ブラジル(Brazil)

(2022年4月現在)

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1 根拠法

 ブラジルの競争法(Lei de Defesa da Concorrencia)(以下「競争保護法」という。)は、1994年6月に制定された後、全面改正を行い、2011年11月30日付法律第12529号として新たに制定され、2012年5月に施行された。

2 執行機関

(1) 経済擁護行政委員会及び生産性向上競争擁護事務局

 ブラジルの競争当局は、経済擁護行政委員会(Conselho Administrativo de Defesa Economica)(以下「CADE」という。)及び生産性向上競争擁護事務局である。
 CADEは、組織的には法務省に属する委員会組織であり(第4条)、経済擁護裁定評議会(Tribunal Administrativo de Defesa Econ ômica)(以下「評議会」という。)、総監督局及び経済調査局の3機関で構成されている(第5条)。
 評議会は、上院の承認を経て大統領が任命する委員長及び6人の委員から構成される(第6条)。委員長及び委員の任期は4年であり、再選は禁止されている(第6条第1項)。その権限は、違反行為の認定、違反行為者に対する罰則の適用、違反行為の中止命令等である(第9条)。
 総監督局は、上院の承認を経て大統領が任命する総監督局長及び総監督局長が指命する総監督副局長以下で構成される(第12条)。総監督局の権限は、評議会に参加して意見を述べること、評議会の決定内容を実施すること等である(第14条)。総監督局長の権限は、市場の監視及び違反行為について行政審査を実施すること等である(第13条)。
 経済調査局は、チーフ・エコノミストが運営し、評議会又は総監督局長からの要請に基づき、経済分析及びCADEの決定内容の技術的正確性を担保することを責務とする(第17条)。
 

(2) CADEの権限

 CADEは主に次のような権限を有する。
ア 経済秩序違反を認定し、競争保護法に従った制裁的措置を課すこと(第9条第2号)
イ 総監督局が認定した経済秩序違反に対して行政罰を課す行政手続を決定すること(第9条第3号)
ウ 指定期間内に経済秩序違反を中止する措置を命じること(第9条第4号)
エ 違反行為の中止に係る合意及び企業結合に係る合意の条件を承認すること(第9条第5号)
オ 仮処分を検討し、決定すること(第84条)
カ リニエンシー申請を検討し、申請者との間で合意を締結すること(第86条及び第 87条)
キ 企業結合の審査を行うこと(第88条)

3 経済秩序違反

(1) 禁止事項

ア 競争保護法は、次の(ア)から(エ)までのいずれかの効果を目的とする、又はその効果が生じ得る全ての行為を経済秩序違反として一般的に禁止している(第36条柱書)。
(ア) 自由競争又は自由な企業活動を制限する、ゆがめる又はその他の方法で阻害すること(第36条第1号)。
(イ) 商品又は役務の検討対象市場を支配すること(第36条第2号)。ただし、競争者と比較して効率的な経済活動に基づく自然な過程に起因して市場を支配する場合には、違反行為に該当しない(第36条第1項)。
(ウ) 恣意的に利益を増大すること(第36条第3号)。
(エ) 市場支配的地位を濫用すること(第36条第4号)。事業者が単独若しくは共同で市場の競争の状況を変更できる場合又は事業者が20%以上の市場シェアを有している場合には、市場支配的地位を有するものと推定される(第36条第2項)。なお、CADEは、市場シェア基準について、経済分野ごとに特別の基準を設けることができる(第36条第2項)。

イ 以上の各号に特に該当する行為として列挙する19の違反行為は、以下のとおりである(第36条第3項)。
(ア) 競争事業者間で、商品若しくは役務の価格、制限された数量での商品若しくは役務の提供、市場(潜在的な市場を含む。)分割又は入札談合に関して、合意、協議又は調整すること(第1号)
(イ) 競争事業者間で統一的な商慣習を促進し、遂行し、又は統一的な商慣習を行うように影響を及ぼすこと(第2号)
(ウ) 市場への新規参入を制限又は妨害すること(第3号)
(エ) 他の事業者(競争事業者、仕入事業者、顧客又は資金提供者)の設立、事業遂行又は事業拡大を困難にすること(第4号)
(オ) 競争事業者による投入材、原材料、装置、技術の供給源又は流通チャネルへのアクセスを制限すること(第5号)
(カ) マスメディアを通じた広告宣伝を排他的に提供するよう要請すること(第6号)
(キ) ぎまん的な手段を用いて第三者の供給価格を変動させること(第7号)
(ク) 研究開発、商品生産若しくは役務の提供を支配し、又は商品生産、役務の提供若しくは流通に係る投資を抑制する契約を締結して商品及び役務の市場を支配すること(第8号)
(ケ) 商品若しくは役務の販売において、販売業者等に対して、再販売価格、割引、支払条件等の条件を強制すること(第9号)
(コ) 差別対価その他の差別的取引条件の設定(第10号)
(サ) 通常の支払条件の範囲内で、商品の販売又は役務の提供を拒否すること(取引拒絶)(第11号)
(シ) 不当な又は反競争的な取引条件に応じないことを理由として、当該相手方との取引関係の継続又は発展を妨害又は断絶すること(第12号)
(ス) 原材料、中間製品若しくは完成製品を破壊する、効用を喪失させる若しくは買い占める、又はこれらを製造、販売若しくは輸送するための設備を破壊する、損傷する、若しくは運用を困難にさせること(第13号)
(セ) 知的財産権、工業財産権、技術・商標に係る権利を独占的に行使し、又は権利行使を妨害すること(第14号)
(ソ) 不当廉売(第15号)
(タ) 生産財又は消費財を提供しないこと(製造コスト回収の保証が目的の場合を除く。)(第16号)
(チ) 正当な理由なく事業活動の一部又は全部を停止すること(第17号)
(ツ) 特定の商品の販売又は役務の提供を行うに当たり、別の商品又は役務の購入又は利用を条件とすること(購入強制、抱き合わせ販売)(第18号)
(テ) 知的財産権、工業財産権、技術・商標に係る権利を濫用的に行使すること(第19号)

(2) 法執行手続

ア 端緒
 違反行為に対する行政審査は、総監督局の職権により又は利害関係人の申立てにより開始される(第66条第1項)。

イ 審査権限
 違反行為に対する行政審査は、総監督局により行われる(第66条)。
 総監督局による行政審査は、原則として180日間(ただし、60日間の延長が可能)の期間内に行われる(第66条第9項)。また、行政審査に先立ち、最長30日間の予備的手続を行う(第66条第3項)。
 総監督局は、行政審査の終結後10日以内に、行政手続を開始するか否かを決定する(第67条柱書)。
 行政手続は対審手続であり、被審人には防御権が保証される(第69条)。
 総監督局は、審理を経て、その記録を評議会に交付するとともに、違反行為の存在 についての意見を書面で報告する(第74条)。

ウ 違反行為に対する措置
(ア) 経済秩序違反には制裁金が課される(第37条)。事業者に対しては、前事業年度の課税前の総売上高の0.1%~20%相当額の制裁金が課されるが、違反によって得た利益を特定できる場合には、それを下回ってはならない。違反行為に対して直接又は間接に責任を負う事業者の管理者については、事業者に課された制裁金の1%~20%相当額の制裁金が課される。事業者又は個人のうち、総売上高の基準が採用できない者に対しては、5万レアルから20億レアルの制裁金が課される。違反行為が繰り返し行われた場合には、2倍の制裁金が課される(第37条第1項)。
(イ) さらに、違反行為の重大性及び公共の利益を考慮して、違反行為者の費用において、経済秩序違反の確定審決を、指定された日刊紙において公表すること、最低5年間の公共入札への参加禁止、経済秩序違反の効果を排除するための会社分割、資産の売却、営業の部分的停止等、必要な措置が命じられることもある(第38条)。
(ウ) 刑事罰については、1990年12月27日付法律第8137号に規定されている。同法第4条では、カルテル等の違反行為に関与した個人に対して、2年以上5年以下の禁錮刑又は罰金の刑罰を規定している。

エ 仮処分
 CADEは、経済秩序違反による制裁を課すための審査手続のあらゆる段階において、違反行為者が直接的若しくは間接的に回復不可能若しくは回復困難な損害を市場に与えている可能性がある場合又はそのおそれがある場合、仮処分を行うことができる(第84条)。

オ 確約制度
 CADEは、行為の中止の確約(cease-and-desist commitment)を締結することが競争保護法の保護法益に該当する場合、確約を事業者と締結することができる(第85条)。確約の条件には、行為を中止するための義務、同義務に違反した場合の制裁金額等が規定されていなければならない(第85条第1項)。確約が履行されている間、審査手続は停止される(第85条第9項)。確約が履行されなかった場合、CADEは、確約に規定された制裁金を課し、審査手続の継続等を決定する(第85条第11項)。

カ リニエンシー制度
 事業者又は個人が、違反行為に関与した他者を特定し又は違反行為を立証する情報及び文書をCADEに提出し、総監督局によってリニエンシー制度の適用が認められた場合、適用対象となる事業者及び個人は、制裁措置の免除又は制裁金の3分の1から3分の2の減額を受けることができる(第86条)。違反行為の首謀者である事業者及び個人もリニエンシー制度の適用対象となる。リニエンシー制度の適用は、事業者については、「最初の申請者」に限定されているが、個人については、そのような限定はなされていない(第86条第1項第1号)。また、審査手続が行われている間にリニエンシーが適用されなかった場合でも、当該事件が審理に移行する前に別の違反行為に関するリニエンシーの申請を行った場合は、先の事件の制裁措置について制裁金の3分の1の減額を受けることができる(第86条第7項及び第8項)。

4 企業結合

 企業結合は、競争保護法第88条各号に基づいて規制される。企業結合の当事会社の国内総売上高又は前年の国内総取引高が4億レアル以上であり、一方の当事会社の国内総売上高又は前年の国内総取引高が3000万レアル以上の場合は、事前に届け出なければならない(第88条第1号及び第88条第2号)(※)。
 審査期間については、原則最長240日(第88条第2項)であるが、90日(評議会の決定により)又は60日(取引関係者による請求により)延長することが1回のみ可能である(第88条第9項)。
※企業結合の届出基準は、競争保護法上は上記のとおりであるが、司法省及び財務省の合同決議によって変更されるため、最新の届出基準はCADEのホームページ(http://www.cade.gov.br/)を確認されたい。
 

(1) 届出

 競争保護法第88条の規定に該当する企業結合については、CADEに対して届け出るものとし、手続費用の支払証明及び企業結合審査手続を開始するために必要な書類を提出しなければならない(第53条)。CADEによる企業結合審査が終了し承認されるまでは企業結合を実施してはならず、当該規定に違反した場合は、6万レアル以上6000万レアル以下の制裁金(第88条第3項)が、申請に虚偽があった場合は、6万レアル以上600万レアル以下の制裁金が、それぞれ課される(第91条)。
 なお、届出基準を満たさない企業結合であっても、企業結合が実行された日から1年以内であれば、CADEは当該企業結合について届出を要求することができる(第88条第7項)。
 

(2) 届出が必要な企業結合類型(第90条)

 ・新設・吸収合併
 ・会社支配権・事業の一部取得
 ・提携・コンソーシアム・合併契約の締結
 

(3) 審査手続

 届出を受けた総監督局は、申請書類の受理書を発行する。届出書類に不備がある場合には、総監督局は1回のみ当事会社に対して修正を命じることができる。申請書類を受理した後、総監督局は、当事会社の名称、営業の種類及び検討対象市場を公示する(第53条第1項及び第2項)。競争に与える影響が小さいと認定した場合は申請を承認し、そうでない場合は審査を行う(第54条第1号及び第2号並びに第56条)。総監督局は、審査に時間を要する場合、評議会に対して、競争保護法第88条第2項に規定する審査期間(最長240日)の延長を申請することができる(第56条)。
 総監督局は、企業結合審査終了後、無条件で承認するか否かを判断する。総監督局が無条件で承認せず、禁止又は条件付で承認すべきと判断する場合には、総監督局は、評議会に対して反論書を提出する(第57条)。総監督局が評議会に対して反論書を提出した場合には、評議会における行政手続に移行し、評議会が判断を下すことになる(第68条以下)。
 評議会は、総監督局から反論書の提出を受けてから、当該審査の担当委員を決定する(第58条)。担当委員は、論点及び実施すべき審査を明示した上で総監督局に対して、企業結合審査要請を行うことが認められており(第59条第1号及び第2号)、当該審査を監督する(第59条第2項)。
当事会社は、評議会を通じて総監督局の反論書を受け取ってから30日以内に、評議会の委員長宛てに、反論書に反対する理由を明記した書面を、根拠資料及び意見書を添付して提出することができる(第58条)。
 評議会における行政手続を経て、評議会は、当該企業結合の承認、禁止又は条件付で承認のいずれかを行う。評議会は、条件付で承認する場合、問題解消措置(資産売却、会社分割、会社支配権の譲渡、知的財産権の強制的な実施許諾等)を講ずるよう決定することができる(第61条第1項及び第2項)。当該企業結合は、審査終了後、再申請することも行政府によって再審査することも認められない(第61条第3項)。
 総監督局による承認(第54条)について、利害関係者は、当該承認決定の公示日から15日以内に、評議会に対して異議申立てを行うことができる(第65条第1号)。担当委員は、異議申立ての受領日から5日以内に企業結合審査手続を開始する(第65条第1項)。担当委員は、論点及び実施すべき審査を明示した上で総監督局に対し審査要請を行うことが認められており、当該審査を監督する(第65条第1項及び第5項)。
 

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