[発言事項]
事務総長会見記録(平成28年3月9日(水曜)13時30分~於官房第1会議室)
海外の競争当局に対する技術支援について
本日,私からは,海外の競争当局に対します公正取引委員会の技術支援についてお話を申し上げたいと思います。
公正取引委員会では,新興国・発展途上国における競争法の導入・強化及び法執行能力の向上を目的とした技術支援を重要な施策であると考えておりまして,東アジア地域を中心に,様々な技術支援プログラムを積極的に提供してきているところであります。特に,2015年末に経済共同体を創設したASEANでは,全加盟国における競争法の施行,加盟国競争当局の能力強化を政策目標に掲げておりまして,公正取引委員会としても,その実現の支援に努めてきております。
主な技術支援プログラムとしましては,まず,JICAの協力の下に実施されます国別プロジェクトといたしまして,これまでに,中国,タイ,インドネシア,ベトナム,フィリピン,マレーシア及びモンゴルの各競争当局に対する技術支援を実施してきております。このうち,フィリピン,インドネシア,モンゴルにつきましては,現在も継続中でありまして,例えば,先月4日には,フィリピン規制当局の職員等15名に対しまして,我が国の独占禁止法と競争政策に関する知識習得の機会を提供し,フィリピンにおける競争法制の充実と法執行の強化に資することを目的として,東京において研修を実施いたしました。
このような技術支援につきましては,その都度,発表させていただいておりますけれども,今,申し上げた国別プロジェクトのほかに,発展途上国向けの集団招へい研修も実施してきております。この集団招へい研修は,1994年以降,ほぼ毎年実施してきておりまして,これまでに58か国から合計223名の職員の参加をいただいたところであります。
公正取引委員会のこのような研修を受けた競争当局の職員等は,様々な国の競争当局におきまして,幹部や管理職として活躍しているところでありまして,私どもの長年の技術支援の取組は着実にその成果を上げているものと認識しております。
さらに,安倍総理がアフリカに対する積極的支援の方針を明らかにしていることを踏まえまして,公正取引委員会としても,リソースの許す範囲内でアフリカの競争当局に焦点を当てた技術支援をスタートさせたところであります。昨年7月には,UNCTADとの共催で,アフリカ8か国の競争当局の審査官ら14名に対しまして,審査手法に関するワークショップをジュネーブにおいて実施いたしました。また,先月16日及び17日には,ケニア競争当局の協力の下,ケニア,ザンビア,ジンバブエ及びモーリシャスの競争当局の職員40名に対しまして,公共調達における入札談合の審査に関するトレーニングコースをナイロビにおいて実施したところであります。
公正取引委員会としては,今後とも発展途上国に対する研修等の支援に積極的に取り組んでいきたいと考えておりまして,こうした支援を通じて,それぞれの国における競争環境の整備が進むことを期待しているところであります。
質疑応答
(問) ASEANですけれども,全加盟国に独占禁止法というのは存在するのでしょうか。存在しない国というのもまだあるのでしょうか。
(事務総長) ASEANとしては,先ほど申し上げましたように,2015年末までに全ての国が競争法を持つということを目標としていたわけでございますが,ASEANの加盟国をみてみると,競争法はあるけれども,まだ執行されていない国でありますとか,競争法が今の段階でできていない国もあります。まだまだ区々であります。先ほど申し上げた2015年末というのはASEANの目標でありまして,それに向かって競争法の整備を図っていくということで意思統一をしたわけですが,結果としてみれば,現時点で,競争法はできたけれども施行されていない,そもそも競争法がまだ検討中だという国もあります。
(問) アフリカというのは,自動車部品カルテルで南アフリカが出てきたのをちょっと記憶しているぐらいですけれども,結構,競争当局はあるのでしょうか。
(事務総長) 御案内のとおり,130か国・地域以上が競争法を整備していると,この前のICNの総会の時点で情報があったと思いますけれども,アフリカも,南アフリカを筆頭といたしまして,競争法は盛んに施行しております。実際,南アフリカにおきましては,私が国際担当の審議官だったときに,各国競争当局のネットワークであるICNの総会をケープタウンで開催したこともありますし,ICNのいろいろな会議においても,南アフリカは非常に積極的に参加しております。
最近は,今,申し上げましたように,ケニアでありますとか,そのほかのアフリカの国も競争法の施行が大事であるということで,その整備に向かってそれぞれ取り組んでいると理解しております。
(問) TPPの関連法案についてお伺いしたいのですけれども,今回の独占禁止法改正で確約制度というものが導入されるということですけれども,この制度を導入する意義というのを改めてお伺いしたいのですが。
(事務総長) 直接の意義としては,TPP協定の競争章の条文,条項におきまして,競争法の違反の疑いに対しまして,私ども競争当局と事業者が合意によってこれを解決する権限を競争当局に与えるというのが,TPP協定の条文として盛り込まれたということですから,それをきちっと担保するために,独占禁止法を改正するというのは,一つ目の意義でございます。
それから,確約制度と我々略称しておりますけれども,このいわゆる確約制度につきましては,例えば,EUにおきまして,2004年に確約制度を取り入れて以降,10年を超える実績が積み上がってきております。私どもとしても,事業者と競争当局がいわば同じ方向を向いて競争上の懸念を早期に解決するという一つの手法として,関心を持ってEUの執行状況を見てきたところであります。その10年を超える実績をみると,EUにおいても確約制度は順調に使われていることも踏まえまして,こういう制度をこの機会に導入したいと考えたところであります。
(問) 確約制度の関連ですけれども,独占禁止法改正案も含むTPPの整備法案ですが,TPPが発効したら施行という形になっていたと記憶しているのですけれども,TPPが何らか,大統領選とか波乱があって発効されないと,確約制度もお蔵入りになってしまうというか,もう一度出し直すとか,そういう形になるのでしょうか。たらればの質問ですけれど。
(事務総長) 独占禁止法の改正も含めて,整備法案は,基本的にTPPが発効する時期と合わせて効力を持つわけでございますので,政府の一員としては,独占禁止法の改正が整備法案の一つに入っている私どもといたしましては,国会において,このTPP法案,TPP協定そのものもそうですけれども,これを審議いただいて,早期に成立させていただくよう努めるとともに,そのことを強く期待しているところであります。たらればの質問には答えられませんので,御容赦いただきたいと思います。
(問) 同じ確約の関係で,日本でいえば,早ければ,今期国会内にでも通りそうで,ただ,ほかの外国との兼ね合いもあって,始まるまでに時間があるのかなと思うのですけれども,その間に,いわゆるガイドラインであるとか,指針であるとか,そういった法律とは別の部分で,もう少し,どういった運用をしていくかということを公正取引委員会として示されるおつもりというのはあるのでしょうか。
(事務総長) 今,申し上げましたように,できるだけ早く整備法案が成立するということに努めることとしているわけでございますので,今のお話については,仮定のお話ということになるので,直接答えることは差し控えさせていただきたいと思いますが,独占禁止法が改正されない限り,確約制度による処理ができるガイドライン等を制定する法的な根拠はないわけで,一般論として早期の成立を目指すということ以外にはないと思います。
(問) 成立した後にはそういったものを検討する余地というのはまだあるということでしょうか。
(事務総長) これまでも申し上げましたように,いわゆる確約制度の独占禁止法上の改正文,改正条文というのは,具体的に書き込んだつもりではありますが,具体的にどういう違法行為の類型について,どういう場合に適用するかという,いわゆる実施方針等の細則,詳細はガイドライン等に委ねるというのが合理的,効率的だと思いますので,そこは,改正法案が成立したら,できるだけ速やかにそれを世の中に出していくということだと思います。
以上