平成27年3月11日
公正取引委員会
関連資料
(印刷用)(平成27年3月11日)荷主と物流事業者との取引について(概略図)(PDF:198KB)
(印刷用)(平成27年3月11日)荷主と物流事業者との取引について(概要)(PDF:119KB)
(印刷用)(平成27年3月11日)荷主と物流事業者との取引について(本文)(PDF:304KB)
第1 調査の趣旨・方法等
1 調査の趣旨
公正取引委員会は,独占禁止法上の優越的地位の濫用規制に基づき,事業者に不当に不利益を与える行為に対して厳正かつ効果的に対処するとともに,違反行為の未然防止に係る取組を行っている。
荷主と物流事業者との取引については,平成16年4月以降,優越的地位の濫用規制の一つとして独占禁止法に基づき指定した「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)を通じ,より積極的に取組を進めてきている。
近年,物流事業者が,燃料価格が上昇傾向にあった(注1)際にも,荷主から運賃を一方的に従来どおりに据え置かれるなど厳しい取引環境に置かれているといわれている。こうした実情を踏まえ,荷主と物流事業者との取引において,荷主による優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為が行われていないかについて,調査を実施することとした (注2)。
(注1)調査対象期間(平成25年8月1日から平成26年7月31日)において,軽油の店頭現金価格(消費税込み)は1リットル当たり137.9円(平成25年8月5日時点)から147.4円(平成26年7月28日時点)に値上がりしている。平成26年8月以降は下落に転じ,平成27年2月23日時点で117.9円となっている。(出典:資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」)
(注2) 荷主と物流事業者との取引については,平成18年3月に「荷主と物流事業者との取引に関する実態調査報告書」を公表している。
2 調査方法
(1) 書面調査
本調査では,荷主と物流事業者との間の物品の運送又は保管(以下「運送等」という。)に係る継続的(注3)な取引を対象とした。
(注3)単発(スポット)取引は本調査の対象外とした。
物流事業者に物品の運送等を委託していると思われる荷主10,000名,荷主から物品の運送等の委託を受けていると思われる物流事業者25,000名を対象として,調査票を送付し,書面調査を実施した。調査票の発送数及び回答者数は,下表のとおりである。
調査対象事業者 | 発送数(A) | 回答者数(B)(B/A) |
荷主 | 10,000名 |
6,139名(61.4%) |
物流事業者 | 25,000名 |
7,008名(28.0%) |
本調査では,書面調査における回答者のうち,物品の運送等に係る取引を行っていると回答した荷主4,530名及び物流事業者4,620名からの,物品の運送等に係る年間取引高が多い取引先(上位3名。以下それぞれ「主要な物流事業者」,「主要な荷主」という。)との取引についての回答を基に調査結果を取りまとめている。
(2) ヒアリング
書面調査に回答した物流事業者のうち,主要な荷主から受けた行為について具体的に回答した25名を対象にヒアリングを実施した。
3 調査対象期間等
(1) 調査票発送日:平成26年7月31日
(2) 回答期限:平成26年9月5日
(3) 調査対象期間:平成25年8月1日から平成26年7月31日
第2 調査結果の評価及び公正取引委員会の対応
1 荷主及び物流事業者の概要
回答のあった荷主のうち,約半数が資本金3億円超(54.3%),年間売上高100億円超(45.8%)の比較的大規模な事業者である一方,回答のあった物流事業者のほとんどが資本金5,000万円以下(88.7%),年間売上高10億円以下(75.6%)の比較的小規模な事業者であった。
2 荷主と物流事業者との取引の状況
(1) 書面交付及び支払方法の状況
荷主と物流事業者との取引における書面の交付状況については,多くの荷主は主要な物流事業者に物品の運送等の委託を行うに当たり,書面を交付していると回答している(81.1%)が,書面を交付していないと回答した荷主も一定数見受けられた(18.9%)。
また,代金の支払方法について,荷主のうち約2割が主要な物流事業者に対し手形による支払を行っていると回答し,120日を超えるサイトの手形で支払っている荷主も一定数見受けられた。
(2) 代金の支払遅延等の状況
ア 行為類型別の状況
荷主と物品の運送等に係る取引を行っていると回答した物流事業者4,620名のうち,主要な荷主から,物流事業者に責任がないなど荷主の都合による代金の支払遅延等の不利益を1つ以上受けたと回答した物流事業者は306名であり,その割合は全体の6.6%であった(表1)。
また,行為類型別にみると,物流事業者に責任がないのに「代金の減額」を受けたと回答した物流事業者が188名であり,その割合は全体の4.1%と他の行為類型に比べて特に高くなっている(表1)。
行為類型 |
不利益を受けた |
荷主との取引について回答した物流事業者数に占める割合 |
代金の支払遅延 | 29名 |
0.6%(29/4,620) |
代金の減額 | 188名 | 4.1%(188/4,620) |
買いたたき | 67名 | 1.5%(67/4,620) |
物品等の購入・利用の強制 | 57名 | 1.2%(57/4,620) |
経済上の利益の提供要請 | 27名 | 0.6%(27/4,620) |
発注内容の変更 | 18名 | 0.4%(18/4,620) |
合計(注4) | 306名 | 6.6%(306/4,620) |
(注4)荷主から複数の行為類型に係る不利益を受けている物流事業者が存在するところ,行為類型ごとの物流事業者数の合計は386となるが,不利益を1つ以上受けた物流事業者数として合計すると306となる。
イ 物流事業者が不利益を受け入れた理由
前記アで,主要な荷主から,代金の支払遅延等の不利益を1つ以上受けたとの回答のあった物流事業者306名に対し,延べ386の事例について,荷主による当該行為を受け入れた理由を聞いたところ,「今後の取引数量,取引高等に影響があると自社が判断したため」とするものが171事例(44.3%),「荷主から今後の取引数量,取引高等への影響を示唆されたため」とするものが84事例(21.8%)であった。
このように,物流事業者は,主要な荷主との取引の継続への影響を考慮して,やむを得ず不利益を受け入れていることも少なくなく,こうした荷主の行為は優越的地位の濫用規制上問題となり得るものである。
ウ 物流事業者の年間売上高との相関
前記アの物流事業者306名のうち,年間売上高について回答のあった282名について,主要な荷主との取引について回答のあった物流事業者4,620名のうち,年間売上高について回答のあった4,372名に占める割合を,年間売上高別にみると,表2のとおりである。年間売上高「1億円以下」の区分で最も割合が高くなっており,年間売上高が小さい物流事業者ほど,代金の支払遅延等の不利益を受けたとの回答があった割合が高くなるという傾向がみられた。
(3) 燃料価格上昇に伴う代金の引上げの状況
調査対象期間(平成25年8月1日から平成26年7月31日)において燃料価格が上昇傾向にあったことから,物流事業者に対し,燃料価格の上昇を理由として,主要な荷主に代金の引上げを要請したことがあるかを聞いたところ,回答のあった3,050名のうち,約半数が代金の引上げを要請していた(50.4%)。このうち,約7割の物流事業者から主要な荷主が代金の引上げ要請に応じてくれたとの回答があった一方で, 代金の引上げ要請に応じてくれなかったという回答も一定数見受けられた(27.0%)。このことから,調査対象期間においては燃料価格が上昇傾向にあったことからすれば,主要な荷主に代金の引上げを要請したことはないと回答した物流事業者と代金の引上げ要請をしたが主要な荷主が応じてくれなかったと回答した物流事業者を合わせた上記3,050名のうち約6割の物流事業者は燃料価格の上昇があっても代金の引上げが困難な状況にあったと思われる。また,代金の引上げを要請したことがあると回答した物流事業者のうち約1割の物流事業者は,代金の引上げを要請しても,主要な荷主が一方的に代金を据え置いたり,交渉に一切応じようとしなかったと回答しており,このような荷主の行為は,優越的地位の濫用規制上問題となり得るものである。
3 公正取引委員会の対応
本調査の結果,物品の運送等に係る一部の取引において,荷主による優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為が行われていることが明らかとなった。公正取引委員会としては,荷主により物流事業者に不当に不利益を与えるような行為が行われることがないよう注視する必要がある。これらの行為は,荷主と物流事業者との間で,あらかじめ取引条件等を定めていなかったり,荷主から物流事業者に対し,取引条件等が記載された書面が交付されていなかったことに起因しているとも考えられることから,物品の運送等の取引に当たっては,取引条件等の明確化や書面の交付が望まれる。
また,燃料価格上昇に伴う代金の引上げ交渉においても,荷主による優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為が行われていることが明らかとなった。特に,燃料価格が上昇しても,「仕事を減らされるのが怖くてお願いできない」,「燃料価格上昇に係る費用の転嫁をお願いしたとしても応じてくれないことが分かっているため,そもそもお願いしていない」というように,荷主に対して,燃料価格の上昇を理由として代金の引上げを要請すること自体が難しいとする回答もみられるなど,物流事業者が厳しい取引環境に置かれていることがうかがわれる。公正取引委員会としては,物流事業者から荷主に対して代金の引上げ要請があっても,荷主が一方的に代金を据え置いたり,取引に影響が生じる旨を示唆するなど代金の引上げ要請自体をさせないようにする行為は優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為であることを周知していく必要がある。
さらに,こうした行為が,物流事業者間の取引において行われた場合には,優越的地位の濫用規制上問題となり得ることはもとより,下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)上問題となり得ることにも留意する必要がある。
このため,公正取引委員会は,違反行為の未然防止の観点から,本調査結果を公表するとともに,以下の対応を行うこととする。
(1)ア 荷主及び物流事業者を対象とする講習会を実施し,本調査結果並びに優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を説明する。
イ 荷主及び物流事業者の関係事業者団体に対して,本調査結果を示すとともに,荷主及び物流事業者が物品の運送等の委託取引における問題点の解消に向けた自主的な取組を行えるよう,改めて優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を傘下会員に周知徹底するなど,業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請する。
(2) 公正取引委員会は,今後とも,物品の運送等の取引実態を注視し,優越的地位の濫用規制又は下請法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに,これらの法律に違反する行為に対しては,厳正に対処していく。
問い合わせ先
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