平成29年2月10日
公正取引委員会
公正取引委員会は,被審人積水化成品工業株式会社ほか4社(以下「被審人ら」という。)に対し,平成25年1月21日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,平成29年2月8日,被審人らに対し,独占禁止法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)による改正前の独占禁止法(以下「独占禁止法」という。)第66条第2項の規定に基づき,被審人らの各審判請求を棄却する旨の審決を行った(本件平成25年(判)第1号ないし第9号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照)。
1 被審人らの概要
事業者名 | 本店所在地 | 代表者 |
---|---|---|
積水化成品工業株式会社 |
大阪市北区西天満二丁目4番4号 | 代表取締役 柏原 正人 |
株式会社積水化成品北海道 |
北海道千歳市北信濃779番3 | 代表取締役 藤井 雅敏 |
株式会社ジェイエスピー |
東京都千代田区丸の内三丁目4番2号 | 代表取締役 塚本 耕三 |
カネカケンテック株式会社 |
東京都千代田区内幸町一丁目3番3号 | 代表取締役 堀江 康則 |
カネカフォームプラスチックス株式会社 |
大阪市西区江戸堀一丁目10番8号 | 代表取締役 金谷 拓亮 |
2 被審人らの審判請求の趣旨
別表1のとおり,被審人らに対する各排除措置命令及び課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
3 主文の内容
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。
4 本件の経緯
平成24年
9月24日 排除措置命令及び課徴金納付命令
11月22日 被審人らから排除措置命令及び課徴金納付命令に対して審判請求
平成25年
1月21日 審判手続開始
3月4日 第1回審判
↓
平成28年
3月1日 第15回審判(最終意見陳述を終了)
9月27日まで 審決案送達
10月11日 被審人らから審決案に対する異議の申立て及び委員会に対する陳述(直接陳述)の申出
12月19日 直接陳述の聴取
平成29年
2月8日 被審人らの各審判請求を棄却する審決
5 原処分の原因となる事実
被審人ら及び別表2記載の4社(以下,両者を併せて「9社」という。)は,共同して,特定EPSブロック(注1)(注2)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,特定EPSブロックの取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。
被審人らの本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,別表3の各被審人に係る「実行期間」欄記載のとおりであり,独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は,同表の各被審人に係る「課徴金額」欄記載のとおりである。
(注1) 「EPSブロック」とは,EPS工法(発泡スチロール土木工法開発機構〔総合建設業者,専門工事業者,発泡スチロールブロックの材料製造業者等を会員とする任意の事業者団体。以下「EDO」という。〕が策定した「EPS工法 設計・施工基準書(案)」〔以下「EPS工法基準書」という。〕に基づき,発泡スチロールブロックを,主として,軟弱地盤上の盛土,擁壁,橋台背面の裏込め材としての盛土,地滑り地の盛土,道路拡幅盛土としての盛土,両直型の盛土及び埋設構造物の埋め戻しの盛土として建設工事に使用する工法)において使用される発泡スチロールブロックをいう。
(注2) 「特定EPSブロック」とは,9社のうち一又は複数の者が,EPS工法採用工事に係る設計図書の作成を含む設計業務を請け負った建設コンサルタント業者に対し,当該工事が発注される前に,自ら又は建設資材商社を通じ,当該設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面をEPS工法基準書に基づいて作成し提供したEPS工法採用工事に使用されるEPSブロックをいう。
6 審決の概要
(1) 本件の争点
ア 9社の間に,特定EPSブロックについて,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨の合意が存在したか(争点1)
イ 以下の各場合に係る特定EPSブロックは,上記アの合意の対象に含まれるか(争点2)
(ア) 詳細設計協力(注3)(注4)を行っていないEPSブロック業者に対する見積依頼がない場合
(イ) 受注したEPSブロック業者以外のEPSブロック業者が当該物件の存在を認識していない場合
(ウ) 被審人らの主張する自社独自の工法が採用された場合
(エ) 建設資材商社が,同社の判断により詳細設計協力業者(注5)に見積書を提出させ,当該業者に特定EPSブロックを発注した場合
ウ 上記アの合意は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当するか(争点3)
エ 審決案別紙3の1ないし3の5(課徴金対象物件一覧)記載の被審人らが受注した各工事に係る特定EPSブロックは,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するか(争点4)
オ 被審人カネカケンテック株式会社及び被審人カネカフォームプラスチックス株式会社の本件違反行為の実行期間を連続して捉えるべきか(争点5)
(注3) 「詳細設計」とは,官公庁等の発注者がEPS工法採用工事を建設業者に発注する前に行う,EPS工法採用工事の具体的内容を決めるための設計をいう。発注者は,通常,建設コンサルタント業者に対し,詳細設計を発注している。
(注4) 「詳細設計協力」とは,EPSブロック業者が詳細設計を受注した建設コンサルタント業者に対して行う,EPS工法採用工事の設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面の作成及び無償提供をいう。建設コンサルタント業者は,自社で独自に詳細設計を行うこともあるが,通常は,EPSブロック業者の協力を得て,詳細設計を行っている。
(注5) 「詳細設計協力業者」とは,詳細設計協力を行う者をいう。
(2) 争点に対する判断の概要
ア 争点1について
被審人らは,平成元年頃から,EPS工法採用工事に係る設計協力を行ったEPSブロック業者(注6)が当該工事に使用されるEPSブロックを他社に優先して販売すべきであるという考え方に基づいて行動するようになり,物件登録(注7)が行われるようになった平成2年4月頃以降は,自社が物件登録を行った物件についてはそれを根拠にEPSブロックを販売する「権利」があると主張し,他社が物件登録を行った物件については営業活動を行わないようにするなど,EPSブロックの受注について協調関係にあったことが認められる。
そして,平成16年1月7日及び同月19日に開催された広報委員会(注8)において,物件登録の廃止及びその後のルールについて話合いが行われ,[1]平成16年2月末日をもって物件登録を廃止すること,及び[2]物件登録の廃止後は,最終図面(注9)を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売できることとし,互いに協力し合っていく旨確認されたことが認められる。
さらに,9社は,物件登録の廃止後も,自社が詳細設計協力した物件については当該物件を受注した建設業者に対する営業活動を積極的に行う一方,自社が詳細設計協力した物件ではないと判別できた場合等には営業活動の自粛等をすることで,詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注できるように協力し合っていたものであり,9社が平成19年1月以降に,自社が詳細設計協力したことを根拠に他社に営業活動の自粛を求めた事例,見積価格に関する連絡を取り合うなどして詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注できるように協力した事例,及び最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注するという前提の下に利益配分のための調整等を行った事例も多数存在することが認められる。
以上の事情に鑑みれば,9社の間には,遅くとも平成19年1月以降,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)が存在していたものと認められる。
(注6) 「EPSブロック業者」とは,EPSブロックの製造業者又は販売業者をいう。
(注7) 「物件登録」とは,EDOの事務局において行われていた,EPS工法採用工事に係る情報をデータベース化していた行為をいう。EPSブロックの材料製造業者を会員とする材料部会(EDOに設けられていた技術委員会内の組織)の会員事業者等は,遅くとも平成2年4月頃以降,EPS工法が採用されそうな物件の情報を入手したり,建設コンサルタント業者から設計業務に対する協力の依頼を受けたりした場合には,その物件名,発注者名,施工場所,建設コンサルタント業者名等の情報をEDOの事務局に連絡していた。
(注8) 「広報委員会」とは,材料部会の会員が,EPS工法の普及を目的として,建設コンサルタント業者に対する説明会の日時の決定や講習会の開催場所の選定等を行うため,各社のEPSブロックの営業担当者が定期的に行っていた会合をいう。
(注9) 「最終図面」とは,発注されたEPS工法採用工事に採用されたEPSブロック図面をいう。
イ 争点2について
前記アのとおり,9社はいずれも,特定EPSブロックについて,最終図面を作成した詳細設計協力業者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力する意思を有していたものであり,その対象である特定EPSブロックについて,特段の限定を付したり,一部を除外したりするなどした事実は認められない。
したがって,本件合意の対象は,前記(1)イ(ア)ないし(エ)を含む全ての特定EPSブロックであると認めるのが相当である。
ウ 争点3について
前記ア及びイのとおり,9社の間には,遅くとも平成19年1月以降,本件合意が存在したことが認められる。
このような取決めは,本来的には自由に特定EPSブロックの受注活動を行うことができるはずの9社が,これに制約された意思決定を行うことになるという意味において,各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法第2条第6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。また,本件合意の成立により,9社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項にいう「共同して・・・相互に」の要件も充足する。
そして,本件合意は,特定EPSブロックの販売に係るものであるところ,9社は,特定EPSブロックのほとんど全てを受注していたことからすれば,本件合意により,9社がその意思で特定EPSブロックの販売分野における販売者及び販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたと認められる。したがって,本件合意は,独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。
また,以上のような本件合意が,独占禁止法第2条第6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
よって,本件合意は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当する。
エ 争点4について
独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるが,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる当該商品に含まれると解すべきである。
被審人らは,前記(1)イ(ア)ないし(エ)の各場合に係る特定EPSブロックは「当該商品」に該当しないと主張するところ,これらはいずれも特定EPSブロックである以上,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であることは明らかである。
また,前記イのとおり,上記特定EPSブロックについて,本件合意による相互拘束から除外されていることを示す事情は認められない。
したがって,上記特定EPSブロックは,いずれも独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に含まれるものであり,被審人らの主張は採用できない。
オ 争点5について
独占禁止法第7条の2第1項本文にいう「当該行為の実行としての事業活動を行つた日」及び「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」は,個別の事業者ごとに異なることからすれば,この「実行期間」は個別の事業者ごとに判断すると解するのが相当である。
また,違反行為をした事業者について,合併又は違反行為に係る事業の分割若しくは譲渡がなされた場合でも,当該違反行為をした事業者が消滅していない限り,当該違反事業者に対して課徴金の納付を命じればよく,違反行為に係る事業の分割又は譲渡を受けた事業者に対して,当該違反行為に係る課徴金の納付を命じる必要はない。
これを本件についてみると,被審人カネカフォームプラスチックス株式会社は,平成22年10月1日,被審人カネカケンテック株式会社に対し,吸収分割によりEPSブロックに係る事業を承継させたが,被審人カネカフォームプラスチックス株式会社はその後も消滅していないから,同被審人の違反行為に係る課徴金は,同被審人が違反行為の実行としての事業活動を行った日から,同被審人による違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間における売上額を基礎として計算するのが相当である。
関連ファイル
(印刷用)(平成29年2月10日)積水化成品工業株式会社ほか4社に対する審決について(EPSブロックの製造業者及び販売業者による受注調整事件)(PDF:138KB)
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