層の方が認知度は高く,購買部門の一般社員においては,売上高100億円以上では64.3%であるが,100億円未満では50%を割り込んで41.1%と低い認知度となっている(第2の3図3及び図4参照)。
 また,「優越ガイドライン」の周知徹底への取組として,「優越ガイドラインのリーフレット等の配布」,「各種の社内研修及びセミナーの開催」及び「業界団体等が主催する社外セミナーへの積極的参加」等で周知徹底を図っているとの回答が多く挙げられている。
 売上高の規模別に大規模小売業者等の取組をみると,売上高100億円未満の大規模小売業者等は全般に「優越ガイドライン」の周知徹底への取組度合が低くなっている。また,「周知活動やコンプライアンスの徹底はしていない」との回答も,売上高100億円以上の大規模小売業者等では5.4%であるのに対し,100億円未満の大規模小売業者等では14.3%と高くなっており,「優越ガイドライン」の周知やコンプライアンスの徹底において意識の低い事業者が見受けられた。各種取組の中では「購買部門の一般社員を対象とした人事研修及び社内セミナーの開催」が売上高100億円未満の大規模小売業者等では18.7%となっており,100億円以上の大規模小売業者等の42.0%に比べて顕著に低くなっている。これが購買部門の一般社員における「優越ガイドライン」の認知度の低さの一因ではないかと考えられる(第2の3図5参照)。
 なお,ヒアリング調査の際には,大規模小売業者等の中でも全国展開しているような大規模小売業者等は,ある程度コンプライアンスの意識が高く,優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請は比較的少ないとの情報に接した。一方,全国展開はしていないが,特定の地域における市場において高いシェアを有する大規模小売業者等の方が優越的地位の濫用につながり得る行為又は要請が比較的多いとのことであった。こうしたヒアリング調査の結果は,上記の「優越ガイドライン」の認知度及び周知徹底への取組の相違を反映しているものと考えられる。

第4 公正取引委員会の対応

1 今回の調査結果を踏まえ,公正取引委員会は,違反行為の未然防止の観点から,関係事業者団体等に対し,次の対応を行うこととする。

(1) 大規模小売業者等における役職階層別の優越ガイドラインの認知度に関する調査結果から,特に認知度の低かった購買部門の一般社員を重点対象として業種別講習会を実施し,大規模小売業者等と納入業者の取引公正化を推進し,違反行為の未然防止に努める。また,優越ガイドラインの認知度が相対的に低かった売上高100億円未満の大規模小売業者等に対しては,当該講習会への積極的な参加を促すこととする。

(2) 大規模小売業者等が優越的地位の濫用を行うことのないようにするため,関係事業者団体に対して,本調査結果を報告するとともに,大規模小売業者等が問題点の解消に向けた自主的な取組を行えるよう,改めて優越ガイドライン及び大規模小売業告示の内容を傘下会員に周知徹底するなど,業界における取引公正化に向けた自主的な取組を要請する。

2 今後とも,大規模小売業者等と納入業者との取引実態及び独占禁止法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに,仮に,優越的地位の濫用行為等独占禁止法に違反する疑いのある行為が認められる場合には,厳正に対処する。

第5 調査結果の概要

1 書面調査に回答した納入業者の概要(業種・規模)

 納入業者に対する書面調査において,今回の書面調査に回答した者(注8)の業種をみると(複数回答あり),[1]卸売業が63.6%,[2]製造業が35.4%,[3]その他が7.5%となっている(図6)。

(注8) 該当する質問について実際に回答した者のことであり,無効な回答をした者や未回答であった者を除く(以下同じ)。

図6 納入業者の業種【納入業者に対する書面調査】

 納入業者に対する書面調査において,今回の書面調査に回答した者の資本金の規模をみると,[1]1億円以下の者が85.0%,[2]3億円以下の者が89.3%となっている(図7)。

図7 納入業者の資本金規模【納入業者に対する書面調査】

 納入業者に対する書面調査において,今回の書面調査に回答した者の従業員の規模をみると,[1]100人以下の者が84.4%,[2]300人以下の者が93.9%となっている(図8)。

図8 納入業者の従業員規模【納入業者に対する書面調査】

2 優越ガイドラインで規定されている行為類型別の概要

(1) 購入・利用の要請(購入・利用強制)
 購入・利用の要請については,2,210社の回答者のうち,488社が「要請を受けたことがある」と回答し,そのうち231社が「今後の取引を考えると要請に応じざるを得ないこともあった」と回答し,その要請理由が「優越的地位の濫用につながり得る購入・利用の要請」であったと回答したのが119社であった。
 このように,当該要請について回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る購入・利用の要請」を受けたと回答した者の割合は5.4%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,購入・利用の要請のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大規模小売業者等の店舗において一定期間開催される物産展等の催事に限定して使用できる商品券について,実際に使用すると考える金額分以上の購入を要請され,購入せざるを得なかった(百貨店)(注9)。
・大規模小売業者等から,スーツ,うなぎ及び季節商品(クリスマスケーキ・お節料理等)の購入を要請され,購入せざるを得なかった(食品スーパー)。

(注9) ( )内に記載されている業態は,具体的事例において行為又は要請を行った大規模小売業者等の業態である(以下,他の行為類型についても同じ)。


(2) 協賛金等の負担の要請
 協賛金等の負担の要請については,2,179社の回答者のうち,826社が「要請を受けたことがある」と回答し,そのうち571社が「今後の取引を考えると要請に応じざるを得ないこともあった」と回答し,その要請理由が「優越的地位の濫用につながり得る協賛金等の負担の要請」であったと回答したのが183社であった。
 このように,当該要請について回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る協賛金等の負担の要請」を受けたと回答した者の割合は8.4%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,協賛金等の負担の要請のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

【多種多様な協賛金やリベート】
・大規模小売業者等との間で取引することとなった商品が,産地限定の原材料を使用する商品であるため,原材料の作柄によっては納入できる数量が当初の見込み数量に満たない場合もある旨説明し,事前に大規模小売業者等にも了承を得ていた。しかし,実際に原材料の作柄が悪く見込み数量に満たない納品となった際に,大規模小売業者等から欠品となった数量分について消費者向け小売価格の補償を要請され,事前の了承について申し立てたが,考慮してもらえず受け入れざるを得なかった(その他の大規模小売業者等)。
・大規模小売業者等が発注に関する内容のFAXを納入業者に送信した際に要した費用や大規模小売業者等の店舗におけるプライスカードの作成等に要した費用の提供を要請され,応じざるを得ない(ホームセンター)。
【同意書等による確認】
・協賛金の要請の際には,大規模小売業者等から書面による合意書が渡され,必要事項を記入して押印の上,提出するように求められるので,これを提出しているが,実態はやむを得ずこれに応じているに過ぎない(総合スーパー)。
【センターフィー】
・大規模小売業者等からの発注に基づいて各店舗別に商品を梱包し,物流センターに一括して納入し,大規模小売業者等が物流センターから各店舗に配送する際の配送代をいわゆるセンターフィーとして徴収される。なお,当該センターフィーは店舗別に梱包した納入商品の納入対価の大小にかかわらず一律に設定されているため,大規模小売業者等からの店舗別小口発注に対応すると,納入対価から納入した商品の原価を控除した粗利額よりもセンターフィーの金額の方が大きくなることが多く,納入するほど赤字となっている(ホームセンター)。
【店舗等のオープン時に要請される協賛金】
・大規模小売業者等から新店オープンの際に,アドバルーン代として数万円の負担の要請があり負担したが,実際にアドバルーンが上がることはなかった(ホームセンター)。
【値引き時に要請される協賛金】
・大規模小売業者等が自己の判断で商品を値下げして販売したにもかかわらず,その値下げ額の半分を一方的に負担させられた(専門量販店)。
【広告宣伝時に要請される協賛金】
・大規模小売業者等が開催する催事に出店する際に,納入業者はその催事のための広告協賛として金銭の提供を要請されるが,広告には納入業者が納入した商品が掲載されていない(百貨店)。


(3) 従業員等の派遣の要請
 従業員等の派遣の要請については,2,156社の回答者のうち,590社が「要請を受けたことがある」と回答し,そのうち389社が「今後の取引を考えると要請に応じざるを得ないこともあった」と回答し,その要請理由が「優越的地位の濫用につながり得る従業員等の派遣の要請」であったと回答したのが71社であった。
 このように,当該要請について回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る従業員等の派遣の要請」を受けたと回答した者の割合は3.3%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,従業員等の派遣の要請のうち,優越的地位の濫用の問題につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・店舗の新規及び改装オープンの際,大規模小売業者等から従業員等の派遣を要請され,派遣先では派遣当日の朝礼において,「交通費,宿泊費及び日当等を請求する場合は大規模小売業者等の部長等の役職者に直接交渉して下さい」と言われる。しかし,立場の弱い納入業者から大規模小売業者等の部長等の役職者に直接交渉することは難しいため,納入業者は費用を請求できずに従業員等を派遣している(ディスカウントストア)。
・大規模小売業者等から新規及び改装オープンに伴う従業員等の派遣の要請を受けるが,その際,要請文書を渡される。実際には受け取った要請文書に記載されている派遣日以外にその前後各1日も従業員等を派遣するよう口頭で要請され,派遣に要した費用を大規模小売業者等に請求したところ,実際の派遣日数分ではなく,文書で案内された日数分の費用しか請求させてもらえなかった(ホームセンター)。


(4)受領拒否
 受領拒否については,2,159社の回答者のうち,123社が「受領拒否されたことがある」と回答し,そのうち102社が「今後の取引を考えると受領拒否を受け入れざるを得ないこともあった」と回答し,その受領拒否の理由が「優越的地位の濫用につながり得る受領拒否」であったと回答したのが47社であった。
 このように,受領拒否されたことがあると回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る受領拒否」を受けたと回答した者の割合は2.2%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,受領拒否のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大規模小売業者等にプライベート・ブランド商品(注10)を納品した際に,大規模小売業者等の一方的な都合で当該商品の受領を拒否された(ホームセンター)。
・大規模小売業者等との間で買取契約を結び商品を調達したが,1回目に発注数量の1/3の商品を納品した後,残りの2/3の商品を納品しようとしたところ受領を拒否された(専門量販店)。

(注10) プライベート・ブランド商品とは,小売業者等が自ら商品を企画し,納入業者に製造委託した自己のブランドで販売する商品のこと。


(5) 返品
 返品については,2,172社の回答者のうち,968社が「返品されたことがある」と回答し,そのうち802社が「今後の取引を考えると返品を受け入れざるを得ないこともあった」と回答し,その返品理由が「優越的地位の濫用につながり得る返品」であったと回答したのが128社であった。
 このように,返品されたことがあると回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る返品」を受けたと回答した者の割合は5.9%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,返品のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大規模小売業者等に買取契約で納入しているにもかかわらず,賞味期限間近や賞味期限が切れた商品を返品される。なお,返品に当たっては,当該返品に際して大規模小売業者等が返品の際に要した運送費用の負担をさせられた上に,当該返品商品について,大規模小売業者等が消費者に対して販売する売価で買い上げることまで要請された(ホームセンター)。
・この業態全般に言えることであるが,とにかく返品が多い。特売商品の売れ残りで定番商品ではないものは,ほとんどの店舗でセールが終わると返品してくる。返品を考慮した取引条件とはなっていないので対応に苦慮している(ドラッグストア)。


(6) 支払遅延
 支払遅延については,2,173社の回答者のうち,147社が「支払われなかったことがある」と回答し,そのうち76社が「今後の取引を考えると支払遅延を受け入れざるを得ないこともあった」と回答し,その支払遅延の理由が「優越的地位の濫用につながり得る支払遅延」であったと回答したのが49社であった。
 このように,支払われなかったことがあると回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る支払遅延」を受けたと回答した者の割合は2.3%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,支払遅延のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大規模小売業者等との契約に定められた締日までに納入した商品に係る代金の支払いを,契約上の支払時期ではなく,次回の支払いに回されることが継続的に続いている(食品スーパー)。
・大規模小売業者等との決済に際して,双方で合意している月末等に現金又は手形での支払いが,最近,当該大規模小売業者等の一方的な都合により行われず,一定期間を置いた後に振り込みで行われている(ホームセンター)。


(7) 減額
 減額については,2,178社の回答者のうち,198社が「減額されたことがある」と回答し,そのうち160社が「今後の取引を考えると減額を受け入れざるを得ないこともあった」と回答し,その減額理由が「優越的地位の濫用につながり得る減額」であったと回答したのが65社であった。
 このように,減額されたと回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る減額」を受けたと回答した者の割合は3.0%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,減額のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大規模小売業者等に商品を納入した後に,他の納入業者が同一の商品を当該納入業者より低い納入価格で納入した場合には,その納入価格と同じ価格で納入するよう要請があった。既に納入した商品の代金について,支払を受ける時に当初の納入価格と要請後の低い納入価格との差額を減額された(ディスカウントストア)。
・大規模小売業者は,毎月請求金額の90%の支払いしかしてもらえず,請求金額の全額の支払いを要請しているが,未だに実現していない(専門量販店)。


(8) 取引の対価の一方的決定
 取引の対価の一方的決定については,2,172社の回答者のうち,349社が「要請を受けたことがある」と回答し,そのうち241社が「今後の取引を考えると要請に応じざるを得ないこともあった」と回答し,その要請理由が「優越的地位の濫用につながり得る取引の対価の一方的決定」であったと回答したのが47社であった。
 このように,当該要請について回答した者のうち,「優越的地位の濫用につながり得る取引の対価の一方的決定」を受けたと回答した者の割合は2.2%であった。
 なお,納入業者に対する書面調査及びヒアリング調査の過程において,取引の対価についての一方的な要請のうち,優越的地位の濫用につながり得る具体的事例として,次のような回答がみられた。

・大量発注時において当社が大規模小売業者等に対して提示した納入価格を,発注数量の少ない発注時においても一方的に適用された(専門量販店)。
・大規模小売業者等の新店オープンや店舗リニューアル時においては,納入する商品の納入価格について,1か月間という期間限定ではあるが,通常時の納入価格よりも大幅に値下げした価格で納入することを一方的に要請され,受け入れざるを得なかった(専門量販店)。

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問い合わせ先

公正取引委員会事務総局経済取引局取引部企業取引課
電話 03-3581-3373(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/

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