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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年4月更新)

米国

FTC、生成AI企業関連の投資・提携に対する情報提供命令を発出

2024年1月25日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】
 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、2024年1月25日、Alphabet、Amazon、Anthropic PBC、Microsoft及びOpen AIの5社に対して、連邦取引委員会法(以下「FTC法」という。)第6条(b)に基づき、生成AI企業及び大手クラウドサービス・プロバイダーが関連する最近の投資や提携に関する情報の提供を求める命令を発出したことを公表した。
 
 FTC法第6条(b)に基づく本命令は、AI開発企業との提携や投資が競争環境に与える影響について理解を深めることを目的としている。
 FTC法第6条(b)は、市場動向や商慣行についてより深い理解を得るための調査を実施する権限をFTCに与えるものであり、このような調査から得られた知見は、今後のFTCの法執行に資するものとなる。本件調査は、生成AI開発者とクラウドサービス・プロバイダーとの間に形成された投資や提携に関するFTCの理解を深める手助けとなる。
 
 リナ・カーンFTC委員長は、「歴史は、新しい技術が新しい市場と健全な競争を作り出すことを示している。企業がAIを開発し、収益化を図るための競争を行う中で、我々はそのような機会を失わせるような策が講じられないようにしなければならない。我々の調査は、支配的な企業が行う提携や投資が、イノベーションを歪め、公正な競争を損なう危険性があるかどうかを明らかにするものである。」と述べた。
 
 企業は、AIの開発に必要な主要技術や資源を入手するために、AI開発企業との提携や直接投資を進めるなど、AIの開発・利用において様々な戦略を展開している。本日発表された命令は、数十億ドル規模の投資が行われている以下の3つの異なる企業間の提携、すなわち、① Microsoft及びOpen AI、②Amazon及びAnthropic、③Google及びAnthropic、に対して発出された。
 
 FTCは、この命令において特に以下に関係する情報を求めている。
・具体的な投資や提携に関する情報(投資又は提携の合意・契約や戦略的根拠など)
・特定の投資又は提携がもたらす実質的な意義に関する情報(新製品のリリースに関する決定、ガバナンスや監督権、定例会議の議題を含む)
・投資又は提携取引が競争に与える影響の分析(市場シェア、競争、競合他社、市場、売上増加の可能性、製品又は地理的市場への事業拡大などに関する情報など)
・AIのためのインプットやリソースの競争に関する情報(生成AIに必要な主要製品・サービスに関する競争上の動態的な変化についての情報を含む)
・これらの項目に関して、外国政府機関を含む他の当局の審査、情報提供要請その他の問い合わせに対応して提供された情報
 
 各社は命令を受けた日から45日以内に回答しなければならない。
 
 FTCは、FTC法第6条(b)に基づいて本命令を発出し、AI投資及び提携に関する調査の実施を3対0の賛成多数で議決した。

DOJ及びFTC、コラボレーションツール及びエフェメラル・メッセージングに関するガイダンスを改正

2024年1月26日 米国司法省反トラスト局 公表

原文(DOJ公表文)

(注)本文は、上記DOJの公表文を訳したものであるが、米国連邦取引委員会(FTC)も同日、同趣旨の公表をしている。

(FTC公表文)


【概要】
 2024年1月26日、司法省反トラスト局(以下「DOJ反トラスト局」という。)及び連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、職場でのコラボレーションツール(Slack、Microsoft Teams、Signalなど)やエフェメラル(訳注:短時間で自動的に削除する機能付きの)・メッセージング・プラットフォームの使用の増加に対応するため、追加資料の請求(second requests)、任意的情報請求(voluntary access letters)及び大陪審召喚令状などの強制的な法的手続における標準的な保全請求(standard preservation letters)及び仕様書の文言を改正することを発表した。これらの改正は、政府による調査や訴訟の係属中に資料を保存することを事業者に求める長年の義務を強化するものである。
 
 DOJ反トラスト局のマニシュ・クマール次長は、「今回の法的プロセスの改正は、企業がエフェメラル・メッセージを通じてビジネスを行う場合に、当該企業及びその弁護士が文書の存在について知らないふりをすることができないようにするものである。DOJ反トラスト局及びFTCは、証拠を隠すために設計されたエフェメラル・メッセージング・アプリケーションのデータを含め、相手方弁護士があらゆる文書を保存し、提出することを期待している。該当する文書を提出しない場合、司法妨害罪に問われる可能性がある。」と述べた。
 
 FTCのヘンリー・リュー競争局長は、「企業や個人は政府による調査や訴訟の対象となった際に、米国民の利益を保護するための効率的かつ効果的な法執行を促進するために、文書を保存する法的責任がある。本件改正は、この保存責任が、エフェメラル・メッセージング機能によってメッセージを消失させることができるツールを含む新しいコラボレーションの方法や情報共有ツールにも適用されることを明確化するものである。」と述べた。
 
 企業は事業のために新しい技術を継続的に導入しており、近年ではSlack、Microsoft Teams、Signalなどのコラボレーションツールやエフェメラル・メッセージング・アプリケーションを使用することが増えている。これらの技術の中には、コミュニケーションや文書を即座に、かつ復元不可能な形で破棄することを可能にするもの、あるいは自動的にそれを可能にするものさえある。これらの技術を使用して作成された文書は、長い間、DOJ反トラスト局やFTCの文書請求の対象となってきたにもかかわらず、企業は、政府による調査や訴訟において、この種の文書を必ずしも適切に保存してこなかった。
 
 本日の発表は、反トラスト法の刑事執行及び反トラスト訴訟で生じる問題に関して、DOJ反トラスト局及びFTCが継続的に協力していることを強調することとなるだろう。

EU

欧州委、Apple Payに関連する確約案について意見募集を開始

2024年1月19日 欧州委員会 公表
【概要】
1 概要
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2024年1月19日、店舗における携帯端末を使った非接触型決済技術(Near-Field Communication(NFC)) の一種であるApple Payへのアクセス制限に関する競争上の懸念に対処するため、アップルが提示した確約案について意見募集を開始した。
 
2 公表文の概要
(1)欧州委の審査
(ア) アップルペイは、iPhoneユーザーが携帯端末で支払を行うためのアップル独自のモバイルウォレットソリューションである。アップルのiPhoneは、アップルのオペレーティングシステム(以下「iOS」という。)のみで動作し、「閉鎖的なエコシステム」を形成している。アップルは、モバイルウォレットの開発者がこのエコシステムにアクセスすることを含め、このエコシステムのあらゆる側面を管理している。
(イ) 欧州委は、アップルがスマート携帯端末市場で実質的な市場支配力を有しており、iOS上のモバイルウォレット市場でも市場支配的な地位を占めていると予備的に判断した。Apple Payは、実店舗でのモバイル決済を可能にするためにiOS上で必要なハードウェアとソフトウェアにアクセスできる唯一のモバイルウォレットである。アップルはこれをサードパーティであるモバイルウォレットアプリ開発事業者が利用できるようにしていない。
 欧州委は2022年5月2日、アップルに対し、このような排他的行為はiOS端末におけるモバイルウォレット市場の競争を制限しEU機能条約第102条に違反するおそれがあるとの異議告知書を送付していた。
 
(2)アップルが提示した確約案
(ア) 欧州委のこのような競争上の懸念に対処するため、アップルは次のとおり確約案を提示した。この確約案は、10年間に渡って効力を有するもので、トラスティー(監査人)がその履行を監視し、欧州委に対して定期的に報告を行う。
・ サードパーティのモバイルウォレット及び決済サービスプロバイダーが、Apple PayやApple Walletを介さずに、iOSデバイス上のNFC機能に無償でアクセスし、API(Application Programming Interfaces)を通じて相互運用できるようにすること。アップルは、いわゆるHCE(Host Card Emulation)モードでのNFC機能への同等なアクセスを可能にするために必要なAPIを作成することになる。
・ 欧州経済領域(以下「EEA」という。)内で設立された全てのサードパーティであるモバイルウォレットアプリ開発事業者及びEEA内で登録されたApple IDを持つ全てのiOSユーザーに当該確約案を適用すること。アップルは、EEA域外の店舗での支払にこれらのアプリを使用することを妨げない。
・ 選択した決済アプリのデフォルト設定、Face IDなどの認証機能へのアクセス、利用制限の仕組みなど、追加性能や機能を提供すること。
・ サードパーティのモバイルウォレットアプリ開発事業者にNFCへのアクセスを認める(アプリ開発事業者によるADP(Apple Developer Program)ライセンス契約の締結が必要)ために、公正で、客観的、透明かつ非差別的な適格基準を適用すること。
・ NFC へのアクセスを拒否するアップルの決定については、独立した専門家が審査する紛争解決メカニズムを確立すること。
 
(イ) 欧州委は、全ての利害関係者に対し、EU官報に確約案の概要が掲載されてから1か月以内に、当該確約案に対する意見を提出するように求めている。
 

欧州委、競争案件に関する市場画定告示の改正を採択

2024年2月8日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、市場画定告示の改正を採択した。市場画定は、合併及びほとんどの競争法違反事件を評価する際に、事業者間の競争の境界を画定するために必要とされるものである。
 今回の告示の改正は、新たな市場の現実、欧州委の執行実務及びEU判例法の進展に適合するものとなるように、欧州委の考え方を示したものである。また、事業者にとっての透明性及び法的確実性を高め、コンプライアンスを促進し、より効率的な競争法の執行に貢献するものである。
 
1 概要
 市場画定告示の改正は、1997年の採択以来、初めての改正である。今回の改正は、この間に生じた、デジタル化の進展、商品及びサービスの新しい提供方法、商取引の相互接続性などの重要な進展を反映している。改正告示は、2020年4月に開始された徹底的かつ包括的な検討過程を経た結果であり、検討段階及び改正告示案の意見募集の両方において、利害関係者からの意見を収集した。
 改正告示は、2021年11月の欧州委の声明「新たな課題に適合した競争政策」における政策の方向性を反映したものである。本告示の改正は、戦略的セクターを含め、セクターごとやセクター横断的な考え方を示すことなどを通じて、競争法の執行における透明性と予測可能性を確保するという欧州委の目標の中核となるものである。
 
2 市場画定告示の改正のポイント
 改正告示は、市場画定に対する欧州委の拡大した、かつ最新の考え方を示しており、反トラスト及び合併の事件において、市場画定に適用される原則、方法論、判例法、ベストプラクティスをまとめ、現代の状況に適合させたものである。改定告示には以下のような重要な要素が含まれている。
 
 (1) 詳細な構成と具体的な事例により、市場画定の概念の実務上の法適用を示すことで、より分かりやすい考え方を提示。
 (2) 市場画定の一般原則の説明。
 (3) イノベーション、品質、信頼性の高い供給、持続可能性など、市場画定における価格以外のパラメーターの重要性の認識。
 (4) (5)以下を含む、特定の状況における市場画定の概念の適用に関する具体的な考え方。   
 (5) 例えば多面市場やデジタル「エコシステム」(モバイルOSの関連製品等)などのデジタル市場に関する考え方。
 (6) イノベーション集約型産業(新製品開発を含むイノベーションで競争する事業者が集う市場)に関する考え方。
 (7) 特に規制や技術の変化など、構造的な転換期を迎えている市場における、ダイナミックで将来を見据えた評価の明確化。
 (8) 世界市場、欧州経済市場全体、国・地域別の市場、輸入の影響を考慮した地理的市場などの市場を画定するための要素に焦点を当て、地理的市場の考え方を拡大。
 (9) SSNIP(small but significant and non-transitory increase in price)テストをはじめとする市場画定のための様々な定量的手法の明確化。
 (10) 売上高や生産能力に基づくシェア、又はユーザー数、ウェブサイト訪問者数等の利用指標に基づくシェアなど、市場シェアの算定に関連する代替指標に関する考え方。
 (11)  市場画定分析における様々な証拠及びその証明力に関する広範な説明。
 
 本告示は、市場画定が、競争法上の評価の全体プロセスにおける中間段階の作業であることを想起させる。この全体プロセスには、参入や事業拡大に対する障壁、規模の経済(市場外の活動からもたらされるものを含む。)やネットワーク効果の影響、特定の資産や投入物へのアクセス、製品の差別化など、商品及び地理的市場における事業者に対する関連する競争圧力のあらゆる評価が含まれる。

欧州委、大韓航空によるアシアナ航空の買収計画を条件付きで承認

2024年2月13日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、詳細審査の結果、大韓航空が提案した問題解消措置を完全に履行することを条件に、EU企業結合規則に基づき、大韓航空によるアシアナ航空の買収計画の承認を決定した。大韓航空は、国際線旅客及び貨物サービスを提供する韓国最大の航空会社であり、韓国で2番目に大きい航空会社であるアシアナ航空も大韓航空と同様のサービスを提供している。両航空会社とも欧州経済領域(以下「EEA」という。)において大きな存在感を示している。
 
1 欧州委の審査
 欧州委は、詳細審査において、広く情報を収集し、市場参加者やその他の関係者から意見を聴取した。
 欧州委は、審査の結果、本件買収計画について、当初通知したとおり、以下の市場における競争を阻害するとの懸念を抱いた。
①    欧州と韓国との間の航空貨物輸送サービス
②    ソウルと欧州の特定の都市(具体的には、バルセロナ、パリ、フランクフルト、ローマ)を結ぶ路線の航空旅客輸送サービス
 欧州委は、大韓航空とアシアナ航空が、EEAと韓国との間の貨物及び旅客輸送において互角に競争していることを明らかにした。大韓航空とアシアナ航空は、両社が統合すれば、上記路線において、圧倒的に最大の航空会社となり、顧客にとっての重要な代替手段が失われることになる。競合事業者は、規制などの障壁に直面してサービスを拡大することができず、統合後の当事会社に対し十分な競争圧力をかけることはできなかったであろう。このため、本件買収が実行された場合には、旅客及び貨物の顧客にとって、価格上昇及び品質低下を招いていた可能性が高い。
 
2 問題解消措置案
 大韓航空は、欧州委の競争上の懸念に対処するため、以下の問題解消措置を提案した。
 
①    貨物に関する問題解消措置
 大韓航空はアシアナ航空のグローバル貨物事業を売却する。分割には、貨物用航空機、発着枠、運航権、乗務員、その他の従業員、顧客との貨物契約などが含まれる。大韓航空がアシアナ航空の買収を実施できるのは、欧州委が上記貨物事業の売却に適した購入者を承認した後である。他の要件として、購入者は、分割された事業を実行可能な方法で運営し、統合後の当事会社と効果的に競争することができ、そのインセンティブを有していなければならない。
 
②    旅客に関する問題解消措置
 大韓航空は、競合する航空会社であるティーウェイ航空が重複する4路線で運航を開始するために必要な資産を提供する。この資産には、発着枠、通行権、必要な航空機へのアクセスが含まれる。ティーウェイ航空は、韓国の航空会社で、ソウルをハブとして、東アジアを中心に路線網を展開している。大韓航空は、ティーウェイ航空が重複する4路線で運航を開始するまで統合を完了させないことを問題解消措置とした。
 
 上記問題解消措置は、欧州委が指摘した競争上の懸念に完全に対処するものである。欧州委は、提案された問題解消措置のマーケットテストに際して顧客及び競合事業者の意見を収集した結果、上記問題解消措置は韓国とEEAとの間の貨物及び旅客輸送における効果的な競争を維持するものであるとの結論に達した。
 そのため、欧州委は、上記問題解消措置により修正される買収計画は、競争上の懸念を生じさせるものではないとの結論に達した。この決定は、問題解消措置を完全に遵守することを条件とするものである。
 欧州委の監督の下、独立したトラスティ(監査人)によって履行が監視される。

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