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(平成27年5月29日)MT映像ディスプレイ株式会社ほか5社に対する審決について(テレビ用ブラウン管の製造販売業者らによる価格カルテル事件)

(平成27年5月29日)MT映像ディスプレイ株式会社ほか5社に対する審決について(テレビ用ブラウン管の製造販売業者らによる価格カルテル事件)

平成27年5月29日
公正取引委員会

 公正取引委員会は,被審人MT映像ディスプレイ株式会社ほか5社(注1)(以下「被審人ら」という。)に対し,別表1の「審判手続開始日」欄記載の日に,それぞれ審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,平成27年5月22日,被審人MT映像ディスプレイ及びサムスン・エスディーアイに対し,独占禁止法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)による改正前の独占禁止法(以下「独占禁止法」という。)第66条第3項及び第4項の規定に基づき,排除措置命令を取り消すとともに,当該排除措置命令時までに独占禁止法第3条の規定に違反する行為があり,かつ,当該排除措置命令時において既に当該行為がなくなっていると認められる旨の審決を,被審人MT映像ディスプレイ・インドネシア,被審人MT映像ディスプレイ・マレーシア,被審人MT映像ディスプレイ・タイ及び被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対し,独占禁止法第66条第2項の規定に基づき,審判請求を棄却する審決を,それぞれ行った(別表は印刷用ファイルに添付。また,本件各審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照)。

(注1) 別表1参照。以下,被審人らの名称は同表の「略称」欄記載の略称による。

1 被審人らの概要

 別表1の「事業者名」,「本店所在地」及び「代表者」欄記載のとおり。

2 被審人らの審判請求の趣旨

 別表2のとおり。

3 主文の内容

(1) MT映像ディスプレイグループ関係(平成22年(判)第2号ないし第5号事件)

ア 被審人MT映像ディスプレイ関係
(ア) 被審人MT映像ディスプレイに対する平成21年10月7日付け排除措置命令(平成21年(措)第23号)を取り消す。
(イ) 被審人MT映像ディスプレイが,被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社(注2)を含む10社と共同して,遅くとも平成15年5月22日頃までに(ただし,被審人MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,被審人MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までにそれぞれ後記合意に加わったものである。後記(2)イにおいて同じ。),別表3記載の事業者(以下「我が国ブラウン管テレビ製造販売業者」という。)が同表の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社(以下「現地製造子会社等」という。)に購入させるテレビ用ブラウン管(注3)について,おおむね四半期ごとに次の四半期における現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,上記合意は,平成19年3月30日になくなっていると認める。
イ 被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社関係
被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社の各審判請求をいずれも棄却する。

(注2) 被審人MT映像ディスプレイ・インドネシア,被審人MT映像ディスプレイ・マレーシア及び被審人MT映像ディスプレイ・タイの3社をいう。以下同じ。
(注3) 次に掲げるテレビ用ブラウン管(ただし,日本ビクター株式会社の現地製造子会社等が平成17年5月1日以降に,三洋電機株式会社の現地製造子会社等が平成18年10月1日以降に購入したものを除く。)をいう。
一 14インチサイズの丸型管
二 20インチサイズの丸型管
三 21インチサイズの丸型管
四 21インチサイズの平型管であって「インバー」と称されるもの
五 21インチサイズの平型管であって「エー・ケー」と称されるもの

(2) 被審人サムスン・エスディーアイ関係(平成22年(判)第6号)

ア 被審人サムスン・エスディーアイに対する平成21年10月7日付け排除措置命令(平成21年(措)第23号)を取り消す。
イ 被審人サムスン・エスディーアイが,被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)を含む10社と共同して,遅くとも平成15年5月22日頃までに,特定ブラウン管について,おおむね四半期ごとに次の四半期における現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,上記合意は,平成19年3月30日になくなっていると認める。

(3) 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)関係(平成22年(判)第7号事件)

 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)の審判請求を棄却する。

4 本件の経緯

(1) 平成22年(判)第2号ないし第5号事件

平成21年
10月7日 排除措置命令及び課徴金納付命令
11月6日 排除措置命令又は課徴金納付命令につき審判請求
平成22年
1月27日 審判手続開始
3月9日 第1回審判

平成25年
7月11日 第18回審判(最終意見陳述を終了)
平成26年
4月1日まで 審決案送達
4月15日まで 異議申立て及び直接陳述の申出
7月18日 直接陳述の聴取
平成27年
5月22日 排除措置命令を取り消し,当該排除措置命令時までに独占禁止法第3条の規定に違反する行為があり,かつ,当該排除措置命令時において既に当該行為がなくなっていると認められる旨の審決(被審人MT映像ディスプレイ)及び各審判請求を棄却する審決(被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社)

(2) 平成22年(判)第6号事件及び平成22年(判)第7号事件

平成21年
10月7日 排除措置命令(注4)(被審人サムスン・エスディーアイ)
課徴金納付命令(注4),(注5) (被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア))
12月24日 被審人サムスン・エスディーアイに対し,排除措置命令書謄本の公示送達に係る手続
平成22年
2月5日 被審人サムスン・エスディーアイに対する公示送達の効力発生(排除措置命令の効力発生)
2月12日 課徴金納付命令(注6)
被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対し,課徴金納付命令書謄本の公示送達に係る手続
3月27日 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対する公示送達の効力発生(課徴金納付命令の効力発生)
4月2日 被審人サムスン・エスディーアイから審判請求
5月12日 被審人サムスン・エスディーアイについて審判手続開始
5月24日 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)から審判請求
6月23日 被審人サムスン・エスディーアイに対する第1回審判
7月26日 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)について審判手続開始
9月28日 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対する第1回審判

平成25年
7月11日 第19回審判(被審人サムスン・エスディーアイ〔最終意見陳述を終了〕)
第14回審判(被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)〔最終意見陳述を終了〕)
平成26年
3月31日 審決案送達
4月14日 異議の申立て及び直接陳述の申出
7月18日 直接陳述の聴取
平成27年
5月22日 排除措置命令を取り消し,当該排除措置命令時までに独占禁止法第3条の規定に違反する行為があり,かつ,当該排除措置命令時において既に当該行為がなくなっていると認められる旨の審決(被審人サムスン・エスディーアイ)
審判請求を棄却する審決(被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア))

(注4) 同日,公正取引委員会は,サムスン・エスディーアイ及びサムスン・エスディーアイ(マレーシア)から,平成21年10月5日付けで当該2社の国内における全ての代理人の解任を通知する旨の書面の提出を受けたため,当該2社の国内の代理人に対しては送達を行うことができなかった。
(注5) 後記5(3)オにおいて,この命令を「平成21年10月7日付け課徴金納付命令」と,その命令書を「平成21年10月7日付け課徴金納付命令書」という。
(注6) 後記5(3)オにおいて,この命令を「本件課徴金納付命令」と,その命令書を「本件課徴金納付命令書」という。

5 審決の概要

(1) 原処分の原因となる事実

 被審人らを含む11社(以下「11社」という。)は,おおむね四半期ごとに次の四半期における我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管(以下「特定ブラウン管」という。)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意することにより,公共の利益に反して,特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。
 被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社及び被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)の本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により別表4の各被審人に係る「実行期間」欄記載のとおりであり,独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は,別表4の各被審人に係る「課徴金額」欄記載のとおりである。

(2) 本件の争点

ア 本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるか否か。(争点1,各事件共通)
 イ(ア) 被審人MT映像ディスプレイに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」に当たるか否か。(争点2[1],平成22年(判)第2号事件)
(イ) 被審人サムスン・エスディーアイに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」に当たるか否か。(争点2[2],平成22年(判)第6号事件)
ウ 本件の別の違反行為者に対して排除措置を命じていないのに,被審人MT映像ディスプレイに対して排除措置を命ずることは平等原則に違反するか否か。(争点3,平成22年(判)第2号事件)
エ 審判手続において,独占禁止法第70条の12第2項に基づき,排除措置命令の取消しを主張することができるか否か。(争点4,平成22年(判)第2号事件)
オ 本件ブラウン管(注7)の売上額は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か。(争点5,平成22年(判)第3号ないし第5号事件及び平成22年(判)第7号事件)
カ 本件公示送達は適法になされたか否か。(争点6,平成22年(判)第6号事件及び平成22年(判)第7号事件)
キ 被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対する課徴金納付命令に関する手続の適法性(争点7,平成22年(判)第7号事件)

(注7) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,テレビ用ブラウン管製造販売業者の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様や購入数量等について交渉していたところ,この我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による選定及び交渉を経て現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管を「本件ブラウン管」という。「本件ブラウン管」は,「特定ブラウン管」と商品の範囲としては同一である。

(3) 争点に対する判断の概要

ア 争点1について
(ア) 本件における独占禁止法の適用についての基本的な考え方
 事業者が日本国外において独占禁止法第2条第6項に該当する行為に及んだ場合であっても,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法第3条後段が適用されると解するのが相当である。

(イ) 本件における一定の取引分野について
 本件合意は,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件ブラウン管の販売分野が一定の取引分野であると認められる。

(ウ) 本件の一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったかについて
 認定事実によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていたことが認められる。
 また,上記に加え,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して当該決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたということができ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,現地製造子会社等が本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかったといえる。
 そうすると,直接に本件ブラウン管を購入し,商品の供給を受けていたのが現地製造子会社等であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の果たしていた上記役割に照らせば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたということができる。
 さらに,本件合意の内容も併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
 これらの点を考慮すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の需要者に該当するものであり,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができる。

(エ) 被審人らの主張に対する判断
a 被審人らの,一定の取引分野の画定は,企業結合規制における場合と同様に,基本的に需要者からみた代替性の観点から判断すべきとの主張について
 独占禁止法第2条第6項における「一定の取引分野」は,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定するものであるところ,不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としているのであるから,通常の場合,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りると解される。
 企業結合規制と具体的な行為によって既に生じている競争の実質的制限が問題となる不当な取引制限とでは性質上の違いがあるのであるから,それぞれにふさわしい方法で画定すれば足りると解される。
b 被審人らの,需要者とは商品又は役務の供給を受ける者をいうと解すべきところ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の供給を受けていないから,本件ブラウン管の需要者ではない旨の主張について
 本件においては,実際に商品の供給を受ける者とは別に,商品の購入先を選定し,商品の価格や数量等の重要な取引条件について交渉し,決定している主体が存在するのであるから,当該商品の供給に係る競争が行われる取引の実態を踏まえて需要者について検討する必要があるところ,その実態をみれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者であると認めるべきことは,前記(ウ)のとおりである。
c 被審人らの,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の取引条件を決定し,現地製造子会社等に指示して購入させていたことを被審人らが認識していたわけではないから,本件合意は特定ブラウン管に係る取引を対象としていたとはいえない旨の主張について
 本件においては,本件合意が対象としていた取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して一定の取引分野を画定した上,当該一定の取引分野における競争を実質的に制限していたかどうかが問題なのである。したがって,本件合意が本件ブラウン管の取引を対象としており,そのことを被審人らが認識していれば足りるのであって(認定事実によれば,本件合意が本件ブラウン管の取引を対象としており,そのことを被審人らが認識していたことは明らかである。),それ以上に,特定ブラウン管の定義に用いられている,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が取引条件を決定し,現地製造子会社等に指示して購入させていたことまでを被審人らが認識していることが必要であるとはいえない。
d 被審人サムスン・エスディーアイ及び被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)の,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者であるとしても,需要者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地は商品である本件ブラウン管が供給される東南アジア地域であると考えるべきであるから,本件における一定の取引分野に日本が含まれることにはならない旨の主張について
 需要者の所在地を商品が供給される場所によって決するとの考え方は,結局のところ,需要者とは商品の供給を直接受ける者であるとの見解と同旨であり,その判断は前記bのとおりである。

(オ) 競争の実質的制限について
 11社は,本件合意により,本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえるから,11社は,本件合意により,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限したと認めることができる。

(カ) まとめ
 一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められることから,本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるものというべきである。

イ 争点2について
(ア) 争点2[1]について
 認定事実によれば,被審人MT映像ディスプレイが,本件排除措置命令時において,自ら又はBMCC(注8)を除く子会社若しくは関連会社に対する指示及び管理を通じて本件違反行為と同様の違反行為を再び行うおそれがあったと認めることはできない。また,本件排除措置命令時における,世界的なテレビ用ブラウン管の需要の状況,被審人MT映像ディスプレイのテレビ用ブラウン管の製造販売事業からの撤退の状況,同被審人並びにその子会社及び関連会社の中で唯一テレビ用ブラウン管の製造販売事業を正式に廃止していなかったBMCCの人員体制及び稼働状況,その出資持分の譲渡に関する手続の進行状況等からすると,同被審人が,BMCCの出資持分の譲渡を撤回するとは考え難い。仮に何らかの事情でBMCCの出資持分の譲渡が実現しなかったとしても,BMCCは,被審人MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社とは異なり,被審人MT映像ディスプレイの子会社とは認められず,本件違反行為にも関わっていなかったことや,BMCCがテレビ用ブラウン管の生産を再開し得るような客観的状況にはなく,同社の輸出販売用のテレビ用ブラウン管の在庫も僅かであったことからすると,同被審人が,将来,BMCCに対する指示及び管理を通じて本件違反行為と同様の違反行為を再び行うおそれがあったと認めることもできない。
 また,本件全証拠によるも,本件違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分であったとは認められない。
 したがって,被審人MT映像ディスプレイに対し本件排除措置を命ずることについて「特に必要がある」と認めることはできない。
 なお,本件排除措置命令時において我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者であったと認めることには疑問があり,そのような観点からみても,本件排除措置を命ずることについて「特に必要がある」と認めることはできない。(注9)

(注8) 中華人民共和国に所在する,被審人MT映像ディスプレイが出資持分の50パーセントを有し,代表取締役董事を含む董事の半数を同被審人の関係者が占めていた北京・松下ディスプレイデバイス有限会社をいう。
(注9) 上記の判断により,第2号事件について排除措置命令を取り消すこととしたため,同事件について排除措置命令を前提とする争点3及び4については,判断を行う必要がなくなったものである。

(イ) 争点2[2]について
 本件ブラウン管については,本件排除措置命令時において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者であったと認めることに疑問がある上,被審人サムスン・エスディーアイ及びその子会社である被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)が本件違反行為と同様の行為を共同で行うことが可能なテレビ用ブラウン管製造販売業者が存在していたと認めることができないこと等の事情に照らせば,被審人サムスン・エスディーアイが我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において本件違反行為と同様の行為を行うおそれがあったとまでは認められない。
 また,本件合意が消滅してから本件排除措置命令までに約2年6か月が経過していることや本件排除措置命令時におけるテレビ用ブラウン管の需要の状況及び被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)ほか7社(11社のうち,本件ブラウン管を製造していた8社をいう。)の状況を考慮すると,本件違反行為の結果が残存していたのか,秩序を回復すべき競争自体が残存していたのかが不明であるから,「当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合」に当たると認めることも困難である。
 したがって,被審人サムスン・エスディーアイに対し本件排除措置を命ずることについて,「特に必要がある」と認めることはできない。

ウ 争点5について
 本件ブラウン管が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものであることは明らかである。したがって,本件ブラウン管は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に当たるから,独占禁止法及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)第5条に基づき算定された本件ブラウン管の売上額が課徴金の計算の基礎となる。

エ 争点6について
 独占禁止法第49条第6項又は第50条第4項の規定による審判請求に基づく審判手続は,原処分の適法性及び相当性を再審査する手続である。
 原処分に係る命令書謄本の送達が適法になされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,第6号事件及び第7号事件に係る審判手続において本件排除措置命令の公示送達の違法性を主張することは失当というほかない。
 なお,本件公示送達は適法になされたものと認められる。

オ 争点7について
(ア) 本件課徴金納付命令をするに際して,事前手続が適法に行われたか否かについて
 公正取引委員会が平成21年4月7日に被審人に通知した課徴金納付命令書案は,課徴金納付命令番号,納期限及び作成日付が空欄であり,課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数を切り捨てることを定めた独占禁止法の条文(以下「端数切捨てに関する条文」という。)が本件課徴金納付命令書と異なるが,名宛人の名称,所在地及び代表者名,納付すべき課徴金の額,課徴金に係る違反行為並びに課徴金の計算の基礎(端数切捨てに関する条文を除く。)は本件課徴金納付命令書と同一である。公正取引委員会は,この課徴金納付命令書案を前提に,被審人に意見陳述及び証拠提出の機会を与え,更に被審人の申出に基づいて事前説明を行った上で本件課徴金納付命令をしたのであるから,事前手続制度の趣旨に照らしても,本件課徴金納付命令について所定の事前手続を経たものといえる。

(イ) 本件課徴金納付命令は公正取引委員会委員長及び委員の合議によるものといえるか否かについて
a 公正取引委員会委員長及び委員4名は,平成21年9月28日までに,被審人サムスン・エスディーアイ(マレーシア)に対して,本件違反行為を理由に課徴金13億7362万円を納付するよう命ずることと,課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日を課徴金の納期限とすることを合議の上決定したものであるから,平成21年10月7日付け課徴金納付命令と違反行為及び課徴金額が同一で,実質的には納期限のみを変更したものといえる本件課徴金納付命令は,上記の合議による意思決定に基づいてなされたものということができる。
 なお,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書と本件課徴金納付命令書とでは,端数切捨てに関する条文が異なっているが,これは独占禁止法の平成21年法律第51号による改正により,同法第7条の2の中の項の番号が変更されたことによるものであり,実質的に同一の条文を適用したものであるから,この点を理由に,本件課徴金納付命令について公正取引委員会委員長及び委員が改めて合議をする必要があったとはいえない。
b 本件課徴金納付命令書には,平成21年9月28日までに行われた合議に出席した委員のうち1名の記名押印がない。しかし,独占禁止法には,合議に参加した審判官が審決案に署名押印することに支障がある場合に他の審判官が審決案にその事由を付記して署名押印すべきことを定める審判規則(注10)第74条第3項のような規定がないことに鑑みると,合議に出席した公正取引委員会委員が課徴金納付命令書作成時までに退任した場合には,これに記名押印できないのはやむを得ないことであり,また,その旨の付記も要求されていないのであるから,これらのことをもって,課徴金納付命令の効力に影響を及ぼすような瑕疵があるとはいえない。

(注10) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)をいう。

(ウ) 本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否かについて
 被審人が本件課徴金納付命令と重複して違法であると主張する平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は被審人に送達されておらず,効力が発生していないから,被審人には具体的な不利益は生じておらず,これを理由に本件課徴金納付命令が違法であるとはいえない。

6 少数意見の付記について

 平成22年(判)第2号ないし第5号事件及び平成22年(判)第7号事件の審決については,委員小田切宏之の少数意見(補足意見)が付記されている。

関連ファイル

問い合わせ先

公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/

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