欧州委、自動車用スターターバッテリーカルテルについて総額約7200万ユーロ(約130億円)の制裁金を賦課
2025年12月15日 欧州委員会 公表
【概要】
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、自動車用スターターバッテリーメーカー3社(エクサイド(Exide)、FET(前身企業エレトラ(Elettra)を含む。)及びロンバット(Rombat))及び業界団体EUROBATに対し、クラリオス(Clarios、旧JC オートバッテリー(JC Autobatterie))とともに自動車用スターターバッテリーに関する長期にわたるカルテルに参加し、EU競争法に違反していたことを理由に、総額約7200万ユーロ(約130億円)の制裁金を課した。本件カルテルは、競争を制限し、欧州における自動車及びトラックの製造コストを押し上げた可能性がある。
クラリオスは、リニエンシープログラムに基づき欧州委にカルテルを自主申告したため、制裁金を課されていない。また、欧州委は、並行して実施していた自動車用スターターバッテリーメーカーのバナー(Banner)及びサービスプロバイダーのケレン(Kellen)に対する調査手続を終了した。
2 違反行為
欧州委による調査の結果、クラリオス、エクサイド、FET及びロンバットの4社(以下「4社」という。)は、EUROBATと共謀し、12年以上にわたり反競争的な協定を締結し、欧州経済領域(以下「EEA」という。)において自動車メーカーに対して自動車用スターターバッテリーを販売(OEM供給)する際に、協調行為を行っていたと認定された。自動車用スターターバッテリーは、主に乗用車やトラックなどの内燃機関搭載車両(注1)に使用される。鉛は、自動車用スターターバッテリーにとって最も重要な原材料かつ最大のコスト要因であり、自動車用スターターバッテリーメーカーは、必要な品質の鉛を調達するため、供給業者にプレミアム(上乗せ価格)を支払っている。
欧州委は、4社が業界団体EUROBATの支援を受けて、自社の鉛購入価格に基づき算出した(各社共通の)プレミアム(いわゆるEUROBATプレミアム)を作成・公表することに合意し、同プレミアムを業界誌『Metal Bulletin』に掲載していたと認定した。また、自動車メーカーやトラックメーカーなどのOEM顧客との価格交渉において同プレミアムを使用することに合意し、合意がない場合と比較して高い水準でサーチャージ(追加料金)を維持していた(訳注:協調してEUROBATプレミアムをそのままサーチャージとして販売価格に上乗せしていた)。
一般的に、サーチャージは、原材料コストの変動を製品価格に反映させるために供給業者が用いる正当な手段であり、コストリスクを顧客に転嫁することを可能にする。しかし、供給業者が密かに協調し、自動車用スターターバッテリー業界全体の標準として当該サーチャージを設定・運用することは明らかに違法である。
各社が違反行為に関与した期間は、以下の表のとおり。

本日(2025年12月15日)の決定は、4社及びEUROBATの行為が、EU機能条約第101条及びEEA協定第53条に規定する目的において競争を制限する行為に該当し、単一かつ継続的な違反を構成すると判断した。これらの条項は、単一市場内の取引に影響を及ぼし、競争を阻害又は制限する協定その他の制限的な行為を禁止している。
(注1)エンジン内部で燃料を燃焼させて発生するエネルギーを動力源とする自動車や貨物車等をさす。
3 制裁金
制裁金は、欧州委の2006年制裁金ガイドラインに基づき算定された。
欧州委は、制裁金額の算定にあたり、4社がEEA域内で自動車メーカー及び認定修理業者サービスネットワーク向けに販売した自動車用スターターバッテリーの年間平均売上高、違反行為の期間、違反行為の重大性、地理的範囲、EEA市場における4社の市場シェア等、様々な要素を考慮した。
クラリオス(親会社であるジョンソン・コントロールズ・インターナショナルPLC(Johnson Controls International PLC)及びジョンソン・コントロールズ(Johnson Controls)を含む。)は、2006年リニエンシー通知に基づくリニエンシープログラムの下で欧州委に協力し、カルテルを欧州委に明らかにしたため、全額免除を受けた。FET(親会社の一つであるレゾナック(Resonac)を含む。)及びロンバット(親会社であるメタイア(Metair)を含む。)も、同プログラムに基づき欧州委に協力したため、それぞれ50%及び30%の制裁金減額を受けた。
エレトラの元親会社であるドフィン(Dofin)に課される制裁金については、同社が現在経済活動を行っておらず、売上高もないため、上限額を0ユーロと設定した。EUROBATに対する制裁金は、違反行為を助長した役割を考慮し、一括支払金として12万5000ユーロに設定した。会員企業に加えてEUROBAT自体にも制裁金を課すことは、業界団体が競争法違反となる行為や接触を助長しないよう確保する必要があるという重要なメッセージを発信するものである。
複数の企業が、欧州委の2006年制裁金ガイドライン第35項の規定に基づき「支払不能」を理由とする減額を申請した。欧州委は、各申請者の財務状況を慎重かつ客観的に評価し、うち1社に対して制裁金の減額を認めた。また、欧州委は裁量により、複数の企業に対し、制裁金を事前に設定した年次で分割して支払うことも認めた。
各社に対する課徴金の内訳は、以下の表のとおり。

自動車用スターターバッテリーは、従来型の内燃機関を搭載した車両において、スターターモーターに電流を供給しエンジンを始動させる。また、車両の電装品にも電力を供給する。
全てのタイプの自動車用スターターバッテリーにおいて、鉛は最も重要な原材料かつ最大のコスト要因である。自動車用スターターバッテリーに使用する鉛は、ロンドン金属取引所で一般的に取引される鉛よりも、高純度で、特定の添加物を含む必要がある。自動車用スターターバッテリーメーカーは、このような品質を満たす鉛を調達するため、鉛供給業者にプレミアムを支払っている。
本件は、EEA内の自動車メーカー向けに販売された自動車用スターターバッテリーの①新車用、②交換用(ただし、自動車メーカーの認定修理業者サービスネットワーク経由で販売される場合に限る。)を対象としている。
欧州委による調査は、ジョンソン・コントロールズ・インターナショナルPLC(子会社クラリオス(旧JCオートバッテリー)を含む。)が欧州委の2006年リニエンシー通知に基づき申請を行ったことを契機として、2017年9月26日に開始された。レゾナック(子会社FETを含む。)及びメタイア(子会社ロンバットを含む。)は、欧州委が情報提供要請を送付した後にリニエンシー申請を行った。
2023年11月30日、欧州委は、正式手続を開始し、自動車用スターターバッテリーメーカー5社、EUROBAT及びサービスプロバイダーのケレンに対し異議告知書(以下「SO」という。)を送付した。SOに対する回答は、2024年3月から4月にかけて受理された。欧州委は、SOに対する回答の評価及び口頭審理を経て、自動車用スターターバッテリーメーカーのバナー及びサービスプロバイダーのケレンに対する手続を終了することを決定した。
EU競争法違反に対して企業に課された制裁金は、EUの一般予算に納付され、特定の支出に充てられることはないものの、翌年度の加盟国の予算拠出金が、それに応じて減額される。したがって、制裁金は、EUの財政運営に貢献し、納税者の負担軽減に寄与する。
本件に関する詳細情報は、機密保持上の問題が解決次第、欧州委の競争政策ウェブサイト上の公開事件登録簿で閲覧可能となる。カルテルに対する欧州委の取組の詳細は、欧州委のカルテル対策ウェブサイトを参照のこと。
5 リニエンシープログラム
欧州委のリニエンシープログラムは、企業がカルテルへの関与を自主的に開示し、欧州委の調査に協力する機会を提供する。リニエンシー申請が認められた企業は、高額となり得る制裁金を完全に免除されるか、大幅な減額を受けることができる。
6 支払不能を理由とする減額申請
欧州委の2006年制裁金ガイドライン第35項の規定に基づき、例外的な場合には、欧州委は企業からの申請に基づき、特定の社会経済的状況下における企業の支払不能を考慮することができる。欧州委は、申請企業の直近の財務諸表、当年度及び将来年度の予測、財務力、収益性、支払能力、流動性等を示す各種指標に基づき、申請企業の財務状況を徹底的に評価する。
7 内部通報ツール
欧州委は、個人又は企業が匿名性を維持したまま反競争的行為を通報できるツールを設けている。このツールは、特別設計の暗号化された双方向通信システムにより、通報者の匿名性を保護する。
8 損害賠償請求
本件で認定された反競争的行為によって被害を受けた個人又は企業は、加盟国の裁判所に提訴し、損害賠償を請求することができる。EU司法裁判所の判例及び規則1/2003により、加盟国の裁判所における訴訟において、欧州委の決定が当該行為の存在及び違法性を立証する拘束力のある証拠となる。欧州委が関係企業に制裁金を課した場合でも、加盟国の裁判所が認める損害賠償額は、欧州委の制裁金を理由に減額されることはない。
9 テレサ・リベラ上級副委員長による声明
本日(2025年12月15日)、自動車用スターターバッテリーの販売に際してサーチャージを導入することに合意し、EU競争法に違反した自動車用スターターバッテリーメーカー3社及び業界団体に対し制裁金を課した。つまり、彼らは価格カルテルを行っていた。我々は、価格カルテルやあらゆる形態のカルテルに対して一切の容認をしない。欧州の自動車メーカーを含む市民や企業が、公正に競争し、競争法を尊重する供給業者に依存できるようにすることが我々の責務である。本決定は、業界団体に対し、業界の代表という立場を利用して会員企業間の共謀を助長してはならないことも改めて示した。