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(平成27年10月7日)競争政策研究センター共同研究「医薬品市場における競争と研究開発インセンティブ―ジェネリック医薬品の参入が市場に与えた影響の検証を通じて―」報告書

(平成27年10月7日)競争政策研究センター共同研究「医薬品市場における競争と研究開発インセンティブ―ジェネリック医薬品の参入が市場に与えた影響の検証を通じて―」報告書

平成27年10月7日
公正取引委員会事務総局
競争政策研究センター

 公正取引委員会事務総局競争政策研究センター(注1)は,今般,共同研究「医薬品市場における競争と研究開発インセンティブ―ジェネリック医薬品の参入が市場に与えた影響の検証を通じて―」(注2)の報告書を取りまとめた。
 本報告書では,ジェネリック医薬品(注3)をめぐり,欧米では,先発医薬品メーカーがジェネリック医薬品メーカーに対して,販売時期を遅延させるために金銭を支払う競争回避行為(カルテル)がみられることを指摘した。その上で,我が国においても,今後,ジェネリック医薬品のシェア上昇に伴い,欧米同様の競争回避行為を行うインセンティブが高まるため,公正取引委員会はモニタリングを強化すべきであると提言している。

(注1)競争政策研究センター(CPRC)は,独占禁止法及び関連する法律の執行や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的・実証的な基礎を強化するために,平成15年6月,公正取引委員会事務総局内に設置された。

(注2)本共同研究報告書の執筆者は,土井教之氏(関西学院大学名誉教授・元CPRC主任研究官),武田邦宣氏(大阪大学大学院法学研究科教授・CPRC主任研究官),伊藤隆史氏(常葉大学法学部准教授・元CPRC客員研究員),荒井弘毅氏(秀明大学総合経営学部教授・元CPRC次長)ほか。報告書本体はhttp://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index_files/cr-0115.pdfを参照。

(注3)先発医薬品の特許が切れた後に販売される,先発医薬品と同じ有効成分,同じ効能・効果を持つ医薬品。

1 本研究の目的・問題意識(報告書「はじめに」)

 本研究は,(1)ジェネリック医薬品の参入による我が国の医療用医薬品市場への影響の検証及び(2)欧米におけるジェネリック医薬品をめぐる競争法違反事例の検証を通じ,競争政策上,競争当局が注視すべき点についての示唆を得ることを目的としている。

2 ジェネリック医薬品をめぐる我が国の状況

(1) 我が国のジェネリック医薬品のシェア(報告書第1章)
 我が国の医療用医薬品市場におけるジェネリック医薬品のシェアは,各種の普及政策によって上昇しているものの,欧米諸国と比較すると,低い水準にある(日本49%,米国92%,ドイツ83%等(注4),平成25年10月~平成26年9月)。

(注4)厚生労働省ホームページ,http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000095177.pdf

(2) 我が国の医療用医薬品市場における特徴的な制度(報告書第1章)
ア 薬価制度
 ジェネリック医薬品が新規参入する際の薬価は,原則として先発医薬品の薬価の6割であり,その後は市場実勢価格(卸売業者の医療機関等に対する販売価格)を踏まえて定期的に変更される(欧米のように,消費者〔患者〕向け市場において直接的な価格競争が行われているものではない。)。
イ パテントリンケージ及び事前調整
 ジェネリック医薬品による特許侵害に関する問題については,欧米では,先発医薬品メーカーがジェネリック医薬品メーカーに対して提起する,特許侵害訴訟による事業者間の解決が前提とされている。他方,我が国では,先発医薬品の有効成分に特許が存続する場合には,ジェネリック医薬品の製造販売承認がなされない(パテントリンケージ)ところ,先発医薬品メーカーとジェネリック医薬品メーカーとの間で特許上の問題の有無を確認し,その結果を国(厚生労働省)に報告している(事前調整)。
(3) 市場構造に関する経済分析(報告書第4章)
 我が国では,米国と異なり,ジェネリック医薬品の参入後もジェネリック医薬品間の価格競争に比べ,先発医薬品とジェネリック医薬品との間の価格競争は限定的である。ただし,今後,ジェネリック医薬品のシェアがある一定のレベルを超えた場合,その競争圧力により先発医薬品の価格もジェネリック医薬品価格の低下と同程度に低下する可能性がある。

3 欧米の状況(報告書第2章・第3章)

(1) 価格動向
 ジェネリック医薬品の参入後,先発医薬品の価格も連動して大幅に下落することが通例である。
(2) 競争法上問題となり得る行為(「リバースペイメント」)の存在
 欧米では,先発医薬品メーカーは,有効成分などの先発医薬品に関する重要な特許が満了した後であっても,その他の関連特許の存続等を理由として,ジェネリック医薬品メーカーに対して特許侵害訴訟を提起することがある。そして,当該訴訟の和解の局面で,先発医薬品メーカーがジェネリック医薬品メーカーに多額の金銭の支払い等を行う「リバースペイメント(注5)」がみられ,そのような行為がジェネリック医薬品の参入を遅らせるための競争回避行為(カルテル)であるとされる事例が存在する(注6)(注7)。

(注5)通常の特許侵害訴訟であれば被告(ジェネリック医薬品メーカー)から原告(先発医薬品メーカー)に対して和解金が支払われるところ,特許侵害訴訟を提起する先発医薬品メーカーから後発医薬品メーカーに金銭が支払われるもので,支払の流れが逆であることから,リバースペイメントと呼ばれている。このほか,参入を遅らせることに対する和解金という点に着目して,pay-for-delayとも呼ばれている。

(注6)ジェネリック医薬品の参入制限や金銭の支払に係る合意が確認された事例が,米国では約190件(2003年10月から2013年9月まで,FTC「Agreements Filed with the Federal Trade Commission under the Medicare Prescription Drug, Improvement, and Modernization Act of 2003」),EUでは約90件(2000年1月から2013年12月まで,欧州委員会「Report on the Monitoring of Patent Settlements」)。該当期間中に競争当局が措置を採った件数は,米国では2件,EUでは2件。

(注7)主な事例としては,米国におけるActavis最高裁判決(2013年6月17日)がある(概要は以下のとおり。)。
・ 先発医薬品メーカー(Solvay)は,経皮吸収型テストステロン(男性ホルモン)製品に関し,ジェネリック医薬品メーカー3社(Actavis,Par及びPaddock)に対して特許侵害訴訟を提起した。その後,2006年に,特許権の存続期間満了の65か月前である2015年8月末までジェネリック医薬品を販売しないこと,3社に対する金銭支払(Actavisに対しては9年間で年1900万~3000万ドル)を合意することにより和解した。
・ 判決は,特許訴訟に要する費用や複雑さを回避するための和解には価値があるとしつつ,当該和解に対して反トラスト法違反の可能性を排除しないとした上で,説明のつかない多額の支払は反競争的な効果をもたらすリスクが高いと判示した。

4 我が国への示唆(報告書「おわりに」)

 我が国の制度・市場構造の下では,現時点では,欧米のような競争法上問題となり得るリバースペイメントは相対的に発生しにくい環境にあると考えられる。しかし,将来的にジェネリック医薬品のシェアが更に上昇し,ジェネリック医薬品による競争圧力が強まる場合,欧米と同様に,リバースペイメントを行うインセンティブが高まるため,公正取引委員会は必要なモニタリングを行い,独占禁止法の積極的な適用が図られるよう検討する必要がある。

関連資料

問い合わせ先

公正取引委員会事務総局競争政策研究センター事務局
電話  03-3581-1848(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/
http://www.jftc.go.jp/cprc/index.html

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