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(平成24年5月16日)「ホテル・旅館と納入業者との取引に関する実態調査報告書」(概要)

(平成24年5月16日)「ホテル・旅館と納入業者との取引に関する実態調査報告書」(概要)

平成24年5月16日
公正取引委員会

第1 調査の趣旨

 公正取引委員会は,大規模小売業者等による優越的地位の濫用行為に関して積極的かつ厳正な法執行を行うとともに,「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」という。)の策定・公表(平成22年11月),実態調査の実施などにより,その未然防止に努めている。ホテル・旅館による行為についても,当該事業者に商品・サービスを納入・提供している事業者(以下「納入業者」という。)に対して優越的地位の濫用を行ったとして独占禁止法に基づく法的措置や警告公表を行ってきており,また,「大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査」(平成22年5月報告書公表)においても,「宿泊業者等の事業者との取引において何らかの不当と感じる要請がある」との回答が寄せられているところである。
 このような状況に加えて,一般に,優越的地位の濫用について取引上の立場の弱い事業者は不利益を被っていても申し出ることが困難な面があることを踏まえ,公正取引委員会は,ホテル・旅館と納入業者との間の取引実態について調査を実施することとした。

第2 調査方法・内容等

1 調査方法

 納入業者に該当すると考えられる中小企業に対し,平成22年1月から平成23年12月までを調査対象期間とする書面調査を実施するとともに,納入業者29社に対してヒアリングを実施した。

発送数(A)
回答数(B)
(回答率B/A)
調査対象納入業者数(C)
(C/A)
6,866社
2,479社
(36.1%)
1,625社
(23.7%)

(注1) 日本標準産業分類の「小分類 旅館,ホテル」に分類される事業者に商品・サービスを納入・提供しているとして公正取引委員会が把握している事業者の中から,中小企業基本法で定義する資本金規模により中小企業に該当しない事業者を除外するなどして,書面調査票の送付先6,866社を選定した。
(注2) 「調査対象納入業者」とは,回答のあった2,479社のうち,ホテル・旅館に商品・サービスを納入・提供している,本件調査の対象となる納入業者である。

2 主な調査内容

 年間取引高上位5位までの各ホテル・旅館(取引先ホテル・旅館が5に満たない場合は全て。)とのそれぞれの取引における,優越ガイドライン(注3)において優越的地位の濫用となる行為類型として例示されている各行為(注4)に焦点を当てて調査を行った。
(注3) 優越ガイドライン:http://www.jftc.go.jp/dk/yuuetsutekichii.pdf
優越ガイドラインガイドブック:http://www.jftc.go.jp/dk/yuuetsu.pdf
(注4) 「購入・利用強制」,「協賛金等の負担の要請」,「従業員等の派遣の要請」,「受領拒否」,「返品」,「支払遅延」,「減額」,「取引の対価の一方的決定」及び「やり直しの要請」の9類型

第3 調査報告書のポイント

1 調査結果及びその評価

(1) 優越的地位の濫用につながり得る行為の状況

 行為類型別に,優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていた取引の割合を比較すると,「不要な商品等の購入・利用要請」があった取引の割合が42.4%と他の行為類型に比べて圧倒的に高い。

図1 優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていた取引の行為類型ごとの割合

図1 優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていた取引の行為類型ごとの割合

(2) 評価

ア 購入・利用強制

(ア) ホテル・旅館によるディナーショーチケット,クリスマスケーキ,おせち料理等の商品・サービスの購入・利用要請は広く行われており,その中には執拗・一方的なものも見受けられる。また,ホテル・旅館が,納入業者を会員として「業者会」等と称する団体を組織し,これを通じて,納入業者に対し,商品・サービスの購入や利用を要請している場合もある(注6)。これらの要請について,納入業者は今後の取引に与える影響を懸念して応じざるを得ないという実態にあるものと考えられる。ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,優越的地位の濫用につながり得る行為を行っているホテル・旅館が相当数存在するものと考えられる。
(注6) ホテルが納入業者等を会員とする業者会を設け,自社の広告宣伝に要する費用を賄うこと等を目的として,会員である納入業者等に,会費と称して毎月一定額の金銭的負担を余儀なくさせていた疑いのある事実が認められたことから,警告公表した事案がある(平成21年3月31日公表 http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.march/09033101.pdf)。

(イ) このような実態を踏まえると,ホテル・旅館は,納入業者に対して優越的地位の濫用につながり得る行為を行っていないかどうかを,優越ガイドライン及び本調査結果を参照して,早急に確認する必要がある。
 具体的には,
[1] 今後の取引に影響すると受け取られるような要請をすることにより,商品・サービスを購入・利用させていないか
[2] 購買担当者,料理長等の納入業者との取引関係に影響を及ぼし得る者が購入・利用を要請することにより,商品・サービスを購入・利用させていないか
[3] 組織的又は計画的に購入・利用を要請することにより,商品・サービスを購入・利用させていないか
[4] 購入・利用する意思がないとの表明があった場合,又はその表明がなくとも明らかに購入・利用する意思がないと認められる場合に,重ねて購入・利用を要請することにより,又は商品を一方的に送付することにより,商品・サービスを購入・利用させていないか
[5] 業者会を通じて実質的に商品・サービスを購入・利用させていないか
などを確認する必要がある。
 この結果,優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていた場合には,早急にそのような行為を取りやめ,自主的に改善を図ることが必要である。
 また,商品・サービスの購入・利用要請は,業界の慣行として広く行われていると思われることから,業界全体で改善に向けた取組を行っていくことも必要である。

イ その他の行為

 購入・利用強制に係る行為に比べれば,ホテル・旅館による他の行為類型に係る行為は多くはないが,ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,優越的地位の濫用につながり得る行為を行っているホテル・旅館も少なからず存在すると考えられる。ホテル・旅館は,優越ガイドライン及び本調査結果を参照して,優越的地位の濫用につながり得る行為を行わないよう留意する必要がある。

ウ ホテル・旅館における問題改善に向けた取組

 ホテル・旅館においては,経営トップ自らがこうした実態を認識し,リーダーシップをとって,自らのホテル・旅館で優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていないかどうかを早急に確認し,改善を進める取組あるいは未然防止を徹底させる取組が重要である。

2 公正取引委員会の対応

(1) 今回の調査結果を踏まえ,公正取引委員会は,ホテル・旅館及びホテル・旅館の団体に対し,次の対応を行うこととする。
ア ホテル・旅館を対象とする業種別講習会等を実施し,ホテル・旅館と納入業者との取引の公正化を推進し,違反行為の未然防止に努める。
イ ホテル・旅館の団体に対して,本調査結果を報告し,優越ガイドラインの内容について説明するとともに,本調査結果及び優越ガイドラインの内容を傘下会員に周知徹底するなど,業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請する。

(2) 引き続きホテル・旅館と納入業者との取引実態を注視し,独占禁止法に違反する疑いのある行為が認められる場合には,厳正に対処する。

第4 調査結果の概要

1 調査対象納入業者の概要

(1) 調査対象納入業者の資本金の規模をみると,資本金1000万円以下の者が52.5%を占める。

図2 調査対象納入業者の資本金規模

図2 調査対象納入業者の資本金規模

(2) 調査対象納入業者の従業員の規模をみると,従業員数10人以下の者が39.6%を占める。

図3 調査対象納入業者の従業員規模

図3 調査対象納入業者の従業員規模

2 ホテル・旅館からの要請の状況(主な行為類型について)

  調査対象納入業者1,625社から,年間取引高上位5位までの各ホテル・旅館について,延べ5,975のホテル・旅館との取引(以下「調査対象取引」という。)に関して回答があった(注7)。優越ガイドラインにおいて優越的地位の濫用となる行為類型として例示されている各行為のうち,優越的地位の濫用につながり得る行為が行われていた取引割合上位3位までの行為(「購入・利用強制」,「協賛金等の負担の要請」及び「取引の対価の一方的決定」)の状況は次のとおりである。
(注7) 今回の調査においては,複数のホテル,旅館の施設を経営・運営する事業者も存在するところ,施設によって要請等の状況が異なる場合があると考えられることなどから,納入業者が,法人又はグループ単位で回答することも,施設単位で回答することも,いずれでも可とした。

(1) 購入・利用強制

ア 書面調査
  •  調査対象取引(5,975取引)のうち,「業務上必要としない・購入を希望しない商品・サービスの購入・利用要請(以下「不要な商品等の購入・利用要請」という。)を受けたことがある」との回答が42.4%(2,533取引)であった。

図4 不要な商品等の購入・利用要請の有無

図4 不要な商品等の購入・利用要請の有無

  •  不要な商品等の購入・利用要請を受けたことがあると回答のあった2,533の取引のうち,「購入・利用したことがある」との回答が81.1%(2,053取引)であった。
  •  不要な商品等の購入・利用要請の内容をみると,次のとおりである。

図5 不要な商品等の購入・利用要請の内容(複数回答)

図5 不要な商品等の購入・利用要請の内容(複数回答)

イ 具体的な回答事例

 「購入・利用強制」に係る優越的地位の濫用につながり得る具体的な事例として,例えば,次のような回答があった。

【ホテル・旅館による個別の要請行為】

  •  ディナーショーチケットやおせち料理などの購入をほぼ毎年要請され慣習化している。強要を過ぎ,強制ともいえるホテルもあり,何度も購入するよう要求されると,将来の取引に響くと思い,購入せざるを得ない。
  •  あるホテルからは,2,3か月に1回はディナーショー,歌謡ショーなどのチケットの購入要請がある。購入枚数を減らしてくれるようお願いしたら,「他の業者を仕入先に入れる」とか「仕入金額を減らす」と言われたこともある。
  •  当社と取引しているシティホテルのうち,およそ8割のホテルから,ディナーショーチケット,おせち料理,食事券等の購入要請がある。購買担当者や調理長から購入を要請されることが多く,「お付き合いできないのならば取引を切りますよ」と購入を迫ってくる人もいる。
  •  イベントチケットなどの購入を断わっても,しつこく何度も要請してくるホテルがあり,購入せざるを得なかった。
  •  イベントチケットなどを送りつけ,その代金を請求書もなく一方的に支払債務と相殺して領収書を送ってくるホテルがある。

【ホテル・旅館による業者会を通じた要請行為】

  •  当社の取引先のほとんどのホテル・旅館には,昔から納入業者を集めた業者会がある。あるホテルの業者会では,会費として,ホテルとの年間取引額の数%の金額を納入業者から集め,この会費でディナーショーなどのイベントのチケットを購入して,業者会の事務局の名前で,納入業者に取引額に応じた枚数が送られてくる。業者会の事務局はホテル内にある。年間取引額の数%なので,1社当たり何十万円,何百万円の単位にもなるので負担が大きい。業者会をやめるとそのホテルとの取引を続けていくことは難しいので,業者会を抜ける勇気はない。
  •  取引先ホテルのいずれにも納入業者を集めた業者会があるが,ホテルに事務局が置かれており,ホテル側が運営を仕切っている。業者会を退会したら,取引がなくなるであろう。そういう意味では,業者会への加入は半ば強制的である。あるホテルの業者会の場合,他に比べて高い年会費を売上げから相殺されており,ホテルで行われる懇親会などもあって参加すれば別途費用を徴収される。事務局が会費をどのように使っているのか不透明であり,ホテルに取られる一方という思いである。
  •  あるホテルの業者会では,何らかの理由を付けて毎月のようにイベントを開催しており困っている。これらのイベントはホテルの宴会場などの施設を利用して行われ,当然ホテル側が企画をしており,ホテルの売上げのために行っているとしか思えない。
ウ 小括

(ア) 「不要な商品等の購入・利用要請を受けたことがある」と回答のあった42.4%(2,533取引)においては,ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,調査対象納入業者は,ホテル・旅館から優越的地位の濫用につながり得る行為を受けていたと考えられる。
(イ) 具体的な回答事例によれば,優越ガイドラインにおいて,「購入・利用強制」の問題となり得る行為として例示された<想定例>に該当する,
[1] 購入しなければ取引を打ち切るなど,今後の取引に影響すると受け取られるような要請をすることにより購入させる
[2] 支配人等の幹部,購買担当者・仕入担当者,料理長等の今後の取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請することにより購入させる
[3] 購入を断わっても重ねて要請することにより購入させる
[4] イベントチケット等を一方的に送付することにより購入させる
といった行為が行われていることがうかがわれる。
(ウ) ホテル・旅館には,納入業者による業者会が組織されていることが多い。業者会が,納入業者による自主的な活動として,各種会合を開催する際に当該ホテル・旅館の施設を使うことや,ホテル・旅館の各種イベントの開催について連絡すること自体は,独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,具体的な回答事例によれば,業者会の中には,業者会の実質的な運営をホテル・旅館が行い,事実上,業者会に加入することを継続的な取引の前提とし,ホテル・旅館が,自己の売上げの増加・維持のために,
[1] 業者会会費としてディナーショー等のイベントチケット代金を事前に集め,納入業者に取引額に応じた枚数を送りつける
[2] 使途の不透明な高額な業者会会費を徴収する
[3] 業者会のイベントを企画し,自社の施設を使った業者会イベントを頻繁に開催する
といった行為が行われていることがうかがわれる。
(エ) 以上のことからすれば,ホテル・旅館によるディナーショーチケット,クリスマスケーキ,おせち料理等の商品・サービスの購入・利用要請は広く行われており,その中には執拗・一方的なものも見受けられる。また,ホテル・旅館が,納入業者を会員として「業者会」等と称する団体を組織し,これを通じて,納入業者に対し,商品・サービスの購入や利用を要請している場合もある。これらの要請について,納入業者は今後の取引に与える影響を懸念して応じざるを得ないという実態にあるものと考えられる。ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,優越的地位の濫用につながり得る行為を行っているホテル・旅館が相当数存在するものと考えられる。

(2) 協賛金等の負担の要請

ア 書面調査
  •  調査対象取引(5,975取引)のうち,「協賛金等の負担要請を受けたことがある」との回答は6.5%(390取引)であった。このうち「利益につながらない協賛金等の負担を要請されたことがある」との回答が39.7%(155取引)であり,調査対象取引(5,975取引)に占める比率は2.6%であった。当該155の取引においては,ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,調査対象納入業者は,ホテル・旅館から優越的地位の濫用につながり得る行為を受けていたと考えられる。

図6 協賛金等の負担要請の有無

図6 協賛金等の負担要請の有無

図7 利益につながらない協賛金等の負担要請の有無

図7 利益につながらない協賛金等の負担要請の有無

  •  利益につながらない協賛金等の負担要請を受けたことがあると回答のあった155の取引のうち,「負担したことがある」との回答が91.0%(141取引)であった。
イ 具体的な回答事例

(ア) 「協賛金等の負担の要請」に係る優越的地位の濫用につながり得る具体的な事例として,例えば,次のような回答があった。

  •  取引額が大きいホテルから,業績悪化のため,半年間に限って毎月の売上げの5%分の協賛をお願いするという要請が,全ての納入業者に一律にあった。当社としては,取引額が大きく倒れられては困るし,半年間限定で,他の納入業者も協力するということだったので,これに応じた。
  •  あるホテルから,決算対策の協賛金として,20万円持ってこいという話があった。
  •  施設の新築資金の協賛を求められ,当社だけでは負担しきれなかったので取引先メーカーにも協力してもらって負担したことがある。その際,「新築資金は協力するが,今後は,チケット,イベント等の協力は勘弁してほしい」とお願いをしたが,その後すぐに従来どおりチケットなどの購入要請がくるようになった。
  •  ホテルから年に2,3回,ブライダルフェアに関する協賛金の負担要請がある。ブライダルフェアは婚礼客への重要なアピールであり,成約数が増えれば当社の売上げも増えるので,当社としても,ブライダルフェアの協賛金を負担すること自体に不満はないが,負担額がどう決まっているのか,どう使われているかが全然分からないことが多く,その点が不満である。

(イ) このほか,ホテル・旅館の従業員である調理場の料理人個人が,自己のために金銭等を納入業者に要求してくることがあるとの回答もみられた。

ウ 小括

 利益につながらない協賛金等の負担要請は多くはないが,納入業者は,利益につながらない協賛金等の負担要請を受ければ,今後の取引に与える影響を懸念して負担せざるを得ないという実態,また,納入業者の利益につながる協賛金等であっても,負担額,負担額の算出根拠,使途等について十分な説明がなされていないという実態にあるものと考えられ,ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,優越的地位の濫用につながり得る協賛金等の負担の要請を行っているホテル・旅館も少なからず存在すると考えられる。

(3) 取引の対価の一方的決定(仕入価格やコストを下回るような価格の引下げ要請)

ア 書面調査
  •  調査対象取引(5,975取引)のうち,「仕入価格やコストを下回るような価格の引下げ要請を受けたことがある」と回答のあった4.7%(280取引)については,ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,調査対象納入業者は,ホテル・旅館から優越的地位の濫用につながり得る行為を受けていたと考えられる。

図8 引下げ要請の有無

図8 引下げ要請の有無

  •  仕入価格やコストを下回るような価格の引下げ要請を受けたことがあると回答のあった280の取引のうち,要請時にホテル・旅館と価格について協議する機会があったかどうかをみると,「協議の機会はあった」との回答が76.4%(214取引)であった。
  •  当該280の取引のうち,「要請に従ったことがある」との回答が83.2%(233取引)であった。
イ 具体的な回答事例

 「取引の対価の一方的決定」に係る優越的地位の濫用につながり得る具体的な事例として,例えば,次のような回答があった。

  •  納入業者を集めて,「決算が赤字なので協力してほしい。ついては,各社の主要アイテムの単価を5%下げさせてもらう」と説明があり,強制的に納入単価を下げさせられた。断わると取引自体がなくなる可能性もあるため応じざるを得ない。
ウ 小括

 ホテル・旅館による対価の一方的決定(仕入価格・コストを下回るような価格の引下げ要請)は多くはないが,今後の取引に与える影響を懸念して,要請時に価格についての協議の機会はあることが多いものの,こうした価格の引下げ要請を受け入れざるを得ない場合もあるという実態にあるものと考えられる。ホテル・旅館の取引上の地位が優越しているなど取引の実態いかんによっては,優越的地位の濫用につながり得る仕入価格・コストを下回るような価格の引下げ要請を行っているホテル・旅館も少なからず存在すると考えられる。

3 要請等の増減の傾向

(1) 書面調査

  •  調査対象納入業者1,625社に対し,ホテル・旅館からの各種要請等の回数・金額が,以前に比べて増えているのか,減っているのかなどについて質問したところ,「変わらない」との回答が40.7%(661社)と最も比率が高く,次いで,「減っている」が20.4%(331社)であり,「増えている」は3.6%(59社)と比率は低かった。

図9 要請等の回数・金額

図9 要請等の回数・金額

  •  「減っている」と回答した331社に対し,その理由を質問したところ,「ホテル等によるイベント等の開催自体が減ったので,チケットの購入要請が減った」との回答が38.7%と最も比率が高かった。

図10 要請等が減ってきた理由(複数回答)

図10 要請等が減ってきた理由(複数回答)

(2) 具体的な回答事例

  •  ホテル側の要請の仕方,負担額は,約10年前と比べると多少は軽くなっている印象がある。お互い景気が悪いので,ホテル側も,無理を言っても買ってもらえないと考えているのではないか。最近では,ホテルの法務部や親会社から,ホテルの仕入担当者がチケットを押し付けたりしていないかなどを調査するための書面アンケートが届いたりするので,ホテルも以前よりはコンプライアンスを意識するようになってきているとは思う。
  •  ディナーショーのチケットの購入要請は,特にここ2年で,要請される枚数も,要請してくるホテルの数も減ってきている。減ってきているのは,ホテルと当社との取引額が減少していること,公正取引委員会が平成22年に優越ガイドラインを出したことでホテルもある程度自粛していることが理由ではないかと思う。
  •  取引先ホテルの多くはいろいろな催し物を行っており,その都度,当社ら納入業者に案内,パンフレットを提示され,チケットなどの購入をお願いはされるが,5~6年前から比べると全く強要はなくなった。公正取引委員会の啓蒙活動の結果と考えられる。

(3) 小括

ア 各種要請等の回数・金額は「減っている」との回答が20.4%あったものの,「変わらない」との回答が40.7%と最も比率が高く,以前に比べて減少してきてはいるものの,全体としては,それ程大きな変化はみられない。
イ 「減っている」と回答した者に,その理由を質問したところ,「ホテル等が,優越的地位の濫用として,独占禁止法上問題となるおそれがあることを認識してきたからだと思う」との回答が31.1%あるなど,ホテル・旅館のコンプライアンス意識が向上してきたことを理由として挙げる者がある程度存在した。
 また,具体的な回答事例において,
[1] ホテルの法務部や親会社が,納入業者に対して,仕入担当者からの押し付け販売などについてのアンケート調査を実施している
[2] 優越ガイドラインが公表されたことでホテルもある程度自粛している
[3] ホテルからの強要がなくなったのは公正取引委員会の啓蒙活動の結果と考えられる
といった回答が寄せられている。
 これらのことからすれば,ホテル・旅館のコンプライアンス意識の向上や公正取引委員会の優越的地位の濫用に対する積極的な取組も,各種要請等の回数・金額が減少してきていることの理由の一つであると考えられる。

関連ファイル

問い合わせ先

問い合わせ先 公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引調査室
電話 03-3581-3372(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/

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