その他
中国
中国国家市場監督管理総局によるTrip.comに対する行政処分(市場支配的地位の濫用)
【概要】
2026年7月25日、中国国家市場監督管理総局(以下「SAMR」という。)は、市場支配的地位を濫用したとして、オンラインホテル予約プラットフォーム大手事業者である携程集団有限公司(日本では「Trip.com(注1)」として知られている。以下「携程」という。)に対し、独占禁止法に基づき、35億2182万元(約852億円(注2))の制裁金を賦課し、違法所得(注3)16億5806万元(約401億円)を没収する行政処分を行った。
(注1)Trip.com Group Limitedは、中国の上海に本社を置く多国籍旅行代理店であり、本店所在地はケイマン諸島である。中国人向け旅行予約サイトとして「携程(Ctrip)」及び「去哪儿(Qunar)」を運営している。
(注2)1元=24.2円で換算。
(注3)ホテル価格を直接調整して得た「手数料収入」のことであり、携程に対しホテルに返還させる「契約保証金」は含まない。
本件は、中国において、市場支配的地位の濫用行為として「全ネット最安値」(最恵国待遇:MFN)を理由に処分が行われた初めての案件である。
本件の概要は以下のとおり。
1 経緯
2026年1月14日 調査開始をSAMRが公表
2026年7月25日 行政処分をSAMRが公表
2 違反行為の概要
2020年以降、携程は、中国国内のオンラインホテル予約プラットフォームサービス市場における支配的地位を濫用し、以下の2種類の独占行為を実施した。
① 「特牌」認定ホテルに対する独占的提携の要求
トラフィック配分(集客機会の配分)、利益面の支援等をインセンティブとして提供することで、取引額が高く、サービス品質が優れ、ユーザーからの人気が高いホテルが「特牌」認定を選択するよう誘導するとともに、「特牌」認定ホテルに対して競合プラットフォームとの提携を禁止している。
② 「金牌」・「無牌」認定ホテルに対する「全ネット最安値」の強制
複数プラットフォームで事業を展開するホテルに対して、携程プラットフォームでの価格を全ネット最安値に設定するよう要求するとともに、直接の価格調整許可を要求し、ホテルの価格が競合プラットフォームよりも高いことが判明した場合、携程は「調価助手」(価格調整アシスタント)、等の技術ツール及び人的手段を通じて価格を引き下げている。
携程は、技術的手段を用いて、ホテルの独占的提携及び「全ネット最安値」の実施状況を監視し、トラフィックの制限、認定取消し、契約保証金の差引き等の懲罰的措置を通じて、これらの行為の実施を強制している。
① 違法行為の停止
② ホテル事業者から強制的に差し引いた契約保証金1億2278万元の返金
③ 違法所得16億5806万元の没収
④ 35億2182万元の制裁金(注4)
(注4)前年度(2025年度)の中国国内売上高469億5766万元の7.5%に相当。
4 本件のポイント
○ 違反行為として認定された、①独占的提携及び②「全ネット最安値」(最恵国待遇:MFN)の要求は、各種ガイドライン等でも明示されている典型的な市場支配的地位の濫用行為。ただし、「全ネット最安値」を理由に実際の処分が行われたのは初めて。
○ SAMRは、近年中国で問題となっている「内巻式」競争(注5)の観点からも、本件は問題があるとしている。
○ 制裁金、違法所得の没収及びホテルへの返金の合計金額は約53億元(約1283億円)。近年、大手プラットフォーム事業者に対する独占禁止法による行政処分は低調となっていたところ、本件は数年振りの大型案件。
○ プラットフォーム経済分野における独占禁止法執行において、初めて違法所得の没収も命令。違法行為の停止命令の一環としてホテル事業者に対する返金を命じていることも特徴的。
○ なお、携程は同日プレスリリースを行い、「全面的に受け入れ、断固としてこれに従うとともに、各是正要求を厳格に実施してまいります」と述べた上で、具体的な是正策を公表している。
(注5)過剰な資源の投入に依存した非合理的で消耗的な過当競争のこと。