[配布資料]
「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について(本文)(PDF)
「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について(別添)(PDF)
「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について(概要)(PDF)
「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について(処理状況のポイント)(PDF)
事務総長会見記録(令和4年6月1日(水曜)13時30分~於官房第1会議室)
「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について
本日、私からは、「令和3年度における独占禁止法の違反事件の処理状況」について御紹介いたします。
令和3年度独占禁止法違反事件の処理状況のポイントの1点目は、国民生活に密着した医療・年金分野における入札談合事案に厳正に対処したこと、2点目は、外国事業者が運営する国際的なデジタル・プラットフォームに係る案件をはじめとするIT・デジタル関連分野に積極的に審査を行い、競争上の問題の解消に取り組んだことであります。
続いて、お手元の概要資料に沿って御説明いたします。
1ページ目の左上の図を御覧ください。令和3年度においては、コロナ感染症拡大の影響で、審査活動が大きく制約されましたけれども、その中でも、入札談合に対して3件、不公正な取引方法に対して2件に法的措置を行いました。
2ページ目ですけれども、法的措置を採ったものは、具体的にはここにあります一覧のとおりであります。入札談合事件として、群馬県における機械警備業務における入札参加業者、日本年金機構が発注するデータプリントサービスの入札等の参加業者、そして、独立行政法人地域医療機能推進機構が発注する医薬品の入札参加業者による各入札談合事件について、それぞれ排除措置と課徴金の納付を命じました。
また、不公正な取引方法につきましては、Booking.com B.V.に対する件と、ウイルソン・スポーティング・グッズ・カンパニーに対する件について、いずれも確約計画を認定いたしました。
3ページ目でございますけれども、法的措置であります排除措置命令を行うことが審査事件の処理としては中心となりますけれども、公正取引委員会では、各事案の内容を踏まえて、迅速かつ効果的な処理を行うことにより、競争秩序の早期回復を図ることも重要であると考えています。
具体的には、先ほど御紹介いたしました2件の確約計画の認定のほか、資料に記載のとおり、アップル・インクに対する件や株式会社ユニクエストに対する件、楽天グループ株式会社に対する件では、審査の過程におきまして、これらの事業者から改善措置を講じる旨の申し出があり、その内容を検討いたしましたところ、独占禁止法違反の疑いを解消するものと認められたことから、審査を終了することとしまして、事案の概要も公表しております。
5ページ目でございますけれども、ここにありますように、IT・デジタル関連分野につきまして、イノベーションが阻害されないよう、問題解消のための効果的な措置を採ることができたものと考えております。例えば、アップルの件でのアウトリンクの許容という措置は、日本のアプリストアだけではなく、全世界のアプリストアを対象とするものであります。また、Booking.com B.V.の件では、ランキングアルゴリズムの問題自体は違反被疑行為の対象ではありませんでしたけれども、ランキングアルゴリズム等を利用して、同等性条件を遵守させる行為を行わないことが、当事者から自主的に計画に盛り込まれました。
また、7ページ目ですけれども、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売、その他不公正な取引方法に対しまして、事案の特性に応じて迅速かつ的確に対処しております。本年度におきましては、楽天グループによる特定事業者に対する優越的地位の濫用事件に取り組んだほか、優越タスクフォースは、新型コロナ感染症の影響により生じた不利益を取引業者にしわ寄せする行為などについて、注意を行いました。不当廉売につきましても、資料8ページ目にありますとおり、迅速に対応しているところであります。
公正取引委員会といたしましては、今後とも、市場における競争を制限して、消費者利益を侵害する価格カルテル・入札談合やコロナ感染症拡大や原油価格高騰など事業者を取り巻く厳しい環境において、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売、IT・デジタル等の成長分野において、イノベーションを阻害するような反競争的行為などに対して、厳正、的確に対処してまいります。
私からは以上でございます。
質疑応答
(問) 今回、コロナの感染拡大による制約が事件を審査する上で影響が大きく、処理件数が全てではないと思っているんですけれども、排除措置命令といった法的措置の件数は、公取の執行力を示す指標の一つにはなると思っておりまして、その件数が平成18年度以降、過去一番少なかった、その件数が減っていることについて、公取としては、それが経済にとってどういう影響があるのかとか、何か問題意識をお持ちなのか、教えてください。
(事務総長) 件数ということ自体についていいますと、一般的には、事件の件数というのは、一定の期間に区切って数えれば、それが動いている、変動するというのは異例なことではないと思っておりまして、そういう意味では、年度ごとに上下すること自体で個々に評価するということは、あまり必要は無いかなと思っているんですけれども、ただ、御指摘の昨年度の件数というのは、そもそも審査をしているのがその前の年からやっているということが多いわけであります。そうすると、昨年度、それからその前の年度というのは、御指摘のように、コロナ感染症の影響があって、社会全体が行動の制約下の中で、独占禁止法違反事件の審査活動にもそれなりの制約がありました。特に、立入検査等は、独占禁止法の場合ですと、多数の箇所にそれなりの人数で予告無しに行くというやり方をしますので、やはり行動制約の中では控えていましたので、それが結果的に昨年度の件数に表れているかと思っております。
ただ、処理した事件の内容としては、いろいろな多様性のある事件を終えたかなと思っておりまして、もちろん隠れているものがないとは申しませんけれども、少なくとも問題ある行為については、適切に対処できたかなと思っております。今年度、これからも引き続き、違反を見つければしっかり審査をして適切に措置を採るということを進めていきたいと考えております。
(問) 今後もコロナの感染の拡大が全く無くなる、拡大の可能性がゼロというわけではないかと思うんですけれども、今回、コロナでなかなか審査ができなかったというお話がありましたが、何か、審査の仕方について工夫とか検討されていることがありましたら、教えてください。
(事務総長) コロナ感染対策は審査局の方でもいろいろと工夫をしてやっているかと思います。ただ、今年度になってからは、皆さん御承知のように、だいぶ収まってきて、一般的な行動制約というのもだんだんと少なくなっていっておりますので、そういう意味では、以前のように、あまり制約なく審査活動をやれる状態になっていくんじゃないかなと、むしろ期待しております。
一方で、この期間に、オンラインによる利用ということが、社会全体でも、公正取引委員会でも普及しましたので、現場にいないといけないものというのが多くあるんですけれども、そうじゃないものについては、それを利用して、例えば、遠隔地の方とはオンラインを活用してより迅速にヒアリングをするということには、今後も、これまでの経験を生かしてやっていきたいと思っております。
(問) 質問が2つあります。1つは、この処理状況の報告についてで、確かに、おっしゃるように、いろいろな多様な事件に対処されたのかなという印象を持ちますし、日本においては、コロナでの報道があって、社会的に非常に受け入れられないというところもあったのかなと思いますが、コロナは世界の各地で影響を与えていて、何か、日本ほどそんなに大打撃を与えたところは他にあるのかなという印象があります。このことから何か学んだこと、将来に対しての教訓というのはあるんでしょうか。コロナは今のところ収まってきていますけれども、今後、行動が制限される事態がないとも限らず、今回は歴史的に低い水準だと思うのですが、何か将来に向けて検討されていること、あるいは、変えていきたいことや思いがありましたら教えてください。
(事務総長) 競争法を執行している他の国と比べて、日本が極端に何か執行実績が低迷しているかどうかということについて、ちょっと今、知識を持ち合わせていないので何とも言えないんですけれども、社会全体で行動制約がある中では、公正取引委員会もそれを前提に置かなければいけないというところがありましたので、それは従来のようなやり方ができなかったところはいろいろあると思います。ただ、その中で、審査の手法としても、先ほど申しましたようなオンラインを活用してのヒアリングであるとか、ヒアリングするにしても時間を区切って相手側の協力を得ながらするということもやってきていますので、これまでの2年間の経験というのは、今後も生かしていけるんじゃないかなと思っております。
ただ、一般的に、これから行動制約が無くなってくると思っておりますので、その中で、公正取引委員会としても制約無くいろんなことが、この2年間よりはできるようになるんじゃないかなと理解しております。
(事務方) 一般論で申し上げれば、例えば、事情聴取につきましても、それは本当に事情聴取で聞かなければいけないことなのか、報告命令等で確認すべきことなのか、これはコロナに関係なく、審査の効率化という意味でもありますが、問題意識を持って取り組んでいきたいと思っています。また、立入検査につきましても、特に昨今は、電子データ収集がウェイトを占めておりますが、収集に当たっては、かなり効率的に行っているところですので、今後も積極的に取り組んでいきたいと考えております。
(問) もう1点は別の件なんですけども、昨日、「経済分析報告書及び経済分析等に用いるデータ等の提出についての留意事項」というのが発表されました。経済分析チームを経済分析室に拡大・強化した中、今回、この留意事項を発表した意図や意義、また、どうしてこの時期に公表したのか教えてください。
(事務総長) 経済分析室というのは、この4月から設けられまして、今回のプレスリリースは、経済分析室にとって記念すべき第1号ということになるわけであります。
そういう意味では、経済分析室の活動が表に出てくるようになってくるきっかけだと思っておりまして、プレスリリースの中にも書かれておりますけれども、事業者側からも経済分析の報告書等が出されるような機会が増えてきておりますし、それに対して公正取引委員会からその分析し、反論するといったことが増えてきております。
そういう状況の中で、どういう場合に適切な内容であると評価されるのかということについての公正取引委員会の考え方を明らかにすることで、お互いに共通の認識ができれば、より適切な経済分析をお互いにすることができ、共通のベースの上で議論ができるようになりますし、そうなれば、より実態に則した判断も可能になりますし、その事件の背景とか企業結合審査の迅速化にも寄与するんじゃないかということで、今回明らかにしたものです。
海外では、複数の競争当局が、こうしたものを公表しておりまして、そうしたものも参考にしながら、経済分析室の方で、日本としてのベストプラクティスということで、今回のこの留意事項を公表しました。これをきっかけに、さらに経済分析の洗練化、有益化ということが進んでいくことを期待しております。
(問) 令和2年度の運用状況については、各社から質問としては、「確約手続が増えていて、排除措置が減っているけど、それでいいのか」という質問が出たと思います。確かに、確約手続につきましては、公取側も丁寧に説明するとかですね、いろいろと試行錯誤されていたと思うんですけれども、ただ一方で、いわゆる違反認定ができないという中で、立入検査で入ったものの審査の結果として出てきたときに確約手続では何か消化不良感が残るというかで、そういったところについては、我々メディア側もどういうふうな報道をするかというのは非常に苦心してきた期間であります。
一方で、確約手続によって迅速化できるというメリットがあったものの、今度は、昨年度はもう件数自体が減ってしまっていて、そうなると、確約手続が増えて排除措置が減っていて、なおかつコロナの影響もありますけど、件数自体も減っているという中で、やっぱり読者というか国民というかですね、公正取引委員会の活動、特に審査が動いているというものを目にする機会が、やはりこの2年間ぐっと減ったと思うんです。さらに、その立入検査に関しても、案件自体や対応の仕方にもよるのか分かりませんが、新規案件としてニュースの中心にならないこともままあるという中で、公取のプレゼンスが大きく下がってしまうんじゃないかという懸念があります。この点に対しての総長のお考えと、また、例えば、確約手続が増えて処理件数自体が減る中で、どうしたら公正取引委員会のプレゼンスを高められるのかといったところについてもお考えがあれば教えてください。
(事務総長) 半分ぐらい私の考え方になるかもしれませんけれども、先ほど申しましたように、事件の数、処理件数の数というのは、年度ごとによって変動するということは、これはもうあるわけでありまして、事件は発明でなく、発見でございますので、自分で何か作り出すというところではもちろんございませんから、見つけ出し、かつ、いろんな状況の中で審査が長引くことによって、一定の時期には減ったりするということはあるかと思います。
ただ、御指摘のとおり、やはり違反事件というのは、世の中にいろいろあるでしょうから、それを見つけ出して結果を出すことによって、その違反行為を排除できますし、また、再犯防止も含めた未然防止にも役に立つと思っています。
また、それを皆さんに報道してもらうことで、未然防止により効果があるということになろうかと思っておりますので、この2年間、いろいろ行動制約がある中だったということが、昨年度の数字にも表れていると思いますけれども、決して手を抜いているわけではなく、引き続き、現場では進行中の事件もございますので、それらをこれから仕上げて、次々と言いたいんですが、事件を次々と仕上げていきたいと考えております。
(問) そうすると、確かに、立入検査自体も、特に昨年の第5波が終わるまでは、感染状況の合間を縫うように行っているという状況だったと思うんですが、それについては、少なくともコロナの影響がまだ残ってはいますけれども、行動制限が徐々に解除されていく中で、徐々にコロナ前に戻っていくという決意表明と受け取ってもよろしいんでしょうか。
(事務総長) 別の機会では下請法の運用状況と絡めた御質問を頂いたかと思いますけれども、下請法でも、独占禁止法でも、いわゆる「注意」案件ですと、比較的制約が少なくやれたところもあるかと思いますが、やはり、独占禁止法では、途中で確約手続になって調査が終了する、打切りとなって審査が終了するということがあったとしても、最初の時点では、排除措置命令までいくことを目指して事件審査を始めており、審査にある程度の時間を掛けて、事情聴取なり報告命令をして証拠を集めるということをしていきますので、やはり、この2年間の状況の中では、それがかなり制約された時期があろうかと思います。ですので、世の中が元に戻ってくれば、この2年間とは違って、もう少し自由にいろいろとやれるようになるんじゃないかなと期待しております。
以上