平成29年6月7日
公正取引委員会
はじめに
公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売など,社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に厳正かつ積極的に対処することとしている。
平成28年度においては,電力分野に係る情報提供窓口(平成28年3月設置)に加え,農業分野,IT・デジタル関連分野に係る情報提供窓口を設置(同4月,10月)し,これら分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報収集及び事件処理に積極的に取り組んだ。
平成28年度における独占禁止法違反事件の処理状況は,次のとおりである。
第1 審査事件の概況
1 法的措置等の状況
(1) 排除措置命令等の状況
平成28年度においては,独占禁止法違反行為について,延べ51名の事業者に対して,11件の排除措置命令を行った。排除措置命令11件の内訳は,価格カルテル1件,入札談合(官公需)5件,受注調整(民需)3件,不公正な取引方法2件となっている。不公正な取引方法2件を除いた9件の市場規模は,総額約3800億円超である。
図1 排除措置命令件数等の推移
また,平成28年度においては,違反行為は認定したが,特に排除措置を命ずる必要があるとは認められないとして審査を終了し,公表した事例が1件あった。
そのほか,排除措置命令を行うに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いのある行為が認められたときには,関係事業者等に対し,事前説明を行った上で警告・公表を行い,必要に応じ是正措置を採るよう指導しているところであり,平成28年度においては,10件の警告・公表を行った。
(2) 課徴金納付命令等の状況
平成28年度においては,延べ33名の事業者に対して,総額97億9696万円の課徴金納付命令を行った。このうち,課徴金納付命令後に刑事事件裁判が確定した9名の事業者に対して,独占禁止法第63条第1項の規定に基づき,課徴金納付命令に係る課徴金の一部を控除する決定を,また,1名の事業者に対して,同条第2項に基づき,課徴金納付命令を取り消す決定を行った(以下「罰金調整」という。)。
罰金調整の結果,平成28年における課徴金額は,延べ32名の事業者に対して,総額91億4301万円であり,一事業者当たりの課徴金額の平均は2億8571万円(注1)であった。
(注1) 一事業者当たりの課徴金額の平均については,1万円未満切捨て。
図2 課徴金額等の推移
(注)課徴金額については,千万円未満切捨て。
図3 一事業者当たりの課徴金額(平均)の推移
(注) 課徴金額については,1万円未満切捨て。
価格カルテル・入札談合等の不当な取引制限に対する課徴金算定率については,違反を繰り返した事業者又は違反行為において主導的な役割を果たした事業者に対する算定率の5割の割増し及び早期に違反行為をやめた事業者に対する算定率の2割の軽減が適用されることとなっている(注2)。
平成28年度においては,違反を繰り返した事業者に対する割増算定率が4件における延べ4名に対して,主導的な役割を果たした事業者に対する割増算定率が2件における延べ4名に対して,また,早期に違反行為をやめた事業者に対する軽減算定率が3件における延べ14名に対して,それぞれ適用された。
(注2)[1] 調査開始日から遡り,10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある場合,又は違反行為において主導的な役割を果たした場合,5割加算した率を適用(例えば,製造業(中小事業者以外)にあっては,課徴金算定率が10パーセントであるところ15パーセントに,また,両方の場合を満たすときは20パーセントに,それぞれ割増しされる。)。
[2] 違反行為の期間が2年未満で,調査開始日の1か月前までに違反行為をやめていた場合,2割軽減した率を適用(例えば,製造業(中小事業者以外)にあっては,課徴金算定率が10パーセントであるところ,8パーセントに軽減される。)。
2 申告の状況
平成28年度において,独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は,7,224件であった。
申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には,申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ,平成28年度においては,7,064件の通知を行った。
図4 申告件数の推移
3 課徴金減免制度
課徴金減免制度に基づき,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,平成28年度において,124件であった(平成18年1月の制度導入時から平成28年度末までの累計は1,062件)。
また,平成28年度においては,価格カルテル・入札談合・受注調整事件9件における延べ28名の課徴金減免制度の適用事業者について,これらの事業者の名称,減免の状況等を公表した(注3)。
なお,課徴金減免制度の導入から平成28年度末までの運用状況については別添1のとおりである。
(注3) 公正取引委員会は,法運用の透明性等の観点から,課徴金減免制度が適用された事業者について,課徴金納付命令を行った際に,当委員会のウェブサイトに,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている(ただし,平成28年5月31日以前に課徴金減免の申請を行った事業者については,当該事業者から公表の申出があった場合に,公表している。)。
ウェブサイト http://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html
表1 課徴金減免申請件数の推移
年度 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 累計 (注4) |
申請 件数 |
131 | 143 | 102 | 50 | 61 | 102 | 124 | 1,062 |
(注4) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から平成29年3月末までの件数の累計。
表2 課徴金減免制度の適用状況
年度 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 累計 (注6) |
課徴金減免制度の適用が 公表された法的措置件数(注5) |
7 | 9 | 19 | 12 | 4 | 7 | 9 | 118 |
課徴金減免制度の適用 が公表された事業者数 |
10 | 27 | 41 | 33 | 10 | 19 | 28 | 292 |
(注5) 法的措置とは,排除措置命令及び課徴金納付命令であり,一つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令がともに行われている場合には,法的措置件数を1件としている。
(注6) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から平成29年3月末までの件数の累計。
第2 行為類型別の事件概要
1 価格カルテル・入札談合・受注調整事件
(1) 価格カルテル事件
平成28年度においては,壁紙の販売業者による価格カルテル事件について,1件の法的措置を採った。
壁紙の販売価格を引き上げる旨を合意していた。 (平成29年3月13日 排除措置命令及び課徴金納付命令) |
(2) 入札談合事件
平成28年度においては,東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札参加業者による入札談合事件,東日本高速道路株式会社関東支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札参加業者による入札談合事件,消防救急デジタル無線機器の製造販売業者による入札談合事件,地方公共団体等が宮城県又は福島県の区域を施工場所として発注する施設園芸用施設の建設工事の工事業者による入札談合事件,及び防衛装備庁が発注するビニロン又は難燃ビニロンを材料として使用する繊維製品の入札参加業者による入札談合事件について,5件の法的措置を採った。
東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
東日本高速道路株式会社関東支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事について,受注予定者及び受注予定者が受注できるように協力する旨を合意していた。 |
消防救急デジタル無線機器について,納入予定メーカーを決定し,納入予定メーカー以外の者は,納入予定メーカーが納入できるように協力する旨を合意していた。 |
地方公共団体等が宮城県又は福島県の区域を施工場所として発注する施設園芸用施設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
防衛装備庁発注のビニロン製品について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
(3) 受注調整事件
平成28年度においては,東京電力が発注する電力保安通信用機器の製造販売業者による受注調整事件,中部電力株式会社が発注するハイブリッド光通信装置及び伝送路用装置の製造販売業者による受注調整事件について,3件の法的措置を採った。
また,欧州国債の取引を行う事業者による受注調整事件について,1件の警告を行った。
東京電力ホールディングス株式会社(平成28年4月1日に東京電力株式会社から商号変更)が発注する電力保安通信用機器について,納入予定メーカーを決定し,納入予定メーカーが納入できるようにしていた。 (平成28年7月12日 排除措置命令及び課徴金納付命令) |
中部電力株式会社が発注するハイブリッド光通信装置について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
中部電力株式会社が発注する伝送路用装置について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
ドイツ証券株式会社が,他の証券会社との間で,欧州国債について,継続して,我が国に所在する顧客からの引き合いに関する情報,価格に関する情報等を交換するなどし,また,他の証券会社と共同して,欧州国債のうち我が国に所在する顧客が電話取引により複数銘柄に対する見積価格の提示を求める方法で売買の発注を行うものについて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた疑い。 |
2 中小事業者等に不当に不利益をもたらす不公正な取引方法
(1) 優越的地位の濫用
優越的地位の濫用行為に係る調査を効率的かつ効果的に行い,必要な是正措置を講じていくことを目的とした「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し,調査を行っているところ,平成28年度においては,48件の注意を行った(別添2参照)。
(2) 不当廉売
平成28年度においては,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注7)を行い,不当廉売につながるおそれがあるとして1,155件の注意を行った(表3)。
(注7) 原則として,申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。
表3 平成28年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)
酒類 |
石油製品 | 家電製品 | その他 | 合計 | |
注意件数 | 420 | 732 | 1 | 2 | 1,155 |
図5 不当廉売事案の注意件数の推移
3 その他の不公正な取引方法
平成28年度においては,コールマンジャパン株式会社による再販売価格の拘束事件及び土佐あき農業協同組合による拘束条件付取引事件について,2件の法的措置を採った。
また,ワン・ブルー・エルエルシーによる競争者に対する取引妨害が認められたが,当該違反行為は既になくなっており,特に排除措置を命ずる必要があるとは認められなかった。
このほか,義務教育諸学校で使用する教科書の発行者による不当な利益による顧客誘引事件について,9件の警告を行った。
コールマンジャパン株式会社は,キャンプ用品の実店舗における販売又はインターネットを利用した販売に関し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に,次の販売ルールに従って販売するようにさせていた。 |
土佐あき農業協同組合は,なすの販売を受託することができる組合員を支部員又は支部園芸部から集出荷場の利用を了承された者に限定していたところ,次のとおり,組合員からなすの販売を受託していた。 [1] 自ら以外の者になすを出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないこととして,なすの販売を受託していた。 |
ワン・ブルー・エルエルシーは,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有していた者と認められる記録型ブルーレイディスク(BD)の製造販売業者と,記録型BDに係るBD標準規格必須特許のライセンスについて交渉を行っていたが,ライセンス料について当事者間で合意できなかったことから,ライセンス交渉を促進させるため,当該製造販売業者の有力な取引先3社に対して,自社が管理するBD標準規格必須特許の特許権者が当該取引先の特許権侵害行為について差止請求権を有していること等を内容とする通知書を送付し,自己と我が国における記録型BDの取引において競争関係にある事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害していた。 |
義務教育諸学校で使用する教科書の発行者9名が,それぞれ,平成27年度から使用されている小学校用教科書又は平成28年度から使用されている中学校用教科書に関して,その採択に関与する可能性のある教員等に対し,金銭や中元・歳暮等を提供し,また,懇親会を催して酒類・料理等を提供することにより,正常な商慣習に照らして不当な利益をもって,競争者の顧客を自己と取引するように誘引していた疑い。 |
4 事業者団体・発注者等への要請等
○ 教科書協会に対する要請(平成28年7月6日)
公正取引委員会は,義務教育諸学校で使用する教科書の発行者による,不当な利益による顧客誘引事件について,今後,一般社団法人教科書協会の会員が同様の行為を行わないよう,同協会に対し,次の事項を要請した。 |
○ 消防救急デジタル無線機器の発注者に対する連絡(平成29年2月2日)
消防救急デジタル無線機器の製造販売業者による入札談合事件の審査の過程において,消防救急デジタル無線機器の入札等の一部において,次のような疑いのある事実が認められた。 |
○ みやぎ農業振興公社に対する申入れ(平成29年2月16日)
公益社団法人みやぎ農業振興公社の担当者が,同公社が設計管理支援業務又は入札事務を受託した施設園芸用施設工事の入札の実施に当たり,入札の前に特定の工事業者に対し,工事の予定価格の基となる工事積算金額又は相指名業者の名称を教示した行為は,工事業者による独占禁止法違反行為を誘発し,又は助長していたものと認められることから,公正かつ自由な競争を確保するため,同公社に対し,同様の行為が再び行われることのないよう適切な措置を講ずることを申し入れた。 |
第3 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟(注8)
平成27年度中に排除措置命令等取消請求訴訟が提起されたものはなく,平成28年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟はなかったが,平成28年度中に新たに5件(注9)の排除措置命令等取消請求訴訟が東京地方裁判所に提起されたため(このうち1件については併せて執行停止の申立てがなされた。),平成28年度に係属した排除措置命令等取消請求訴訟は5件となった。
平成28年度においては,これらのうち判決がなされたものはない(執行停止の申立て1件については,同年度中に東京地方裁判所において却下決定が出され,確定した。)(別表第8表参照)。
(注8) 審判制度の廃止に伴い,平成27年度以降,独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟は,直接東京地方裁判所に提起する制度となっている。
(注9) 排除措置命令等取消請求訴訟の件数は,訴訟ごとに裁判所において付される事件番号の数である。
第4 審判及び審決等の概要
平成28年度中に係属していた審判事件数(注10)は260件(うち130件は課徴金納付命令に係るもの)である。平成28年度においては,14件の審決を行った。内訳は,排除措置命令に係る審判請求棄却審決6件及び課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決8件である。
このほか,1件について被審人から審判請求取下げが行われた。
この結果,平成29年3月末時点では245件の審判事件が係属中である。
(注10) 審判事件数は,行政処分に対する審判請求ごとに付される事件番号の数である。
図6 審判係属事件数の推移
1 排除措置命令に係る審決
平成28年度においては,次の合計6件の排除措置命令に係る審判請求棄却審決を行った。
・ 異性化糖及び水あめ・ぶどう糖の製造業者らによる価格カルテル事件に係るもの2件
・ EPSブロックの製造業者及び販売業者による受注調整事件に係るもの4件
2 課徴金納付命令に係る審決
平成28年度においては,次の合計8件の課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決を行った。
・ 異性化糖及び水あめ・ぶどう糖の製造業者らによる価格カルテル事件に係るもの2件
・ EPSブロックの製造業者及び販売業者による受注調整事件に係るもの5件
・ 軸受製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件
第5 審決取消請求訴訟
平成28年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注11)は6件であったが,平成28年度中に新たに3件の審決取消請求訴訟が提起されたため,平成28年度に係属した審決取消請求訴訟は9件となった(別表第11表参照)。
平成28年度においては,これらのうち,東京高等裁判所において,原告の請求を棄却する判決がなされたものが5件(うち2件は上訴期間の経過をもって確定,3件は原告が上訴)あった。また,最高裁判所において,原告からの上訴(上告及び上告受理申立て)に対する終局決定(上告棄却及び上告不受理決定)がなされたものが1件あった。
この結果,平成29年3月末時点では6件の審決取消請求訴訟が係属中である。
(注11) 審決取消請求訴訟の件数は,第一審裁判所において番号が付される事件の数である。
関連ファイル
(印刷用)(平成29年6月7日)平成28年度における独占禁止法違反事件の処理状況について(PDF:1,085KB)
問い合わせ先
第1から第3までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第4及び第5に関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp/