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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2025年5月更新)

EU

欧州委、アップルに対しDMAの相互運用義務の遵守を明確化するための措置を決定

2025年3月19日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2025年3月19日、デジタル市場法(以下「DMA」という。)に基づき、アップルが相互運用義務を遵守するために講じるべき措置を明確化する2つの決定(specification decisions、以下「明確化決定」という(注1)。後記1(1)及び(2))を採択した旨を公表した。 
 アップルは、2023年9月5日及び2024年4月29日の欧州委の決定により、iOS及びiPadOSのそれぞれがDMAのコアプラットフォームサービスのゲートキーパーに指定された。DMAの下では、アップルのようなゲートキーパーは、開発者に対し、同社のオペレーティングシステム(以下「OS」という。)と、同社のOSを介して制御される又はアクセスされるハードウェア及びソフトウェアの機能との自由かつ効率的な相互運用性を提供しなければならない。
 欧州委は2024年9月19日、アップルがDMAの相互運用義務を遵守しているかどうかについて、2件の明確化手続(どのようにDMAの義務を実施すべきかを定めるための調査)を開始していた(注2)。 
(注1) DMAに基づく明確化決定は本件が初めて。
(注2) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_4761 

1 明確化決定の概要   
 相互運用性は、サードパーティ製品とアップルのエコシステムとの、より深い、よりシームレスな統合を可能にし、サードパーティがゲートキーパーに指定されたアップルのプラットフォーム上で、革新的な製品やサービスを創出するための新たな可能性を開く鍵となる。これを通じて、欧州の消費者は、より幅広い選択肢の中から、アップルのデバイスと互換性のある製品を選ぶことができるようになる。
 欧州委は、iOSとサードパーティの接続機器との相互運用を可能にするために必要な措置を詳細に定め、また、iPhoneやiPadデバイスとの将来的な相互運用に関するリクエストに対応するためにアップルが導入した手続を合理化することで、アップルによるDMAの遵守をサポートしている。
 以下の2つの措置は、アップルからの幅広い協力及びパブリックコメント(注3)で出されたサードパーティからの意見も踏まえて、決定された。
 (注3) 2024年12月18日、欧州委はアップルに予備的調査結果を通知し、サードパーティの意見を求める措置案を公表した。
https://digital-markets-act.ec.europa.eu/commission-seeks-feedback-measures-apple-should-take-ensure-interoperability-under-digital-markets-2024-12-19_en 
(1) 接続機器に関する明確化 
 これは、主にスマートウォッチ、ヘッドフォン、テレビなどの接続機器に使用される9つのiOS接続機能に関するものである。この措置により、デバイスメーカーやアプリ開発者は、iPhoneの機能にアクセスし、デバイスと連動する機能(スマートウォッチへの通知表示など)、高速データ転送(P2P Wi-Fi接続、近距離無線通信など)や簡単なデバイス設定(ペアリングなど)を改善することができる。 
 その結果、あらゆるブランドの接続機器がiPhone上でより良く機能するようになる。デバイスメーカーは、革新的な製品を市場に投入する新たな機会を得て、欧州の消費者のユーザー・エクスペリエンスを向上させることができる。これらの措置により、このイノベーションを、アップルのOSの完全性だけでなく、ユーザーのプライバシーとセキュリティを十分に配慮した形で実現できるようになる。
(2) 相互運用性に関するリクエストに対する効率的な手続に関する明確化 
 これは、iPhone及びiPadの機能との相互運用を必要とする開発者向けにアップルが考案した手続の透明性及び効率性を改善するものである。具体的な内容として、サードパーティにはまだ公開されていない機能に関する技術文書へのアクセスの改善や、タイムリーなコミュニケーション及びアップデート、相互運用性に関するリクエストの審査に関するより予見可能なスケジュールに関するものなどが含まれている。
 アップルにより、相互運用性に関するリクエストが迅速かつ公平に処理されることで、アプリ開発者は利益を受ける。当該決定により、アプリ開発者がiPhoneやiPadと相互運用可能な革新的なサービスやハードウェアを欧州の消費者に幅広い選択肢として提供する能力が加速するだろう。


2 今後のステップなど 
(1) 上記2つの明確化決定は法的拘束力を有し、アップルは、この決定の条件に従って、明確化措置を講じる必要がある。また、本件決定では、明確化措置の実施時期とアップルが取るべき手順が定められている。
 通常通り、アップルは、本件決定に不服があれば、独立した司法府の精査を求めることができる。
(2)  明確化決定は、DMAによってゲートキーパーに課された義務の遵守・実施方法を明確にするものであり、ゲートキーパーがDMAを遵守しているかどうかを評価するものではない。明確化決定と遵守義務違反調査は、欧州委が自由に使える2つの異なる手段であり、その目的も異なる。遵守義務違反のケースとは異なり、明確化決定は、DMA違反の制裁ではなく、どのようにDMA上の義務を果たすべきかを定めるものである。そのため、明確化決定は制裁金の賦課を規定していない。

欧州委、廃車リサイクルに関するカルテルについて制裁金を賦課

2025年4月1日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

 1 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2025年4月1日、廃車リサイクルに関するカルテルに関与したとして、日本の自動車メーカーを含む15社及び欧州自動車工業会(以下「ACEA」という。)に対して、総額約4億5800万ユーロ(約740億円)の制裁金を賦課した旨を公表した。メルセデス・ベンツは、リニエンシープログラムに基づき欧州委にカルテルを自主申告したため、制裁金を課されていない。対象となった全ての事業者・事業者団体がカルテルへの関与を認め、当局との和解に応じている。 
 本件について、欧州委は、英国の競争・市場庁(以下「CMA」という。)と連携して、審査を行ってきた。そして、CMAも本日同様の行為について英国競争法に違反するとして、決定を採択している (注1)。
(注1) 欧州委と連携して同様の審査を行ってきたCMAは、欧州委と同日(2025年3月21日)、自動車メーカー10社(BMW、フォード、ジャガー・ランドローバー、プジョー・シトロエン、三菱自動車、日産、ルノー、トヨタ、ボクスホール、フォルクスワーゲン)及び事業者団体2者(ACEA及び英国自動車工業会)に対して、総額約7800万ポンド(約150億円)の制裁金を課した旨公表した。対象となった全ての事業者・事業者団体がカルテルへの関与を認め、当局との和解に応じている。
https://www.gov.uk/government/news/car-industry-settles-competition-law-case


2 EUの環境目標
 「廃車(End-of-Life Vehicle(ELV))」とは、経年劣化、摩耗、損傷などにより使用できなくなった自動車を指す。こうした廃車は解体・処理し、リサイクル・回収・処分することとされている。
 廃車リサイクルの目標は、廃棄物を最小限に抑え、金属、プラスチック、ガラスなどの貴重な材料を回収することにある。EUの脱炭素化とリサイクルの追求をさらに促進するため、欧州委は本日、バンを含む新車の2025年から2027年にかけてのCO2排出量目標をメーカーが遵守できるようにするための柔軟性のある措置を提案している (注2)。 
 また、欧州委は、EUの結束政策(Cohesion Policy)の中期見直しの一環として、充電インフラの導入促進のための資金提供も提案した。さらに、欧州委は、EU競争法に基づき、廃車リサイクル分野における業界の協力強化を支援するため、欧州企業が特定の重要原材料をどのように調達し、リサイクルしているかについての実態調査を開始した (注3)。
(注2) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_854 
(注3) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_911

3 違反行為の概要
(1) 欧州委の審査の結果、15年以上にわたり、大手自動車メーカー16社(制裁金対象から外れたメルセデス・ベンツを含む。)及びACEAは、反競争的な協定を結び、廃車リサイクルに関する協調行為を行っていたと認定された。具体的には、以下の2つのカルテルを認定。
 ① 自動車解体業者に廃車リサイクルのためのコストを支払わないことを合意していた。具体的には、廃車リサイクルは十分に利益が上がる事業であるとして、自動車解体業者に当該処理費用を支払わないことを合意していた(いわゆる「Zero-Treatment-Cost」戦略)。また、各社は自動車解体業者との個別の契約に関する商業上機密性の高い情報を共有し、自動車解体業者に対する対応を調整していた(いわゆる買い手カルテル)。
 ② 廃車のリサイクル、リカバリー、リユースの程度や、リサイクル素材が新車にどの程度使用されているかについて宣伝しないことを合意していた。その目的は、消費者が自動車を選ぶ際にリサイクル情報を考慮することを防ぐことであり、それによって企業が法規制以上のことを行うというプレッシャーを軽減することにあった。

(2) 廃車に関する欧州委の指令(2000/53/EC)の下では、最後の廃車所有者は解体業者による廃車処分を無料でできなければならず、必要な場合は自動車メーカーが同費用を負担する義務がある。さらに、自動車メーカーは、新車のリサイクル性能について消費者に情報を提供する必要がある。

(3) 審査の結果、ACEAがカルテルの調整役を務め、カルテルに関与する自動車メーカー間の数多くの会議や連絡を仕切っていたことが明らかになった。 

(4) 欧州委の審査により、欧州経済領域(EEA)において、2002年5月29日から2017年9月4日までの15年以上にわたって単一かつ継続的な違反行為が行われていたことが明らかになった。

4 制裁金
(1) 制裁金は、欧州委の2006年の制裁金に関するガイドラインに基づいて決定された。制裁金の額を決定するにあたり、違反の対象となった自動車の台数、違反の性質、地理的範囲、期間など、様々な要素を考慮した。例えば、ホンダ、マツダ、三菱自及びスズキについては、違反への関与が軽微であったことを考慮して制裁金を決定し、ルノーについては、新車におけるリサイクル素材の使用を宣伝しないという合意の適用除外を明確に求めていたという証拠があったため、制裁金の減額を認めている。

(2) リニエンシープログラムに基づき欧州委に協力した企業は4社あり、メルセデス・ベンツはカルテルを申告したことにより全額免除となり、約3500万ユーロの制裁金を免れた。また、ステランティス(オペルを含む)、三菱自及びフォードは欧州委の審査への協力により制裁金の減額対象となった。減額された額は、欧州委への協力のタイミングとカルテルの存在を証明するために提供された根拠によって決定されるが、3社とも、リニエンシー告示で想定されている、複数の企業がリニエンシーを申請した場合に適用可能な最大限の減額が適用された。

(3) 全ての当事者がカルテルへの関与と責任を認めたため、欧州委は、2008年の和解に関する通達に基づき、全当事者に対し制裁金の10%の減額を適用した。 
 ACEAへの制裁金は、その調整役としての役割、ACEAの全ての加盟自動車メーカーが個別に制裁金を課された事実を考慮して決定された。
 各当事者に課された制裁金の額、違反期間は次のとおりである。

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その他

英国

マイクロソフトとOpenAIの提携に関する決定

2025年3月5日 英国競争・市場庁 公表

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、マイクロソフトとOpenAIの提携について、2023年12月8日から2024年1月3日までの間に意見募集を行った後、初期審査(Phase 1)を実施するか否かについて情報収集及び検討中というステータスが長く続いていたところ、2025年3月4日に初期審査を開始した旨と同年3月5日に同審査を終了し詳細審査(Phase2)へと進まないことを決定した旨を公表した。決定文の概要は以下のとおり(下記文章中の「★」は、商業上の機密性を理由に当事会社の要請により削除された数値又はテキストを示す。)。 

【概要】 
1 Microsoft Corporation(以下「マイクロソフト」という。)は、非営利法人であるOpenAI, Inc.(以下「OpenAI Nonprofit」という。)及びその営利目的の子会社であるOpenAI OpCo LLC(以下「OpenAI」という。)との間で提携を結び、その結果、マイクロソフトはOpenAIに関する一定の権利を取得した(以下「本提携」という。)。マイクロソフトとOpenAIを併せて「当事会社」と総称する。本提携の条件は、マイクロソフトによる OpenAI への投資が増加し、当事会社間の協力関係の範囲が拡大するにつれて変化してきた。マイクロソフトとOpenAIの関係は複雑であり、CMAの審査の過程においても引き続き進展してきた。本決定は、当該関係の最近の進展を考慮に入れたものである。


2 以下で述べる利用可能な証拠に基づき、CMAは、本提携が現時点の形態においては、競争法上の企業結合審査対象となる状況(relevant merger situation)を生じさせるとも、その可能性があるとも認められないと考えている。特に、マイクロソフトによるOpenAIに対する影響力が実質的な影響力(material influence)から事実上の支配(de facto control)へと変化したとは認められない。したがって、本提携は2002年企業法(以下「法」という。)第22条に基づく付託の対象とはならない。

【当事会社及びその事業内容】 
3 マイクロソフトはグローバルなテクノロジー企業である。マイクロソフトがAzureを通じて提供するクラウドコンピュートサービスは、基盤モデル(foundation models、以下「FM」という。)の訓練に使用されるほか、下流市場の顧客がFMにアクセスするためのプラットフォームとしても利用されている。加えて、マイクロソフトは、自社のFMの開発にも積極的に取り組んでいる。また、マイクロソフトは、Bing、Microsoft 365及びWindowsに統合されたCopilotチャットボットを含む、AI機能を統合した幅広いソフトウェアを提供している。

4 OpenAI Nonprofitは、AIの研究及び展開を行う非営利企業であり、その目的として「汎用人工知能が全人類に利益をもたらすことを保証する」と掲げている。2019年、OpenAI Nonprofitは、利益上限型企業であるOpenAIを設立した。OpenAIは、ChatGPTを含むFMベースのサービスに加え、複数の主要なFMを開発及び提供している。

【当事会社間の提携】
5 マイクロソフト及びOpenAIは、2019年に本提携を締結した。本提携は、数年にわたる数十億ドル規模の投資及びAIスーパーコンピューティング及び研究分野での協力に関する合意を含む。マイクロソフトがOpenAIへの投資を拡大し、当事会社間の協力の範囲が拡大するにつれ、本提携の条件は進化してきた。現在の本提携の主な特徴は以下のとおりである。
 (a) マイクロソフトはOpenAIの最大の投資家であり、2019年7月に10億ドル、2021年3月に[★]億ドル、2023年1月に100億ドル、さらに2024年10月に相当額([★])を投資し、合計130億ドル以上を投資している。
 (b) マイクロソフトのOpenAIにおける正式なガバナンス権は、一般的な金融投資家保護に限定されており、マイクロソフトはOpenAIの取締役会に取締役を指名する権利を有していない。OpenAIの日常的な経営はOpenAI Nonprofitによって管理されている。また、マイクロソフトはOpenAI Nonprofitに関しても、ガバナンス権や取締役指名権を有していない。ただし、マイクロソフトは[★]の権利を享受している。
 (c) マイクロソフトは、これまで、研究、製品、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)サービスなどの全てのOpenAIのワークロードに関して、計算インフラストラクチャの独占供給者となってきたが、2025年1月にマイクロソフトは、当事会社間でマイクロソフトの独占権の要素を再交渉し、新たな計算能力についてはマイクロソフトが優先購入権を有するモデルへ移行すること(ただし、OpenAIのAPIワークロードについては引き続きマイクロソフトを独占供給者とすること)を発表した。また、マイクロソフトは、OpenAIが主に研究及びモデル訓練目的とする追加の計算能力を自ら構築することを認め、これにより、OpenAIは「スターゲイトプロジェクト」を推進することが可能となった。同プロジェクトは、SoftBank、Oracle、MGXとの合弁事業であり、米国におけるOpenAIのAIインフラストラクチャを開発するための初期投資額は1000億ドルである。
 (d) マイクロソフトは、OpenAIの知的財産(以下「IP」という。)に対する独占的ライセンスを享受しているが、汎用人工知能に関連するものを含む特定のIPは除外されている。両当事会社は、一定の制約の下で、それぞれ独立してOpenAIのIPを商業化することができる[★]。 また、両当事会社はOpenAIのIPの商業利用に伴う相互の収益分配条項の利益を享受する。
 (e) 両当事会社は、OpenAI及びマイクロソフトの意思決定権者間の定期的な連絡、並びにAIスーパーコンピューティング技術の共同構築に関する協力協定を締結してきた。

【CMAが本提携を審査した理由】
6 CMAは、企業におけるさまざまなレベルの支配権の取得について審査することができる。すなわち、重要な影響力の取得(すなわち、当該企業の方針に実質的に影響を及ぼす能力)、事実上の支配権の取得(すなわち、当該企業の方針を支配する能力)、又は当該企業に対する完全な法的支配権の取得である。また、CMAは、取得者がより低い支配レベルからより高い支配レベルへ移行する取引についても審査することができる。
 
7 CMAは、対象企業の英国における売上高が適用される閾値を超える場合、又は両当事会社の製品又はサービスの供給シェアの合計が25%を超える場合に、支配権の取得を審査する管轄権を有する。 

8 CMAは、マイクロソフトが2019年にOpenAIに対する実質的な影響力を獲得したと認識している。マイクロソフトは、CMAの審査の過程で、2019年以降、OpenAIの方針に対して実質的に影響を与える能力を有していることを認めた。 

9 本件審査の焦点は、マイクロソフトがOpenAIに対する支配を実質的な影響力から事実上の支配へと強めたか否かにあった。CMAは、2023年11月17日にOpenAI Nonprofitの当時の理事会によるサム・アルトマン氏のCEO解任及び同年11月21日の再任を受け、2023年12月8日に審査を開始した。マイクロソフトがサム・アルトマン氏の再任において重要な役割を果たした可能性があることを考慮し、CMAは、審査により、マイクロソフトがOpenAIの商業方針に対する支配を強めたことが判明する合理的な可能性があると考えた。さらに、CMAは、審査により、支配権の変化が競争の実質的な制限をもたらした、又はもたらすおそれがある合理的な可能性があると判断した。

10 FMsは近年急速に進化し、経済の多くの分野に影響を及ぼし、生産性及び成長を促進し、既存市場におけるイノベーションを推進し、全く新しい製品及びサービスの創出を可能にする変革的な技術として登場している。クラウドプロバイダーとFM開発者の間で広範に提携関係が生まれていることを含め、FM市場の急速な進化は、競争にとって機会とリスクの双方をもたらしている。提携関係は、関係当事者にとって大きな利益をもたらし、イノベーション及び効率性の向上につながる可能性がある。しかし、既存企業が競争上の脅威を抑える目的で提携関係を利用する場合、競争に対するリスクとなる可能性もある。
 これらのリスクを踏まえ、CMAは、マイクロソフトによるOpenAIに対する支配の拡大の可能性が競争の実質的な制限を生じさせるか否か、及びそれによりCMAの「AI基盤モデルに関する報告書」
 (注1)で示された原則、すなわちFMの責任ある開発及び利用の中核に消費者保護及び健全な競争を確保することを目的とする原則を損なう可能性があるかを判断することを目的としていた。
 (注1) https://www.gov.uk/cma-cases/ai-foundation-models-initial-review

11 この文脈において、CMAは、マイクロソフトがFMへのアクセスが重要となる可能性のある市場において既に強い市場地位を有する状況で、OpenAIの主要なモデルへのライバル企業のアクセスを制限することが可能となった場合、競争上の懸念が生じる可能性がある点を懸念していた。
 これには、クラウドコンピュートサービスの供給及び生産性ソフトウェアの供給といった下流市場が含まれる。
 また、CMAは、本提携が、OpenAIがAI向け高性能計算(accelerated compute)の供給に関する新興市場で重要な顧客となる可能性を踏まえ、当該新興市場における競争に影響を与える可能性がある点についても懸念していた。
 さらに、当事会社間で事業が重複する市場、すなわちFMの開発、FMの流通及びチャットボット等のFMベースのサービスの供給においても、競争に影響を与える可能性がある。

【本提携が、競争法上の企業結合審査対象となる状況に該当しないと判断した理由】
12 CMAによる、マイクロソフトのOpenAIに対する支配の程度に変化があったかどうかに関する審査は複雑であった。AIセクターは依然として急速に進化しており、審査の過程で本提携の重要な側面も変化してきた。さらに、重要な影響力を生じさせる要因と事実上の支配をもたらす要因の間には明確な線引きが存在しない。このためCMAは、単なる契約上の条項にとどまらず、(その関係が変化している時点での)当事会社間の関係における商業的実態を慎重に検討する必要があった。この過程でCMAは、マイクロソフト及びOpenAIからの提出資料や情報提供要請への回答を含む幅広い証拠を検討し、OpenAIのガバナンスに関する2023年11月の進展にとどまらず、本提携が実際にどのように機能してきたかについての内部文書を精査した。

13 全体として、利用可能なすべての証拠を考慮し、特にOpenAIの計算資源に関しマイクロソフトへの依存度を低減させる最近の本提携の進展を考慮し、CMAはマイクロソフトが現在OpenAIの商業方針を支配しているとまでは言えず、当該方針に対して高いレベルの重要な影響力を行使していると判断する。言い換えれば、支配の変化は生じておらず、企業結合審査対象となる状況が発生しているとは認められない。この結論に至るにあたり、CMAは影響力及び支配の潜在的な主要要因として以下の三点を検討した。
 (i) マイクロソフトによるOpenAIのコーポレート・ガバナンスへの投資及び関与
 (ii) マイクロソフトによる計算資源の供給
 (iii) マイクロソフトの知的財産権及び商業化権 

【CMAの決定】
14 上記から、CMAは、企業結合審査対象となる状況は生じておらず、現時点の形態において本提携を審査する管轄権を有さないと結論付けた。

15 これを踏まえ、CMAは、企業結合審査対象となる状況を成立させる他の要件が満たされているかどうかについて結論を出す必要がなかった。また、本提携が英国において競争の実質的な制限をもたらしたか、又はもたらす可能性があるかについても結論を出す必要がなかった。
 なお、本提携が企業結合審査の対象となる状況を生じさせていないとの認定は、その運営により競争上の懸念が生じないことを意味するものではない。 

 【結論】
16 本提携は法第22条に基づく付託の対象とはならない。

CMA、フリーランス報酬に関する情報共有でスポーツ放送・制作会社に約400万ポンドの制裁金を賦課

2025年3月21日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】

1   英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、英国最大手のスポーツ放送・制作会社であるSky、BT、IMG、ITV及びBBCの5社が、カメラオペレーターや音響技術者等のフリーランス労働者の報酬に関する機微な情報を共有していた疑いについて審査を行ってきたところ、同5社は競争法違反を認め、そのうちBT、IMG、ITV及びBBCの4社が、総額424万356ポンド(約8億円)の制裁金の支払に合意した。 


2 上記4社は、法令違反を認めて和解に応じたことが考慮されて、制裁金は減額された。BT、IMG及びITVの3社については、審査の存在を認識した後、関与を自発的に申告し、CMAのリニエンシー制度に基づいて審査に協力したため、制裁金がさらに軽減された(各社の減額率及び制裁金額は、後記5。)。Skyは、審査開始前に違反行為への関与をCMAに自ら通報したため、制裁金の支払を全額免除された。

3 審査対象となった5社は、主要なサッカーの試合やラグビー大会等のスポーツコンテンツの制作及び放送に際し、フリーランスを頻繁に起用していた。CMAは、企業間で日当や昇給額等の報酬に関する競争上機微な情報を違法に共有した事例が15件あったと認定した。大半の事例において、企業間でフリーランスへの支払額を調整することが明示的な目的であった。例えば、ある企業が他社に対して「入札合戦をするつもりはない」、「足並みを揃え、基準となる料金を設定したい」と述べた事例がある。また別の事例では、「統一戦線を張りたい」と発言していた。
 
 4 CMAのジュリエット・エンサー競争執行担当エグゼクティブ・ディレクターは、次のように述べた。
 「毎日、何百万人もの人々がテレビでスポーツを視聴しており、その実現のために制作チームが舞台裏で働いている。彼らが適正な報酬を受け取るのは当然である。労働市場は経済全体の成長にとって重要である。適切な採用及び雇用の慣行は、人々が適切な報酬を得られる職に就くことを可能にし、企業にとっても必要な人材を見つけて事業を拡大しやすくする。
 企業は互いに独立して報酬水準を設定し、報酬が競争的であるようにしなければならない。そうしないと、労働者が不利益を被る可能性がある。雇用者は、採用担当者が法令を理解し、今後同様の事態が起きないように法令遵守の徹底をしなければならない。」  

5 カルテルに関与した企業は、カルテルに関する情報を提供し、CMAに全面的に協力した場合、制裁金の全額免除又は減額を受けることができる。これは、通常は密かに行われる違法行為をCMAが発見し、より迅速かつ確実に審査を実施するために役立つ。本件におけるCMAの 各社に対する認定内容は、以下のとおりである。
(1) Sky(2014年3月から2021年1月の間に10件の違反) : 制裁金なし(審査開始前に最初にカルテルへの関与を報告したため)
(2) BT(2014年8月から2021年9月の間に6件の違反) : 173万8453ポンド(15%のリニエンシー制度に係る減額及び20%の和解減額を含む)
(3) IMG(2016年4月から2021年10月までの間に6件の違反) : 173万7820ポンド(40%のリニエンシー制度に係る減額及び20%の和解減額を含む)
(4) ITV(2014年3月から2018年5月までの間に5件の違反) : 33万9918ポンド(42.5%のリニエンシー制度に係る減額及び20%の和解減額を含む)
(5) BBC(2016年7月から2021年10月までの間に3件の違反) : 42万4165ポンド(20%の和解減額を含む) 

6 CMAは、スポーツ放送・制作に関する審査における15件の違反行為全てについて、英国における競争の阻害、制限又は歪曲を「目的」としていることが違反と認定している。CMAは、当該行為が競争を実際に阻害、制限、又は歪曲する効果があったかどうかについては判断を下していない。
 CMAの審査の対象となっている当事者は、競争法違反を認め、制裁金の支払に同意し、審査の残りの手続を簡素化された行政手続で進めることに同意する場合、和解合意を締結することができる。

7 スポーツ以外のテレビ番組の制作及び放送
 CMAはスポーツ以外のテレビ番組の制作及び放送に関するフリーランスの報酬等に係る競争上機微な情報の共有についても別件で審査をしていたが、本日(2025年3月21日)、本件については、もはやCMAにとって行政上の優先事項とはならないとの理由により審査を終了すると発表した。ただし、CMAが将来的に審査を開始することを妨げるものではない。CMAは、競争法違反があったかどうかについて判断を下しておらず、違反の推定をすべきではない。
 審査対象企業は、BBC、Hartswood Films、Hat Trick Productions、ITV、Red Planet Pictures、Sister Pictures及びTiger Aspect Productionsであった。
 CMAは、最もタイムリーかつ効果的な成果をもたらすようにリソースを配分するために、常時、事件構成を見直している。本件の終了の判断にあたっては、各社の行為(競争法遵守措置の強化など)、業界慣行の変化、スポーツ放送・制作分野に関する審査からの抑止効果など、様々な要素を考慮した。  CMAは、スポーツ以外のテレビ番組制作及び放送に関する案件については、審査対象企業に対して懸念点を明示し、企業側が適切な法令遵守のための対応を取るよう促すことが、よりバランスの取れた解決策であると考えている。また、CMAは今後数か月以内に、労働市場における反競争的行為を回避する方法に関する雇用主向けの最新のガイダンスを公表する予定である。CMAは、企業のコンプライアンスを強化し、従業員の給与、労働条件、従業員の雇用に関して違法な談合を回避する法的義務を雇用主に喚起するためにガイダンス等の資料を発表してい る (注1)。今後これらを更新する予定である。
 (注1) https://www.gov.uk/government/news/cma-reminds-employers-to-avoid-anti-competitive-practices

8 CMAと英国情報通信庁(Ofcom)は、通信関連分野に関する競争法の執行を共管している。協議の結果、本2件はCMAが担当することが合意された。



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