[配布資料]
公正取引委員会における証拠に基づく政策立案(EBPM)の取組(報告書を除く新聞発表文)(令和2年6月9日公表)
[発言事項]
事務総長会見記録(令和2年6月10日(水曜)13時30分~於大会議室)
公正取引委員会における証拠に基づく政策立案(EBPM)の取組(コールマンジャパン株式会社に対する件(再販売価格拘束事件)の事後評価等)
本日は,まず私からは,公正取引委員会のEBPMの取組についてお話しいたします。
お手元の資料の1枚目を御覧ください。現在,政府全体でエビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング,略して「EBPM」が推進されております。このEBPM,これは「証拠に基づく政策立案」ということでございますが,これは客観的証拠に基づいて政策課題を把握して,有効な対応策を選択し,その効果を検証し,施策の改善や企画立案につなげるといった活動ということを意味しております。
公正取引委員会には,平成30年4月に,官房政策立案総括審議官が設置されておりまして,この審議官の下で,各種業務に関するEBPMに取り組んできております。
このEBPMの成果であります2つの取組を,昨日,公表いたしました。これは公正取引委員会がEBPMに関して公表した初めてのものということでございます。
一つ目の取組につきましては,お手元の資料の2枚目,資料1を御覧ください。一つ目の取組は,広報施策のEBPMです。これは,広報活動の効果を把握・分析し,その結果から得られた知見を今後の広報施策の改善に活用するために行ったというものです。
具体的には,消費者セミナー,独占禁止法教室,そして地方有識者との懇談会の参加者に実施しましたアンケート調査結果に基づきまして,統計的手法を使って,理解度,満足度,クイズへの正答数など広報活動の効果を分析いたしました。
資料1の下半分の「分析結果」をご覧いただきますと,そこに記載されていますように,例えば,「イベントの開催時間が120分を超えると満足度や関心が低下する傾向にある」ですとか,「イベントの参加者の3割程度の方々が『独占禁止法について情報収集した』と回答するなど,イベントが参加者の行動に影響を与えた可能性がある」といったことが分かったというものでございます。
公正取引委員会としては,このような結果を,今後の広報活動に活用していきたいと考えております。
二つ目の取組につきましては,お手元の資料の3枚目の資料2を御覧ください。この取組は,平成28年に排除措置命令を行いました個別事件の事後評価としてのEBPMというものでございます。
まず,これがどのような事件かと申しますと,コールマンジャパン株式会社が,自社のキャンプ用品の小売価格を拘束していたという,いわゆる再販売価格の拘束の事件です。公正取引委員会は,同社に対して,今後,このような小売価格の拘束行為を行わないことなどを内容とする排除措置命令を行いました。
この排除措置命令は,同社のブランドの中での価格競争を促進することを目的としていたということになりますので,今回の事後評価では,まず,実際に小売価格の値下げが行われているなど価格競争が活発になったかどうかを対象といたしましたけれども,加えて,小売業者は,普通は,価格だけではなくて,店頭での商品説明などの非価格面でも競争を行っておりますので,この排除措置命令が,販売促進活動など非価格面の競争に影響を与えるということも考えられます。さらに,同社と同社以外のブランドとの間の競争,いわゆるブランド間競争にも何らかの影響を与えている可能性もあります。
そこで,今回の事後評価では,事業者ヒアリングや販売価格のデータ,消費者ウェブアンケートの回答を使いまして,計量経済分析の手法も活用して,これらの点の分析を行いました。
お手元の資料2の下半分の「本事後評価の結果」に書かれておりますように,分析の結果,第1に,排除措置命令には,同社の商品のオンライン販売の分野での価格競争を活発にした効果があった,との結果が得られております。また,第2に,実店舗販売での非価格競争を活発にしたという波及的効果,そして,第3に,ブランド間の非価格競争の活発化にも寄与したと考えることができる結果も得られております。
公正取引委員会といたしましては,今後も,このような事後評価を継続して行いまして,法執行の分野にもEBPMを活用してと申しますか,法執行ということですと,エビデンス・ベースド・エンフォースメントということになるかもしれませんが,このEBPMを引き続き活用して,効果的な事件処理を行っていきたいと考えております。
私からは以上でございます。
質疑応答
(問) コールマンジャパンに対する事後評価についてなんですけども,この結果,当局としては良い結果が出たと思うんですけども,どういう理由でコールマンジャパンが選ばれて,今後,どのくらいの頻度でこういった事後評価をしていくのか。そのときに,どういう案件を何を基準に評価していくお考えなのかを教えてください。
(事務総長) EBPMとしていろんな取組が行われておりますが,このいわゆる事後評価というのは,今後の公正取引委員会にとっての政策運営にとっても,事件・執行にとっても非常に重要だということは絶えず指摘はされておりました。これまで,CPRCのディスカッションペーパーのような形で,企業結合については幾つか事後評価をしたことがございますが,今回,違反事件について事後評価をしたのは初めてということで,我々にとってもちょっとチャレンジングな取組をしたということでございます。
ほかの事件ももちろん可能性があったわけですが,一つは,措置を採ってから一定の年限が過ぎないと評価しても結果が出ませんので,そういう一定の期間が必要ということと,それから,もう一つ,やはりデータが集まらないことには定量的な効果測定ができないということ,その制約もございます中で,今回,この事件を取り上げてみたということです。
再販売価格の拘束に対する排除措置命令というのは,基本的にはいわゆるブランド内競争というものが阻害されているものを活発化しようというのが直接の目的なわけですけれども,この事後評価をした結果,それが波及的に,非価格競争にも,それから,ブランド間競争にも一定の影響があるということが分かりました。これは非常に大きな成果だと思っておりますし,また,短い資料ではなく長文の報告書で見ますと,フリーライダー問題についても検証しておりまして,いわゆるフリーライダー問題が発生しているような状況にはなかったという結果も出ております。少なくともこの商品は商品説明がある程度必要な,それが重要な商品だと思われますが,そういうものでもフリーライダー問題が発生している状況にはなかったという結論が出ておりまして,いろいろと新しい知見が我々に得られたと思います。
今後の事件選択とか,それから排除措置命令で求める措置の内容ですね,こうしたものにも今後活用していけるのではないかなと思っております。
今後もこういうことを,一定の時期になったら続けていきたいと思っているんですが,企業結合ですとか,実態調査でありますとか,違反事件の措置でありますとか,そういうものの中で今後もやっていきたいと思っておりますが,先ほど申しましたように,それを行ってから一定の時期が経っていないとなかなか検証しづらいということがあります。もう一つは,データをちゃんと入手できるかというのがあります。これらの点から適切な事案を選んで,適切な時期にまた実施して,場合によっては公表ということをしていきたいと考えております。
(問) じゃあ,公表をするかどうかはその進捗次第になる感じなんですか。
(事務総長) 何といいますか,結局やってみたけれども,データが集まらなくて十分な結果が出なかったとか,結論が必ずしもどうも合理的ではないとか,そうなると逆に対象になった当事者にとって御迷惑をかけてもいけませんので,そういうものを含めて対応を考えることになると思いますが,基本的には,今回,実施しましたように,なるべく取りまとめて公表するということが非常に価値のあることですので,その方向で進めたいとは考えております。
(問) あと,細かい点なんですけども,事後評価のところで,オンラインで価格競争が起こっていたのは,まあ,よかったなって感じですけども,実店舗のほうで,ブランド内での価格以外のところでの競争が活発化したということですけども,そうすると,実店舗では同じブランドではどこの店も同じような価格だったんですか。これはどう評価していますか。
(事務総長) 事後評価の報告書の中に書かれておりますが,実店舗のほうでは,御指摘のように,データ上,実店舗での価格競争は活発化したと言えるまでのデータは出ていないということで,一つ考えられるのは,そもそも実店舗の人はオンラインに対抗するために,商品説明をしっかりするとか,接客をきちんとするとか,そっちのほうで競争しているという面がありますので,実店舗の価格競争には実際表れていなかったということは言えるかもしれません。
(事務方) 補足しますと,価格以外にも競争する手段というのは多様なものがありまして,実店舗の場合,キャンプ用品の使い方,摩耗して穴が開いたりとかのリペアの方法とか,そういうのを説明を求めるニーズがあります。また,店舗を維持するコストがありますから,値下げできる程度には制約があります。そうすると,何が重要になるかというと,品質面なり,サービス面ということになります。実店舗で,そのような非価格面での競争が活発化するというのは,これは,私どもにとっては競争が促進されたという点で一つのウエルカムな評価ができると考えております。
(事務総長) 消費者アンケートのほうでも,オンラインのほうで何を期待しているかというと,価格の安さというのを期待していると結果が出てまして,実店舗のほうに行くお客さんのほうは,そうじゃない面をむしろ高く評価している,そういう違いがあるということも分かりました。
(問) ありがとうございます。最後に一つなんですけども,そうすると,今後,そのEBPMの,あるいはエンフォースメントについてでも,1年に何件くらい公表しますとか,そういう目標はないんですか。
(事務方) 今回のコールマンの事後評価には,かなり時間を要しました。分厚いほうの報告書を御覧いただくとお分かりになりますけれども,かなり多数の関係者に繰り返してヒアリングを行って,また,データも入手しています。これが1年に何回もできるような取組だとは考えておりませんので,少し長い目で見ていただいたほうがいいのかなと思います。
(事務総長) もう一つの広報施策のほうは,非常に我々にとって分かりやすい結果が出ていて,120分を超えちゃいけないとかですね,60分から90分がいいとか,それから,いわゆるクイズ形式でやるなら低年齢層のほうがいいとか,そういう非常に面白い結果が出てまして,今後の広報活動に我々非常に役に立つなと考えております。
(問) 2点お願いします。1点は,先ほどとちょっと重なる部分があると思うんですけど,改めて,今回,特にコールマンのほうで,実際に初めて事後評価してみて意外だった点とか,驚いた,予期していなかったような結果っていうのは,どういうところにあるか。特に,外部からの検証というよりは,内部で検証したところなので,何か組織として驚きがあったところっていうのはあるのかっていうのと,2点目は,先ほどおっしゃったように,今後も事件選択の処理とかに活用していく可能性があると仰いましたが,ここをもうちょっと詳しく,何か,どういう可能性があるのか,これがどう影響する可能性があるのかっていうのを,ちょっと教えてください。
(事務方) 当初の見込みでは,コールマンの価格の拘束がなくなったので,ほぼ全面的に価格というのは下がったり,ばらついたりというのが見えるかなと思っていました。でも,実はそうではなく,実店舗のほうでは非価格面での競争への影響がありました。これは,ヒアリングの結果もそうでしたし,データでもそうでした。ここまで二極化していくのかということは,意外な発見でした。
もう一つ,コールマン以外のブランドにも影響を与えていると考えられる点も挙げられます。コールマンに対する措置ですが,それ以外のブランドにも,消費者にとって,商品の品質が良くなったとか,そういうポジティブな影響を与えているという,そういう考察ができたというところは,当初,そこまで見込んではなかったことです。
今後の教訓というところですが,コールマンのキャンプ用品の事後評価という非常に特定の分野の事後評価なので,これが直ちに,当委員会の法執行に何か劇的な変化をもたらすというものではなくて,このような取組を積み重ねることによって,今後の事件の取上げ方とか,排除措置命令の影響をどのように考えるかというようなところにも積み重ねていって,我々の法執行というものを,より効果的な,より精度を高めていくというような役割というのが,この事後評価にはあるのかなというふうに考えているところです。
以上