[配布資料]
[発言事項]
事務総長会見記録(平成30年12月19日(水曜)13時30分~於官房第1会議室)
金型に係る取引の実態調査について
本日,私からは,まず,金型の取引に関する実態調査についてお話しいたします。
配布資料はございませんが,公正取引委員会は,中小企業庁と共同で,金型に係る取引の実態調査を実施することといたしました。調査の内容は,主に,金型代金の支払方法と金型の無償保管要請の実態です。
金型代金の支払方法につきましては,発注者が製品の製造を委託するに当たって,その製品を作るために受注者が金型を用いた場合に,その金型の代金を一括払いではなく24回などの分割で払う,といった慣行が存在していることが指摘されています。例えば,平成30年11月に官邸において開催されました「第6回下請等中小企業の取引条件改善に関するワーキンググループ」の資料におきましても,その点が指摘されています。
また,金型の無償保管要請につきましては,製品の量産終了後において,受注者側が製品の製造に使用した金型の保管コストを発注者側から一方的に押し付けられているのではないかという指摘がされています。先ほども述べました官邸の会議の資料におきましても,型の保管費用や保管期間について,取引先と協議・相談を行っていない企業が調査対象者の約半数であるという結果が示されています。金型の無償保管要請につきましては,下請法運用基準において,下請法に違反する「不当な経済上の利益の提供要請」として掲載しておりまして,当委員会としても注視している分野であります。
公正取引委員会では,こうした事情を踏まえまして,中小企業庁と共同で,金型に係る取引について,業界の取引慣行を把握するための調査を行うことといたしました。この調査は,金型に係る取引を行っている事業者に対して,発注者側・受注者側合わせて約3万社にアンケート票を送付して行うこととしています。
年末年始にかかる忙しい時期だとは思いますけれども,現下の情勢に鑑み,本件についてはスピード感を持って対処していかなければならないと考えておりますので,調査対象となりました企業におかれましても,積極的な御対応をお願いしたいと考えております。
平成30年の公正取引委員会の活動について
さて,本日は今年最後の定例会見でございますので,平成30年の公正取引委員会の活動について振り返ってみたいと思います。
まず,独占禁止法違反行為等への取組状況についてお話しいたします。
公正取引委員会は,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合に対する厳正な対処,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用行為等への取締りの強化を重点施策として,違反事件の処理などに当たっています。
平成30年におきましては,独占禁止法違反行為について,これまでに19件の排除措置命令を行うなどいたしました。
個々の事件の概要につきましては,配布した資料を御参照いただければと思いますが,特に挙げるとすれば,刑事告発があったということがあると思います。JR東海が発注する中央新幹線に係る建設工事の受注調整事件について,3月23日に検事総長に告発いたしました。本件の被告発会社は,いずれも我が国を代表する総合建設業者であり,対象工事の規模も大きく,かつ,財政投融資資金による貸付の対象とされているなど,高度に公共的な財・サービスであることなどから,国民生活に広範な影響を与える悪質重大事案であると考えたものでございました。
また,7月11日に公表しましたアップル・インクに対する件,そして,10月10日に公表しましたエアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及びAirbnb japan株式会社に対する件も挙げられると思います。どちらの事案も,IT・デジタル関連分野に対する取組として,社会的ニーズに的確に対応した事案の処理を行ったというふうに考えております。
次に,下請法の違反行為の是正について申し上げます。
平成30年におきましては,9件の勧告を行っており,指導と合わせて,11月末までに,親事業者291名から下請事業者8,949名に対し,総額約13億3880万円余の原状回復が行われています。平成30年は食品メーカーによる高額な減額事件といった社会的インパクトのある勧告を行いました。
また,公正取引委員会は,「中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」に参画しておりまして,事業者等のどのような行為が下請法・独占禁止法違反となるかについて具体的な理解を助けるため,働き方改革と関連する下請法等の違反のおそれがある事例を取りまとめた事例集を5月に作成・公表いたしました。
消費税転嫁対策の取組につきましては,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から,転嫁拒否行為等の未然防止,違反行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組を進めてまいりました。
違反行為に対しましては,本年はこれまで5件の勧告を行い,大規模小売事業者による転嫁拒否行為やポータルサイトの運営等を営む事業者による転嫁拒否行為などを取り上げ,社会的な注目を集めたと思っております。11月末までに中小企業庁と合わせまして692件の指導を行いました。また,転嫁拒否行為によって,特定供給事業者が被った不利益につきましては,特定供給事業者約13,000名に対しまして,総額約7億円の原状回復が行われております。
公正取引委員会としましては,独占禁止法等の違反行為に対して,引き続き厳正に対処してまいります。
次に,企業統合審査についてですが,平成30年における企業統合の届出件数は,11月30日時点で306件ございました。このうち,30日間の1次審査で終了したものが286件です。残りの案件のうち,2件につきまして,現在2次審査を継続中でございます。また,本年中に2次審査が終了しましたものは,8月に公表しました,ふくおかフィナンシャルグループによる十八銀行の株式取得に関する件1件でございました。
この点に関連しまして,地銀等の経営統合などに関する独占禁止法の適用の在り方について議論が行われました。
平成30年6月に閣議決定されました「未来投資戦略2018」などにおいて,地域における人口減少等による需要減少など,経済社会構造の変化に対応した競争政策の在り方の検討をすることとされました。これを踏まえ,11月6日に開催されました未来投資会議において,地銀等の経営統合などに対する独占禁止法の適用の在り方について議論が行われ,公正取引委員会としての考え方をお示ししております。
同会議においては,今後,地方銀行や乗合バス等が経営統合を検討する場合に,それを可能とする制度を作るのか,又は予測可能性をもって判断できるような透明なルールを整備することを検討することとされておりまして,同会議のもとに置かれている地方施策協議会において検討が行われるとされております。
続いて,独占禁止法制の動きについてお話しいたします。
TPP協定の締結に伴う独占禁止法への確約手続の導入につきましては,TPP11協定の発効日である12月30日に施行されることとなりました。公正取引委員会では,確約手続の施行に向けて所要の規則改正を行ったほか,法運用の透明性,事業者の予見可能性を確保する観点から,9月26日に「確約手続に関する対応方針」を策定するなどして,積極的な周知活動を行いました。
また,課徴金制度の見直しにつきましては,引き続き関係者の意見を聞きつつ,次期通常国会への法案提出も視野に入れた調整を行っております。
次に,競争環境の整備に関する取組について申し上げます。
本年2月,経済産業省電力・ガス取引監視等委員会の研究会において,電力市場に関する当委員会の最近の取組を紹介しつつ,電力卸売分野に関する競争政策上の考え方について意見表明を行いました。
携帯電話市場につきましては,国民の消費支出における移動系通信費の割合が増加傾向にあること,携帯電話市場の競争は依然として十分ではない状況にあると考えられることから,フォローアップを含めた調査を行い,6月に「携帯電話市場における競争政策上の課題について」を取りまとめ,公表いたしました。
その他実態調査としましては,1月に「大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査報告書」を公表しました。また,市場規模が急速に拡大していることを踏まえ,消費者向けeコマースに関する取引慣行全般について,幅広く調査を行っているところであります。
次に,デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備についてお話しいたします。
公正取引委員会は,経済産業省及び総務省と共同して,先ほど申しました「未来投資戦略2018」を受けて,多様な知見を持っていらっしゃる学識経験者等からなる「デジタル・プラットフォームを巡る取引環境整備に関する検討会」を設置するなど調査・検討を進め,巨大デジタル・プラットフォーマーが,社会経済的に不可欠な基盤を提供するなどの特性を有する一方,独占化・寡占化傾向にあるなどの特質を持っているという視点の下で,プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則を,昨日,策定いたしました。年明け以降は,デジタル・プラットフォーマーに対する実態調査の実施等,必要な対応を行うこととしております。
競争政策研究センターでは,使用者の人材獲得競争等に関する独占禁止法の適用関係を理論的に整理するための検討を行い,2月,「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表しました。12月からは,我が国を取り巻く社会経済環境の変化に対応するために業務提携が活用されていることを踏まえ,業務提携に係る独占禁止法上の考え方に関して分析・研究を行うため,「業務提携に関する検討会」を開催しております。
最後に,公正取引委員会の国際的な活動についてお話しいたします。
公正取引委員会は,経済のグローバル化が進む中,競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている状況を踏まえて,国際的な活動に力を入れてきています。
公正取引委員会の国際的な取組は,OECDなどの多国間の枠組みや二国間関係など多岐にわたりますが,まずは,競争法分野における世界最大の国際組織でありますICNの活動があります。ICNの各種活動を通じて,法執行の在り方などについてコンセンサスを作り上げていくことは,大変有意義なことだと考えております。今年の取組としましては,11月7日,8日の日程で,企業結合ワークショップを公正取引委員会の主催により東京で開催いたしました。このほかにも,ICNの活動に対しては積極的に関与しておりまして,10月16日から18日の日程でイスラエルで開催されたカルテルワークショップや,11月1日,2日の日程で南アフリカで開催された単独行為ワークショップにも青木委員を始め多くの職員が参加いたしました。
さらに,競争当局間の連携強化につきましても積極的に推進しており,9月に韓国との意見交換,12月にEUとの意見交換を行いました。また,8月には東アジア各国の競争当局のトップで構成される東アジア競争政策トップ会合を開催いたしました。
また,アジアを中心に新興国の競争当局との関係強化に注力しており,JICAの協力の下,ベトナム,モンゴルなど競争当局への技術支援のほか,日・ASEAN統合基金を活用し,訪日研修や現地での研修,ワークショップを行いました。
このように,公正取引委員会の活動は,平成30年におきましても多岐にわたっておりますが,また,ここで終わるわけではありませんので,来年も引き続き競争政策の積極的な展開を進めていくための諸活動に取り組んでまいりたいと思います。
質疑応答
(問) プラットフォーマーの件で,来年1月に調査というようなお話を先週もいただいたと思うんですけれども,1月のどのぐらいに始めて,あと,どのぐらいの期間なのか。昨日もありました基本原則に基づいて,政府が検討するタームをですね,6月とか夏を目指しているところもあるので,あまり長い時間やると,ちょっとそことの連動性という意味では難しくなるのかなというふうにも思うので,その辺りのお考えを教えてください。
(事務総長) どのような内容を調査するのか,その調査の制度設計については,まだ現在検討中のところでございますので,いつからということを明確に申し上げることはできませんけれども,最前から申し上げておりますように,1月には調査を開始したいというふうに思っております。
また,今後の取組との関係も考えれば,かなり広範で深い調査を行う必要があるのではないかと考えておりますので,調査を最終的に取りまとめていくには,それなりの時間がかかるのだろうと思っております。
ただ,御質問にありましたように,いろいろな節目節目はありますので,そうした事柄にはそれぞれ,また,そのときに可能な範囲で対応していく必要があるというふうに考えています。
(問) デジタルプラットフォームに関することなんですが,経済産業省,総務省と一緒にした検討会での議論を経て昨日発表された基本原則の中には,実態調査だけでなくて,割と多くのことが公正取引委員会に求められているのかなという印象があるんですが,まず,そのことについての感想を聞かせてください。
(事務総長) 基本原則に書かれていることは多岐にわたっておりまして,公正取引委員会,競争政策,あるいは独占禁止法に関わる部分もあれば,直接は関わりが薄いのかなという部分もあるかと思います。公正取引委員会としましても,こうした分野については従前から関心を持ってきた分野でもありますし,また,諸外国の動きなどについても情報収集などを行ってきておりましたので,そうしたことを助走としまして,今後の検討には大きく貢献していかなければならないというふうには思っています。
(問) そして,具体的に見えてきているのは,実態調査が一番明確かなと思うんですが,そのほか,優越的地位の濫用をどいうふうな形で適用していくのかとか,あとは,企業の結合審査でデータをどう見ていくのかと課題が出てきています。具体的には年明けからということになるかと思いますが,どういうふうな方向が考えられるでしょうか。
(事務総長) 現行法の考え方を整理し,また現在の運用をどういうふうに行っているのかというのをもう一度基本的に整理して,今御質問にあった優越的地位の濫用の適用の問題でありますとか,企業結合の審査の問題について,何か足りないところがあるのかどうか,そういった点から考えていく必要があると思っています。その先に,必要があれば,運用の改善なり制度的な取組等も出てくるかもしれませんけれども,そうした前提があるのかどうかというのをもう一度よく確認していくという作業がまず必要だと思います。
(問) プラットフォーマーの調査についてなんですけれども,予算について,2億円ぐらい計上されている,競争環境の整備ということでだと思うんですけれども,これについて,自民党の部会のほうからは2億円では足りないのではないか,もっとやれという声があったんですけれども,この2億円という数字はどのようにはじかれて,どのような水準だと公正取引委員会としては認識されているんでしょうか。
(事務総長) プラットフォーマーを含む競争環境の整備のために必要な予算として予算要求させていただいておりますので,私どもは,査定をいただいた範囲内でしかるべく調査ないしその業務というのは遂行できると考えております。
(問) 別件で,先ほどの説明の中にもありました,競争政策の在り方の関係で,地方施策協議会なんですけれども,本日この後開かれると思いますが議題の「地銀等の経営統合などに対する独占禁止法の適用の在り方」について,公正取引委員会の方から何か今日は発表なり説明なりをされる予定はあるんでしょうか。
(事務総長) 私どもの方からも,独占禁止法の考え方についての御説明をさせていただく予定になっております。
(問) 前回の未来投資会議の本体の方では地銀や乗合バス等の地方基盤企業への独占禁止法の適用判断について,関係省庁からの公式な意見表明制度の導入や審査プロセスへの反映について検討すべきという論点が示されたかと思うんですけれども,意見表明までならともかく,それを審査に反映となるとですね,公正取引委員会の独立性にも影響しかねないかなとも読めてしまうんですけれども,この辺りについてはどのようにお考えなんでしょうか。
(事務総長) 御指摘がありましたように,未来投資会議において説明された資料の中で,一つの論点としてそうしたことが挙げられたというのは承知しております。ただ,これまでも企業結合の審査に限らず,独占禁止法の運用に当たって,その利害関係者,それには関係省庁なども含みますけれども,そうした方々からの意見表明というのはなかったわけではありませんし,また,積極的にそうした対応を採られたケースもあったであろうと思います。それを受けて,どういうふうに判断するのかというのは私どもの責任だと思っておりますので,そうした意見表明が行われること自身が公正取引委員会の職権行使の独立性に対して何か支障が生じるということではないのではないかというふうに思います。
(問) 意見表明自体は確かにそうだと思うんですけれども,その表明された意見を審査に反映しても問題はないという御認識なんでしょうか。
(事務総長) それはもう内容次第だということだと思います。
(問) 先週13日に,EUとの意見交換をされると発表されましたけれど,どのような話題が出たのか,特に,デジタル・プラットフォーマーに関するような意見交換はあったのかというのが1つ目です。
(事務総長) 先般の会見の際にも申し上げたと思いますけれども,議題としましては,プラットフォーマーなどに関する最近の運用状況といいますか,そうしたものが取り上げられております。その中で,具体的にどのような話が出たかというのは,控えさせていただきたいと思います。
(問) もう一つ,先般,有識者検討会ですか,そこで発表された中で,規制のハーモナイズという表記があったと思います。競争政策がそれに適合するのかどうか分からないのですが,今後,プラットフォーマーに対する競争環境の整備をされていく上で,例えば欧州連合であったり,ほかの国との意見交換というのは来年以降もどのくらい強化されていくんでしょうか。
(事務総長) プラットフォーマーは国際的に事業展開をしているところが多いかと思います。同じ行為があったとして,それに対してどのように対応していくのかということについて,やはり国際的なコンセンサスがあった方がいいんだろうなとは思います。そういう意味では,先ほどの御質問の答えでもちょっと申しましたけれども,公正取引委員会では,海外当局がどのような問題に対してどのように対応しているのかという情報につきましては,日々,その収集に努めておりますし,その上で具体的な執行当局として必要な質問といいますか,情報収集は行っていきたいというふうに考えております。
ただ,例えば国際的な協議の場を設けるとか,そういうことが何か決まっているというわけではありません。
(問) 最初のお話の中で,課徴金制度の改正の話で,法案提出次期国会を「視野に入れて」みたいな,ずいぶん腰の引けた言い方な気もするんですけれども,目指すぐらいにはならないんでしょうか。
(事務総長) 最前から申し上げておりますけれども,次期通常国会は来年1月には開かれるんだろうと思いますが,それに対して法案提出していきたいという方針が変わっているわけではありません。ただ,そのために必要な作業というのはございますので,そうしたことは精力的に進めていく必要があると考えてます。
(問) 一番最初の,金型の調査なんですけれども,年末の忙しい時期にという言及があったんですが,もう既にそのクエスチョネア,アンケートも送られたり,始まってるわけですか。
(事務総長) 調査票を発送するのはこれからになります。月内にも発送したいと考えております。ただ,先ほども申しましたように,そうしますと年末年始というのが調査対象の方々にとっては,その回答の作成時期に当たってしまいますので,お忙しいとは思いますけれども,御協力をお願いしたいというふうに申し上げた次第です。
以上