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日本・スイス経済連携協定 実施取極

日本・スイス経済連携協定 実施取極

(正本とは形式面で異なります。)

第三章 競争

第九条 目的及び定義

1 この章の規定は、基本協定第百四条に規定する協力の実施に関する詳細及び手続を定めることを目的とする。
2 この章の規定の適用上、
(a) 「競争当局」とは、
(i) 日本国については、公正取引委員会をいう。
(ii) スイスについては、競争委員会及び競争委員会事務局をいう。
(b) 「競争法」とは、
(i) 日本国については、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年
法律第五十四号)(以下「独占禁止法」という。)並びにその実施について定める命令
及び規則並びにそれらの改正をいう。
(ii) スイスについては、カルテルその他の競争制限に関する千九百九十五年十月六日の連邦法(以下「カルテル法」という。)並びにその実施について定める命令及び規則並びにそれらの改正をいう。
(c) 「執行活動」とは、締約国政府が自国の競争法の適用に関連して行うあらゆる審査若しくは捜査又は手続をいう。ただし、次のものを含めない。
(i) 事業活動の監視又は通常の届出、報告若しくは申請の審査
(ii) 経済概況又は特定の産業分野における概況の調査を目的とする調査研究活動
(d) 「企業」とは、法的又は組織的形態にかかわらず、締約国の競争法の対象となる私的又は公的な団体をいう。

第十条 通報

1 一方の締約国政府の競争当局は、他方の締約国政府の競争当局に対し、当該他方の締約国の重要な利益に影響を及ぼす可能性があると認める自己の政府の執行活動について通報する。

2 一方の締約国政府の執行活動であって、他方の締約国の重要な利益に影響を及ぼすことがあるものは、次の執行活動を含む。
(a) 他方の締約国政府の執行活動に関連する執行活動
(b) 当該他方の締約国の国民若しくは永住者又は当該他方の締約国の領域における関係法令に基づいて設立され、若しくは組織される企業に対して行う執行活動
(c) 次の(i)又は(ii)に規定するものが当該他方の締約国の領域における関係法令に基づいて設立され、又は組織される企業である場合の企業結合に関係する執行活動
(i) 当該企業結合の当事者の一又は二以上
(ii) 当該企業結合の当事者の一又は二以上を支配する企業
(d) 企業結合以外の反競争的行為であって、実質的に当該他方の締約国の領域において行われるものに関係する執行活動
(e) 当該一方の締約国政府の競争当局により、当該他方の締約国政府が要求し、奨励し、又は承認したと認められる行為に関係する執行活動
(f) 当該一方の締約国政府による制裁その他の排除に係る措置であって、当該他方の締約国の領域における行為を要求し、又は禁止するものを課し、又は適用する行為に関係する執行活動

3 企業結合に関して1の規定に基づく通報が必要である場合には、この通報については、次の時点までに行う。
(a) 日本国の競争当局については、競争当局が、独占禁止法に従い、企業結合の計画に関する文書、報告その他の情報の提出を求める時
(b) スイスの競争当局については、カルテル法第三十二条第一項に従って手続を開始することを決定する時

4 企業結合に関連する執行活動以外の執行活動に関して1の規定に基づく通報が必要である場合には、この通報については、次の時点までに行う。
(a) 日本国の競争当局については、次の行動をとるに先立つできる限り早い時
(i) 刑事告発
(ii) 緊急停止命令の申立て
(iii) 審判開始決定の発出
(iv) 排除措置命令の発出
(v) 課徴金納付命令の発出(納付者に対して事前又は同時に排除措置命令が発出されていない場合に限る。)
(b) スイスの競争当局については、カルテル法第三十条第一項の規定に従った競争委員会事務局からの提案の発出に先立つできる限り早い時

5 この条の規定に基づく通報については、通報を受けた競争当局が自国の重要な利益への影響について当初の評価を行うことができるよう、十分詳細な内容を伴うものとする。

第十一条 執行活動における協力

 一方の締約国政府の競争当局は、自国の法令及び重要な利益に適合する限りにおいて、他方の締約国政府の競争当局に対し、その執行活動について支援を提供する。

第十二条 情報の交換

 前条に規定する協力のために、一方の締約国政府の競争当局は、自国の法令及び重要な利益に適合する限りにおいて、次のことを行う。
(a) 他方の締約国の領域における競争に対しても悪影響を及ぼす可能性があると認める反競争的行為に関係する自己の執行活動について、他方の締約国政府の競争当局に通報すること。
(b) 他方の締約国政府の競争当局に対し、反競争的行為に関する重要な情報(自己が保有し、かつ、その注意の対象となっているものに限る。)であって、当該他方の締約国政府の競争当局の執行活動に関連し、又はその執行活動を正当化する可能性があると認めるものを提供すること。
(c) 要請があった場合には、この章の規定に従い、他方の締約国政府の競争当局に対し、自己が保有する情報であって、当該他方の締約国政府の競争当局の執行活動に関連するものを提供すること。

第十三条 執行活動の調整

1 両競争当局が相互に関連する事案に関して執行活動を行う場合には、
(a) 両競争当局は、それぞれの執行活動の調整について検討する。
(b) 一方の締約国政府の競争当局は、他方の締約国政府の競争当局の要請があった場合で、自国の重要な利益に適合する限りにおいて、当該執行活動に関連して秘密の情報を提供した自然人又は企業に対し、当該情報を当該他方の締約国政府の競争当局に共有することに同意するか否かを照会することを検討する。

2 両競争当局は、特定の執行活動の調整を行うべきか否かを検討するに当たり、特に次の要素を考慮する。
(a) 当該執行活動の目的を達成する上で両競争当局が有する能力に対して当該調整が及ぼす効果
(b) 当該執行活動に必要な情報を入手する上で両競争当局が有する相対的な能力
(c) いずれかの締約国政府の競争当局が、関係の反競争的行為に対して効果的な排除に係る措置を確保することができる程度
(d) 両締約国政府及び当該執行活動の対象である自然人又は企業にとっての費用の削減の可能性
(e) 排除に係る措置の調整が両締約国政府及び当該執行活動の対象である自然人又は企業にもたらす潜在的な利益

3 一方の締約国政府の競争当局は、他方の締約国政府の競争当局に適切な通報を行うことを条件として、執行活動の調整をいつでも限定し、又は終了し、及び自己の執行活動を独自に行うことができる。

第十四条 一方の締約国における反競争的行為であって、他方の締約国の利益に悪影響を及ぼすものに関する協力

1 一方の締約国政府の競争当局は、他方の締約国の領域において行われた反競争的行為が自国の重要な利益に悪影響を及ぼすと信ずる場合には、管轄権に関する紛争を回避する重要性に留意して、及び他方の締約国政府の競争当局が当該反競争的行為に関してより効果的な執行活動を行うことができる可能性があることに留意して、当該他方の締約国政府の競争当局に対して適切な執行活動を開始するよう要請することができる。

2 1の規定に基づく要請には、反競争的行為の性質及び当該反競争的行為が当該要請を行う競争当局の側の締約国の重要な利益に及ぼす影響について、できる限り具体的な説明を付すものとし、また、当該要請を行う競争当局として提供が可能である追加的な情報その他協力についての申出を含める。

3 1の規定に基づく要請を受けた競争当局は、当該要請において特定される反競争的行為に関し、執行活動を開始するか否か、又は現に行われている執行活動を拡大するか否かを慎重に検討する。当該要請を受けた競争当局は、当該要請を行った競争当局に対し、実行可能な限り速やかに自己の決定を通報する。当該要請を受けた競争当局は、執行活動を開始し、又は現に行われている執行活動を拡大する場合には、当該要請を行った競争当局に対し、当該執行活動の結果を通報し、かつ、暫定的な進展のうち重要なものを可能な範囲で通報する。

4 この条のいかなる規定も、要請において特定された反競争的行為について執行活動を行うか否かに関し、当該要請を受けた競争当局が自国の競争法及び執行政策の下で有する裁量を制限するものではなく、また、当該要請を行った競争当局が当該要請を取り下げることを妨げるものでもない。

第十五条 執行活動に関する紛争の回避

1 一方の締約国政府は、自国の法律の枠組みにおいて、かつ、自国の重要な利益に適合する限りにおいて、執行活動のあらゆる局面(執行活動の開始及び範囲に関する決定並びに各事案における制裁その他の排除に係る措置の性質に関する決定を含む。)において、他方の締約国の重要な利益に慎重な考慮を払う。

2 一方の締約国政府が他方の締約国政府の特定の執行活動により自国の重要な利益に影響が及ぼされる可能性がある旨を当該他方の締約国政府に通報する場合には、当該他方の締約国政府は、当該執行活動の重要な進展について適時に通報するよう努める。

3 一方の締約国政府の執行活動により他方の締約国の重要な利益に悪影響が及ぼされる可能性があると当該一方の締約国政府が認める場合には、両締約国政府は、利害の競合を適切に調整しようとするに当たり、次の要素その他関連し得る要素を考慮すべきである。
(a) 執行活動を行う側の締約国の領域における行動又は取引が、反競争的行為について、他方の締約国の領域における行動又は取引に比して有している相対的な重要性
(b) 反競争的行為がそれぞれの締約国の重要な利益に及ぼす相対的な影響
(c) 反競争的行為に関与している者が、執行活動を行う側の締約国の領域における消費者、供給者又は競争者に影響を及ぼす意図を有することに関する証拠の存否
(d) 反競争的行為が各締約国の市場における競争を実質的に減殺する程度
(e) 一方の締約国政府の執行活動と他方の締約国の法令又は当該他方の締約国の政策若しくは重要な利益との間の抵触又は一貫性の程度
(f) 私人である自然人又は私企業が両締約国による相反する要求の下に置かれることとなるか否か。
(g) 関連する資産及び取引の当事者の所在地
(h) 締約国政府の執行活動が、反競争的行為に対する効果的な制裁その他の排除に係る措置を確保することができる程度
(i) 同一の私人である自然人又は同一の私企業に関する他方の締約国政府の執行活動が影響を受ける程度

第十六条 透明性

 一方の締約国政府の競争当局は、次の事項を行う。
(a) 自国の競争法の改正及び反競争的行為に対して取り組むための自国の新たな法令の制定について他方の締約国政府の競争当局に対し速やかに通報すること。
(b) 適当な場合には、自国の競争法に関連して発出し、及び公表した指針又は政策声明の写しを他方の締約国政府の競争当局に提供すること。
(c) 適当な場合には、当該一方の締約国政府の競争当局の年次報告その他の公表資料であって、公衆が一般に利用可能であるものの写しを他方の締約国政府の競争当局に提供すること。

第十七条 協議

 両競争当局は、いずれかの競争当局の要請があった場合には、この章の規定に関連して生ずることのあるいかなる事項についても、相互に協議する。

第十八条 情報の秘密性

1 この章の他の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国政府も、自国の法令によって禁止されている場合又は自国の重要な利益と両立しないと認める場合には、他方の締約国政府に情報を提供することを要しない。特に、
(a) 日本国政府は、独占禁止法第三十九条の規定の適用を受ける「事業者の秘密」(第十三条1(b)の規定に従って行われる照会の結果として、関係事業者の同意を得て提供されるものを除く。)をスイス政府に提供することを要しない。
(b) スイス政府は、カルテル法第二十五条の規定の適用を受ける「営業秘密」(第十三条1(b)の規定に従って行われる照会の結果として、関係事業者の同意を得て提供されるものを除く。)を日本国政府に提供することを要しない。

2(a) この章の規定に従って一方の締約国政府から他方の締約国政府に提供される情報(公に利用可能な情報を除く。)については、当該他方の締約国政府は、競争法の効果的な執行のためにのみ使用するものとし、かつ、当該一方の締約国政府が別段の承認を与えた場合を除くほか、第三者に伝達してはならない。
(b) この章の規定に従って一方の締約国政府の競争当局から他方の締約国政府の競争当局に提供される情報(公に利用可能な情報を除く。)については、当該他方の締約国政府の競争当局は、競争法の効果的な執行のためにのみ使用するものとし、かつ、当該一方の締約国政府の競争当局が別段の承認を与えた場合を除くほか、他の当局又は第三者に伝達してはならない。

3 2(b)の規定にかかわらず、この章の規定に従って情報(公に利用可能な情報を除く。)を受領する一方の締約国政府の競争当局は、他方の締約国政府の競争当局が別段の通報を行う場合を除くほか、当該情報を競争法の執行のために当該一方の締約国政府の関連する法執行当局に伝達することができる。当該法執行当局は、次条に規定する条件に従って当該情報を使用することができる。

4 一方の締約国政府は、自国の法令に従い、他方の締約国政府がこの章の規定に従って秘密のものとして提供するあらゆる情報の秘密性を保持する。

5 一方の締約国政府は、この章の規定に従って提供する情報について、自己の定める条件に従ってこれを使用するよう要求することができる。当該情報を受領する締約国政府は、当該情報を提供する締約国政府の事前の同意なしに、当該条件に適合しない方法で当該情報を使用してはならない。

6 一方の締約国政府は、秘密性又は情報の使用目的の制限に関し、自己が要請する保証を他方の締約国政府から得ることができない場合には、当該他方の締約国政府に提供する情報を限定することができる。

第十九条 刑事手続のための情報の使用

1 この章の規定に従って一方の締約国政府から他方の締約国政府に提供される情報(公に利用可能な情報を除く。)については、当該他方の締約国の裁判所又は裁判官が行う刑事手続において使用してはならない。

2 1の規定にかかわらず、この章の規定に従って一方の締約国政府から他方の締約国政府に提供される情報(公に利用可能な情報を除く。)を当該他方の締約国の裁判所又は裁判官が行う刑事手続において提示することが必要とされる場合には、当該他方の締約国政府は、外交上の経路又は当該一方の締約国の法令に従って定められたその他の経路を通じて、当該情報を要請する。当該一方の締約国政府は、当該要請に基づき、自国の法令に従い、当該経路を通じて当該情報を提供することができる。

第二十条 両競争当局間の連絡

 この章に別段の定めがある場合を除くほか、この章の規定に基づく連絡については、両競争当局間で直接行うことができる。ただし、第十条の規定に基づく通報及び第十四条1の規定に基づく要請については、外交上の経路を通じ、書面により確認する。その確認については、関係する連絡が両競争当局間において行われた後、実行可能な限り速やかに行う。

第二十一条 雑則

1 この章の規定を実施するために必要な詳細な取決めについては、両競争当局間で行うことができる。
2 この章のいかなる規定も、他の二国間又は多数国間の協定又は取決めに従って両締約国政府が相互に支援を求め、又は提供することを妨げるものではない。
3 この章のいかなる規定も、管轄権に関連するあらゆる問題に関するいずれの締約国政府の政策又は法的立場を害するものと解してはならない。
4 この章のいかなる規定も、他の国際的な協定若しくは取決め又は自国の法律に基づくいずれの締約国の権利及び義務に影響を及ぼすものと解してはならない。

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