EU
欧州委、競合するAIアシスタントのWhatsAppへの無料アクセスを確保するためメタに暫定措置を課す
2026年6月9日 欧州委員会 公表
1 概要(これまでの経緯)【概要】
2025年12月、欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、Meta AI以外のAI提供事業者によるWhatsAppへのアクセスを遮断するというメタの新たな方針について、競争法違反の疑いで調査を開始した。2026年2月、欧州委は、異議告知書を発出し、メタの方針変更が市場に重大かつ回復不能な損害を及ぼすことを防ぐために、暫定措置が必要となる可能性があるとの予備的な見解を示した。2026年4月、欧州委は、追加的な異議申立書を発出を発出し、第三者のAIアシスタントによるWhatsAppへのアクセスを回復するようメタに命じる旨の意向を示した。
そして2026年6月9日、欧州委は、競合する汎用AIアシスタントがWhatsAppへの無料アクセスを回復し、欧州委による調査が終了するまでその状態を維持するよう、メタに命じた。これは、一見したところEU競争法に違反しているとみられるメタの行為により、成長中であるこの市場に競争に重大かつ回復不可能な損害を及ぼすことを防ぐための措置である。
2 暫定措置に関する決定
本日(2026年6月9日)の決定は、成長中である汎用AIアシスタント市場において、競争に重大かつ回復不能な損害を及ぼすことを防ぐため、暫定措置が必要であると結論付けるものである。この結論は、次のような認定に基づいている。
(1) メタは少なくとも2023年1月以降、WhatsAppを擁することにより、EEA(欧州経済領域)全域の消費者向けコミュニケーション・アプリケーション市場において、一見したところ、支配的地位を有している。
(2) メタは、競合する汎用AIアシスタントによるWhatsApp for Businessアプリケーション・プログラミング・インターフェース(以下「API」という。)の利用を妨げることにより、一見したところ、その支配的地位を濫用している。2025年10月15日、メタは、新たな方針を導入し、第三者の汎用AIアシスタントによるWhatsApp for Business APIの利用を禁止した。その結果、WhatsApp上で利用可能なAIアシスタントは、メタ自身のMeta AIのみとなった。欧州委は、この措置が、一見したところ、第三者向けに開発され、従来は第三者に開放されていたインフラへのアクセスを拒否する行為に該当すると結論付けた。メタは方針を見直し、2026年3月4日以降、第三者の汎用AIアシスタントによるWhatsAppへのアクセスを再び認めたが、その利用に料金を課しており、欧州委は、一見したところ、従前のアクセス禁止措置と実質的に同等の効果を有すると結論付けた。
(3) 成長中の汎用AIアシスタント市場において、競争構造に重大な損害が生じるリスクを防止するためには、緊急の対応が必要である。メタの方針変更は、小規模事業者や新規参入者が大規模既存事業者に挑戦し得る状態であり、発展の極めて重要な段階にある市場において、競争を阻害するおそれがある。
本日の決定は、メタに対し、2025年10月15日以前に適用されていた条件と同一の条件で、第三者の汎用AIアシスタントによるWhatsApp for Business APIへのアクセスを回復するよう命じるものである。以前は、このアクセスが全てのAIアシスタントに対して無料で提供されていた。メタは、本件について欧州委が最終決定を下すまで、これらの条件によるアクセスを維持しなければならない。これは、欧州委による競争法執行権限及びメタの行為の適法性に関する欧州委の最終決定の実効性を確保するために必要な措置である。メタは、5営業日以内にこれらの措置を履行しなければならない。
なお、本件の全ての争点に関する本案調査は現在も継続中である。
3 背景となる事実関係・関係する法令
メタは、米国に本社を置く多国籍テクノロジー企業である。メタの主力製品は、FacebookやInstagramなどのソーシャルネットワークサービス、WhatsAppやMessengerなどの消費者向けコミュニケーション・アプリである。また、オンライン広告サービス、仮想現実・拡張現実関連製品も提供している。メタは、汎用AIアシスタントであるMeta AIを提供している。
WhatsApp for Business APIは、事業者が自社のシステムをWhatsAppに接続するためのインターフェースである。顧客とのやり取りにWhatsAppを利用する事業者は、WhatsApp Business利用規約及びWhatsApp Businessソリューション規約の適用を受ける。2025年10月15日以前は、これらの規約には第三者の汎用AIアシスタントに関する利用制限は規定されていなかった。
TFEU(EU機能条約)第102条及びEEA協定第54条は、域内市場における取引に影響を及ぼし、競争を妨害又は制限し得る支配的地位の濫用を禁止している。TFEU第102条の執行については、規則1/2003に定義されている。
規則1/2003第8条第1項に基づき、一見したところ競争法違反が認められ、かつ競争に対する重大かつ回復不能な損害が生じるおそれがあるため緊急に保護措置を講じる必要がある場合には、暫定措置を課すことができる。本件は、2009年のブロードコム事件における暫定措置決定に続く、規則1/2003に基づく2件目の暫定措置決定である。
欧州委は、事業者が故意又は過失により暫定措置命令に違反した場合、当該事業者に対して制裁金を課すことができる。制裁金の額は、違反行為が行われた事業年度の前年度における総売上高の10%を超えてはならない。また、暫定措置命令の履行を確保するため、欧州委は、違反行為が行われた事業年度の前年度における1日当たりの平均売上高の5%を上限とする日額の履行強制金を課すこともできる。
競争法違反の疑いに関する調査には法律上の期限がなく、調査期間は、事案の複雑性、事業者による欧州委への協力度合い、当事者による防御権の行使状況など、複数の要因によって左右される。
4 テレサ・リベラ上級副委員長による声明
本日、我々は、メタによる制限がEU競争法に違反する可能性があるかどうかを調査している間、競合するAIアシスタントによるWhatsAppへのアクセスを回復するようメタに命じた。急速に変化する市場においては、最終決定が下されるよりはるか前に競争が損なわれてしまう可能性がある。そのため、回復が極めて困難な損害を防ぐことを目的として、調査期間中は今回の暫定措置が適用される。本件暫定措置は、欧州の消費者に接触するための重要な入口であるWhatsAppへのアクセスを維持し、AI企業がイノベーションを促進し、事業を拡大し、その可能性を最大限に発揮できるようにすることで、成長中のAIアシスタント市場の競争を守るものである。また、我々は、本日の決定により、欧州全域の市民がWhatsAppで利用したいAIアシスタントを自ら選択できる自由を守り、その選択がメタに委ねられることを防ぐ。