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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2025年9月更新)

EU

重要原材料の調達、リサイクル、再利用における産業界の協力に関する競争法上の観点からの意見募集

2025年8月1日 欧州委員会 公表

原文

質問状

【概要】

背景   
   欧州委員会(以下「欧州委」という。)は「クリーン産業ディール」(注:欧州委が2025年2月26日に公表した産業競争力の強化と脱炭素化の両立を目指す成長戦略)において、重要原材料(注1)の調達、リサイクル、再利用における産業界の協力強化の必要性を評価するため、実態調査(fact-finding exercise)を実施することを明らかにしている。
 この取組は、欧州重要原材料法で定める目標に基づき、欧州内の重要原材料へのアクセス、リサイクル、再利用の促進に貢献するものであり、重要原材料の持続的かつ多様な供給を確保することの重要性を強調している。 
 この実態調査は、欧州委が推進する重要原材料の共同調達に関する取組を下支えするものであり、アルミニウム、ベリリウム、コバルト、銅、ガリウム、ゲルマニウム、グラファイト、リチウム、マンガン、ニッケル、プラチナ、レアアース元素、チタン及びタングステンの14種類の重要原材料に焦点を当てる。これらの原材料は、クリーンテクノロジーやグリーン転換、防衛を含むEU産業の競争力に不可欠な要素とされている。
(注1)欧州重要原材料法(Critical Raw Materials Act)に基づいて指定されるEU経済にとって重要な役割を果たし、サプライチェーンのリスクが極めて高い原材料のこと。 

意見募集(2025年4月1日から5月31日まで)
 欧州委は、市場参加者に対し、競合他社との協力の具体的事例や、EU競争法に基づく評価において欧州委のガイダンスが役立つ可能性のある事業分野を明らかにするよう求めた。
 その結果、44件の意見が提出された。回答者は企業(27社)、業界団体(12団体)、学術・研究機関(2機関)、コンサルティング会社、労働組合及び専門家団体から構成される。複数の意見は、業界が直面する課題の全体像の把握や、ガイダンスが必要となる具体的な分野の特定に役立った。 
 欧州委に対して提出された意見の概要は次のとおり。

1 重要原材料産業が直面する課題
(1)サプライチェーン全体の課題
 重要原材料のサプライチェーンは、採掘や一次加工(製錬(注2)を含む。)を行う上流、精錬(注3)や中間加工を行う中流、製品製造やリサイクル、二次市場(注4)を含む下流から構成される。
 重要原材料の供給者は主に欧州外に所在するため、地政学的緊張の高まりや価格変動によるサプライチェーンの突発的混乱リスクに直面している。業界関係者は、こうした調達やリサイクルに悪影響を与えるサプライチェーンの構造的な脆弱性に懸念を示している。
 サプライチェーン混乱のリスクにより、投資家は、精錬、加工、リサイクルの各段階において重要原材料への継続的なアクセスが必要とされる欧州の取組に向けた投資に慎重な姿勢をとる可能性がある。
(注2)鉱石を溶かし、金属を取り出す工程のこと。
(注3)製錬によって得られた金属から不純物を取り除き、純度を高める工程のこと。 
(注4)金属スクラップや使用済み製品などから回収した重要原材料を取引・調達する市場のこと。

(2)金属精錬業者の課題
 欧州の金属精錬業者は、原材料の大半を欧州外から輸入しており、鉱石や精鉱の購入時にほとんど価格決定力をもたない。採掘及び製錬の大半が欧州外で行われているため、調達先の多様化や供給依存度の低下が容易でなく、サプライチェーンの構造的な脆弱性に直面している。 
 供給源はごく少数の欧州外の事業者に偏っており、その多くを中国企業が占めている。そのため、欧州内には代替できる供給源がほとんど存在しない。また、原材料によっては、グレード、純度、組成等の技術的仕様が、調達可能な供給源を事実上限定している。
 このほか、二次市場では、欧州内で十分な産業スクラップを確保することが課題であり、銅やアルミニウムのスクラップが欧州外に流出することへの懸念が示されている。

(3)電池製造業者及びリサイクル業者の課題
 欧州の電池製造・リサイクル分野では、事業拡大に向けた投資確保に加え、リサイクル可能な原材料を欧州内で確保し続けることが困難である。サプライチェーンの下流では、国家補助金を受ける企業やダンピングを行う第三国企業との競争が激しく、精錬工程に関する技術やノウハウの格差が存在する。こうした格差を埋めるため、大規模な設備投資が必要である。
 重要原材料のリサイクルは、水平協力又は垂直協力によりメリットを得られる可能性がある。EU競争法がイノベーションを阻害しているといった指摘はないものの、一部の回答者は特定プロジェクトにおける法適用の明確化を求めている。

2 協力形態に関する意見
 (1)共同購入 
 重要原材料の共同購入について、条件付きでの支持や懸念の表明があり、賛否が分かれる結果となった。
 共同購入を支持した回答者は、欧州委に対し、共同購入が各原材料のサプライチェーンに適しているか、市場歪曲を招かないかの慎重な確認を求めた。このほか、購入者ごとにグレードや仕様が異なるため、需要の集約が困難であるという意見や、競争者間で商業上の機密情報が共有されない体制の確保が重要であるという意見もみられた。 
 一方、取引透明性が確保されているアルミニウム、コバルト、銅、ニッケルや、ベンチマーク価格が公表されているリチウムについては、共同購入に関する懸念が示された。特にアルミニウムについては、欧州内において既に生産体制が確立しており、共同購入を実施した場合、サプライチェーン上流の供給者に対して圧力を与え、結果として、市場に誤った需要シグナルを送るおそれがあることが指摘された。
 総じて、共同購入を実施する際は、各重要原材料のサプライチェーンへの影響を評価し、個別に適否を判断する必要がある。

 (2)共同オフテイク契約
 銅、グラファイト及びタングステンを扱う企業からは、安定的かつ長期的な調達に向けた課題が指摘された。対応策として、複数企業による共同オフテイク契約が提案された。共同オフテイク契約により、大量購入の約束、より良い条件交渉、重要原材料へのアクセス確保が可能となる。また、新規採掘プロジェクトへの資金調達リスクの軽減や、欧州外の供給者からの輸入支援にも効果が期待される。

 (3)サステナビリティを目的とする協力プロジェクト
 電池製造分野では、サステナビリティ目的の協力プロジェクトに関し、EU競争法の適用に関する法的な不確実性を減らすことを求める意見があった。また、バリューチェーンの各段階での企業間協力を強化することが、欧州の電池産業の競争力向上につながる可能性があると指摘された。
 一部のリサイクル事業者は、水平協力に関するガイダンスが、リサイクル施設の開発や技術革新、資源循環システムの構築に向けた垂直協力や垂直統合の促進に役立つと述べた。また、他のリサイクル事業者は、水平協力や垂直協力における効率性の評価について、より明確な説明を求め、既存のガイドラインの不十分な点を指摘した。 
 さらに、複数の事業者は、商業化前の共同実証研究、研究開発、パイロットプロジェクト、新技術の開発や実験等における協力に関して、水平的協力協定ガイドラインの適用に関する追加的なガイダンスを求めた。特に、環境上の利益を即時に定量化できない協力については、EU競争法の適用免除の基準が明確でないと指摘され、効率性の向上に関する証拠の示し方や、消費者に公平に利益を分配する方法についての明確化が求められた。加えて、脱炭素を目的とする研究開発や技術提携に関する更なるガイダンスの必要性も指摘された。

産業界向けアンケート調査(2025年8月1日から9月30日まで)
 意見募集では、共同調達、共同オフテイク契約、持続可能性又はリサイクルに関する共同契約等、重要原材料に関する様々な協力形態について意見が寄せられた。また、EU競争法の適用に関する更なるガイダンスの提供を求める意見も寄せられた。
 そうしたことから、欧州委は次の段階に進み、産業界への支援方策を検討するため、市場参加者を対象にアンケート調査を実施する。この調査により、リサイクルを含む協力形態についての理解を深め、協力プロジェクトの実現に資するガイダンス提供の必要性及び方法を特定する。 

質問状の概要
 従業員規模や本社所在地、主要原材料等に関する一般的な質問に加え、次のとおり協力協定の活用状況や競争法による影響の有無についての質問が設けられている。

・サプライチェーン強化に向けた、同一又は異なるバリューチェーン段階の企業との協力関係の有無や内容 
・共同オフテイク契約の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・サステナビリティやリサイクルに関する協力協定の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・重要原材料や関連製品の共同保管に関する協力協定の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・共同輸送に関する協力協定の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・共同研究開発に関する協力協定の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・鉱業分野(共同加工・精製等)における協力協定の利用状況、EU又は加盟国の競争法による影響の有無
・非公式ガイダンス(注5)を希望する具体的なプロジェクトの有無
(注5)企業がEU競争法の適用に関し、既存の法的枠組みでは明確な判断が得られない新規又は未解決の論点を含む問題について、正式な審査手続を経ずに、欧州委から早期に非拘束的な法的見解を受け取れる制度。

その他

チリ

チリ国家経済検察庁及びChileCompra、公共調達における入札談合を探知するツールを共同開発

2025年6月13日 チリ国家経済検察庁 公表

原文

【概要】

1 国家経済検察庁(以下「FNE」という。)及びChileCompra(訳注:公共調達機関)は、公共調達分野における入札結果に影響を与える可能性がある共謀行為を探知するために協力している。

2 両機関が2011年に締結した協力協定の一環として、 FNEの情報管理部門及びChileCompraの監視部門は、公共調達を監視し、自動的に違法行為を探知するツールを共同開発している。このツールの対象となるのは、Mercado Publico(訳注:公共調達を行うためのデジタルプラットフォーム)を通じて行われた全ての入札である。

3 この共同開発によって、テクノロジーツールや人工知能(AI)を活用し、多様な情報源から得られる膨大な情報が効率的に管理・処理されることになる。この共同開発の目的は、市場における自由競争の促進・保護、とりわけFNE内で反競争的行為の捜査を担う部門の業務を支援することにある。

4 FNE及びChileCompraが共同開発したツールは既に稼働しており、反競争的行為の兆候を探知することができる。今後、数か月間かけて、この技術開発が導き出す結果の精度及び信頼性の向上に取り組む。

5 FNEのJorge Grunberg経済検察官は、「2020年末に公表された市場調査報告書(注1)にも反映されているように、公共調達はFNEにとって非常に関心の高いテーマである。」と強調した。
 なお、同報告書で示されたいくつかの提言は、2023年に成立した公共調達制度を近代化する法律に反映されている。 
(注1)同報告書は、公共調達の課題として、①競争の欠如(単独入札者が20%以上を占め、入札参加者が少ない)、②入札基準の恣意性(特定企業に有利な内容)、③計画性の不足(緊急調達が多い)、④担当者の専門性不足(入札設計のアップデートが不十分)、⑤情報アクセスの困難(プラットフォームが使いにくく、参加者が限定的)、⑥監督・制度の脆弱性(監督機関の権限が限定的)、といった点を指摘している。
https://www.fne.gob.cl/fne-publica-informe-final-sobre-estudio-de-mercado-de-compras-publicas-y-envia-al-ministerio-de-hacienda-recomendaciones-para-mejorar-el-sistema/?utm_source=chatgpt.com

6 また、同検察官は、「この取組の主な目的は、FNEの情報管理部門が開発した探知ツールを改良し、チリ国内の公共調達分野における共謀行為への対策を強化することにある。」、「この取組によって、公共調達に関する入札をより効果的に監視し、金銭的利益を損なう可能性のある共謀行為を探知することが可能になる。」と述べた。

7 ChileCompraのVeronica Valleディレクターは、「ChileCompraは、Mercado Publicoの情報を分析するためにデータサイエンスを活用している。これにより、Mercado Publico上で取引を行う機関による潜在的な不正行為に対する監視の精度及び網羅性を向上させるとともに、リソースの効率的な活用と、FNEへの報告のタイミングの改善を実現している。」と述べた。


イタリア

イタリア競争当局、航空運賃の透明性向上をめぐり、欧州委員会との協議を開始

2025年7月3日 イタリア競争・市場保護委員会 公表
原文

【概要】

 1  イタリア競争・市場保護委員会(以下「AGCM」という。)は、2023年11月からシチリアとサルデーニャを発着地とする航空旅客輸送の価格アルゴリズムに関するセクター調査(注1)(以下「AGCMによるセクター調査」という。)を実施し、2024年11月に予備報告書(注2)を公表した。
(注1)EU加盟国の競争当局は、自国の法制度に基づき、自国内の特定の産業や市場に関して1競争環境の評価を行い、その結果に応じて規制の見直しや政策的提言を講じることができる。
(注2)https://en.agcm.it/en/detail?id=3b75acb7-16f8-4ae1-867f-42e76b4c9681& utm_source= chatgpt.com

2  AGCMによるセクター調査は、航空運賃における透明性向上の必要性が依然として重要な論点であることを示している。AGCMは、予備報告書の公表後に航空会社から寄せられたフィードバックを踏まえ、航空運賃の比較可能性を高め、関連市場における競争促進を目的とする、自国の権限の範囲内で実施可能な施策の採択に関し、欧州委員会との協議を開始した。EUレベルで実施される航空旅客輸送への厳格な規制は、航空運賃の透明性及び比較可能性にも影響している。

3 AGCMの予備報告書は、航空運賃の透明性や比較可能性について潜在的な懸念があることを指摘している。また、利害関係者からの同報告書へのフィードバックやその後の分析は、依然として、顧客が確認できる運賃本体価格(注3)や付帯サービス価格(注4)が比較しにくい点を指摘している。航空券の実際の価格が分かりにくく、比較も困難であることから、顧客にとって航空便の検索が複雑となり、購入時に航空運賃の内訳を正確に把握することが難しくなっている。
(注3)座席利用そのものに対して航空会社が設定する基本料金のこと。
(注4)座席指定、受託手荷物、機内食、優先搭乗等といった追加サービスにかかる料金のこと。

4  価格比較の重要性は、航空旅客の約半数が座席指定、機内持込手荷物、受託手荷物等の付帯サービスを購入している点にある。また、これらの付帯サービスは航空会社の収益の大半を占めている。こうしたことから、AGCMは、需要の流動性を促進し、その結果、航空会社間の価格競争を促進するため、付帯サービス料金を含む航空運賃の完全かつ効果的な比較を可能にする仕組みの導入が不可欠であると考えている。

 

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