欧州委、グッチ、クロエ及びロエベに対し、再販売価格維持を理由に1億5700万ユーロ(約275億円)以上の制裁金を賦課
2025年10月14日 欧州委員会 公表
【概要】
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、再販売価格維持を行いEU競争法に違反していたとして、ファッション企業のグッチ、クロエ及びロエベ(以下「3社」という。)に対し制裁金を賦課した。欧州委による調査の結果、3社は、独立系小売業者が、3社それぞれのブランド名でデザイン・販売されている製品について、オンライン及びオフラインの両方で小売販売価格を独自に設定することを制限していたことが明らかになった。このような反競争的行為は、価格を上昇させ、消費者の選択肢を減少させる。
3社はいずれも欧州委の調査に協力したため、制裁金は減額されたものの、総額1億5700万ユーロ(約275億円)以上に達した。
2 違反行為
3社は、それぞれイタリア、フランス、スペインに本社を置くファッション企業であり、いずれもアパレル、皮革製品及び各種アクセサリーを含む高級ファッション製品のデザイン、製造及び販売に従事している。
欧州委による調査の結果、3社が再販売価格維持に関与し、3社がデザイン・販売するほぼ全製品(アパレル、皮革製品、靴やファッションアクセサリーを含む。)について、独立系の再販売業者であるオンライン小売業者及び実店舗小売業者が独自の小売販売価格を設定することを制限していたことが明らかになった。この違反行為は、欧州経済領域(以下「EEA」という。)全域に及んでいた。
具体的には、3社は、小売業者に対し、次の制限を課すことで商業戦略を妨害していた。
①3社それぞれが設定した推奨小売価格から逸脱しないこと、②3社が事前に定めた最大割引率を超えて値引き販売しないこと、③セール実施期間を指定された期間に限定すること。3社は、少なくとも一時的に、小売業者による一切の値引き販売を禁止していたケースもあった。3社は、自社の直販チャネルと同一の価格及び販売条件を小売業者に適用させようとしていた。
3社は、小売業者の価格を監視し、前述の制限から逸脱した小売業者に是正を求めることにより、価格ポリシーの順守を確保していた。小売業者は、大抵の場合は当初から、又は3社から要請を受けてから、各社の価格ポリシーに従っていた。
3社によるこれらの反競争的行為により、小売業者の価格設定の独立性が失われ、小売業者間の競争が阻害された。また、3社は、自社の販売チャネルを小売業者との競争から保護する目的で、当該行為を行っていた。
さらに、グッチは、特定の商品ラインについて、小売業者に対してオンライン販売を中止するよう要請することにより、販売を制限していた。
3社が違反行為を行った期間は次のとおりである。
3社は、2023年4月に欧州委が立入検査を実施した時点で違反行為を終了していた。
本日(2025年10月14日)の決定は、3件の事案における反競争的行為が、EU機能条約(TFEU)第101条及びEEA協定第53条1(注1)に対する単一かつ継続的な違反を構成すると認定した。
3社は、相互に独立して行動していたものの、違反行為の期間が重複しており、関係する小売業者の多くは、3社全てのブランド製品を販売していた。欧州委による3社に対する決定は、高級ファッション分野を対象としており、オンライン販売及び実店舗販売における再販売価格維持に対し、ファッション業界全体に強い警告を発するものである。このような反競争的行為は、価格を上昇させ、消費者の選択肢を減少させる。
(注1) これらの条項は、単一市場内の取引に影響を及ぼし、競争を阻害又は制限するおそれ
のある協定その他の制限的な行為を禁止している。

3 制裁金
欧州委は、制裁金額を算定する際に、「2006年制裁金の設定に関するガイドライン」に基づき、違反行為の重大性、期間、地理的範囲及び違反期間中の対象製品に係る3社それぞれのEEA域内売上高(直接・間接販売を含む。)等、様々な要素を考慮した。
また、3社がEU競争法上の協力手続に基づき欧州委に協力したことも考慮され、各事案における3社それぞれの協力のタイミング及び欧州委の調査に対する貢献度に応じて制裁金が減額された。同協力手続は、既存のカルテル和解手続を参考にしたものであり、カルテル事案以外でも企業がEU競争法違反(事実関係及び法的評価を含む。)に対する責任を認める意思があれば利用可能である。この協力手続により、欧州委はより簡素かつ迅速な手続を適用することが可能となり、欧州委の調査に協力した企業は制裁金の減額を得られる。欧州委は、合理的な期間内に企業との合意形成が可能か否かを考慮し、個別案件ごとに協力の適否を判断する。企業側に協力する権利や義務はない。
特に、グッチ及びロエベは、欧州委による調査の初期段階で付加価値の高い証拠を提供した。グッチの協力により、欧州委が把握できていなかったEU競争法違反を新たに確認できたほか、ロエベの協力により、違反行為の期間が拡大された。
3社は、いずれも事実関係及びEU競争法違反を明示的に認める形で協力したため、欧州委はEU競争法上の協力手続に基づき本件を終了させることができた。
3社が賦課された制裁金は次のとおりである。
4 背景
欧州委は、職権で本件調査を開始し、2023年4月にグッチ(イタリア)、クロエ(フランス)及びロエベ(スペイン)の各施設に対して立入検査を実施し、その後、2024年7月に正式な調査手続を開始した。
5 テレサ・リベラ上級副委員長による声明
本日(2025年10月14日)、我々は、独立系小売業者の価格設定に介入することによりEU競争法に違反したとして、3社に制裁金を賦課した。欧州では、消費者がどこで何を購入する場合でも、オンラインかオフラインかを問わず、公正な価格競争の恩恵を受ける権利を有する。本決定は、ファッション業界のみならず、あらゆる事業者に対し、欧州では本件のような反競争的行為を容認せず、公正な競争及び消費者保護が全ての人に平等に適用されることを強く示すものである。