平成29年3月22日
公正取引委員会
第1 調査の趣旨
1 公正取引委員会は,独占禁止法上の優越的地位の濫用規制及び下請法に基づき,納入業者に不当に不利益を与える行為に対し厳正に対処するとともに,違反行為の未然防止に係る取組を行っている。また,この未然防止の取組の一環として,公正取引委員会は,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る事例が見受けられる取引分野について,取引の実態を把握するための調査を実施している。
2 葬儀の市場では新規参入や消費者等のニーズに対応するための競争が活発に行われる一方で,葬儀業者と取引をする事業者に対して,取引とは直接関係ない物品の購入を要請するといった行為が行われているといわれている。このような実情を踏まえ,公正取引委員会は,葬儀の取引に関する実態調査を実施した。
第2 調査結果及び公正取引委員会の対応
1 本調査の結果,葬儀に関する一部の取引において,葬儀業者による優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る行為が行われている状況が認められた(調査結果の概要については,「葬儀の取引に関する実態調査報告書(概要)」を参照)。
公正取引委員会は,違反行為の未然防止及び取引の公正化の観点から,本調査結果を公表するとともに,葬儀業者の関係事業者団体に対する業界における取引の公正化に向けた取組の要請等を行うこととした。
2 公正取引委員会は,今後とも,葬儀に関する取引実態を注視し,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに,これらの法律に違反する行為に対しては,厳正に対処していく。
葬儀の取引に関する実態調査報告書(概要)
第1 調査方法
葬儀業又はブライダル業を営んでいると思われる事業者を対象として調査票3,500通を送付するとともに,当該事業者のうち葬儀業又はブライダル業を営んでいると回答した事業者(以下,それぞれ,「葬儀業者」,「ブライダル業者」という。)から報告のあった取引先納入業者を対象として調査票7,000通を送付し,書面調査を実施した。
対象事業者 |
発送数 |
回答数 |
|
---|---|---|---|
葬儀業者及び |
3,500 |
1,603(45.8%) |
|
うち葬儀業を営んでいるとの回答数 |
696 |
||
納入業者 |
7,000 |
3,456(49.4%) |
|
うち葬儀業者と取引があるとの回答数 |
1,451 |
※ 調査対象期間:直近1事業年度(一部直近5事業年度又は直近10事業年度)
第2 調査結果
1 葬儀業の概況
(1) 葬儀市場の概況
葬儀業の市場規模は平成27年において約1兆7800億円と見込まれ,漸増傾向が続いている。
死亡者数は,平成26年において約127万名であり,過去10年間でおよそ25%増加している。今後も増加傾向は続き,平成51年には約167万名と,ピークを迎えることが予測されている。
(2) 葬儀の多様化・小規模化
ア 葬儀の年間取扱件数及び年間売上高の増減傾向
年間取扱件数については,「増加している」,「減少している」,「変わっていない」との回答がそれぞれ3分の1程度であったが,年間売上高については,「減少している」との回答が50%を占めた。
イ 葬儀の種類別の年間取扱件数及び年間売上高の増減傾向
増加傾向にあるものとして「家族葬」との回答が年間取扱件数,年間売上高ともに50%を超えたほか,「直葬」及び「一日葬」が比較的高い割合を占めた一方,減少傾向にあるものとしては「一般葬」との回答が年間取扱件数,年間売上高ともに70%近くに上った。
従来型の「一般葬」が減少傾向にある一方,「一般葬」に比べ,参列者数が少ない,葬儀日数が少ない,葬儀費用を低く抑えることができるといった特徴を有する「家族葬」,「直葬」等が増加傾向にある。葬儀の取扱件数は死亡者数の増加に応じて増加するものの,葬儀1件当たりの売上高は減少傾向をたどることが考えられる。
(3) 大手葬儀業者の事業拡大
年間取扱件数の多い葬儀業者ほど年間取扱件数が増加傾向にあるとした割合が高く,年間売上高の多い葬儀業者ほど年間売上高が増加傾向にあるとした割合が高かった。また,葬儀施設の保有数が多い葬儀業者ほど年間売上高が増加傾向にあるとした割合が高かった。
事業規模が大きい葬儀業者ほど年間取扱件数,年間売上高とも増加傾向にある。今後,大手の葬儀業者はより事業を拡大し,中小の葬儀業者との二極化が進んでいくことも考えられる。
(4) 異業種からの新規参入
葬儀業者の72.6%が直近10事業年度において自社の営業地域内に新規参入があったと回答しているように,葬儀業界では新規参入が活発に行われている。新規参入業者については,「自社の営業地域外で営業していた葬儀業者」との回答が54.5%を占めたが,事業多角化の一環として子会社等の活用を含め「異業種から参入した葬儀業者」との回答も24.1%に上った。
異業種からの新規参入業者の主たる事業内容をみると,従前から葬儀業との兼業事業として割合が高い「農業協同組合事業」や葬儀業と関係の深い「生花事業」に加え,葬儀業との兼業事業としては,従前,比較的割合が低かった「鉄道事業」も増加している。
また,自らは葬儀業を営まず葬儀業者を紹介するサービスを営む事業者も増加している。
2 葬儀業者と納入業者との取引の状況
行為類型 |
取引数 |
割合 |
---|---|---|
商品・サービスの購入・利用の要請 |
216 |
14.9%(216/1,451) |
採算確保が困難な取引(買いたたき) | 166 |
11.4%(166/1,451) |
金銭・物品の提供の要請 |
131 |
9.0%(131/1,451) |
発注内容の変更(受領拒否を含む。) |
110 |
7.6%(110/1,451) |
返品 |
71 |
6.4%(71/1,107) |
発注内容以外の作業等 |
74 |
5.1%(74/1,451) |
従業員等の派遣の要請 |
67 |
4.6%(67/1,451) |
やり直し |
60 |
4.1%(60/1,451) |
代金の支払遅延 |
35 |
2.4%(35/1,451) |
代金の減額 |
28 |
1.9%(28/1,451) |
合計(上記行為が1つ以上みられた取引数) |
434 |
29.9%(434/1,451) |
納入業者から,葬儀業者から優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を1つ以上受けたと回答のあった取引は29.9%(434取引)。
資本金区分から下請法の適用対象となり得るのは,434取引のうち,101取引。
優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受け入れた納入業者の割合は,取引年数が長いほど高い傾向にあった。
優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受け入れた納入業者の取引年数の平均値(18.7年)と受け入れなかった納入業者の取引年数の平均値(14.7年)には統計的に有意な差が認められた。
【納入業者からの具体的回答事例】
[1] 商品・サービスの購入・利用の要請
イベントのチケットやおせち料理の購入,互助会への入会など,様々な要請がある。葬儀業者側では取引先の納入業者の購入実績や入会実績を記録しており,実績が少ないと取引を減らされるため,不要なものでも要請に応じるしかない。
[2] 採算確保が困難な取引(買いたたき)
葬儀業者が消費者向け価格として設定した価格の75パーセントを納入価格とする契約で取引を始めたのだが,一方的に消費者向け価格として設定した価格の45パーセントにまで下げられてしまった。当該葬儀業者に対する売上高は,当社の年間総売上高の半分以上を占めており,今後の取引を考えると仕方なく受け入れている。
[3] 金銭・物品の提供の要請
葬儀業者が主催するイベントにおけるゲームの景品として,数万円分のフラワーアレンジメントの提供の要請がある。イベントにフラワーアレンジメントを提供しても直接当社の売上げにつながることはない。無償のため,当社にとって負担になるが,今後の取引を考えると要請に応じざるを得ない。
[4] 返品
通夜・告別式の後,返礼用の海苔の一部を,自宅への弔問客用にということで,施主の自宅に届けることがある。遅い場合,3か月以上も経ってから届けた返礼用の海苔が葬儀業者を通じて返品されることがある。返品された返礼用の海苔は風味が落ち贈答用としては使用できず,処分するしかないが,葬儀業者は代金を支払ってくれない。
[5] 発注内容以外の作業等
当社が仕出料理を葬儀場に届けた際や食器を引き取りに行った際,当社に関係するゴミだけでなく,葬儀業者のゴミの処分までさせられる。この業界では,葬儀業者のゴミを仕出料理業者が処分することが半ば当たり前のようになってしまっており,あまり疑問を持っていなかったが,よくよく考えるとおかしな話である。ただ,他の仕出料理業者も同様のことを行っているため,取引継続のことを考えると当社のみがやらないということはできない。
取引内容 |
取引数 |
割合 |
---|---|---|
仕出料理 |
105 |
36.7%(105/286) |
花 |
77 |
33.6%(77/229) |
返礼品・ギフト |
130 |
32.2%(130/404) |
人材派遣 | 24 |
27.0%(24/89) |
葬儀用品 |
50 |
26.6%(50/188) |
湯灌・納棺 |
16 |
21.3%(16/75) |
貸衣装 |
13 |
20.6%(13/63) |
霊柩運送 | 19 |
16.2%(19/117) |
合計 |
434 |
29.9%(434/1,451) |
仕出料理,花,返礼品・ギフトの取引において優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為がみられた取引の割合が30%を超えており,他の取引内容に比べ高くなっていた。
3 取引を行う上での留意点
(1) 葬儀業者
商品・サービスの購入・利用の要請及び金銭・物品の提供の要請については,これまでも独占禁止法違反として法的措置が採られた実績のある典型的な優越的地位の濫用行為であり,また,採算確保が困難な取引(買いたたき)については,最も重要な取引条件の一つである取引価格に関するもので,他の実態調査等においても納入業者からの指摘が多い行為類型である。
違反行為の未然防止の観点から,葬儀業者は,これらの行為類型を含め,前記2(1)記載の違反行為類型に該当するような行為を行うことのないよう留意する必要がある。
(2) 納入業者
葬儀業者から優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る行為を受けた場合,公正取引委員会に相談する,あるいは申告するといった対応をとることができるよう,優越的地位の濫用規制及び下請法に関する理解を深めることが重要である。
第3 公正取引委員会の対応
本調査の結果,葬儀に関する一部の取引において,葬儀業者による優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る行為が行われている状況が認められた。公正取引委員会として,違反行為の未然防止及び取引の公正化の観点から,本調査結果を公表するとともに,以下の対応を行うこととする。
1(1) 葬儀業者の関係事業者団体に対して,本調査結果を示すとともに,葬儀業者が葬儀の取引に関する問題点の解消に向けた自主的な取組を行えるよう,改めて優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を傘下会員に周知徹底するなど,業界における取引の公正化に向けた取組を要請する。
(2) 葬儀業者を対象とする講習会を実施し,本調査結果並びに優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を説明する。
(3) 葬儀業者及び納入業者に対し,優越的地位の濫用規制及び下請法への理解を深められるよう,公正取引委員会のホームページ,ツイッター,フェイスブック等を通じ,各種講習会への参加,講習用動画の活用等を広く呼びかけていく。
2 公正取引委員会は,今後とも,葬儀に関する取引実態を注視し,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに,これらの法律に違反する行為に対しては,厳正に対処していく。
関連資料
(印刷用)(平成29年3月22日)葬儀の取引に関する実態調査報告書(報道発表文)(PDF:77KB)
(印刷用)(平成29年3月22日)葬儀の取引に関する実態調査報告書(概要)(PDF:348KB)
(印刷用)(平成29年3月22日)葬儀の取引に関する実態調査報告書(本文)(PDF:1,055KB)
問い合わせ先
問い合わせ先 公正取引委員会事務総局経済取引局取引部企業取引課
電話 03-3581-1882(直通)
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